中医学:逍遙散

 日本で更年期障害の治療と言えば“加味逍遙散”。”加味”とは基の処方にアレンジを加えて適応の対象を少し変えたということです。今回は加味逍遙散の基になった逍遙散についてお話しします。

 “逍遙”とはあまり聞き慣れない言葉です。国語辞典によると”気ままにあちこちを歩き回ること。そぞろ歩き。散歩”となっています。逍遙散は更年期障害のような不定愁訴のような様々な訴えがつぎつぎと現れる状態を“症状があちこち歩き回るようにでる”という意味でつけられた、と言う説が1つ。また、肝病を治療する逍遙散が肝本来の自由でのびのびした特性を取り戻す効果があるため、と言われています。

 逍遙散の効能は疏肝解鬱・健脾補血・調経、適応症は肝気鬱結・血虚・脾虚です。構成生薬は以下のようになります。
・柴胡 6g
・白芍 9g
・当帰 9g
・白朮 9g
・茯苓 9g
・生姜 3g
・炙甘草 3g
・薄荷 2g

 ベースは四逆散の変方と言われていますが、四逆散とは大きな違いがあります。四逆散の適応は肝気鬱結・肝脾不和です。四逆散は何らかの肝の不調により肝胆の気血が鬱結することで脾胃の機能に影響を与える“木旺克土”、つまり肝が強すぎて脾を痛めている状態です。それと比較し逍遙散は“木不疏土”、肝脾両虚です。

 逍遙散の適応となる病態は肝鬱という情緒的な不安定感がありますが、それがすぐに「火」となって爆発するようなことはありません。「思うようにいかない」「言いたいことがいえない」などの精神的な不満が多く現れます。逍遙散の適応では、肝鬱とともに肝血虚がセットとして存在します。肝が蔵する血が虚することで肝の機能がうまくいかず、疏節機能が低下し気鬱となります。この肝血虚の原因は3つあると言われ、1つめは元々の体質であり、2つめは肝鬱によって肝血が消耗された結果、3つめは肝鬱が脾を克し、脾の気血を生み出す機能が低下した結果です。

 つまり逍遙散が適応となる病態は肝鬱・脾虚・血虚の3つ巴であり、それぞれがそれぞれの機能低下の原因となる“卵か鶏か”の状態です。
・肝血虚→血が肝を栄養できず疏節機能の低下→肝鬱
・肝鬱→肝鬱が横逆して脾胃を犯す→脾虚
・脾虚→清潔機能の低下→肝血虚

 構成生薬も大きく分けて3つに分かれます。肝血虚の治療と肝鬱の治療、脾虚の治療薬です。

 まず肝血虚の治療として当帰と白芍が用いられています。どちらも比較的脾に大きな負担をかけにくい生薬です。白芍の滋潤効果は柴胡の強い燥性を押さえるために柴胡剤には欠かせません。また肝鬱によって乱れがちな生理周期を整えるために当帰の調経作用が効果を発揮します。

 次に肝鬱を治療する主薬である柴胡と薄荷です。どちらも涼性で気滞による火を加熱しないようにします。どちらも多量用いると解表剤となるため量には注意が必要です。

 脾虚の治療には白朮・茯苓・生姜が用いられます。白朮で健脾燥湿、茯苓で健脾安神、生姜で胃を温め水を散らします。甘草もまた脾気の増量を手助けします。

 以上のことから逍遙散の適合する症状はこのようになります。
・胸部の痛み、または張り
・精神的に元気がない、落ち込みやすい
・食欲不振
・生理不順
加えて以下の症状もよく見られます。
・乳房の張り
・頭痛
・眩暈
・口やのどの乾燥
・便秘

 よく保険調剤で使用される加味逍遙散はこの逍遙散に牡丹皮と山梔子を加えています。牡丹皮は涼血活血に働き、山梔子は清熱効果を持ちます。そのため更年期障害のようなほてりなど熱を持った症状に応用されます。

 他にも血虚が顕著な逍遙散に地黄を加え、黒逍遙散とすることがあります。熱証なら清熱作用の生地黄、寒証なら熟地黄を用います。ただ、脾の力が弱く、食欲が低下している場合は熟地黄は負担が大きくなるので避けます。

中医学:小青竜湯

 風邪の処方としても有名ですが、アレルギー鼻炎、気管支喘息など幅広く用いられる小青竜湯です。

 一般的に小青竜湯はとめどない鼻水やくしゃみに悩まされる鼻炎、水っぽい痰を伴った咳やゼイゼイと喘鳴が伴う咳がでる気管支喘息などに用いられます。使用の目標は単純には、発熱、悪寒などの表証に加え、鼻水(さらさらとした)、痰の絡む咳です。

 小青竜湯は太陽病の中で本来水の停滞がある病態を意識した処方です。心下に水がたまり、食後時間が経過してもぽちゃぽちゃと胃部から音がする証です。この胃内の水が胃気の正常な下降を妨げ、胃気が上逆して嘔気を生じます。水邪が肺を侵すと、肺の宣発粛降という生理作用が失調し、咳嗽が生じます。水飲が停滞し、上焦に水が昇らず口渇を生じることがありますが、それほど水は飲みたがりません。

構成生薬は8味。
・麻黄 3.0g
・桂枝 3.0g
・甘草 3.0g
・芍薬 3.0g
・五味子 3.0g
・細辛 3.0g
・乾姜 3.0g
・半夏 6.0g

 小青竜湯は麻黄湯から杏仁を抜き、乾姜・細辛・五味子・白芍薬・半夏を加えた方剤です。

 大青竜湯とともに、小青竜湯は表裏双解の処方です。麻黄湯をベースに解表を行い、大青竜湯は石膏で裏熱を、小青竜湯は乾姜・五味子・細辛・半夏は裏の寒飲を除去します。熱をとるか、水をとるかの違いです。

 過剰な水の停滞が目立ちますが、麻黄・細辛の組み合わせは麻黄附子細辛湯のような寒が強い陰性症状を思わせます。麻黄附子細辛湯は小陰証の処方ですが、太陽病と小陰病は表裏の関係があるためこのような表裏両感証は臨床的にはよく起こりえます。小陰病は裏の虚寒証なので無熱で悪寒、四逆(手足)が完全に冷え切っている状態です。頭痛、咳、鼻水、発熱があり加えて悪寒が強く四肢の冷え、脈が浮ではなく沈であれば麻黄附子細辛湯の適応です。また、乾いた咳や粘脹な痰をだす者は肺熱証であり、水を動かし、温める小青竜湯は禁忌です。

 小青竜湯を服用後口渇を覚えて水を飲みたがるようであれば寒飲、心下の水気が除かれて胃の陽気が回復し、水分代謝が回復した証拠です。少量飲むのは構いませんが、本来水湿をため込みやすいため飲み過ぎないようにする必要があります。

中医学:大青竜湯

 麻黄湯の変方です。日本ではあまりなじみがありませんが「雨を呼び寄せるように、大いに発汗させる力を持っている」方剤です。太陽病証中で最も実証に対応します。

 大青竜湯の構成生薬は
・麻黄 6.0g
・桂枝 3.0g
・石膏 10.0g
・杏仁 5.0g
・甘草 2.0g
・生姜 3.0g
・大棗 3.0g

 麻黄湯、麻杏甘石湯と桂枝去芍薬湯の骨格が見つかるでしょうか。この麻黄6.0gは全ての方剤中でもかなり多く、加えて桂枝と石膏の力でかなり強力な発汗剤となります。本来は他の発汗剤を用いても発汗しなかった病態に用います。発汗しないため寒邪を取り払えず、衛陽が鬱滞して熱となり煩燥状態が目標です。

 本証は内外とも邪実で外寒内熱となっています。外邪のみであれば麻黄湯で十分ですが、それでは内の清熱作用がないため石膏を加えています。口渇多飲があれば陽明経証白虎湯証ですが、大青竜湯証はあくまで脈浮緊・発熱悪寒・身体痛に加えて内熱の煩燥が見られるはずです。大青竜湯は体力があり病邪との邪正闘争する正気が十分ある対象以外は用いることが出来ず、脈が弱い太陽中風証などに用いると正気の消耗が起こり厥逆(手足の強い冷え)や津液不足が起こり、ひどいと筋肉が滋養できず痙攣が起きます。体力があるものでも服用で汗がでたら直ちに中止するとの但し書きがあります。

 桂枝湯の観点から見ると、構成生薬の芍薬が抜かれ、桂枝去芍薬湯として組み込まれています。桂枝去芍薬湯では邪が胸部に内陷して胸中の陽気を損傷する胸満症状に対し、邪気を持ち上げる効果を期待し、 芍薬を抜いています。芍薬の陰性で凝集性・収斂性が方意と反対に働くからです。 つまり外邪の勢いが強く、内の陰の消耗よりも外向きの力を優先した方剤です。 脾胃を温める生姜・大棗が組み込まれているのはそれだけ吸収を早めて効果発発現を大きくしたいためです。

 麻黄湯と大青竜湯の鑑別はどちらも無汗・脈浮緊・身体痛があるものの、渇や煩燥があれば大青竜湯、なければ麻黄湯となります。
 小青竜湯は水飲が主で、胃内停水、脈微浮で力があります。
 また、煩燥と渇、心下痞鞕あって汗多い場合は白虎加人参湯を用います。

中医学:葛根湯

 日本で一番有名な漢方薬です。

 出典は傷寒論、太陽病表実証の処方です。首から背中にかけての項背がこる病態で実証なら葛根湯、虚証なら桂枝加葛根湯となります。この2方剤は葛根が主薬になることは同じですが、葛根湯には麻黄が加わり、より実証よりとなっています。

太陽病中風証 桂枝湯 桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草
        ↑↓
       桂枝加葛根湯 桂枝湯に加えて葛根
        ↑↓    (葛根湯証のようで自汗や脈緩なとき)
太陽病表実証 葛根湯 桂枝湯に加えて葛根と麻黄

 葛根湯の使用目標は悪寒・発熱・無汗・頭痛・項部硬直です。

 葛根湯は風邪の初期症状への治療として有名ですが、肩こりにも応用されます。風邪薬の葛根湯がなぜ肩こりに?新人薬剤師としてはなんとなくやりすごしてしまいますが、ここが葛根湯の妙技です。ちなみにこの肩こりは後頭部より項部、肩甲骨部、さらに腰辺りのこわばりです。「借金で首が回らない」というような肩こりは葛根湯の適応よりむしろ柴胡剤を使います。この背部のこわばりは外邪が体内に入り込み、それを衛気が体表に集まることによって起きます。衛気は外邪との闘争で気、熱、津液が表層に集まりますがそれが裏に循環出来ず、体節痛、凝り感、腫脹感が現れます。

 葛根は表層にたまった気を効率よく発散させ邪を払う解表退熱の効果を持ちます。軽度の発汗作用で鬱熱を発散させ、生津により筋を緩めるため、筋肉のこわばりに効果的です。

 葛根湯に組み込まれた桂枝湯は陰陽のバランスを整え正気の流れを作ります。桂枝が腎からの陽気を表層に引き上げ、芍薬で表層から内向きへの流れを作り深部から表層への流れを作ります。また生姜も脾気を補充して外向きへの巡りを助け、甘草と大棗も正気の補充を補強します。これに麻黄もまた脾によって増幅された正気を表層に導き、さらにその正気を肺の領域である体表に広げます。これらの配合から葛根湯の位置づけはこのようになります。
表位における病象に対して、正気を誘導する
正気の誘導を手段として、津液や血を表位に運ぶ
表位に停留する津液や血を裏に回収する

 これらから感冒の初期に用いられるイメージですが、感冒に限らず表層に鬱滞した外邪を体内の正気を導き出すことで追い払う方剤です。そのため、皮膚疾患、関節炎、鼻炎、喘息、気管支炎など様々な適応が考えられます。また、全体に温性に偏る方剤ではありますが、涼性の芍薬とやや涼性の葛根が加わるので麻黄湯に比べ温めすぎず応用範囲が広くなります。「葛根湯医」というなんでも葛根湯を処方する藪医者の話がありますが、あながちでたらめでもなくこのように葛根湯は幅広い適応を物処方です。加えて、寒熱に大きく偏らず、正気の流れを整える効果がある葛根湯は誤治を起こしにくいところも使いやすく、広く知られるようになりました。

中医学:太陽病

  2~3世紀に張仲景がまとめた「傷寒雑病論」ではこの太陽病を中心に傷寒(伝染病)を初めとして様々な病気に進行する過程とその治療法がまとめられています。まず初段階、外邪が体表に侵入した状態を太陽病と言います。太陽病では体表に入り込んだ邪気は適切な治療により速やかに追い払うことが必要とされます。しかし、正気が勝って追い払うことができなければ徐々に内部に入り込み、さらに重篤な症状を引き起こします。そのため、傷寒論ではこの初段階である太陽病を特に項目をさき丁寧にまとめて書かれています。

 太陽病とは、風寒の邪が足太陽膀胱経に侵入した段階です。足太陽膀胱系は頭部に起こり、頂部から背部を下って腰に至り、膀胱に属します。風寒の邪が人体を侵入するとき、まず体表部で邪気と衛気(太陽の気・膀胱に下支えされる)との衝突として表面に現れます。厳密には太陽病は邪正闘争が太陽系の経脈上で行われる太陽経病と、病気の舞台が太陽系の腑である膀胱に移った太陽腑病に分けることができます。一般的には太陽病と言えば風寒の邪によっておきり外感病の初期症状としての太陽系病のことを指します。

 太陽病の特徴は「浮脈・頭項強痛・悪寒」の3つです。

 浮脈とは脈をとったときに皮下の浅いところに触れる脈です。これは邪正闘争の舞台もまた浅いところ・体表であることを表しています。
 頭項強痛は頭が痛み、こわばりっているということです。足太陽膀胱経は頭頂から背部を通り、腰へと繋がりますが外邪の侵入により経を流れる気血が阻害され、この後頭部から背にそって痛みが発生します。
 悪寒は表証には必ず現れる症状です。太陽経は皮膚を温めて衛気を走らせる役割を持ちますが、外邪が侵入することで十分に肌表を温めることができず悪寒が生じます。

 この浮脈・頭頂強痛・悪寒の3つがそろえば太陽病との診断となります。

 太陽病はその重篤度により太陽中風・太陽傷寒に分けられます。

 太陽中風は太陽病の代表的な症状である浮脈・頭頂強痛・悪寒に加えて、発熱・発汗・悪風・脈が緩などの症候を呈します。一般には風邪を感受して発生したもので、中風、と言っても脳卒中などの中風とは全くの別物です。中風証の最も特徴的な症候は“汗”です。外邪の侵入により衛気が傷つけられ、衛気と強調して体表を守る営陰が損傷します。営陰は汗腺の働きをコントロールするため、この営陰が傷つくことで発汗します。このときの汗は制御する営陰の消耗のためだらだらという激しい発汗と言うよりじんわりです。この汗のため風に当たることを嫌う「悪風」という症状が追加されます。また、中風証の脈は太陽病の特徴の浮と中風の特徴の緩を合わせた浮緩となります。緩脈とは脈の緊張が弱く、正気が乏しい元気のない体質を表します。中風証は正気が本来虚した状態の方が外邪を感受した虚実夾雑の症候です。

 次に太陽傷寒病です。傷寒病は太陽病の特徴である3つに加え、体の痛み・嘔逆・脈緊などの症状が現れます。中風証が風邪によるのに対し、傷寒病は寒邪によります。中風証との明確な違いは寒邪による血・津液の凝集のため汗が決して出ません。寒邪により衛気が押し込められているため皮膚を温めることが出来ず強い悪寒を感じます。押し込められた衛気は逃げ場がないため鬱熱となり、傷寒病では強い発熱が起こります。そして体痛は寒邪により気血の流れを凝集されることにより起こります。筋肉痛や関節痛など全身の痛みとなります。嘔逆は体表の衛気が阻害されることではによる宣発粛降も滞り、肺気が上逆して咳となったり、陽明胃経に入り吐き気となったりすることです。嘔逆=吐き気ではなく、気の逆行という点で咳も含まれます。脈は中風証とは対照的に寒邪による緊張収縮で浮緊となります。

 太陽病には中風証、傷寒病に加えて温病という類証があります。風邪は中風に、寒邪が傷寒になるのに対し、温病は熱邪が人体に侵入したものです。熱邪による病証のため悪寒がほとんどなく、初期から発熱が顕著で口渇を生じます。表証であるため浮脈、加えて熱証の数脈も合わさり浮数脈となります。温病の注意が必要な点は中風証と傷寒病との誤診です。中風証と傷寒病は辛温解表薬を用い体内を温めて発汗し病邪を撃退することに対し、温病は熱証のため辛涼解表薬で熱を冷まします。ここを間違えて辛温解表薬を用いてしまうと温熱がさらに増強して高熱と手足の灼熱感を伴う風温と化してしまいます。風温の治療には辛涼解表薬に加えて熱によって消耗した津液を補充する甘寒滋陰の方剤を用います。

 一般的な各病証を治療する代表方剤はこのようになります。
中風証→桂枝湯
傷寒病→麻黄湯
温病→銀翹散

 太陽病、とは基本的には風邪の初期症状です。日本で風邪と言えば用いられる葛根湯の位置づけはどうでしょうか。葛根湯は桂枝湯をベースとして麻黄・葛根を加えた方剤で、基本は辛温解表薬に分類されます。今日の日本では風邪の初期→葛根湯と考える人も多いかと思いますが、温病には使えないはずの辛温解表薬をこう安易に使って良いものでしょうか。葛根湯に含まれる麻黄は温める効果が強い風寒の邪に対する生薬ですが、実は葛根自体は実は寒涼性であり、麻黄湯と比較すると熱に偏った方剤ではありませんので安全性は実はかなり高いのです。さらに含まれる桂枝湯が正気のバランスを整えてくれるため、「葛根湯医」のような何でも葛根湯で治す医者、という話もあながち全くありえない話でもないのです。