中医学:逍遙散

 日本で更年期障害の治療と言えば“加味逍遙散”。”加味”とは基の処方にアレンジを加えて適応の対象を少し変えたということです。今回は加味逍遙散の基になった逍遙散についてお話しします。

 “逍遙”とはあまり聞き慣れない言葉です。国語辞典によると”気ままにあちこちを歩き回ること。そぞろ歩き。散歩”となっています。逍遙散は更年期障害のような不定愁訴のような様々な訴えがつぎつぎと現れる状態を“症状があちこち歩き回るようにでる”という意味でつけられた、と言う説が1つ。また、肝病を治療する逍遙散が肝本来の自由でのびのびした特性を取り戻す効果があるため、と言われています。

 逍遙散の効能は疏肝解鬱・健脾補血・調経、適応症は肝気鬱結・血虚・脾虚です。構成生薬は以下のようになります。
・柴胡 6g
・白芍 9g
・当帰 9g
・白朮 9g
・茯苓 9g
・生姜 3g
・炙甘草 3g
・薄荷 2g

 ベースは四逆散の変方と言われていますが、四逆散とは大きな違いがあります。四逆散の適応は肝気鬱結・肝脾不和です。四逆散は何らかの肝の不調により肝胆の気血が鬱結することで脾胃の機能に影響を与える“木旺克土”、つまり肝が強すぎて脾を痛めている状態です。それと比較し逍遙散は“木不疏土”、肝脾両虚です。

 逍遙散の適応となる病態は肝鬱という情緒的な不安定感がありますが、それがすぐに「火」となって爆発するようなことはありません。「思うようにいかない」「言いたいことがいえない」などの精神的な不満が多く現れます。逍遙散の適応では、肝鬱とともに肝血虚がセットとして存在します。肝が蔵する血が虚することで肝の機能がうまくいかず、疏節機能が低下し気鬱となります。この肝血虚の原因は3つあると言われ、1つめは元々の体質であり、2つめは肝鬱によって肝血が消耗された結果、3つめは肝鬱が脾を克し、脾の気血を生み出す機能が低下した結果です。

 つまり逍遙散が適応となる病態は肝鬱・脾虚・血虚の3つ巴であり、それぞれがそれぞれの機能低下の原因となる“卵か鶏か”の状態です。
・肝血虚→血が肝を栄養できず疏節機能の低下→肝鬱
・肝鬱→肝鬱が横逆して脾胃を犯す→脾虚
・脾虚→清潔機能の低下→肝血虚

 構成生薬も大きく分けて3つに分かれます。肝血虚の治療と肝鬱の治療、脾虚の治療薬です。

 まず肝血虚の治療として当帰と白芍が用いられています。どちらも比較的脾に大きな負担をかけにくい生薬です。白芍の滋潤効果は柴胡の強い燥性を押さえるために柴胡剤には欠かせません。また肝鬱によって乱れがちな生理周期を整えるために当帰の調経作用が効果を発揮します。

 次に肝鬱を治療する主薬である柴胡と薄荷です。どちらも涼性で気滞による火を加熱しないようにします。どちらも多量用いると解表剤となるため量には注意が必要です。

 脾虚の治療には白朮・茯苓・生姜が用いられます。白朮で健脾燥湿、茯苓で健脾安神、生姜で胃を温め水を散らします。甘草もまた脾気の増量を手助けします。

 以上のことから逍遙散の適合する症状はこのようになります。
・胸部の痛み、または張り
・精神的に元気がない、落ち込みやすい
・食欲不振
・生理不順
加えて以下の症状もよく見られます。
・乳房の張り
・頭痛
・眩暈
・口やのどの乾燥
・便秘

 よく保険調剤で使用される加味逍遙散はこの逍遙散に牡丹皮と山梔子を加えています。牡丹皮は涼血活血に働き、山梔子は清熱効果を持ちます。そのため更年期障害のようなほてりなど熱を持った症状に応用されます。

 他にも血虚が顕著な逍遙散に地黄を加え、黒逍遙散とすることがあります。熱証なら清熱作用の生地黄、寒証なら熟地黄を用います。ただ、脾の力が弱く、食欲が低下している場合は熟地黄は負担が大きくなるので避けます。

中医学:小青竜湯

 風邪の処方としても有名ですが、アレルギー鼻炎、気管支喘息など幅広く用いられる小青竜湯です。

 一般的に小青竜湯はとめどない鼻水やくしゃみに悩まされる鼻炎、水っぽい痰を伴った咳やゼイゼイと喘鳴が伴う咳がでる気管支喘息などに用いられます。使用の目標は単純には、発熱、悪寒などの表証に加え、鼻水(さらさらとした)、痰の絡む咳です。

 小青竜湯は太陽病の中で本来水の停滞がある病態を意識した処方です。心下に水がたまり、食後時間が経過してもぽちゃぽちゃと胃部から音がする証です。この胃内の水が胃気の正常な下降を妨げ、胃気が上逆して嘔気を生じます。水邪が肺を侵すと、肺の宣発粛降という生理作用が失調し、咳嗽が生じます。水飲が停滞し、上焦に水が昇らず口渇を生じることがありますが、それほど水は飲みたがりません。

構成生薬は8味。
・麻黄 3.0g
・桂枝 3.0g
・甘草 3.0g
・芍薬 3.0g
・五味子 3.0g
・細辛 3.0g
・乾姜 3.0g
・半夏 6.0g

 小青竜湯は麻黄湯から杏仁を抜き、乾姜・細辛・五味子・白芍薬・半夏を加えた方剤です。

 大青竜湯とともに、小青竜湯は表裏双解の処方です。麻黄湯をベースに解表を行い、大青竜湯は石膏で裏熱を、小青竜湯は乾姜・五味子・細辛・半夏は裏の寒飲を除去します。熱をとるか、水をとるかの違いです。

 過剰な水の停滞が目立ちますが、麻黄・細辛の組み合わせは麻黄附子細辛湯のような寒が強い陰性症状を思わせます。麻黄附子細辛湯は小陰証の処方ですが、太陽病と小陰病は表裏の関係があるためこのような表裏両感証は臨床的にはよく起こりえます。小陰病は裏の虚寒証なので無熱で悪寒、四逆(手足)が完全に冷え切っている状態です。頭痛、咳、鼻水、発熱があり加えて悪寒が強く四肢の冷え、脈が浮ではなく沈であれば麻黄附子細辛湯の適応です。また、乾いた咳や粘脹な痰をだす者は肺熱証であり、水を動かし、温める小青竜湯は禁忌です。

 小青竜湯を服用後口渇を覚えて水を飲みたがるようであれば寒飲、心下の水気が除かれて胃の陽気が回復し、水分代謝が回復した証拠です。少量飲むのは構いませんが、本来水湿をため込みやすいため飲み過ぎないようにする必要があります。

中医学:大青竜湯

 麻黄湯の変方です。日本ではあまりなじみがありませんが「雨を呼び寄せるように、大いに発汗させる力を持っている」方剤です。太陽病証中で最も実証に対応します。

 大青竜湯の構成生薬は
・麻黄 6.0g
・桂枝 3.0g
・石膏 10.0g
・杏仁 5.0g
・甘草 2.0g
・生姜 3.0g
・大棗 3.0g

 麻黄湯、麻杏甘石湯と桂枝去芍薬湯の骨格が見つかるでしょうか。この麻黄6.0gは全ての方剤中でもかなり多く、加えて桂枝と石膏の力でかなり強力な発汗剤となります。本来は他の発汗剤を用いても発汗しなかった病態に用います。発汗しないため寒邪を取り払えず、衛陽が鬱滞して熱となり煩燥状態が目標です。

 本証は内外とも邪実で外寒内熱となっています。外邪のみであれば麻黄湯で十分ですが、それでは内の清熱作用がないため石膏を加えています。口渇多飲があれば陽明経証白虎湯証ですが、大青竜湯証はあくまで脈浮緊・発熱悪寒・身体痛に加えて内熱の煩燥が見られるはずです。大青竜湯は体力があり病邪との邪正闘争する正気が十分ある対象以外は用いることが出来ず、脈が弱い太陽中風証などに用いると正気の消耗が起こり厥逆(手足の強い冷え)や津液不足が起こり、ひどいと筋肉が滋養できず痙攣が起きます。体力があるものでも服用で汗がでたら直ちに中止するとの但し書きがあります。

 桂枝湯の観点から見ると、構成生薬の芍薬が抜かれ、桂枝去芍薬湯として組み込まれています。桂枝去芍薬湯では邪が胸部に内陷して胸中の陽気を損傷する胸満症状に対し、邪気を持ち上げる効果を期待し、 芍薬を抜いています。芍薬の陰性で凝集性・収斂性が方意と反対に働くからです。 つまり外邪の勢いが強く、内の陰の消耗よりも外向きの力を優先した方剤です。 脾胃を温める生姜・大棗が組み込まれているのはそれだけ吸収を早めて効果発発現を大きくしたいためです。

 麻黄湯と大青竜湯の鑑別はどちらも無汗・脈浮緊・身体痛があるものの、渇や煩燥があれば大青竜湯、なければ麻黄湯となります。
 小青竜湯は水飲が主で、胃内停水、脈微浮で力があります。
 また、煩燥と渇、心下痞鞕あって汗多い場合は白虎加人参湯を用います。

中医学:葛根湯

 日本で一番有名な漢方薬です。

 出典は傷寒論、太陽病表実証の処方です。首から背中にかけての項背がこる病態で実証なら葛根湯、虚証なら桂枝加葛根湯となります。この2方剤は葛根が主薬になることは同じですが、葛根湯には麻黄が加わり、より実証よりとなっています。

太陽病中風証 桂枝湯 桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草
        ↑↓
       桂枝加葛根湯 桂枝湯に加えて葛根
        ↑↓    (葛根湯証のようで自汗や脈緩なとき)
太陽病表実証 葛根湯 桂枝湯に加えて葛根と麻黄

 葛根湯の使用目標は悪寒・発熱・無汗・頭痛・項部硬直です。

 葛根湯は風邪の初期症状への治療として有名ですが、肩こりにも応用されます。風邪薬の葛根湯がなぜ肩こりに?新人薬剤師としてはなんとなくやりすごしてしまいますが、ここが葛根湯の妙技です。ちなみにこの肩こりは後頭部より項部、肩甲骨部、さらに腰辺りのこわばりです。「借金で首が回らない」というような肩こりは葛根湯の適応よりむしろ柴胡剤を使います。この背部のこわばりは外邪が体内に入り込み、それを衛気が体表に集まることによって起きます。衛気は外邪との闘争で気、熱、津液が表層に集まりますがそれが裏に循環出来ず、体節痛、凝り感、腫脹感が現れます。

 葛根は表層にたまった気を効率よく発散させ邪を払う解表退熱の効果を持ちます。軽度の発汗作用で鬱熱を発散させ、生津により筋を緩めるため、筋肉のこわばりに効果的です。

 葛根湯に組み込まれた桂枝湯は陰陽のバランスを整え正気の流れを作ります。桂枝が腎からの陽気を表層に引き上げ、芍薬で表層から内向きへの流れを作り深部から表層への流れを作ります。また生姜も脾気を補充して外向きへの巡りを助け、甘草と大棗も正気の補充を補強します。これに麻黄もまた脾によって増幅された正気を表層に導き、さらにその正気を肺の領域である体表に広げます。これらの配合から葛根湯の位置づけはこのようになります。
表位における病象に対して、正気を誘導する
正気の誘導を手段として、津液や血を表位に運ぶ
表位に停留する津液や血を裏に回収する

 これらから感冒の初期に用いられるイメージですが、感冒に限らず表層に鬱滞した外邪を体内の正気を導き出すことで追い払う方剤です。そのため、皮膚疾患、関節炎、鼻炎、喘息、気管支炎など様々な適応が考えられます。また、全体に温性に偏る方剤ではありますが、涼性の芍薬とやや涼性の葛根が加わるので麻黄湯に比べ温めすぎず応用範囲が広くなります。「葛根湯医」というなんでも葛根湯を処方する藪医者の話がありますが、あながちでたらめでもなくこのように葛根湯は幅広い適応を物処方です。加えて、寒熱に大きく偏らず、正気の流れを整える効果がある葛根湯は誤治を起こしにくいところも使いやすく、広く知られるようになりました。

中医学:太陽病

  2~3世紀に張仲景がまとめた「傷寒雑病論」ではこの太陽病を中心に傷寒(伝染病)を初めとして様々な病気に進行する過程とその治療法がまとめられています。まず初段階、外邪が体表に侵入した状態を太陽病と言います。太陽病では体表に入り込んだ邪気は適切な治療により速やかに追い払うことが必要とされます。しかし、正気が勝って追い払うことができなければ徐々に内部に入り込み、さらに重篤な症状を引き起こします。そのため、傷寒論ではこの初段階である太陽病を特に項目をさき丁寧にまとめて書かれています。

 太陽病とは、風寒の邪が足太陽膀胱経に侵入した段階です。足太陽膀胱系は頭部に起こり、頂部から背部を下って腰に至り、膀胱に属します。風寒の邪が人体を侵入するとき、まず体表部で邪気と衛気(太陽の気・膀胱に下支えされる)との衝突として表面に現れます。厳密には太陽病は邪正闘争が太陽系の経脈上で行われる太陽経病と、病気の舞台が太陽系の腑である膀胱に移った太陽腑病に分けることができます。一般的には太陽病と言えば風寒の邪によっておきり外感病の初期症状としての太陽系病のことを指します。

 太陽病の特徴は「浮脈・頭項強痛・悪寒」の3つです。

 浮脈とは脈をとったときに皮下の浅いところに触れる脈です。これは邪正闘争の舞台もまた浅いところ・体表であることを表しています。
 頭項強痛は頭が痛み、こわばりっているということです。足太陽膀胱経は頭頂から背部を通り、腰へと繋がりますが外邪の侵入により経を流れる気血が阻害され、この後頭部から背にそって痛みが発生します。
 悪寒は表証には必ず現れる症状です。太陽経は皮膚を温めて衛気を走らせる役割を持ちますが、外邪が侵入することで十分に肌表を温めることができず悪寒が生じます。

 この浮脈・頭頂強痛・悪寒の3つがそろえば太陽病との診断となります。

 太陽病はその重篤度により太陽中風・太陽傷寒に分けられます。

 太陽中風は太陽病の代表的な症状である浮脈・頭頂強痛・悪寒に加えて、発熱・発汗・悪風・脈が緩などの症候を呈します。一般には風邪を感受して発生したもので、中風、と言っても脳卒中などの中風とは全くの別物です。中風証の最も特徴的な症候は“汗”です。外邪の侵入により衛気が傷つけられ、衛気と強調して体表を守る営陰が損傷します。営陰は汗腺の働きをコントロールするため、この営陰が傷つくことで発汗します。このときの汗は制御する営陰の消耗のためだらだらという激しい発汗と言うよりじんわりです。この汗のため風に当たることを嫌う「悪風」という症状が追加されます。また、中風証の脈は太陽病の特徴の浮と中風の特徴の緩を合わせた浮緩となります。緩脈とは脈の緊張が弱く、正気が乏しい元気のない体質を表します。中風証は正気が本来虚した状態の方が外邪を感受した虚実夾雑の症候です。

 次に太陽傷寒病です。傷寒病は太陽病の特徴である3つに加え、体の痛み・嘔逆・脈緊などの症状が現れます。中風証が風邪によるのに対し、傷寒病は寒邪によります。中風証との明確な違いは寒邪による血・津液の凝集のため汗が決して出ません。寒邪により衛気が押し込められているため皮膚を温めることが出来ず強い悪寒を感じます。押し込められた衛気は逃げ場がないため鬱熱となり、傷寒病では強い発熱が起こります。そして体痛は寒邪により気血の流れを凝集されることにより起こります。筋肉痛や関節痛など全身の痛みとなります。嘔逆は体表の衛気が阻害されることではによる宣発粛降も滞り、肺気が上逆して咳となったり、陽明胃経に入り吐き気となったりすることです。嘔逆=吐き気ではなく、気の逆行という点で咳も含まれます。脈は中風証とは対照的に寒邪による緊張収縮で浮緊となります。

 太陽病には中風証、傷寒病に加えて温病という類証があります。風邪は中風に、寒邪が傷寒になるのに対し、温病は熱邪が人体に侵入したものです。熱邪による病証のため悪寒がほとんどなく、初期から発熱が顕著で口渇を生じます。表証であるため浮脈、加えて熱証の数脈も合わさり浮数脈となります。温病の注意が必要な点は中風証と傷寒病との誤診です。中風証と傷寒病は辛温解表薬を用い体内を温めて発汗し病邪を撃退することに対し、温病は熱証のため辛涼解表薬で熱を冷まします。ここを間違えて辛温解表薬を用いてしまうと温熱がさらに増強して高熱と手足の灼熱感を伴う風温と化してしまいます。風温の治療には辛涼解表薬に加えて熱によって消耗した津液を補充する甘寒滋陰の方剤を用います。

 一般的な各病証を治療する代表方剤はこのようになります。
中風証→桂枝湯
傷寒病→麻黄湯
温病→銀翹散

 太陽病、とは基本的には風邪の初期症状です。日本で風邪と言えば用いられる葛根湯の位置づけはどうでしょうか。葛根湯は桂枝湯をベースとして麻黄・葛根を加えた方剤で、基本は辛温解表薬に分類されます。今日の日本では風邪の初期→葛根湯と考える人も多いかと思いますが、温病には使えないはずの辛温解表薬をこう安易に使って良いものでしょうか。葛根湯に含まれる麻黄は温める効果が強い風寒の邪に対する生薬ですが、実は葛根自体は実は寒涼性であり、麻黄湯と比較すると熱に偏った方剤ではありませんので安全性は実はかなり高いのです。さらに含まれる桂枝湯が正気のバランスを整えてくれるため、「葛根湯医」のような何でも葛根湯で治す医者、という話もあながち全くありえない話でもないのです。

中医学:苓桂朮甘湯

 いわゆる立ちくらみなど起立性調整障害に用います苓桂朮甘湯。脾虚をベースに発生した寒飲を除く処方です。

 構成生薬は名前からわかる通りの4味です。
・茯苓・・・12g
・桂枝・・・9g
・白朮・・・6g
・甘草・・・6g

 適応症は脾虚の寒飲・効能は温化寒飲・健脾利水です。疲れやすい、食欲がないなどの脾虚症状から痰飲が上部を塞いで脳を滋養する陽気が上昇出来ない状態に用います。痰飲が胃の停滞して胸部に満悶の症状が現れることもあります。

 苓桂朮甘湯は傷寒論が原典となっております。

 「傷寒、若シクハ吐シ、若シクハ下シテ後、心下逆満シ、木上リテ胸ヲ衝キ、起テバ則チ頭眩シ、脈沈緊。汗ヲ発スレバ則チ経ヲ動カシ、身振振トシテ揺ヲ為ス者ハ、茯苓桂枝白朮甘草湯之ヲ主ル。(太陽病中篇 第67条)」

 太陽病(脈沈緊・頭頂強痛・悪寒)は基本発汗法を用いて治療をします。それを吐法や瀉下で誤治したため心と脾の陽気がともに損傷され、痰飲が生じた病態に苓桂朮甘湯は用いられます。このとき下焦の水の制御も失い、中下焦の水と気が一緒になって上衡した病態、ということを表しています。

 君薬の茯苓は穏やかな健脾利水薬です。同じく健脾利水の得意な白朮とともに脾陽を補います。セットで用いられることも多く、真武湯や桂枝加苓朮附湯などにも組み込まれています。よく似ていますが茯苓は脾腎に、白朮は脾胃に、さらに燥湿は茯苓、健脾は白朮のほうが得意など、少し色合いは異なります。

 それに対して桂枝と甘草は心の陽気を補います。特に桂枝は気を縦方向に通す力があり、ここでは心の陽気を温めて通行させ、気の上亢を下降させます。気の上逆による動悸や眩暈には必ず用いられます。この桂枝の特性は「引火帰元」と呼ばれ、虚証によって発生した虚火を、腎を温めて引き戻すと言われています。

 この縦方向に通陽する力のため、苓桂朮甘湯は起立性低血圧や立ちくらみによく用いられます。回転性のめまいは苓桂朮甘湯より沢瀉湯を用います。

 苓桂朮甘湯をベースとした処方に連珠飲があります。連珠飲は苓桂朮甘湯は四物湯の合方です。更年期障害といえば今では加味逍遙散が使われることが多いですが、連珠飲も効果的です。連珠飲は桂枝の作用で腎から浮き上がった熱を引き戻してくれるため、気の上亢によるのぼせ、動悸、眩暈に効果的で、加えて脾虚・血虚への配慮が組み合わされています。肝鬱による気滞症状が強ければ加味逍遙散ですがそれ一辺倒ではなく、腎虚による気の浮陽によるほてりの場合は連珠飲という選択肢も持っていたいものです。

  

中医学:血府逐瘀湯

 血府逐瘀湯は行気活血薬の代表方剤ですが、細かく見ていくとなかなか興味深い方剤です。もとは清代の王清任の「医林改錯」に含まれるものです。王氏は少し独自の「気血理論」を用いて方剤を組み立てました。

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 血府逐瘀湯の構成生薬は桃紅四物湯に含まれてる5種
・桃仁
・紅花
・生地黄
・赤芍
・当帰
・川芎
 四逆散に含まれる4種
・柴胡
・枳穀
・(赤芍)
・甘草
 それに加えて昇降を調整する
・牛膝
・桔梗
 以上の11種類です。

 血府逐瘀湯は「胸中瘀血証」に用いられます。ここで言う胸中とは「心」「肺」に加えて「肝」まで含みます。症状としては、胸痛・脇痛・頭痛(全て部位が固定した刺痛)、性格の変化(せっかちになる・短期になる)、心煩、動悸、不眠、発熱などです。

 寒熱の偏りがなく、気血両方に作用するどんな人にも服用出来るような方剤に思います。しかし、血府逐瘀湯の適応である胸中瘀血証は本来「寒象・熱象ともに顕著でない」「胸部」「気滞血瘀という実証」と限定した適応範囲が定められています。

 基本構造は3つの骨組みからなります。まずは桃紅四物湯による血への働きかけ。さらに四逆散が組み込まれていることから気を巡らせる行気解鬱作用を強めています。そこへ上部への引経薬の桔梗と下部への引経薬の牛膝により昇降を調整します。ただの活血薬ではなく、かなり「行気」を意識した、血と気を通すための行気活血薬であることがわかります。

 桃紅四物湯に含まれる活血効果を持つ生薬は桃仁・紅花・当帰・川芎・赤芍の5つです。この5つの生薬は活血5薬とも呼ばれています。それぞれに持ち味は下のようになります。
・赤芍・・・「活血」+「化瘀」 微寒
・桃仁・・・「活血」+「潤燥」 平
・紅花・・・「活血」+「潤燥」 温
・当帰・・・「活血」+「養血」 温
・川芎・・・「活血」+「行気」 温
例えば塊を取り去る「化瘀」の効能は赤芍が一番強いので、桂枝茯苓丸などの化瘀をとるときは赤芍が用いられます。また、寒性が強いので温める処方身痛逐瘀湯では用いられません。同様に、川芎は温性、燥性が強い生薬ですので、熱をもって乾いた病態を意識している通経逐瘀湯などには用いません。このように活血薬の中でも何を選んで方剤に組み込んでいるか、また何を選ばなかったかを中止するとその方剤の対象となる病態への理解が深まります。

 また、四逆散と桔梗・牛膝の組み合わせで全体の気を通します。柴胡・桔梗が気を上昇させ、牛膝・枳穀が気を下降させ、バランスよく気の流れを整えます。四逆散では枳実を用いますが、血府逐瘀湯では枳実より少し行気効果が弱く、穏やかな枳穀を用います。

 気と血の巡りを重視すると方剤は全体にやや燥性になります。そのため陰虚火旺体質に使用するには中医が必要です。気血の巡りの改善による気血の消耗を防ぐために生地黄・甘草がバランスをとる形となります。

 血府逐瘀湯は「気滞瘀血という実証」の治療薬です。寒熱のバランスがとれ、強すぎない使いかってのよさそうな方剤ですが、やはり漠然と用いず、気滞と血瘀が同時に存在する病態であることを意識することが大切です。例えば肝鬱証のような血瘀の存在しない気滞には四逆散や柴胡疏肝湯を用いますし、肝血虚であれば酸棗仁湯、心血虚であれば帰脾湯などを用いる方が適します。

 

中医学:二陣湯

 日本では方剤として取り扱いはありませんが、「化痰」剤の基本方剤です。

 「痰」とは体内の水分代謝が正常に行われず、水分が停滞した病理産物です。水分代謝による滞りを「痰」「飲」もしくは「痰飲」と表します。一般的により粘性が高いものを「痰」、さらさらと薄い物を「飲」と言いますが、その双方をひっくるめ区別なく「痰飲(広義)」ということもあります。また、胃腸に発生した飲を取り立てて「痰飲(狭義)」と呼ぶこともあります。

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 「痰は、体内の水が火によって濃縮されたもの」との説明がされることもありますが、これは狂証・癇証の説明としては便利ですが、これは痰の一部を表しているだけです。痰は本来は外邪や体質などの影響により「寒」「燥」「熱」など、さまざまな方向に発展していきます。

 痰は「有形の痰」と「無形の痰」があります。有形の痰には目に見える喀痰、聞こえる痰鳴が例です。無形の痰は、目に見えないけれども症状が現れている眩暈や癲狂などが当たります。

 痰湿証によって起きる代表的な症状は以下のようなものです。
吐き気・嘔吐・腹部脹満感・咳・吐痰・胸満・胸悶・めまい

 二陣湯は清代・王宮で多用されたようです。宮中と言えば山海のご馳走を集めた食事の毎日です。このような栄養過多な食事を続けることで、痰を生じて慢性的な消化不良状態が起きます(痰湿困脾)。さらに複雑な人間関係によるストレスも加わり、ストレスによる消化機能の失調(肝脾不和・痰湿中阻)も多く見られました。栄養過多、ストレス過多というのは今の現代人の生活様式と一致しますね。つまり現代人のたまりやすい「痰湿」にも二陣湯は応用範囲が広いと言うことです。

 二陳湯の構成生薬は以下のようになります。
・半夏 9g
・陳皮 9g
・茯苓 6g
・生姜 3g
・炙甘草 3g

 全体に燥性の強い方剤になっているため、陰虚火旺の体質には禁忌となります。

 二陣湯の「陳」は「古い」という意味を持ちます。数ある生薬の中でも古い方が品質がよいと言われる6種類の生薬を「六陳」と呼びます。六陳に含まれる生薬は枳穀・陳皮・半夏・呉茱萸・狼毒(日本では使用なし)・麻黄、全て燥性の強い生薬です。この六陣の中の半夏・陳皮を含むため二陳湯との名前になりました。

 半夏は化痰の重要薬です。温性の性質を持つので寒痰を除去するのに適します。特に脾胃の湿痰をよく除き、かつ止嘔効果を持ちます。半夏はカラスビシャクという植物の根で、「小半夏」と言われる7月上旬頃生えてきます。陽の気が盛んである夏至から陰の秋へとの移行の季節に生える半夏は同様に陽から陰への切り替えの流れを助ける不眠薬として使われます。

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 穏やかな行気薬・陳皮が用いられます。温性で燥性、気を巡らせて脾胃を整える行気健脾の代表生薬です。脾胃が弱まり水液代謝が悪化した病態を治療します。

 茯苓は平性な健脾理湿薬です。キノコの一種である茯苓は湿を好み、大量の水分を吸い取るようにして排除します。

 生姜は脾胃を温めさらに半夏の止嘔の効果を高めます。胃気を促進する物に生姜・甘草・大棗がよく用いられますが。ここでは湿を助長しがちな大棗は排除されています。また、生姜は半夏の刺激性(そのまま食べると激しい舌への痛みを感じる)を緩和するため、半夏を含む方剤には多く配合されます。

 最後に炙甘草を加えます。補気補脾に働き、痰を除去する、というよりは新たな痰が生成されないようにします。補益目的なので清熱解毒の生甘草ではなく炙甘草を用います。

 中国では二陳湯にさらに烏梅を加えることがあります。烏梅の収斂作用により気の消耗を防ぎ、さらに甘草とに酸甘化陰の組み合わせで陰を補強し、半夏と陳皮の過度な燥性を押さえます。

 痰は病因ともなり得ますが、もともとは水液停滞の原因で発生している”標”です。そのため二陣湯はその水液代謝を悪化させる“本”を治療する方剤との併用が一般的で、単独で用いられることは多くはありません。 そのため様々な加減法があり、さらに合方もよく用いられます。

 代表的な加減法には六君子湯があります。これは二陣湯に四君子湯の構成生薬である人参・白朮・大棗を加えた物です。脾胃気虚による水湿の停滞を除去します。補脾剤で胃腸の蠕動運動を促し、祛痰剤で嘔吐、悪心、呑酸を改善します。

 風邪、鼻水の治療薬小青竜湯もまた二陣湯の方意をくんでいます。表寒である悪寒、発熱、無汗などの症状に加え、寒邪によって凝滞が起こり水液が滞った状態です。熱証を伴わない(黄色く粘った痰や鼻水には使えない)大量の透明な鼻水、くしゃみ、鼻閉、喘息症状に用います。また、小児など麻黄が使いにくい患者には苓甘姜味辛夏仁湯などを二陣湯と合方する。

 熱証が強いときは黄笒、竹筎などの清熱薬を加えます。二陣湯の基になったと言われる温胆湯もまた、二陣湯から温性の生姜を除き、清熱の竹筎、破気の枳実、健脾の大棗が加わっています。熱痰症状が強い不眠などには有効です。また、半夏の毒性を和らげる生姜を抜いたこの方剤では半夏は炮製を施した製半夏が用いられます。

 痰濁が上部を侵した痰濁上逆による眩暈には半夏白朮天麻湯が用いられます。二陣湯に白朮・天麻・蔓荊子を加え、また場合により人参などで補気、沢瀉で利水を補強したりして用います。基本的には脾胃を治療することで痰濁を利尿する苓桂朮甘湯や五苓散と同じ原理です。

 胸悶・胃脹の強い気の滞りであれば二陣湯に気薬である厚朴・香附子・枳穀などを加えたり、半夏厚朴湯(半夏・茯苓・生姜・厚朴・紫蘇葉)を用います。

心臓を中心に慢性疾患について考える

呉越同舟:私達の体は私達だけのものではありません

心臓の病気も様々あります。狭心症、不整脈、心筋梗塞、心不全、高血圧・・・こういった慢性疾患にかかった方から、“病気を治すために病院に通院しているのに一向によくならない”と言われることがあります。他にも、慢性疾患と言えば糖尿病、脂質異常症、高尿酸値血症、アルツハイマー型認知症やなど様々ありますが皆様同様に治らないことへの不安やいらだちを感じている様に思います。医師の指示通り薬を飲んで、必要であれば手術など適切な処置を受けているにも関わらず。なぜこのような慢性疾患は治っていかないのでしょうか?

2003年に終了したヒトゲノムプロジェクトをご存じでしょうか?私たち人間の遺伝情報を解読する総額30億ドルと言われる一大プロジェクトです。このヒトゲノムプロジェクトにより私達の遺伝情報が明らかにされれば今まで“遺伝”“体質”と諦めていた慢性疾患、例えば高血圧や糖尿病、アルツハイマーや精神疾患など様々な病気の治療法がめざましい勢いで発展する、と言われていました。

16年前、プロジェクトは終了しました。しかし、そこからそれほどのめざましい医療の進歩はあったでしょうか?

 ゲノムプロジェクトの終盤、科学者たちがこぞってヒトの遺伝子の総数を予想しました。ヒトの遺伝子数なんてピンときませんよね。遺伝子にはヒトの構成成分であるタンパク質の作り方が書かれています。その時点でマウスの遺伝子数は2万3千個、小麦の遺伝子数が2万6千個と明らかになっていました。

 このゲノム総数予想ゲームを制したのはヒトゲノムプロジェクトを率いていたリー・ロウェン研究員。その予想6は小麦遺伝子とほぼ同じ2万5947個。実際のゲノム数その予想よりさらに低い2万1000個でした。つまり誰もが予想しないほど、ヒトの遺伝情報はとても短いのです。この事実は本当に世界を驚かせました。なにせ話す能力も、想像力も知的思考力もないようなミジンコでさえそれを大きく上回る3万1000個の遺伝子を持っていたのですから。

 ミジンコより私達人間の遺伝情報が少ないなんて本当に意外です。実はここに私達の病気が病院でなかなか治らない理由の一端があります。

薬というのはよく“鍵と鍵穴の関係”と説明されます。鍵穴のような形をした“受容体”と呼ばれるタンパク質にホルモンやペプチドなど、信号を与える鍵となる物質が結合することで、血圧が上がる、気管支が広がる、胃酸の分泌が促進されるなど様々な生理活動が起きます。これまで、人間のゲノムを解析すればこの鍵穴の構造が全て解明され、“個人差”“体質”として片付けるしかなかった病気の原因を突き止めることができると期待されていました。

 ヒトゲノムプロジェクトが終了して十数年。革新的な医学の発展がないことに失望の声も上がりましたが、ヒトが驚くほどに情報が少ない遺伝子を持つことはまた異なった視点をもたらしました。

ミジンコよりも単純な遺伝子をもつ私達がここまで複雑な知的活動ができるのはなぜでしょうか。その鍵は私達の体に強制する100兆をも超える共生微生物;細菌・ウィルス・菌類です。私達はこの共生微生物たちを上手に利用し、生命活動で必要な物質、ビタミンやタンパク質の合成を外注しています。外注先があるため、本部である私達自身の遺伝子情報はコンパクトで構わないのです。「あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものである」と言った研究者がいます。実は私達の体のうち、ヒトの細胞はたった10%。残りは私達の体にヒッチハイクしている微生物なのです。

 今の西洋医学はとてもよく研究され、どの化学物質がどのような形で鍵穴に入り、そしてそのあとどのような作用を引き起こすのかを詳細に解明されています。これを私達の体を船に例えれば、これは船本体の修理をするということです。しかし運航をスムーズ進めるためには船体がよければいい、というものではありません。そう、その船を動かし、メンテナンスをする船員、共生微生物をうまく付き合っていくことも大切なのです。私達の体を間借りしている微生物たちも、船である私達の体の健康が損なわれないことが望みで、そのために協力をしてくれます。まさに呉越同舟。私達の体は私達のものであって、そうでないのです。

心臓は筋肉の塊です。

では、今回のテーマである心臓の話に移りましょう。心臓は私達の体のすみずみまで血液にのせて栄養素やホルモンを運ぶ大切な役割を持ちます。心臓はただの一度も休むことなく全身に血を運びつづけます。

心臓は筋肉で出来ています。この筋肉を心筋と呼び、特徴は非常に多くのミトコンドリアを保持していることです。ミトコンドリア、とは聞いたことはあるけれどもよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。ミトコンドリアは細胞の発電所と言われる小器官で、細胞呼吸を通じて食物をエネルギーに変換します。実はこのミトコンドリアは太古の昔私達のご先祖様の細胞が取り込んだ細菌です。今では細菌とは言えないほど私達の細胞と切っても切り離せない存在ですが、ミトコンドリアと提携することにより私達は利用出来るエネルギーが飛躍的に伸び、様々な生命活動を行えるようになり進化の道をたどることになりました。この発電所であるミトコンドリアがたくさん含まれるということは心筋では大量のエネルギーを必要とする、ということがわかります。

西洋薬は心臓の働きにムチをうつ?それより心臓の体力回復を

働き者の心臓のケアに関して、まず何よりストレスなく働ける栄養の提供が大切になります。

現代の日本人は例外なく栄養失調!?

飽食の時代と言われて久しいですが、私達日本人は例外なく栄養失調と言われています。2011年の私達の摂取カロリーは成人で平均1840kcal。これは1946年、餓死者がでていた戦後の1906kcalより低い数値です。摂取カロリーが一番高かったのは1975年の2188kcal。この時を境に、日本人の摂取カロリーは右肩下がりに下がっています。ところが、それに比べてBMIが25異常の肥満者は20年で徐々に増加傾向です。加えて、高血圧症も糖尿病に関しても患者の人口は増加しています。ここにカロリーコントロールによる病気の予防、治療の指導には疑問を感じます。

どういうことでしょうか?これは「質的な栄養失調」です。

日露戦争時、日本陸軍は兵士に白米ばかりを食べさせ、ビタミンB1不足による大量の脚気患者を引き起こしたことは有名です。エネルギー源となる糖質は十分なのにそれを活用する他の栄養素が足りない・・・これが「質的な栄養失調」であり、栄養素をエネルギーとしてしか換算しないカロリー計算の限界です。

まず、三大栄養素とどう付き合うか?

“糖質制限”は少し健康のことを気にしている方ならご存じなのではないでしょうか。三大栄養素とは糖質、脂質、タンパク質で、全てミトコンドリアでエネルギーに変換されます。異なる点として糖質は燃料としての役割しかありませんが、タンパク質と脂質は体の構成成分になる、ということです。心臓も筋肉でできていますから、タンパク質がその材料として重要ですし、脂質は細胞1つ1つの膜の構成成分です。糖質制限は、タンパク質も脂質も燃料として使えるのだから、糖質は不要とした食事療法です。糖質は血液成分の糖化など悪害もあるため控えた方がいいことは同感ですが、やたらと減らすだけではまた栄養不足となってしまいます。糖質を減らすなら注意点はその分きちんとタンパク質と脂質の摂取量を増やすことです。特にタンパク質はいくらとっても不足している、過剰摂取はないと言われているのでたくさんとるようにしましょう。

そして「質的栄養失調」の最も大きい原因がビタミンやミネラルの不足です。食事から取り入れた糖質、脂質、タンパク質はどれもミトコンドリアで代謝されます。この代謝経路で必要なものはビタミンB1・B2・B3・パントテン酸・αリポ酸・鉄・マグネシウムなど様々な栄養素で、それがかけても代謝が進まなくなってしまいます。今の日本でカロリー摂取量が減ったにもかかわらず肥満などの成人病疾患が増えている理由は、取り入れたエネルギーの素である糖質・脂質・タンパク質をきちんと代謝しエネルギーを獲得出来ていないためです。

特に心臓におすすめの栄養素は?

ビタミンE
常に働き続ける心臓は活性酸素(老化物質)のダメージと常に戦っています。活性酸素を除去する作用(抗酸化作用)があるビタミンEは加えて血流をさらさらにする効果もあり、心臓への負担を和らげます。また、細胞膜やミトコンドリア膜を正常化する作用があり、他の水溶性ビタミン、ビタミンB群やCの細胞内への吸収を高めてくれます。

ビタミンEを多く含む食品は? 1日の摂取目安は男性6.5mg・女性6.0mg

  1. あん肝 5.5mg/40g
  2. にじます 5.5mg/100g
  3. あゆ 5.0mg/100g
  4. うなぎ 4.9mg/100g
  5. はまち 4.6mg/100g
  6. ひまわり油 4.6mg/12g
  7. モロヘイヤ 4.6mg/70g
  8. 赤パプリカ 4.1mg/95g
  9. たらこ 3.6mg/50g
  10. 綿実油 3.4mg/12g

ビタミンCと鉄
ビタミンCは鉄の吸収を助けてくれるためこの2つを一緒にとるはおすすめです。ビタミンCと鉄の組み合わせは脂質をミトコンドリアに取り込み、エネルギーとして代謝するために必要な栄養素です。糖質制限中で脂質によった食事をしている方や中性脂肪が高めな方は代謝を進めるため特に必須です。さらにビタミンCはビタミンE同様抗酸化力があり、ストレスの強い方におすすめです。

ビタミンCを多く含む食品 1日の摂取目安は男女とも100mg

  1. アセロラ 510mg/30g
  2. 赤パプリカ 162mg/95g
  3. 貴パプリカ 143mg/95g
  4. トマピー 120mg/60g
  5. 菜の花 91mg/70g
  6. ブロッコリー 90mg/75g
  7. 芽キャベツ 80mg/50g
  8. 柿 70mg/100g
  9. いちご 62mg/100g
  10. カリフラワー 61mg/75g

塩分との付き合い方

心臓や血管の話をすると塩分量は?との質問を受けることがあります。塩分は体内の水分量を調整し、カリウムと協力して筋肉を動かす体になくてはならない存在です。ナトリウムを体外に排泄する腎臓に問題がなければ短期的な取り過ぎによる健康被害はほぼありません。血圧を上げる、との印象が強いですが、実際どうでしょうか?実は血圧の塩分に対する感受性は個人差がとても大きいと言われています。つまり、減塩により降圧効果がある人もいますが、全くない人もいるのだとか。特に体が冷たい陰性体質の人は塩分は温める作用があるため、かえって塩分をとったほうが血圧が下がったというケースもあるようです。塩分はナトリウムというミネラルでできています。ミネラルは単味で摂取すると体内のミネラルバランスを壊してしまいますので、岩塩や海塩など生成されていないマグネシウムなど他のミネラルも混ざっているものを使用しましょう。減塩ではなく適温で。やはり美味しくない、と感じるほどの減塩の必要はないようです。

中医学の知恵から

中医学でも、心は全身に血液を送り、精神の安定を支え、全身の機能を動かす肝心要の臓器と考えられています。心は常に動き続ける働き者であるため、熱を持ちやすく、負担が多ければオーバーヒート状態に。症状として、動悸や息切れが起こりやすくなります。疲れやすさや、のぼせ、ぼーっとするなどの自覚症状がある方は、やや心の疲れがでやすい体質です。汗をたくさんかく激しい運動はさけて、こまめに水分補給を心がけましょう。苦味のある夏野菜などで、熱を冷ますのもおすすめですよ。

がまの油

江戸時代に日本では、傷腫れ物をよく治すと言われ、口上巧みに販売されていた軟膏です。その口上でうたわれる、ガマの油の採取法はとても興味深いものです。鏡の箱に入れられたカエルが、自分の姿に驚きたらたらと、流れ出た油を煮詰めて作っていたそうです。これは日本での話ですが、中国の神農本草経という古典に、同じヒキガエルの原動物が収載されています。当時は体全体を乾燥させて利用していた様ですが、今では日本と同じように、その分泌物(ガマの油)を採取して乾燥し使用するようになっています。

蟾酥(せんそ)
シナヒキガエルなどの耳後腺や皮膚腺などから採取した分泌液(これがガマの油です)を、乾燥させた生薬を蟾酥と呼びます。効能は、皮膚の傷口の炎症・化膿や腫れをとり、痛みを去る効果があります。この時期は心筋の収縮力を手助けし、血液循環を改善する力から、その他滋養強壮薬と組み合わせて、疲労回復・動悸・息切れに使用されます。

律鼓心
蟾酥を含めた、8種類の生薬を含む、動悸・息切れにぴったりのお薬です。外出先などの急や症状に、鞄などに入れておいていただくと安心です。

甘草
全生薬の中で最も使用頻度が高い甘草。天然の甘味料などとしても用いられます。通常は生薬の調和など、方剤の角をとる役割を担いますがこの甘草が主薬となった方剤があります。それが炙甘草湯です。炙甘草湯は不整脈の代表処方で、復脈湯とも呼ばれます。オーバーヒートして疲れた心の気を補い元気をつけ、さらに陰を補うことで余計な熱を冷ます効果があります。炙甘草湯に用いる甘草は蜜であぶり、補気作用を増した炙甘草というものです。

自分だけではなく、見えない同居人とともに健康になる

漢方の効果は保証がなく、そんなものを本当に治療として使えるのか?と言う方は医療人の方もいます。この保証がない、というのはどの鍵穴に入るかが科学的に証明されていない、ということです。確かに西洋医学の薬と比較をすると漢方薬の効果は不明瞭です。しかし、2000年以上も病気を治すための治療薬として使われつづけているものがでたらめとは考えにくいです。漢方薬は私達の体だけに働きかけるのではなく、私達がまだまだ解明できていない同居人との共存を可能にしているのでは以下と思います。

他にもある細菌を共生させる例

例えば牛。牛は一日中草ばかり食べていますが、それだけであんな大きな体をキープ出来るほどの摂取カロリーをとっているのでしょうか?実はその秘密は牛の中にある長い胃腸。牛はその独特の消化器感で腸内細菌を育てています。その腸内細菌により牛は食べる草を発酵させて脂肪に変換し、吸収して利用しています。

もう一つ例を上げましょう。タンパク質を多く含む食品は?というと肉、魚、卵・・・それからお豆腐などの豆製品が思い浮かぶのではないでしょうか。植物は普通光合成によってエネルギーを作り出します。そして、光合成で作る物は糖質なので植物は糖、炭水化物、食物繊維を多く含みます。それに対しマメ科の植物だけはタンパクを多く含む実(豆)をつけます。その理由もまた、マメ科の植物にはタンパク質を合成することができる細菌が寄生しているためだそうです。

中医学:四君子湯

 補気の代表方剤である四君子湯です。四君子湯もまた単剤で用いられることは少ないですが、補気剤の多くがこの四君子湯の加減で作られている基本となる方剤です。

 構成生薬はエキス剤では通常6種類。
人参・・・12g
白朮・・・9g
茯苓・・・9g
炙甘草・・・5g
生姜・・・1.5g
大棗・・・1.5g

 四君子湯という名前でありながら6味?と思われるかもしれません。原点となる《和剤局方》にのる四君子湯は実は名前通りの4味で構成されています。

 実は原点となる四君子湯には裏の陰陽を調整する生姜・大棗は含まれません。また、中国で市販されている四君子湯も生姜・大棗を除いた4味で作られているようです。実は薬膳の教えが根付いている中華料理では生姜や大棗はお茶やお料理など様々なところで日常的に口にしますので、方剤にわざわざ組み込みません。日本の料理では生姜・大棗を常食としないのでエキス剤のような加減ができない方剤では最初から加味した状態で市販されています。四君子湯をベースにした六君子湯もまた2味多い8味で構成されています。

 四君子湯の効能は益気補中・健脾養胃です。四君子湯が適応している病態は脾気虚、消化吸収能力が弱まり、その結果「気」が不足したものです。構成生薬は全て補気作用があります。

 まず、人参の効能は大補元気・益気生津。補気の最重要薬であり、他のどの生薬より補気力は協力で、さらに脾や肺を潤してくれます。人参の類似として党参・太子参・西洋参などが用いられることがあります。補気作用は人参>党参=西洋参>太子参で、生津作用は西洋参>人参=太子参>党参です。特徴的なのは性で、人参が温、党参が微温、太子参が平性で西洋参が寒です。対応する病態が熱を持っているか、冷えを持っているかで使用する人参を変更することもあるようです。

 白朮は補気健脾・燥湿利水です。膩性のある人参と異なり、燥湿健脾の効果がある白朮が入ることにより、気の補充とともに気の生成や供給を担う臓器の機能を高め、気が動かす津液の動きを手助けします。

 茯苓もまた、利水滲湿作用があり、その効果は白朮より強力です。茯苓は人参とは好相性で、人参、茯苓とも安神効果があるので虚が強く精神状態が不安定な病態にはよく組み合わせて用いられます。四君子湯に茯苓を用いるのは六味丸にも通じる補うためにしゃを 少し入れる補瀉併用の考えです。醤油差しの穴を一方だけ閉じてしまうと醤油が出てこないように新しい物が入るときは少し余分な物を捨てる、逆にいらない物を捨てるためには少し補益をした方が効果的、という漢方の原則です。茯苓で水を動かすことで人参の補がより増強されます。例外的に茯苓など利水効果を併用しない人参製剤は人参単味の独参丸という処方です。独参丸は亡陽虚脱の重篤な状態に用いられ、そもそも病体から気血が脱している状態のため、茯苓などでの滲湿は用いず、人参での補益のみを行います。

ライムルさんによる写真ACからの写真 

 甘草は、補気力は弱いですが、広範囲に使用される潤性の補気薬です。甘草は諸薬の効果をとどめて効果を長持ちさせる、また滞りを通す通陽の作用があるため、補を重点とする方剤には欠かせません。逆に、湿が停滞した湿証・気滞証・嘔吐者には原則は使用を控えます。

 四君子湯は方剤全体では温性に偏り、脾胃を守る代表方剤です。気の機能の中でも特に温める効果が弱く、適応症はおなかがゴロゴロなる下痢、食欲不振、腹脹、嘔吐などおなかの冷えが基本になります。脾気虚から脾陽虚に進行しやすい病体です。これとは別に中気虚という気の昇提作用と固表作用が弱ったタイプの気虚もあります。こちらは気虚から気陷、もしくは気虚から表虚に移行しやすく、このケースには人参ではなく黄耆をベースにした方剤で補気します。補気薬は主にこの脾胃気虚の人参系と、中気虚の黄耆系に分かれます。

 四君子湯から派生した補気薬は多数あります。

異功散
 四君子湯に陳皮を加えた補剤です。補気健脾に理気が加わります。四君子湯同様の脾胃気虚症状に悪心・嘔吐・腹部膨満感・痛みなどの気滞症状があるときに用います。四君子湯で却って胸がつかえて上腹部がはるときに使えます。特に小児に効果があります。

白朮散
 四君子湯に藿香・木香・葛根を加えて健脾に止瀉を強めた方剤です。長期にわたる脾胃虚証に、津液内耗による嘔吐・下痢・煩渇などがあるときに使用します。

人参湯
 四君子湯から茯苓を引き、乾姜を足した方剤です。脾胃虚寒に用いる処方で、散寒作用が強い乾姜と言われています。脾虚が久しくなり陽虚まで達していたらさらに附子を加えると附子理中湯と呼ばれる方剤となります。

六君子湯
 四君子湯に陳皮・半夏を加えた方剤です。健脾補気・和中化痰で脾虚により痰湿が内にたまった症候に用います。咳・嘔吐・食欲不振など幅広く用いられます。

八珍湯
 四君子湯と四物湯を合わせた合剤です。気血両虚に用いられ、腹痛・食欲不振・下痢・悪寒・発熱・生理不順などに用いられます。