肺病の病機

 肺は様々な生体活動を担っています。
・気をつかさどり、呼吸をつかさどる
・宣発と粛降をつかさどる
・通調水道をつかさどる
・百脈を朝(あつ)め、心脈のめぐりを助ける
 肺気は体表に衛気を宣発して肌膚を温め、外邪が体内に侵入することを防いでいます。そのため肺の病変は外邪によるものが多くあります。これは肺が関与する器官、肺を初めとして鼻、喉、肌、大腸などが生体と外界を隔てる役割をもつためです。そうは言っても肺の病変全てが外邪によるものではなく他の臓器の病変に影響を受ける内生の要因から起きるケースも頭に入れなくてはいけません。
  肺は天体に例えると大気圏です。外と内の境界線を引き、外からの不要なものが内に入り込まないようにする第一の壁です。 肺はかよわい臓器と言われますが外邪をまず直に引き受け生体を守る存在ですから、病変が多いのは当然です。弱い、と表現するのは不憫な気がします。

Arceさんによる写真ACからの写真

 肺の陰陽気血の失調は、主として肺の宣発粛降の失調です。肺の宣発粛降が衰えることで気機の昇降出入が影響を受け、呼吸機能の異常・水液代謝や衛外機能の障害・血行障害を引き起こします。肺は気をつかさどる臓器であるため、肺陽は肺気と概括して語られます。また、百脈を朝めるという働きから、肺に血は集中し、肺血虚が起きることはまれです。そのため、肺の機能失調は主に肺気もしくは肺陰の失調に集中します。

肺気の失調
 肺気の失調には、肺失宣降と肺気虚損とがあります。

肺失宣降
 肺失宣降とは肺の宣発粛降機能が正常に働かないことです。原因としては外邪の侵襲、痰湿や悪血の停滞、肝気の昇発過度などです。
 肺気の宣発が弱くなった状態を肺気不宣といいます。宣発は体に正気、それに伴い津液も広く発散し、行き渡らせる機能です。この機能が働かなくなると、咳嗽、胸悶、くしゃみ、鼻閉などの症状が現れます。また、衛気を体表に配備する力も宣発によって行われますので、外邪の侵入をゆるし風邪をひきやすくなったり、または濁気が排泄出来ず無汗になったりします。これは外邪により腠理を詰まらせ、無汗となった麻黄湯が代表の証です。麻黄の宣肺(肺気の上昇)と杏仁の降肺(肺気の下降)で上と下へ気の巡りを確保して、喘息や咳を治療します。
 また、肺気の粛降機能が衰えた状態を肺失粛降といいます。粛降は取り込んだ清気を体内の内側に深く取り込む、または津液を下方に運ぶ働きがあります。そのため粛降がうまくいかなくなると、呼吸が浅くなったり、上逆すると喘息や咳き込み、ひどくなると喀痰、喀血などがおこることもあります。肺気上逆には麦門冬湯など、降逆下気の効能をもつ方剤を用います。
 肺気不宣も肺失粛降も、ともに肺気の上逆を起こし、咳嗽や喘息を引き起こします。また、水分代謝が悪くなり尿量の減少や浮腫がおきることがあります。肺気上逆が水分代謝にも影響を与えて、上焦は実していても下焦は虚しているようなケースでは化痰降気の蘇子降気湯などが用いられます。

肺気虚損
 肺気の虚損とは肺の生体機能の衰えで、衛表不固や津液の輸送機能の失調が起きます。
 その原因は長期にわたる肺失宣降による肺気の損傷、心労などによる生化の源(脾胃)の損傷、病の慢性化による気の消耗などです。
 肺気虚損がおきると宗気と津液の輸送機能が影響を受けます。宗気が弱くなると、呼吸が浅くなる、喘息や息切れなど呼吸機能全体の活動が弱くなります。また、外邪から生体を守る衛気が弱くなると風邪を引きやすくなり、さらにじわじわとした汗 (自汗)でるようになります。肺の親である脾の弱さに原因があれば麦門冬湯や補中益気湯のような脾胃への配慮がある方剤を用い、特に衛気虚が弱いときは玉屏風散などが用いられます。さらに肺気虚損で津液代謝が悪くなると痰飲や浮腫が起きることがあります。この場合は肺気を補う方剤に加えて痰やむくみをさばく防已黄耆湯などが考えられます。
 肺気が失調している病態には、気を激しく動かす方剤を使用すると却って気を消耗するため注意が必要です。傷寒論にもある”先補後瀉”の原則で、虚実が夾雑しているようなときは先に虚の補ってから、後で実を瀉す、と言われます。まず、気虚を治療してから巡りを改善しましょう。

肺陰の失調
 肺陰の失調には、肺の陰津虚損もしくは陰虚火旺があります。肺陰の失調は、肺自身と鼻腔や肌の潤い不足、さらに虚熱が発生する病的な状態です。
 原因は燥熱の邪の侵入、外邪や痰の化火、五志化火(喜・怒・憂・思・恐などの感情)、久咳による肺陰の損傷、腎陰虚など多臓器の陰虚の波及などがあります。
 肺陰の失調は肺が関わる、肺、鼻、喉、肌、大腸などの乾燥症状が目立ちます。空咳、鼻や喉の乾燥、肌の乾燥、便秘などです。陰虚により内熱が発生すると潮熱(毎日一定の時間で熱感が出る)・盗汗(寝汗)・五心煩熱(手足のひらと心のほてり)が起きます。程度がひどくなると痰に血が混じったり、喀血がおこったりします。乾燥が目立てば沙参麦門冬湯、熱が目立てば清燥救肺湯などが用いられます。

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