肝病の病機

 肝は疏泄つかさどっています。肝の疏泄とは気血水をのびのびと全身に広げる生理機能です。肝の疏泄機能の役割は次の6つに分類出来ます。

  1. 全身の気機を疏泄する
  2. 全身の血液の貯蔵流通を調節する
  3. 筋膜を柔軟にし活性化する
  4. 胆汁を疏泄し、運化を促進する
  5. 精を目に送る
  6. 精神情志をのびのびさせる

 肝気は亢進しやすく、横逆しやすく、うっ滞しやすいという特徴を持ちます。このような肝気の亢進をなだめるために肝陰肝血が肝を滋養しています。また、肝陰肝血はさらに目や筋腱が正常に機能するようにこれらを滋養しています。
 肝の病気には肝気の疏泄機能の失調、肝血の滋養機能の低下、肝の陰陽の制約関係の失調があります。肝陽肝気は余りやすく、肝陰肝血は不足しやすい傾向があります。

カッパリーナさんによる写真ACからの写真

肝気鬱結
 肝気鬱結は肝の疏泄機能が失調し、気機が鬱滞した状態です。中医学のバイブルである「黃帝内経・素問」には「百病はみな気より生ず」との記述があるように、全身を巡る気が塞がって鬱滞すれば気の昇降出入が乱れ、さまざまな病証が現れます。
 肝気鬱結が起きる原因としては、怒りなどの精神刺激、情志抑鬱、多臓器の気機失調の波及などがあります。
 気の鬱滞による痛みには“張り”という特徴があります。気滞が生じた部位には膨満感と疼痛(トゲを刺したような、ではなく張り感のある)が生じやすくなります。肝気鬱結の痛みは右脇部に起こりやすいという特徴があります(リンパの流れの右と左の境界線がここにあるから、という説があります)。停滞した肝気と痰飲が咽頭部に停滞すると、梅核気 (喉に梅の実がつまったような閉塞感)や癭瘤(甲状腺の腫れなどの異常)が生じます。気気鬱滞が肝経に集中すると乳房や小腹部脹痛、睾丸部への脹痛、月経痛や閉経がおこります(肝経寒滞)。また鬱結した肝気にあおられて胃に影響すると、胃痛、胃気が上逆するとゲップや嘔吐がおこります。肝気鬱結が脾をあおると脾の運化が失調して腹痛や泄瀉(水様便)が起こります。
 気滞による脹痛には疏肝解鬱・理気止痛の柴胡疏肝散が使えます。咽頭部の不快感は理気降逆・化痰散結の半夏厚朴湯が代表です。肝経寒滞には日本では扱いがありませんが天台烏薬散や暖肝煎など、烏薬、木香、沈香、川楝子や理気行気薬を多く含む方剤を使います。肝気による胃の不調には柴胡疏肝散や四逆散をよく用います。どちらも筋の緊張による痛みを取ってくれる芍薬甘草湯を含むので突っ張った感覚の胃痛には有効です。肝気が脾に影響を及ぼしたときは肝脾不和といいますが、代表方剤は痛瀉要方ですが、こちらも日本では手に入りにくいため四逆散や柴胡疏肝散で代用することが多いようです。

肝火上炎
 肝火上炎は肝陽が旺盛になり化火した状態で、火の性質を持つため顔面頭部に症状を現します。
 原因は肝気鬱結による化火、激怒による肝気暴張、五志化火、心火亢盛など他臓器の飛び火です。
 肝火上炎により頭部に陽気が集中すると、頭痛・頭張・顔面紅潮・目の充血・突発性難聴・耳鳴り・怒りっぽい(自律の興奮)などの症状が現れます。肝火が肺や胃を損傷すると、喀血、吐血、衄血 (鼻血)などを起こし、また肝火により陰血を消耗すると肝陰虚となります。
 肝火上炎には疏肝清熱・健脾養血の加味逍遙散が基本です。心火がある場合は心の清熱が入る女神散も考えられます。肝火犯胃による吐血、肝火上炎による鼻衄には竜胆瀉肝湯が用いられ、喀血には瀉白散などを用います。

肝血虚
 肝の陰血の失調の一つである肝血虚。特徴は血による栄養機能の低下という点です。
 原因は失血過多、慢性疾患による血の消耗、脾胃虚弱による血の生成不足です。
 肝血不足では、血による各部位の滋養が悪くなります。筋脈の栄養状態が悪いと四肢のしびれ、知覚低下や関節の屈伸不利がおこります。肝の開竅する目への滋養が不十分となると目が乾いたり、かすんだりします。また、血虚の乾燥状態が皮膚に及ぶと皮膚の掻痒感が起こり、虚風がおこると、痙攣が起きます。
 四肢のしびれには平肝・解痙止痛の芍薬甘草湯が即効性もありよいですが、長期的には補血の代表である四物湯のような血を補う方剤を服用することが大切です。目の症状にも四物湯は用いることが出来ます。皮膚の乾燥には補血潤燥・止痒の当帰飲子などは補血効果に加えて血虚により風となって生じた痒みにも対応します。虚風による痙攣はよく認知症で使われる柔肝解痙・調和肝脾の抑肝散が使われます。補血薬での治療がベースにはなりますが、肝血虚の原因として脾胃虚弱があるように、脾胃の状態には気を配る必要があります。脾が弱った状態での補血薬の投与はさらに脾虚を悪化させることがあるため、場合によっては四物湯より帰脾湯、婦人方、十全大補湯など補脾を考慮した方剤を優先させることも考えましょう。

肝陰虚
 肝陰虚は肝の陰血不足で、乾燥症状や肝火上炎のような亢進状態が見られます。
 原因は肝火による肝陰の損傷、湿熱、熱邪による肝陰の損傷、腎陰不足の波及などです。
 肝陰虚の主立った症状は2つに分かれます。肝陰不足により肝陽上亢、もしくは肝風内動です。
 肝陽上亢は肝火上炎と似ていますが、肝陰不足による相対的な熱の亢進です。肝陰のもとは腎陰であるため、腎陰の不足によりおこりやすくなります。肝火上炎同様頭顔面の症状が目立ち、めまい、耳鳴り、顔面紅潮、目の充血、情緒不安定などです。加えて腎陰の不足が関与していれば下半身がだるい、痛むなど「下虚」症状が現れます。日本にはない方剤ですが、天麻鈎籐飲のような平肝潜陽・清熱熄風・滋陰をしてくれる方剤もあります。日本では肝腎陰を補う六味丸をベースに、目の症状が強ければ杞菊地黄丸、虚熱を引き下ろしたければ知柏地黄丸を使うことが出来ます。
 肝陰不足で筋脈を滋養出来ず、さらに陰が不足して陽を抑えることが出来ず異常な興奮状態となってめまい、筋肉のぴくつき、手足の震え、痙攣がおきることを肝風内動と言います。熱盛痙攣や重症の熱中症などです。羚羊鈎藤湯があればよいですが、釣藤散や七物降火湯、抑肝散などで対応するようになります。

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