中医学:二陣湯

 日本では方剤として取り扱いはありませんが、「化痰」剤の基本方剤です。

 「痰」とは体内の水分代謝が正常に行われず、水分が停滞した病理産物です。水分代謝による滞りを「痰」「飲」もしくは「痰飲」と表します。一般的により粘性が高いものを「痰」、さらさらと薄い物を「飲」と言いますが、その双方をひっくるめ区別なく「痰飲(広義)」ということもあります。また、胃腸に発生した飲を取り立てて「痰飲(狭義)」と呼ぶこともあります。

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 「痰は、体内の水が火によって濃縮されたもの」との説明がされることもありますが、これは狂証・癇証の説明としては便利ですが、これは痰の一部を表しているだけです。痰は本来は外邪や体質などの影響により「寒」「燥」「熱」など、さまざまな方向に発展していきます。

 痰は「有形の痰」と「無形の痰」があります。有形の痰には目に見える喀痰、聞こえる痰鳴が例です。無形の痰は、目に見えないけれども症状が現れている眩暈や癲狂などが当たります。

 痰湿証によって起きる代表的な症状は以下のようなものです。
吐き気・嘔吐・腹部脹満感・咳・吐痰・胸満・胸悶・めまい

 二陣湯は清代・王宮で多用されたようです。宮中と言えば山海のご馳走を集めた食事の毎日です。このような栄養過多な食事を続けることで、痰を生じて慢性的な消化不良状態が起きます(痰湿困脾)。さらに複雑な人間関係によるストレスも加わり、ストレスによる消化機能の失調(肝脾不和・痰湿中阻)も多く見られました。栄養過多、ストレス過多というのは今の現代人の生活様式と一致しますね。つまり現代人のたまりやすい「痰湿」にも二陣湯は応用範囲が広いと言うことです。

 二陳湯の構成生薬は以下のようになります。
・半夏 9g
・陳皮 9g
・茯苓 6g
・生姜 3g
・炙甘草 3g

 全体に燥性の強い方剤になっているため、陰虚火旺の体質には禁忌となります。

 二陣湯の「陳」は「古い」という意味を持ちます。数ある生薬の中でも古い方が品質がよいと言われる6種類の生薬を「六陳」と呼びます。六陳に含まれる生薬は枳穀・陳皮・半夏・呉茱萸・狼毒(日本では使用なし)・麻黄、全て燥性の強い生薬です。この六陣の中の半夏・陳皮を含むため二陳湯との名前になりました。

 半夏は化痰の重要薬です。温性の性質を持つので寒痰を除去するのに適します。特に脾胃の湿痰をよく除き、かつ止嘔効果を持ちます。半夏はカラスビシャクという植物の根で、「小半夏」と言われる7月上旬頃生えてきます。陽の気が盛んである夏至から陰の秋へとの移行の季節に生える半夏は同様に陽から陰への切り替えの流れを助ける不眠薬として使われます。

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 穏やかな行気薬・陳皮が用いられます。温性で燥性、気を巡らせて脾胃を整える行気健脾の代表生薬です。脾胃が弱まり水液代謝が悪化した病態を治療します。

 茯苓は平性な健脾理湿薬です。キノコの一種である茯苓は湿を好み、大量の水分を吸い取るようにして排除します。

 生姜は脾胃を温めさらに半夏の止嘔の効果を高めます。胃気を促進する物に生姜・甘草・大棗がよく用いられますが。ここでは湿を助長しがちな大棗は排除されています。また、生姜は半夏の刺激性(そのまま食べると激しい舌への痛みを感じる)を緩和するため、半夏を含む方剤には多く配合されます。

 最後に炙甘草を加えます。補気補脾に働き、痰を除去する、というよりは新たな痰が生成されないようにします。補益目的なので清熱解毒の生甘草ではなく炙甘草を用います。

 中国では二陳湯にさらに烏梅を加えることがあります。烏梅の収斂作用により気の消耗を防ぎ、さらに甘草とに酸甘化陰の組み合わせで陰を補強し、半夏と陳皮の過度な燥性を押さえます。

 痰は病因ともなり得ますが、もともとは水液停滞の原因で発生している”標”です。そのため二陣湯はその水液代謝を悪化させる“本”を治療する方剤との併用が一般的で、単独で用いられることは多くはありません。 そのため様々な加減法があり、さらに合方もよく用いられます。

 代表的な加減法には六君子湯があります。これは二陣湯に四君子湯の構成生薬である人参・白朮・大棗を加えた物です。脾胃気虚による水湿の停滞を除去します。補脾剤で胃腸の蠕動運動を促し、祛痰剤で嘔吐、悪心、呑酸を改善します。

 風邪、鼻水の治療薬小青竜湯もまた二陣湯の方意をくんでいます。表寒である悪寒、発熱、無汗などの症状に加え、寒邪によって凝滞が起こり水液が滞った状態です。熱証を伴わない(黄色く粘った痰や鼻水には使えない)大量の透明な鼻水、くしゃみ、鼻閉、喘息症状に用います。また、小児など麻黄が使いにくい患者には苓甘姜味辛夏仁湯などを二陣湯と合方する。

 熱証が強いときは黄笒、竹筎などの清熱薬を加えます。二陣湯の基になったと言われる温胆湯もまた、二陣湯から温性の生姜を除き、清熱の竹筎、破気の枳実、健脾の大棗が加わっています。熱痰症状が強い不眠などには有効です。また、半夏の毒性を和らげる生姜を抜いたこの方剤では半夏は炮製を施した製半夏が用いられます。

 痰濁が上部を侵した痰濁上逆による眩暈には半夏白朮天麻湯が用いられます。二陣湯に白朮・天麻・蔓荊子を加え、また場合により人参などで補気、沢瀉で利水を補強したりして用います。基本的には脾胃を治療することで痰濁を利尿する苓桂朮甘湯や五苓散と同じ原理です。

 胸悶・胃脹の強い気の滞りであれば二陣湯に気薬である厚朴・香附子・枳穀などを加えたり、半夏厚朴湯(半夏・茯苓・生姜・厚朴・紫蘇葉)を用います。