中医学:小建中湯

 小建中湯は構成生薬の割合を変化させるだけで適応が変化する、漢方薬の面白さを教えてくれます。

 小建中湯の主治は”脾胃虚寒による疼痛”です。脾陽の不足により中焦(腹部)に寒が生じ、胃や腹部に痛みを生じた時の処方で、体力虚弱なものや小児の腹痛によく使われます。

 小建中湯の構成生薬は以下のようになります。
膠飴・・・18g
白芍薬・・・12g
桂枝・・・6g
炙甘草・・・3g
生姜・・・9g
大棗・・・6g

 構成生薬を見ると、小建中湯は桂枝湯の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯という方剤に膠飴を加えたものです。この少しのアレンジで感冒の解肌を目的とする桂枝湯が、沈痙を目的とする小建中湯となります。

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 生薬の配合量は参考にする文献によって微妙に差があることはよくありますが、桂枝湯においての桂枝・芍薬・生姜・大棗は必ず等量で用いられます。その理由は桂枝湯は陰と陽、表と裏を調和することを目的とするバランスの方剤だからです。表の陰陽を補う桂枝と芍薬、裏の陰陽を補う生姜・大棗、この4つはどれが突出することなく等量で用いることで全てのバランスが整います。

 その完成された桂枝湯からあえて芍薬だけを増量したものが桂枝加芍薬湯です。桂枝加芍薬湯は構成生薬は同じといえ桂枝湯の変方というよりは、芍薬甘草湯の加法と考えた方が捉えやすくなります。芍薬甘草湯は和陰緩急といい、陰血を補うことで緊張をほぐす方剤です。この芍薬と甘草の組み合わせは「酸甘化陰」と言って薬膳では常套ですが、酸味と甘味を合わせると陰を補うことを目的とします。この陰が筋肉の痙攣(過剰な反応)をなだめるため、 足のつりといえば西洋薬より効果が高い芍薬甘草湯として知られるようになりました。 芍薬甘草湯は横紋筋(手足を動かす筋肉)だけではなく平滑筋(内臓の筋肉)の痙攣にも効果があるため、内臓の痙攣(緊張)による疝痛にも広く用いられます。足のつりのイメージが強いですが肩こり、座骨神経痛、生理痛、肩こり、胃けいれんなど応用範囲は広い薬です。

 芍薬甘草湯並び、小建中湯で一般的に用いられる芍薬は花色が白の白芍です。白芍は酸味を持ち、肝の陰血を補うことで気を緩め、気滞を改善して止痛します。肝血虚や肝陰虚に伴う肝気鬱結証の脹満痛、腹痛、生理前の胸の張り感、筋肉痙攣や疼痛に用いられます。花色が赤い赤芍は苦味を持ち、活血力に優れ、かつ止痛をしますが、白芍のように肝陰を補う作用は強くありません。小建中湯や桂枝湯、桂枝加芍薬湯などでは陰を補右目的で白芍を使うことになりますが、四逆散や桂枝茯苓丸などは患者によって赤と白を使い分けて配合することもありえます。

 桂枝に比較し芍薬を増量することで、解表薬だった桂枝湯が和裏剤の桂枝加芍薬湯となり、さらに膠飴で補脾補陽を強化したものが小建中湯です。膠飴は「健脾には必ず甘味を用いる」という治則に基づいています。軽度の体力低下(気血不足)と消化機能低下を基礎に持ち、自律神経の失調による腹痛、動悸、汗の出すぎに用いられます。冷え、疲れ、緊張などで起こる発作性の腹痛、例えば空腹時に痛む小児の臍周囲の疝痛に効果があります。強く発汗させることができない虚弱者や小児には桂枝湯の代わりに小建中湯を使用することも出来ます。

 芍薬と甘草が組み合わさって陰を補充するのに対し、桂枝もまた甘草と組み合わせて陽を補充します。桂枝の辛味と甘草の甘味は「辛甘化陽」で中焦の陽気を補い寒を追い払います。桂枝の通陽化気の効果は芍薬、膠飴で補った陰血を調和し、活発に巡らせ、さらに痰湿を吸収し除いてくれます。

 生姜・大棗は裏の衛営を調和し甘草の力を得て脾気を増強してくれます。

 小建中湯はもちろん安全性の高い方剤ですが、誰彼かまわず使えるというわけではありません。まず、小建中湯はとても穏やかな処方なので、脾胃虚寒が強ければ大建中湯を用いた方が効果が得られます。また、補陰薬は多く含まれていますが方剤は全体に温性に偏るため陰虚火旺の微熱には用いられません。また、甘味が強いので、胃満腹脹の気滞症状には適しません。

 また、小建中湯を基礎とした方剤も多く作られています。

黄耆建中湯
 小建中湯に黄耆を加えた処方です。黄耆は人参に次いで補気の代表生薬です。その効能は補気昇陽・補気固表。黄耆は肉芽形成を促進するので、胃や皮膚の潰瘍に効果があり、そのため托瘡生肌、排膿を促し、創傷や皮膚化膿症の治癒を促進します。小建中湯証に加えて気虚症状が強い病態を目標とした処方ですが、臨床的には小児を中心に脾胃の虚弱があるものを対象にしたアトピーや皮膚潰瘍疾患などに効果的です。

当帰建中
 こちらも小建中湯に当帰を加えた処方です。桂枝湯をベースにした小建中湯の陰陽を調和する構成に加えて、補血活血調経の当帰が加わります。当帰は補血薬の印象が強いですが。適度に血の量を増やしながら、流れも改善します。血虚の症候を呈する産前産後の腹痛や月経困難症に用いることが出来ます。

帰耆建中湯
 小建中湯に当帰と黄耆を加えた処方です。気を補う黄耆と血を補う当帰を加えた気血両虚への処方で、慢性化膿症あるいは潰瘍、炎症はごく軽度でうすい浸出液が見られ長期にわたって治癒傾向がないものが対象と言われています。小建中湯で体力を補い、黄耆で肉芽形成促進・排膿の作用と当帰の栄養・血行促進の作用を加えたものです。この処方は花岡清洲が刀傷を治療するために開発したとの説もあり、皮膚の再生を促す治療薬としてはかなりの実力があると感じます。