中医学:血府逐瘀湯

 血府逐瘀湯は行気活血薬の代表方剤ですが、細かく見ていくとなかなか興味深い方剤です。もとは清代の王清任の「医林改錯」に含まれるものです。王氏は少し独自の「気血理論」を用いて方剤を組み立てました。

もんでんさんによる写真ACからの写真 

 血府逐瘀湯の構成生薬は桃紅四物湯に含まれてる5種
・桃仁
・紅花
・生地黄
・赤芍
・当帰
・川芎
 四逆散に含まれる4種
・柴胡
・枳穀
・(赤芍)
・甘草
 それに加えて昇降を調整する
・牛膝
・桔梗
 以上の11種類です。

 血府逐瘀湯は「胸中瘀血証」に用いられます。ここで言う胸中とは「心」「肺」に加えて「肝」まで含みます。症状としては、胸痛・脇痛・頭痛(全て部位が固定した刺痛)、性格の変化(せっかちになる・短期になる)、心煩、動悸、不眠、発熱などです。

 寒熱の偏りがなく、気血両方に作用するどんな人にも服用出来るような方剤に思います。しかし、血府逐瘀湯の適応である胸中瘀血証は本来「寒象・熱象ともに顕著でない」「胸部」「気滞血瘀という実証」と限定した適応範囲が定められています。

 基本構造は3つの骨組みからなります。まずは桃紅四物湯による血への働きかけ。さらに四逆散が組み込まれていることから気を巡らせる行気解鬱作用を強めています。そこへ上部への引経薬の桔梗と下部への引経薬の牛膝により昇降を調整します。ただの活血薬ではなく、かなり「行気」を意識した、血と気を通すための行気活血薬であることがわかります。

 桃紅四物湯に含まれる活血効果を持つ生薬は桃仁・紅花・当帰・川芎・赤芍の5つです。この5つの生薬は活血5薬とも呼ばれています。それぞれに持ち味は下のようになります。
・赤芍・・・「活血」+「化瘀」 微寒
・桃仁・・・「活血」+「潤燥」 平
・紅花・・・「活血」+「潤燥」 温
・当帰・・・「活血」+「養血」 温
・川芎・・・「活血」+「行気」 温
例えば塊を取り去る「化瘀」の効能は赤芍が一番強いので、桂枝茯苓丸などの化瘀をとるときは赤芍が用いられます。また、寒性が強いので温める処方身痛逐瘀湯では用いられません。同様に、川芎は温性、燥性が強い生薬ですので、熱をもって乾いた病態を意識している通経逐瘀湯などには用いません。このように活血薬の中でも何を選んで方剤に組み込んでいるか、また何を選ばなかったかを中止するとその方剤の対象となる病態への理解が深まります。

 また、四逆散と桔梗・牛膝の組み合わせで全体の気を通します。柴胡・桔梗が気を上昇させ、牛膝・枳穀が気を下降させ、バランスよく気の流れを整えます。四逆散では枳実を用いますが、血府逐瘀湯では枳実より少し行気効果が弱く、穏やかな枳穀を用います。

 気と血の巡りを重視すると方剤は全体にやや燥性になります。そのため陰虚火旺体質に使用するには中医が必要です。気血の巡りの改善による気血の消耗を防ぐために生地黄・甘草がバランスをとる形となります。

 血府逐瘀湯は「気滞瘀血という実証」の治療薬です。寒熱のバランスがとれ、強すぎない使いかってのよさそうな方剤ですが、やはり漠然と用いず、気滞と血瘀が同時に存在する病態であることを意識することが大切です。例えば肝鬱証のような血瘀の存在しない気滞には四逆散や柴胡疏肝湯を用いますし、肝血虚であれば酸棗仁湯、心血虚であれば帰脾湯などを用いる方が適します。