脾病の病機

 脾は「運化をつかさどる」「昇清をつかさどる」「統血をつかさどる」などの生理機能があります。脾陽脾気は水穀の運化、飲食物の消化吸収と水液の運化、水液の吸収・輸送を調整します。また、吸収した栄養素を上部へ上らせ、全身循環にのせる昇清作用や血液が脈外にあふれないようにする統血作用は脾陽によって調整されます。脾は体の中心部に存在するため、脾の滞りは末端である四肢や肌肉に影響し、脾陽の不足は冷えなどの原因になります。また、脾陰は、脾臓を滋養しており、脾の陽気の生理機能を助けています。
 脾病には脾気陽気の失調と脾陰の失調があります。その影響は、栄養素の消化吸収、津液の運化・輸送、血液の生成・固摂など多岐に及びます。脾の血虚は一般的に述べられません。

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脾陽、脾気の失調
 脾の陽気失調は脾陽脾気の衰弱が主な原因となります。衰弱の程度と、その影響で3つに分かれます:脾気虚損、脾陽虚損と水湿中阻です。

脾気虚損
 脾気虚損は中気不足とも言われます。運化機能の低下と気血の生成力の低下が主な影響です。
 原因は、不適切な飲食による内傷、先天的な虚弱体質、慢性疾患による損傷、思慮過度や労倦(働き過ぎ、怠けすぎ)などです。
 脾気虚弱により運化機能が低下すると、消化不良や口淡無味、食欲不振となります。脾気は栄養分の昇清とともに不要物を降濁する胃の作用も支えています。そのため、清気が昇らないとめまいなど、頭部に影響があり、降濁が悪くなると腹脹が起きます。清気が昇らず、逆に下ると下痢になります。また、脾気虚損で消化不良が起こると気血の生成が低下し、全身の気血不足を引き起こします。加えて、脾気虚弱のために統血機能が低下すると脾不統血となり出血が起こります。脾気虚損は中気下陷(気の持ち上げる力が足りず下に垂れる)の原因となり、脱肛、久泄、内臓下垂がおこります。
 脾気を強くするには益気健脾、惨湿止瀉の参苓白朮散を使い、胃の降濁を改善するためには益気健脾・理気和胃の香紗六君子湯、統血機能を整えるには益気健脾・養心補血の帰脾湯、中気下陷には補中益気・昇陽の補中益気湯を用います。

脾陽虚損
 脾陽虚損は脾気虚損と重なるところも多いですが、さらに陽虚が進行し温煦機能の低下により寒が強いという特徴があります。腹部の冷痛や、四肢の冷え、下痢などの症状として表れます。原因は脾気虚損による陽気不足、内寒旺盛です。異なる成因としては生命の源である腎の命門の火が弱まり、脾陽の補充が行えないケースです。脾陽虚は津液の運化を低下させるため、痰飲(水液代謝の衰えによってできる流れの悪い水もしくは水の塊)を形成し、浮腫を起こします。
 脾陽虚には温中健脾の附子理中湯、寒による痛みが強ければ安中散などを用います。

水湿中阻
 脾の陽気が不足すると水質の運化が悪くなり、水質が停滞します。この状態を水湿中阻と言います。脾虚湿滞にならると痰飲の形成やむくみなどが生じます。この脾虚湿滞には2つの経過があり、湿が停滞することで寒化する場合と熱化する場合があります。一般的に陰虚陰盛であると留まった湿が寒化して寒湿困脾となり、陽盛であると熱化して脾胃湿熱となります。
 脾胃に水湿がたまれば燥湿運脾・行気和胃の平胃散や、水腫には温中散寒・健脾除湿の苓姜朮甘湯も良さそうです。湿が寒化した場合は日本では取り扱いがありませんが健脾・温陽・利水の実脾飲、熱化した場合は滋陰和胃・清熱化湿の甘露飲などを使うことが出来ます。

脾陰の失調
 脾気の失調と比較し多くはありませんが、脾陰が虚する病態もあります。
 原因は主に熱病・食傷・五志化火などによる陰液の損傷や長期の下痢による陰液の損傷です。ほとんどの場合脾気虚損によって水湿が適切に運ばれず脾陰が不足するという気陰両傷として現れることが多くあります。脾の陰津不足で口渇がおき、運化が正常に行われないと食欲不振、腹部の膨満感、泥状便、消化不良がおきます。脾陰虚のために陽が相対的に強くなり、虚熱が生じます。
 脾陰虚には養陰和胃の益胃湯という日本では扱いがない方剤もありますが、麦門冬湯などで優しく胃陰を補いながら補気剤を加えることもできます。熱が強ければ竹葉石膏湯などもありますが、虚している病態には胃に重いので注意が必要です。

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