中医学:四君子湯

 補気の代表方剤である四君子湯です。四君子湯もまた単剤で用いられることは少ないですが、補気剤の多くがこの四君子湯の加減で作られている基本となる方剤です。

 構成生薬はエキス剤では通常6種類。
人参・・・12g
白朮・・・9g
茯苓・・・9g
炙甘草・・・5g
生姜・・・1.5g
大棗・・・1.5g

 四君子湯という名前でありながら6味?と思われるかもしれません。原点となる《和剤局方》にのる四君子湯は実は名前通りの4味で構成されています。

 実は原点となる四君子湯には裏の陰陽を調整する生姜・大棗は含まれません。また、中国で市販されている四君子湯も生姜・大棗を除いた4味で作られているようです。実は薬膳の教えが根付いている中華料理では生姜や大棗はお茶やお料理など様々なところで日常的に口にしますので、方剤にわざわざ組み込みません。日本の料理では生姜・大棗を常食としないのでエキス剤のような加減ができない方剤では最初から加味した状態で市販されています。四君子湯をベースにした六君子湯もまた2味多い8味で構成されています。

 四君子湯の効能は益気補中・健脾養胃です。四君子湯が適応している病態は脾気虚、消化吸収能力が弱まり、その結果「気」が不足したものです。構成生薬は全て補気作用があります。

 まず、人参の効能は大補元気・益気生津。補気の最重要薬であり、他のどの生薬より補気力は協力で、さらに脾や肺を潤してくれます。人参の類似として党参・太子参・西洋参などが用いられることがあります。補気作用は人参>党参=西洋参>太子参で、生津作用は西洋参>人参=太子参>党参です。特徴的なのは性で、人参が温、党参が微温、太子参が平性で西洋参が寒です。対応する病態が熱を持っているか、冷えを持っているかで使用する人参を変更することもあるようです。

 白朮は補気健脾・燥湿利水です。膩性のある人参と異なり、燥湿健脾の効果がある白朮が入ることにより、気の補充とともに気の生成や供給を担う臓器の機能を高め、気が動かす津液の動きを手助けします。

 茯苓もまた、利水滲湿作用があり、その効果は白朮より強力です。茯苓は人参とは好相性で、人参、茯苓とも安神効果があるので虚が強く精神状態が不安定な病態にはよく組み合わせて用いられます。四君子湯に茯苓を用いるのは六味丸にも通じる補うためにしゃを 少し入れる補瀉併用の考えです。醤油差しの穴を一方だけ閉じてしまうと醤油が出てこないように新しい物が入るときは少し余分な物を捨てる、逆にいらない物を捨てるためには少し補益をした方が効果的、という漢方の原則です。茯苓で水を動かすことで人参の補がより増強されます。例外的に茯苓など利水効果を併用しない人参製剤は人参単味の独参丸という処方です。独参丸は亡陽虚脱の重篤な状態に用いられ、そもそも病体から気血が脱している状態のため、茯苓などでの滲湿は用いず、人参での補益のみを行います。

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 甘草は、補気力は弱いですが、広範囲に使用される潤性の補気薬です。甘草は諸薬の効果をとどめて効果を長持ちさせる、また滞りを通す通陽の作用があるため、補を重点とする方剤には欠かせません。逆に、湿が停滞した湿証・気滞証・嘔吐者には原則は使用を控えます。

 四君子湯は方剤全体では温性に偏り、脾胃を守る代表方剤です。気の機能の中でも特に温める効果が弱く、適応症はおなかがゴロゴロなる下痢、食欲不振、腹脹、嘔吐などおなかの冷えが基本になります。脾気虚から脾陽虚に進行しやすい病体です。これとは別に中気虚という気の昇提作用と固表作用が弱ったタイプの気虚もあります。こちらは気虚から気陷、もしくは気虚から表虚に移行しやすく、このケースには人参ではなく黄耆をベースにした方剤で補気します。補気薬は主にこの脾胃気虚の人参系と、中気虚の黄耆系に分かれます。

 四君子湯から派生した補気薬は多数あります。

異功散
 四君子湯に陳皮を加えた補剤です。補気健脾に理気が加わります。四君子湯同様の脾胃気虚症状に悪心・嘔吐・腹部膨満感・痛みなどの気滞症状があるときに用います。四君子湯で却って胸がつかえて上腹部がはるときに使えます。特に小児に効果があります。

白朮散
 四君子湯に藿香・木香・葛根を加えて健脾に止瀉を強めた方剤です。長期にわたる脾胃虚証に、津液内耗による嘔吐・下痢・煩渇などがあるときに使用します。

人参湯
 四君子湯から茯苓を引き、乾姜を足した方剤です。脾胃虚寒に用いる処方で、散寒作用が強い乾姜と言われています。脾虚が久しくなり陽虚まで達していたらさらに附子を加えると附子理中湯と呼ばれる方剤となります。

六君子湯
 四君子湯に陳皮・半夏を加えた方剤です。健脾補気・和中化痰で脾虚により痰湿が内にたまった症候に用います。咳・嘔吐・食欲不振など幅広く用いられます。

八珍湯
 四君子湯と四物湯を合わせた合剤です。気血両虚に用いられ、腹痛・食欲不振・下痢・悪寒・発熱・生理不順などに用いられます。

中医学:和剤局方

 「日本薬局方」の名前はここから来ています。

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 宗の8代皇帝・徽宗が医官に命じて編集したものが『太平恵民和剤局方』、通称和剤局方です。

それまでの時代、医学は支配階級の人の間でのみ伝承されていましたが、この和剤局方の出版で庶民のための医学となりました。日本においても江戸時代、多くの漢方家がこの和剤局方の影響を大きく受けています。

 徽宗皇帝が残した和剤局方は全五巻からなり、297処方が収載されています。主な処方は冷えによる痙攣性疼痛に使用する「安中散」(大正漢方胃腸薬のベースになっています)、中焦の気滞を改善する「香蘇散」、湿により弱った胃腸を回復させる「平胃散」、婦人薬の基本となる「四物湯」補気剤の代表「四君子湯」などがあります。さらに四君子湯と四物湯を合わせ、手術後によく使われる「十全大補湯」や更年期障害など婦人の不定愁訴に用いる「加味逍遙散」も和剤局方に収載されています。

中医学:当帰芍薬散

 保険調剤で使用される頻度が最も高い方剤の一つかと思います。当芍美人との言葉がありますが、当帰芍薬散が適合する証が色白ほっそりした女性、竹久夢二が描くような美人が多いことに由来する言葉だそうです。薬情を見ると「 血行をよくして体をあたため、貧血症状を改善します。また、痛みをやわらげたり、ホルモンバランスを整える効果も期待できます」というような紹介をされています。補血・活血の作用を持ち、貧血や冷え性を改善する代表方剤のように言われますが、内容を深く見ると意外な姿が見えてきます。

本気のくまにゃんさんによる写真ACからの当帰の写真 

 まず、貧血治療の代表の印象ですが、方剤の中に鉄分は含まれません。当帰芍薬散に限らず、血虚の治療において材料となる鉄は食材から補うことが基本で、補血薬は血の生成を促す作用(例えば胃腸の機能を整えて鉄の吸収を助けるなど)を増強すると考えられます。

 貧血と言えば基本はヘモグロビンの数値を気にするのではないでしょうか。注意して欲しいのはこの血液検査の数値で貧血と指摘を受けたらもうすでに重傷の鉄不足です。鉄はフェリチンというタンパク質により体内に貯蔵されています。生理のある成年女性のフェリチンの基準値は10ng~80ng/mlと言われていますが、このフェリチンの不足による体調不良は60ng/mlから始まると言われています。鉄はヘモグロビンのみが必要としているミネラルではありません。 鉄はコラーゲン生成や脳内の伝達物質の合成にも関与するため、その不足は皮膚や骨の症状や不眠、うつ、集中力の低下など様々な不定愁訴の原因となります。酸素を組織に運搬するヘモグロビンの不足は命の存続に直結するので鉄の利用が最優先で行われますので、そのヘモグロビンが低下し始めたころはもうすでに他の組織では鉄の不足が進行した状態です。

 漢方の世界で言う、血虚はこのフェリチンの不足が始まった時点と考えられます。単に補血薬と患者に説明しても「病因で貧血と言われたことはありません」と突っぱねられるケースは多くあります。服薬の意義をきちんと伝えるため西洋医学の貧血との診断=血虚ではないことは頭に入れてそれをきちんと伝えられるように準備しておく必要があります。

 補血・活血のイメージが強い当帰芍薬散ですが、方剤学で補血・活血薬に分類していることはないと思います。私が手元に置いている本でも一冊は和解剤、もう一冊では化痰利水剤となっています。構成を見ていきましょう。

芍薬・・・18g
当帰・・・9g
川芎・・・9g
茯苓・・・12g
沢瀉・・・9g
白朮・・・12g
効能は養血疏肝・健脾理湿となっています。

 生薬の配合は大きく2つに分かれています。まず、補血調血の四物湯から芍薬・当帰・川芎の3つと、利水剤の四苓散から茯苓・沢瀉・白朮の3つです。

 四物湯は川芎・当帰・芍薬・熟地黄からなる補血薬です。ここで注目して欲しいのは4つの生薬の内、当帰芍薬散に含まれない熟地黄がどんな性質をもつのかです。熟地黄は補血の重要薬であり、四物湯の主薬です。補血力に関しては四薬中熟地黄が最も強力と言えます。その熟地黄が構成から外されているということは、当帰芍薬散の構成において補血効果はそこまで重要とされず、四苓湯が組み合わされていることから、水湿の停滞と脾の弱さがある病態を目標にしていることがうかがえます。それを踏まえると薬性が膩性(水湿の滞りを作りやすい)であり、脾胃の障害を起こしやすいという点も熟地黄が外されるのも納得がいきます。

 配合量が最も多いのは芍薬です。芍薬は補陰血も期待出来ますが、肝陰をよく補い、柔肝作用があります。柔肝は気血の流れを調整する肝の緊張をなだめる作用、自律神経系の調整と言い換えることも出来ると思います。当帰芍薬散は肝陰を消耗することによる気の流れの不調が背景にある病態を意識していると言えます。ここでは養陰作用が大きい白芍が活血の赤芍より適していると考えられます。

 次に配合量が多いものは当帰です。当帰は補血作用と活血調経に働きかけます。調経とは月経の調整、ホルモンバランスの正常化です。保険調剤で使用出来る漢方薬の中で当帰の配合量が最も多いため、生理痛、生理不順、更年期障害など月経が関わる女性のトラブルに広く用いられています。調経作用としての当帰の効果を期待するなら一般薬では圧倒的な当帰の量を配合したコタロー製薬の婦人方やイスクラ製薬の婦宝当帰膠などの選択肢もあり、当帰芍薬散を用いるより切れ味がよいかもしれません。やはり当帰が補う血は肝に入ることから、単なる陰血不足より、肝の疏泄機能の回復を目的として配合されています。

 そして、”血中の気薬”と呼ばれる川芎が、血の流れと気の流れに働きかけています。芍薬により柔肝し整えた肝をバックアップして気血の流れを改善します。

 次いで健脾利水薬の白朮・茯苓・沢瀉について。こちらは四苓散の構成生薬ですが、猪苓が抜かれています。猪苓は利水作用が強く、健脾を持ちません。ここで猪苓が抜かれているのはその強い利水効果が胎児に影響を与えるとの危惧があったからです。そう、今では冷え性や貧血への適応が強い印象ですが、当帰芍薬散は本来は妊娠中の腹痛を意識して作られた方剤です。言われれば、穏やかな活血と利水、脾胃への負担が少ない生薬での補陰血など、つわりなど胃腸の不調と併せてむくみがでる妊婦向きな処方です。

 3薬の中で、比較的強い利水をもつ沢瀉ですが、六味丸にも組み込まれる虚証にも使いやすい安全な利水薬と言われています。茯苓は温和な広範囲に応用可能な利水健脾薬で、安心(気持ちを落ち着ける)作用を持ちます。また、白朮は利水作用は弱いですが、補気健脾に優れ、加えて安胎作用を持ち流産防止に用いられます。

 全体的に当帰・川芎が温性なのに対し、配合量が多い芍薬が微寒、沢瀉が寒であることを考えると方剤全体は平性からやや温性くらいではないでしょうか。特に温める処方ではありません。また、当帰・芍薬は潤性で陰を補う働きがありますが、白朮・沢瀉・茯苓は燥性で使いすぎは乾きを助長します。滞った陰を排除し、そこに動きのいい陰を補い、結果的に乾かすまでの処方ではないと思われますが、積極的な補血効果があるほどではないように思います。

 気血津液の動きが悪いことで冷えや部分的な陰虚・血虚は改善はしますが、基本的には陰血の量の補強よりも巡りの改善への働きかけをする側面が強いと思います。根本的な陰血の虚がある病態には四物湯など熟地黄を含む補陰血をする方剤が適していますし、熱源が弱ければ真武湯や八味地黄丸など陽気を足す方剤との併用を考慮した方が良さそうです。

 当芍美人は色白で冷え性、体力が低下しほっそりした女性のことです。ここにも鍵があり、冷えや体力の低下のような虚が目立ちそうな外感ながら、色白、と言うところから肌質はキメの細かい、決して乾いた肌ではない印象です。巡りの悪さによって部分的な虚と湿の停滞をもつ(乾燥はしていない)病態が当帰芍薬散の目標とする証となります。

中医学:小建中湯

 小建中湯は構成生薬の割合を変化させるだけで適応が変化する、漢方薬の面白さを教えてくれます。

 小建中湯の主治は”脾胃虚寒による疼痛”です。脾陽の不足により中焦(腹部)に寒が生じ、胃や腹部に痛みを生じた時の処方で、体力虚弱なものや小児の腹痛によく使われます。

 小建中湯の構成生薬は以下のようになります。
膠飴・・・18g
白芍薬・・・12g
桂枝・・・6g
炙甘草・・・3g
生姜・・・9g
大棗・・・6g

 構成生薬を見ると、小建中湯は桂枝湯の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯という方剤に膠飴を加えたものです。この少しのアレンジで感冒の解肌を目的とする桂枝湯が、沈痙を目的とする小建中湯となります。

hirobirockさんによる写真ACからの写真 

 生薬の配合量は参考にする文献によって微妙に差があることはよくありますが、桂枝湯においての桂枝・芍薬・生姜・大棗は必ず等量で用いられます。その理由は桂枝湯は陰と陽、表と裏を調和することを目的とするバランスの方剤だからです。表の陰陽を補う桂枝と芍薬、裏の陰陽を補う生姜・大棗、この4つはどれが突出することなく等量で用いることで全てのバランスが整います。

 その完成された桂枝湯からあえて芍薬だけを増量したものが桂枝加芍薬湯です。桂枝加芍薬湯は構成生薬は同じといえ桂枝湯の変方というよりは、芍薬甘草湯の加法と考えた方が捉えやすくなります。芍薬甘草湯は和陰緩急といい、陰血を補うことで緊張をほぐす方剤です。この芍薬と甘草の組み合わせは「酸甘化陰」と言って薬膳では常套ですが、酸味と甘味を合わせると陰を補うことを目的とします。この陰が筋肉の痙攣(過剰な反応)をなだめるため、 足のつりといえば西洋薬より効果が高い芍薬甘草湯として知られるようになりました。 芍薬甘草湯は横紋筋(手足を動かす筋肉)だけではなく平滑筋(内臓の筋肉)の痙攣にも効果があるため、内臓の痙攣(緊張)による疝痛にも広く用いられます。足のつりのイメージが強いですが肩こり、座骨神経痛、生理痛、肩こり、胃けいれんなど応用範囲は広い薬です。

 芍薬甘草湯並び、小建中湯で一般的に用いられる芍薬は花色が白の白芍です。白芍は酸味を持ち、肝の陰血を補うことで気を緩め、気滞を改善して止痛します。肝血虚や肝陰虚に伴う肝気鬱結証の脹満痛、腹痛、生理前の胸の張り感、筋肉痙攣や疼痛に用いられます。花色が赤い赤芍は苦味を持ち、活血力に優れ、かつ止痛をしますが、白芍のように肝陰を補う作用は強くありません。小建中湯や桂枝湯、桂枝加芍薬湯などでは陰を補右目的で白芍を使うことになりますが、四逆散や桂枝茯苓丸などは患者によって赤と白を使い分けて配合することもありえます。

 桂枝に比較し芍薬を増量することで、解表薬だった桂枝湯が和裏剤の桂枝加芍薬湯となり、さらに膠飴で補脾補陽を強化したものが小建中湯です。膠飴は「健脾には必ず甘味を用いる」という治則に基づいています。軽度の体力低下(気血不足)と消化機能低下を基礎に持ち、自律神経の失調による腹痛、動悸、汗の出すぎに用いられます。冷え、疲れ、緊張などで起こる発作性の腹痛、例えば空腹時に痛む小児の臍周囲の疝痛に効果があります。強く発汗させることができない虚弱者や小児には桂枝湯の代わりに小建中湯を使用することも出来ます。

 芍薬と甘草が組み合わさって陰を補充するのに対し、桂枝もまた甘草と組み合わせて陽を補充します。桂枝の辛味と甘草の甘味は「辛甘化陽」で中焦の陽気を補い寒を追い払います。桂枝の通陽化気の効果は芍薬、膠飴で補った陰血を調和し、活発に巡らせ、さらに痰湿を吸収し除いてくれます。

 生姜・大棗は裏の衛営を調和し甘草の力を得て脾気を増強してくれます。

 小建中湯はもちろん安全性の高い方剤ですが、誰彼かまわず使えるというわけではありません。まず、小建中湯はとても穏やかな処方なので、脾胃虚寒が強ければ大建中湯を用いた方が効果が得られます。また、補陰薬は多く含まれていますが方剤は全体に温性に偏るため陰虚火旺の微熱には用いられません。また、甘味が強いので、胃満腹脹の気滞症状には適しません。

 また、小建中湯を基礎とした方剤も多く作られています。

黄耆建中湯
 小建中湯に黄耆を加えた処方です。黄耆は人参に次いで補気の代表生薬です。その効能は補気昇陽・補気固表。黄耆は肉芽形成を促進するので、胃や皮膚の潰瘍に効果があり、そのため托瘡生肌、排膿を促し、創傷や皮膚化膿症の治癒を促進します。小建中湯証に加えて気虚症状が強い病態を目標とした処方ですが、臨床的には小児を中心に脾胃の虚弱があるものを対象にしたアトピーや皮膚潰瘍疾患などに効果的です。

当帰建中
 こちらも小建中湯に当帰を加えた処方です。桂枝湯をベースにした小建中湯の陰陽を調和する構成に加えて、補血活血調経の当帰が加わります。当帰は補血薬の印象が強いですが。適度に血の量を増やしながら、流れも改善します。血虚の症候を呈する産前産後の腹痛や月経困難症に用いることが出来ます。

帰耆建中湯
 小建中湯に当帰と黄耆を加えた処方です。気を補う黄耆と血を補う当帰を加えた気血両虚への処方で、慢性化膿症あるいは潰瘍、炎症はごく軽度でうすい浸出液が見られ長期にわたって治癒傾向がないものが対象と言われています。小建中湯で体力を補い、黄耆で肉芽形成促進・排膿の作用と当帰の栄養・血行促進の作用を加えたものです。この処方は花岡清洲が刀傷を治療するために開発したとの説もあり、皮膚の再生を促す治療薬としてはかなりの実力があると感じます。

中医学:六味丸

 基本方剤の一つ六味丸です。六味丸は腎陰の不足を補う代表方剤です。6つの生薬からなり、主薬が熟地黄であることから六味地黄丸と名付けられています。この六味丸をもとに、八味丸、牛車腎気丸、知柏地黄丸、麦味地黄丸、杞菊地黄丸などさまざまな方剤が派生します。

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六味丸は瀉補のバランスに優れ適応範囲も広く扱いやすい方剤です。腎虚と言われる以下の症状に用いられます。膝腰酸軟(腰や膝がだるく、力が入らない)・目眩・耳鳴り・難聴・盗汗・遺精・微熱・のぼせ・頻尿などです。応用として、糖尿病・高血圧・慢性腎炎・小児の発育不良・痴呆症・不妊症などにも用いることができます。

構成生薬は
熟地黄・・・24g
山薬・・・12g
山茱萸・・・12g
沢瀉・・・9g
茯苓・・・9g
牡丹皮・・・9g
 補腎薬として知られていますが、三補三瀉で半数は補に残り半分は瀉に働きます。また、腎だけではなく腎・脾・肝に働く生薬が2味ずつ入っています。

 補にも瀉にも、寒も熱もバランスのとれた方剤です。添付文書の適応に「尿量減少または多尿で・・・」などという記述が入るものこの絶妙なバランスのためです。尿量が多いときは減らす、少ないときは増やすというバランスの崩れに働きかけるのはこの三補三瀉の構成のためです。

 主薬である熟地黄は微温で補血滋陰の重要薬です。補陰と言われますが、気血津のもとになる腎精を補充しますので、間接的に気血も満たします。熟地黄は胃にもたれると言われるので脾胃虚弱者には注意が必要です。

 山薬は山芋を乾燥させたものです。脾を保護するため、中国では普段の料理にもよく使われます。補気健脾薬が化湿作用を併せ持つものが多いのに対し、山薬は補気健脾に加えて養陰作用を持ちます。脾陰だけではなく肺腎まで補い、栄養不良状態を改善します。

 3つ目の補薬は山茱萸です。山茱萸は補肝腎陰の代表です。微温性で補肝陰の作用に優れますが、補腎精、さらに補腎陽も行います。肝を補う生薬らしく酸味をもち、それが収斂固澁の作用を発揮するので、遺精、遺尿、頻尿などの症状の改善に役に立ちます。

 補薬は全てやや温性、そして潤性です。熟地黄→腎、山薬→脾、山茱萸→肝を補う構造となっています。

次に瀉剤です。沢瀉は強力な利水作用を持ち、特に下焦の湿熱に多用されます。帰経は腎と膀胱で、特に腎陰虚による熱を冷まします。

 茯苓は沢瀉同様利水作用のある生薬ですが、主に脾に作用し、その薬性は温和で広範囲に使用ができます。湿の除去と同時に健脾利湿で脾の機能を高めます。平性で山薬で補った陰液を巡らせます。

 牡丹皮は寒で、清熱涼血作用に優れ、虚熱も制するため、虚証実証共に使用可能です。その帰経は血が集中する肝を中心に心と腎も含まれます。巡りが悪くなり熱化した血を清熱し、巡らせます。補単肥による巡りへの介入がないと腎で陰を補っても運搬ができず逆に負担になってしまいます。

 全体的にやや温性な3補に対し、瀉剤は茯苓以外は寒性です。補剤同様、沢瀉→腎、茯苓→脾、牡丹皮→肝へ働きかけ、ここでも補剤と瀉剤で寒熱の陰陽になっています。

 補うものを入れて、瀉すものを入れて・・・それではプラスマイナスゼロでは?と思えますが、六味丸において瀉剤を加える理由は余分なものを瀉することで新しく清いものを補給する、という考えです。

 左帰丸は補腎陰の代表方剤です。陰を補う薬でありながらその構成生薬に補陽の力が強い鹿角膠を含みます。これは決して陰を補いすぎないように陽を加えて調整しているわけではありません。これは陰陽互根(陰と陽はお互い支え合い、互いが存在しなければもう片方も存在しない)を元に、“陽中求陰(陽の中に陰を求める)”という陰のみを補うより陽も同時に補ったほうが陰がよく育つとの考えを基にして組まれた配合です。

 六味丸の補のために瀉を組み合わせるのはまさに、この陽中に陰を求める、中医学独特の考え方です。効果的に補するために、瀉を組み合わせた配合です。

 この瀉補をバランスよく組み合わせた上、腎、肝、脾の幅広い範囲をカバーするため、六味丸の適応は広く、長期の使用でも副作用が起こることはまずありません。場合により胃に湿がたまりやすい方に、熟地黄による胃もたれが出現することがあります。悪心、嘔吐、舌苔が厚いなどがあれば注意が必要です。

六味丸はそのバランスの良さから他数種類の生薬を加味(よりニッチな適応に合わせるため生薬を追加すること)したアレンジ方剤が多く存在します。

知柏地黄丸
 虚熱を清する知母と黄柏が加味されています。腎陰虚による虚熱の症状、微熱・火照り・頭痛・心煩・盗汗・咽痛などに用います。

杞菊地黄丸
 補肝陰の枸杞子と清肝明目の菊花が加味されています。目を滋養する肝陰と肝陰の大本である腎陰を補うことが出来る処方となっています。年を重ねて現れる虚による目の症状には適していますが、若年層の花粉症の痒みのような実した症状の場合は清肝明目湯なども考慮した方がいいかもしれません。菊の花は花色で効能が違うと言われていて、白い色が清肝明目、黄色は清熱解毒作用が優れているようです。杞菊地黄丸に使われている菊は当然白で、お刺身に薬味としてのっている小菊は黄色なのはこの理由です。

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麦味地黄丸
 八仙丸とも呼ばれます。肺腎陰虚を目標とした処方です。腎陰を補う六味丸に、肺陰を補う麦門冬と五味子が含まれます。肺腎陰虚による皮膚の乾燥、掻痒感などの皮膚疾患、乾いた咳に対応します。

耳鳴丸
 六味丸に加えて柴胡と磁石が加味されています。その名の通り、耳鳴りを鎮める処方です。腎陰を補う六味丸と、気の滞りを発散し、正気を上に持ち上げる柴胡と浮き上がった陽を落ち着かせ、聴力を高める磁石を加えています。肝陽の上亢や腎陰不足に適しています。血虚による耳鳴りは滋腎通耳湯も選択肢になります。