中医学:六味丸

 基本方剤の一つ六味丸です。六味丸は腎陰の不足を補う代表方剤です。6つの生薬からなり、主薬が熟地黄であることから六味地黄丸と名付けられています。この六味丸をもとに、八味丸、牛車腎気丸、知柏地黄丸、麦味地黄丸、杞菊地黄丸などさまざまな方剤が派生します。

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六味丸は瀉補のバランスに優れ適応範囲も広く扱いやすい方剤です。腎虚と言われる以下の症状に用いられます。膝腰酸軟(腰や膝がだるく、力が入らない)・目眩・耳鳴り・難聴・盗汗・遺精・微熱・のぼせ・頻尿などです。応用として、糖尿病・高血圧・慢性腎炎・小児の発育不良・痴呆症・不妊症などにも用いることができます。

構成生薬は
熟地黄・・・24g
山薬・・・12g
山茱萸・・・12g
沢瀉・・・9g
茯苓・・・9g
牡丹皮・・・9g
 補腎薬として知られていますが、三補三瀉で半数は補に残り半分は瀉に働きます。また、腎だけではなく腎・脾・肝に働く生薬が2味ずつ入っています。

 補にも瀉にも、寒も熱もバランスのとれた方剤です。添付文書の適応に「尿量減少または多尿で・・・」などという記述が入るものこの絶妙なバランスのためです。尿量が多いときは減らす、少ないときは増やすというバランスの崩れに働きかけるのはこの三補三瀉の構成のためです。

 主薬である熟地黄は微温で補血滋陰の重要薬です。補陰と言われますが、気血津のもとになる腎精を補充しますので、間接的に気血も満たします。熟地黄は胃にもたれると言われるので脾胃虚弱者には注意が必要です。

 山薬は山芋を乾燥させたものです。脾を保護するため、中国では普段の料理にもよく使われます。補気健脾薬が化湿作用を併せ持つものが多いのに対し、山薬は補気健脾に加えて養陰作用を持ちます。脾陰だけではなく肺腎まで補い、栄養不良状態を改善します。

 3つ目の補薬は山茱萸です。山茱萸は補肝腎陰の代表です。微温性で補肝陰の作用に優れますが、補腎精、さらに補腎陽も行います。肝を補う生薬らしく酸味をもち、それが収斂固澁の作用を発揮するので、遺精、遺尿、頻尿などの症状の改善に役に立ちます。

 補薬は全てやや温性、そして潤性です。熟地黄→腎、山薬→脾、山茱萸→肝を補う構造となっています。

次に瀉剤です。沢瀉は強力な利水作用を持ち、特に下焦の湿熱に多用されます。帰経は腎と膀胱で、特に腎陰虚による熱を冷まします。

 茯苓は沢瀉同様利水作用のある生薬ですが、主に脾に作用し、その薬性は温和で広範囲に使用ができます。湿の除去と同時に健脾利湿で脾の機能を高めます。平性で山薬で補った陰液を巡らせます。

 牡丹皮は寒で、清熱涼血作用に優れ、虚熱も制するため、虚証実証共に使用可能です。その帰経は血が集中する肝を中心に心と腎も含まれます。巡りが悪くなり熱化した血を清熱し、巡らせます。補単肥による巡りへの介入がないと腎で陰を補っても運搬ができず逆に負担になってしまいます。

 全体的にやや温性な3補に対し、瀉剤は茯苓以外は寒性です。補剤同様、沢瀉→腎、茯苓→脾、牡丹皮→肝へ働きかけ、ここでも補剤と瀉剤で寒熱の陰陽になっています。

 補うものを入れて、瀉すものを入れて・・・それではプラスマイナスゼロでは?と思えますが、六味丸において瀉剤を加える理由は余分なものを瀉することで新しく清いものを補給する、という考えです。

 左帰丸は補腎陰の代表方剤です。陰を補う薬でありながらその構成生薬に補陽の力が強い鹿角膠を含みます。これは決して陰を補いすぎないように陽を加えて調整しているわけではありません。これは陰陽互根(陰と陽はお互い支え合い、互いが存在しなければもう片方も存在しない)を元に、“陽中求陰(陽の中に陰を求める)”という陰のみを補うより陽も同時に補ったほうが陰がよく育つとの考えを基にして組まれた配合です。

 六味丸の補のために瀉を組み合わせるのはまさに、この陽中に陰を求める、中医学独特の考え方です。効果的に補するために、瀉を組み合わせた配合です。

 この瀉補をバランスよく組み合わせた上、腎、肝、脾の幅広い範囲をカバーするため、六味丸の適応は広く、長期の使用でも副作用が起こることはまずありません。場合により胃に湿がたまりやすい方に、熟地黄による胃もたれが出現することがあります。悪心、嘔吐、舌苔が厚いなどがあれば注意が必要です。

六味丸はそのバランスの良さから他数種類の生薬を加味(よりニッチな適応に合わせるため生薬を追加すること)したアレンジ方剤が多く存在します。

知柏地黄丸
 虚熱を清する知母と黄柏が加味されています。腎陰虚による虚熱の症状、微熱・火照り・頭痛・心煩・盗汗・咽痛などに用います。

杞菊地黄丸
 補肝陰の枸杞子と清肝明目の菊花が加味されています。目を滋養する肝陰と肝陰の大本である腎陰を補うことが出来る処方となっています。年を重ねて現れる虚による目の症状には適していますが、若年層の花粉症の痒みのような実した症状の場合は清肝明目湯なども考慮した方がいいかもしれません。菊の花は花色で効能が違うと言われていて、白い色が清肝明目、黄色は清熱解毒作用が優れているようです。杞菊地黄丸に使われている菊は当然白で、お刺身に薬味としてのっている小菊は黄色なのはこの理由です。

丸岡ジョーさんによる写真ACからの写真 

麦味地黄丸
 八仙丸とも呼ばれます。肺腎陰虚を目標とした処方です。腎陰を補う六味丸に、肺陰を補う麦門冬と五味子が含まれます。肺腎陰虚による皮膚の乾燥、掻痒感などの皮膚疾患、乾いた咳に対応します。

耳鳴丸
 六味丸に加えて柴胡と磁石が加味されています。その名の通り、耳鳴りを鎮める処方です。腎陰を補う六味丸と、気の滞りを発散し、正気を上に持ち上げる柴胡と浮き上がった陽を落ち着かせ、聴力を高める磁石を加えています。肝陽の上亢や腎陰不足に適しています。血虚による耳鳴りは滋腎通耳湯も選択肢になります。