心病の病気

 心は五行で「火」に属し、「温熱・向上・昇騰」の性質を持ちます。心は天体に置き換えると地上を暖める太陽です。地球に光や熱を降り注ぎ生命活動のエネルギーの供給を行います。同様に生体においても体を温め、気血の動きのためのエネルギーを供給し、さらに精神活動に深く関わります。心病の病気には陽の不調と陰の不調の2種;心陽心気の失調と心陰心血の失調です。

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心陽、心気の失調
 心陽心気は血脈の温煦作用、血液の循環を推動しており、さらに精神・意識・思惟活動をコントロールします。この心陽心気の失調には虚である心の陽気偏衰と実である陽気偏盛があります。

心陽衰弱
 心の陽気の偏衰は心陽衰弱として現れます。心の陽気が虚弱、もしくは不全となる病態で心陽の温煦作用が衰えるため、虚寒現象が現れます。虚寒とは寒邪に侵された実寒と違い、暖める作用の衰えにより相対的に寒が目立った状態のことです。心陽衰弱には心気虚と心陽虚に分けることができます。
 心陽衰弱の成因としては以下のものが考えられます。
・久病による損傷
・体質的な素因
・老齢による臓器衰弱
・強い邪気による心陽の暴脱

 心陽が衰弱すると心神不足となり、精神・意識・思惟活動が減退します。全体的に抑制的で、精神疲労、精神不振、反応低下、傾眠、呼吸微弱、懶言(話すのを面倒くさがる)などの症状が現れます。
 また、心血の推動が悪くなるため、血行が緩慢・凝滞したりします。そのため寒の症状や、悪化すると心脈を阻滞させることもあります。症状として、心悸・怔忡・前胸部の刺痛・寒がり・四肢の冷え・チアノーゼなどが現れます。
 心陽の衰弱がさらに進行すると、心陽が突然暴脱して顔面蒼白、四肢厥冷、多汗、脈微欲絶(途切れそうな細く柔らかい脈)などが現れます。
 心気虚衰とは、心の生理機能が低下、または衰弱した状態です。心の鼓動が減退すると、脈拍が弱くなったり、血脈が血で充足しなくなります。また、心気衰弱が肺に影響すると衛陽不固となり腠理が緩み自汗が現れることがあります。症状としては心悸・息切れ・精神疲労・倦怠・自汗・顔色蒼白・舌質淡 (赤みが薄くやせている)・脈細弱無力(糸のように細い脈)もしくは結代 (緩慢で時折とぎれる)となります。
 治療方剤の例として、心陽虚には拯陽理労湯、心気虚には炙甘草湯などが用いられます。

心火亢進
 心火亢進は心陽が炎上したものです。心火亢進は実火もしくは虚火と分けることができます。実火は火邪によって熱性が進行し、虚火は心陰の不足によりクールダウンができない状態です。
 実火は邪熱の侵入、痰火の鬱熱、五志化火が成因となり、虚火では陰血の損傷による心陽の相対的な亢進が成因です。
 成因は違えど実火と虚火による病態は似通ったところが多く、また実火によって陰血が消耗し、陰虚火旺という虚火証に移行することもあります。また虚火が体内で長期にわたって内在することで痰が発生し、邪熱を感受し、実熱が強くなることがあります。
 心火亢進が心神に影響すると興奮状態になり、心悸・心煩・不眠・多夢・体をもだえ動かす・言動に異常が身割れるなどの症状が現れます。重篤になると意識不明になることもあります。
 心火亢進のために血熱になると、血流が早くなり、心悸・脈数(早い)、舌質紅絳(鮮やかな赤)で芒刺舌(舌先にトゲ状の隆起)が生じます。また、血熱妄行により出血が起こりやすくなります。
 治療には導赤散(淡竹葉・木通・生地黄・甘草)や瀉心導赤湯(木通・生地黄・黄連・甘草・灯芯草)などが用いられます。赤は心を指しますので、どちらも心の治療を主軸にしています。

心陰、心血の失調
 心陰、心血の失調は、主として心陰虚損・心血不足・心血瘀滞などの病理状態として現れます。

心陰虚損
 成因は過度の心労、情志内傷、心肝火旺により心陰が消耗することです。
 心陰が消耗することで相対的に陽が亢進します。心陽を制御できなくなると浮陽状態となり、興奮状態が現れます。症状としては神志不安定・虚煩・不眠・心悸などが現れます。また、陰虚のため営陰が内守できないと、内熱の外泄するためさらに津液が流れ盗汗となります。
 心の陰虚火旺を原因とする病態には黄連阿膠湯が用いられます。補陰と清熱をかねており、興奮気味の精神状態に効果があります。

心血不足
 失血過多、脾虚による血の生成不足、情志内傷・心労過度による心血の損傷などが原因となります。心血の不足により脈は空になり細弱となります。
 心血不足は心神が滋養出来ず、精神意識が衰弱し、意識が散漫となったり精神恍惚となったりします。不眠・多夢などの症状が出ることもあります。また二次的に心血不足により心気の滋養まで手が回らなくなり、心気虚症状も現れることがあります。
 治療には補血効果を持ちながら清熱作用もある酸棗仁湯が用いられます。

心血瘀滞
 陽気不足による血液凝滞や、淡濁による血脈瘀滞、疲れ、寒邪、情志刺激などでおこります。これは心血の流れが悪くなることで心脈が詰まる病変です。悪血が心脈を詰まらせると息苦しさや前胸部痛となります。
 心血瘀滞となり気血の流れが悪くなると、心悸・征忡(発作性の程度の重い心悸)・前胸部の激痛が起こります。心陽暴脱となって汗が止まらず、四肢の冷えや伏脈(骨に当たるほど力を入れないととれないほど沈んだ脈)が現れます。
 治療には活血薬として広く持ちいられる 冠心II号方など。冠心II号方は一生薬で四物湯の効果を持つと言われる丹参に加え、血瘀とともに現れがちの気滞症状への配慮もされバランスのよい方剤です。

中医学:六淫・火邪

 いよいよ最後、熱の邪気、火邪です。単純に熱い邪気というと暑邪との違いは?と思うかもしれません。火邪は六淫の中で他と少し格の違う存在です。

 火邪についてお話しする前に、「病」という漢字に注目してみましょう。「病」はやまいだれに丙(ひのえ)が入っています。火の象徴である丙が上からも下からも押さえられています。この火の熱が塞がれて外に発散できない状態を古来の中国では病と捉えていました。実はこの状態がまさに火が毒邪となった火邪の状態です。

 火邪は陽が極まった時に生じます。「火邪」と聞くとこれまで出てきた熱の病証や暑邪との違いは?と思った方も多いのではないでしょうか。もちろん火邪と暑邪ははっきりと異なるものです。これまでご紹介してきた六淫が原因となって熱を生じるものは風熱、暑熱、湿熱、燥熱などがあります。熱を作るこれらは季節性が強く、基本的には外から感受する外淫によるものです。一方に火は内生のものが多く、心火、胆火、肝火などがあります。そして、先に挙げた外淫の風・暑・湿・燥そして寒までも体内に鬱していると火に転化することがあります。この点が火邪が他の邪気と別格と言った点です。この外邪が火邪へと変化したものを「五気化火」と言われます。また、季節性の強い外淫だけではなく喜・怒・思・悲・恐などの情志もまた過剰になると火に転じることがあります。この情志による火邪は「五志化火」と称されます。ただ、火と熱は基本的にはよく似た性質と発病の特徴を持ちますので、治法などは大きな区別なく論じられることが多くあります。

 火熱の性質と発病の特徴

火熱は陽邪、その性は炎上
 火熱は陽邪であり、よく動き上に向かうため、「炎上」の性質があると言われています。そのため頭部に症状が出やすく、高熱、煩渇、面紅、目赤、発汗などが現れます。
 また、火の炎上は神明をかき乱すといわれ、心煩、不眠、狂躁、妄動、神昏、譫語などの精神症状も現れやすくなります。

気と津液を損傷しやすい
 陽邪である火邪は人体の津液を消耗します。そのため唇や喉の乾燥感、口渇喜飲、尿赤短少、大便秘結などの津液損傷の症状が出ます。また、気を消耗すると倦怠感、懶言、精神疲労、脱力感などの気虚症状をきたします。

生風、動血しやすい
 火邪は内生の熱のため肝陰を消耗し、筋脈が濡養できなくなると肝風が生じます。肝風は「熱極生風」といわれます。ちょうど熱によって上昇気流ができて竜巻などが起きるようなイメージでしょうか。この肝風が起きると、筋肉が興奮状態になるため四肢の痙攣、頸頂部の強直、角弓反脹などが症状として表れます。(角弓反脹とは体が痙攣で反り返った状態。熱生痙攣や感染による痙攣などで起きることがあります)
 また、火邪が脈絡を損傷すると血熱、といわれ出血症状が現れることがあります。吐血、咳血、衄血(歯茎や舌、鼻などの外因性ではない出血)、血尿、血便、皮膚出血、あるいは斑疹(感染が原因による皮膚紅斑)および、月経過多や崩漏などが現れます。気虚出血と異なり、火熱による出血は血の色が濃く、勢いがあるのが特徴です。

瘡瘍の形成
 火邪が深く血分に入り込み、一定の箇所にとどまると血肉を腐食する瘡瘍が起こります。瘡瘍は皮膚にできる湿疹ですが、その中でも特に癰腫と呼ばれる急性化膿性疾患が火邪によって起きます。癰腫は赤く腫れ上がり、熱と痛みを伴います。

火邪による病証

 火熱が強くなると出血を起こす、肝風を引き起こします。出血症状は血分に入り込んだ熱を冷ますため、清熱涼血薬を用います。高熱・煩燥・顔面紅潮・目の充血などが強いときは神経の興奮を抑える清熱瀉火薬が用いられます。譫語や四肢の痙攣などの肝風を押さえるためには風を収める熄風薬に加え、熱の度合いで滋陰清熱などの薬を加えます。

 火毒はうっ滞した火邪の熱が血肉を腐食することです。瘡瘍の形成がこれにあたります。基本は清熱解毒薬を用い熱と、それに伴う湿を排除します。痒みなど風の症状が強ければ疏風薬も併用します。

代謝熱のうっ滞と水毒についてしっかり書かれた本です。参考になります。

中医学:六淫・寒邪

次に紹介する邪気は“寒邪”です。もちろん、気温が低くなる冬季に猛威をふるう邪気です。しかし、他の季節であっても雨に濡れたり、汗をかいたり、現代病としてはクーラーの影響や冷飲食によっても寒邪を受けることがあります。

寒邪を感受すると外寒病証を患ことが多いです、いわゆる風邪です。しかし、この寒邪を散らすことができない場合、徐々に体の内側に入りこみ陽気を傷つけ、内感病証になることもあります。

寒邪の性質と発病の特徴です。

寒は陰邪、陽気を損傷しやすい。
寒邪は風邪と異なり、陰邪です。陽邪である風邪がさまざま形や場所を変えて症状が現れる様子と異なり、陰邪である寒邪は一度罹患したらその場所にじっと留まります。また、寒邪を受けると陽気を損傷しやすく、温煦作用と気化作用が失調すると寒邪を追い出すことができなくなります。また、寒邪が鬱滞すると悪寒や悪風が現れます。
一般に寒邪は外感病証、いわゆる風邪が多いですが、臓腑を直に襲撃することもあります。冷たいものの食べ過ぎで起きる脾胃への直中は誰しも経験があるのではないでしょうか。こいったケースはたとえば脘腹冷痛、嘔吐、腹瀉が起きます。心や腎が寒邪に襲われると陽気を損なうため心腎陽衰、温運無力となり、四肢の冷えや下痢などの症状が現れます。

寒の凝滞性
感覚的にもわかりやすいと思いますが、寒はものをぎゅっと縮こませる性質があります。寒いと体が硬くなる、その感覚のままですね。
具体的には寒邪は気血、津液の流れを凝集し、滞らせて、そのスムーズな流れを失調させます。中医学では「通せざれば痛む」といわれ、滞りがあれば痛みが生じます。お風呂に入ると楽になる痛みは寒邪による凝集性で、気血の流れが阻害された結果といえます。生理痛など、温めれば治る痛みのケースはそのため温経湯などの温め作用が強く、血の凝集をなくすような方剤が使われます。

寒の吸引性
凝集作用に似ていますが、寒は気血を封じ込める作用があります。例えば寒邪を感受すると腠理が収縮して、無汗となります。寒邪が血脈に留まると、気血が凝滞し、頭部や体の痛みとなります。これが葛根湯などによって効果が出る気血の凝集による筋脈の痛みです。

中医学:六淫・風邪

六淫は本来私たちの体に正気を与えるはずの自然の正気が、なんらかの理由で邪気に変化し、病気の原因となるものです。

今回は風について。

風は軽やかで、上にのぼる性質があります。自然界の正気である風もそうですし、それが邪気となった風邪も同じです。

年間通して風が吹くように、正気の風も風邪も一年を通して私たちの体に影響を与えています(ただし、一番影響力が強いのは春です)。そしてその軽やかさから、特に他の邪気と組んで人体に影響を与えます。風邪は主に皮毛から人体に侵入し、体のバリアシステムをダウンさせて、病気を発症させます。

風邪の性質と発病の特徴を見ていきましょう。

  1. 風は陽邪、その性は開泄、上部を侵しやすい
    風は陽邪、つまりよく動く邪気です。一つの箇所にとどまらず、次々と場所を変えて症状を現します。また、特に上焦に影響を与えやすく、頭痛、鼻づまり、咽喉の痛みや痒みなどを起こします。また、体の表面の固摂力を低下させ、皮膚腠理が開くため、汗として津液、熱として気が体外へ流出しやすくなります。
  2. 風はよくめぐり、しばしば変ず
    皮膚病疾患に多いように思います。風邪による病態はよく部位を変え、さらに時間によって出たり現れたりします。さらに蕁麻疹に代表されるような急に現れ、すぐに消えるような変化が早いものも風邪の特徴です。
  3. 風は百病の長
    風邪は六淫の中でもっとも他の邪気と組み合わさって状態を悪くすることが多いです。例えば、寒・湿・燥・熱などと合併し、風寒・風湿・風燥・風熱などです。このため風邪は多くの病の先導者、という意味で百病の長と言われます。
  4. 風は動きやすい
    風は動きやすい、という特徴から風邪に侵された病態は肢体に異常運動や硬直が見られます。例えば、四肢の痙攣・顔面まひなどです。強風でカタカタと何かものが鳴るようなイメージでしょうか。熱性痙攣やリウマチなども風邪の症状と考えられています。

この4つが風邪の性質です。

中医学:六淫

中医学では病気の原因となる病因を、環境由来の”外感”と臓腑の失調から起きる”内傷”の2種類があると考えます。今回はこの環境由来の病因である外感についてお話しします。

病因を特定することはとても大切です。なぜなら、それは治療の精度を上げるために必要なのです。例をあげると、外感の代表に“風邪”、一般的に言うかぜがあります。風邪と一言にいっても中医学ではその原因を細分化します。例えば、外からの寒気が体に入った”外感風寒”と熱が入った”外感風熱”です。例えば麻黄湯は外感風寒の治療の代表的な治療薬です、そのため寒邪を追い払うため方剤全体は暖める構成となっています。暖める方剤である麻黄湯を熱を持つ外感風熱の病態に使うと、もちろん効果的な治療とはなりません。

中医学では患者の体質を細かく把握し、ピンポイントに症状にあった方剤を処方することが大切です。まさに針で糸を通すような気持ちです。

私たちの体は健康であっても病んでいても自然の気の影響を受けて、時にそこからエネルギーをもらっています。この自然の気を気候の変動を合わせ 風・寒・暑・湿・燥・火と分け、それらを総称して ”六気”と呼びます。この六気は自然な状態では万物を育むものですが、異常が起きたときには逆に私たちの体に影響を及ぼす外邪となります。この外邪となった六気のことを”六淫”と言います。

六気の異常とは、本来よりある気が過剰である、もしくは不足である、さらに時季外れに起きる、ということです。例えば異例の猛暑だとか、長すぎる梅雨時期、季節外れの台風などです。本来自然の正気を与えてくれるはずの六気が異常な気となり私たちの体調に外を及ぼす六淫(六邪)となります。この発病の原因となる六淫は、外感病の主な発因となるので”外感六淫”ということもあります。

六淫の発病には、一般的に以下の特徴があります。

  1. 六淫による病気の多くは、季節、時間、場所、環境などの要因で発症率が大きく影響を受けます。例えば春は風がよく吹くので風病が多く、梅雨時は湿が高いので湿病が多く、また夏は暑いため熱病が多く、秋は乾燥するので燥病が多くなります。同じように、湿の多い日本では湿病が多く、乾燥した中国の内地では燥病が多くなります。
  2. 次に、六淫は必ずしも単独で行動するわけではなく、相性のいい特定の邪気と組んで同時に生体を襲うことがあります。さきほど風邪の例であげた、風寒や風熱がその代表です。風寒は風邪と寒邪の両方の特徴を、また風熱は風邪と熱邪の両方の特徴を兼ね備えています。他に、湿邪と熱邪も夏の湿気が多く暑い季節、日本のような気候では同時に人体に害を与えやすい邪気です。
  3. また、六淫は外邪ですので、基本皮毛や口鼻からの侵入となります。臓器の失調により体調を崩すことももちろんあり、これらも一見六淫から与えられる症状とよく似ていることがあります。しかし、臓器の失調によるものはあくまで体の中から作り出した”内生五邪”と呼ばれる臓腑の病であり、六淫とは本質的に違うものです。

次回から、六淫の一つ一つを細かく見ていきます。

中医学:生命と死

今回は中医学における生命と死について。
 
言うまでもなく人は生まれて死にます。そのプロセスについて中医学はどのうように考えているでしょうか。
 
人は生まれて、そして死んでいきます。まず小さな弱々しい命として産まれた私達は徐々に命のみなぎり、成長を経てピークに達し、その後徐々に衰えていきます。

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“腎の役割”でお話ししたように、腎は先祖代々受け継いだ生命力を格納しています。
 
腎精は全ての生命力の根本です。全ての陰と陽の根源が濃縮されています。腎精は全ての生命活動の上源です。

この腎精は2つの要素から出来ています。まず1つ目は父親から受け継いだ生命力、母親から受け継いだ生命力を融合して授かる「先天の精」です。親から受け継いだ命の遺産です。
 

2つ目は飲食物のエネルギーから抽出して得られる「後天の精」です。先天の精が親から受け継ぐ遺産であれば、後天の精は自分自身で得ることができた収入みたいなものです。腎精はこの先天の精後天の精の2つが融合してできています。

この腎精の盛衰に関して、中医学のバイブルである「黄帝内軽」にとても有名な記述があります。これは健康相談を受ける時とてもさんこうになるのでここでお話しておきますね。

 

人の盛衰は女性なら7年、男性なら8年のインターバルで変化する、ということです。
 

まず女性の一生のプロセスを見てみましょう。女性の体は7年毎に節目を迎えます。

  •  7歳:葉が生え変わる、髪の毛が伸び始める
  • 14歳:初潮を迎える
  • 21歳:親知らずが生える、生命の充実期を迎える
  • 28歳:筋肉や骨が発達する、髪も豊かに生える、生命の最盛期を迎える
  • 35歳:顔から、いきいきとした輝きが消えていく、髪が抜け始める
  • 42歳:顔の輝きがなくなる、髪が薄くなる
  • 49歳:閉経する、体が衰える

 

今の時代の女性は昔に比べて栄養豊富なので、見た目が若い方はいつまでも若いですが…現代でも女性であればこの7の倍数の年齢で何らかの体調の変化を感じることは多いようです。特に35歳から妊娠出産率が下がること、42歳を過ぎるとほぼ妊娠は難しくなること、49前後で 閉経などと言った点は現代の生殖医療の分野での統計と大きく違いはないのではないでしょうか。

 

次に男性の体の変化について。男性の体の変化は女性より長い8年が目安となります。たった一年ですが、なんかズルイ…と感じます。

  •  8歳:髪の毛が伸び始める、葉が生え変わる
  • 16歳:射精できるようになる
  • 24歳;親知らずが生える、生命の充実期を迎える
  • 32歳:筋肉や骨が発達する、生命の最盛期を迎える
  • 40歳:髪が抜け始める、歯に艶がなくなる
  • 48歳:顔の輝きがなくなる、髪が白くなる
  • 56歳:キビキビと動けなくなる、体が目に見えて衰える
  • 64歳:髪も歯も抜け落ちる

 

こちらもさほど現代人と大きな変わりはないのではないでしょうか。

 

治療をする側としては、この年齢による体質の変化に注意を払うことはとても大切です。例えば、節目の年になる一年以上前から体質的な弱点を補強しておくと次のタームはトラブルなく乗り越えることができると言われています。例えば更年期の前。40代後半からしっかり補血をしておくと、肝気の乱れが起きにくくなり、おだやかに過ごせるようになるようです。

 

私たちは一定の期間子供を授かる能力をもちます。この生殖能力をもつことを中医学では「天癸(てんき)が生まれる」と言います。この天癸は腎精から生まれます。その人の腎精の強さによって多少前後しますが、この天癸が生まれている期間というのは女性では14歳から49歳まで、男性では16歳から56歳です。また天癸の生まれている期間であっても生殖能力の強さは個人差があります。これも腎精の強さの違いです。

 

生殖能力の強さは言い換えれば若さでもあります。若さを保つためには腎精が重要です。先ほど腎精は2種類のものからできるとお話ししました。「先天の精」と「後天の精」です。先天の精は補充することができませんので、なるべく無駄に消耗しないことは大切です。そのためにも、胃腸を整えてできるだけ後天の精からの補充を多くすることも大きな対策になります。

 

では、中医学でいう「死」とはどういうことでしょうか。

 

中医学では私たちの命は「精」が束ねられたもの。この束ねられた精がなんらかのきっかけでバラバラにほつれたときが「死」となります。

 

また、陰陽学説でお話ししましたが陰と陽はお互いがなければ機能しない存在です。その陰陽のどちらかが消え失せる、もしくは分かれたときが「死」であると考えます。

 

死の直前の正気が抜けた状態を「亡陽」といいます。陽気が陰から離解した状態です。

 

人の一生は「生(生まれる)→長(成長する)→壮(盛りを迎える)→老(老いる)→已(死ぬ)」という変化を遂げます。これは自然界の「生(芽がでる)→長(成長する)→化(花を咲かせる)→収(実がなる)→蔵(種となる)」という自然の流れと同じです。また、これは春→夏→秋→冬という季節の中にも同じ変化を見つけることができます。これが中医学が大切にしている自然界の縮図として生体をみる生体観です。 

 

「天人合一・天人相応」という言葉があります。人間は自然界の一部、という意味です。これは私たちが自然の中の一つの一員、という意味ではありません。私たち人間が自然と同じ機能を持つ一つの完成されたシステムということです。私たち一人一人が宇宙の一部、ではなく宇宙そのものということです。

 

中医学:腎の役割

 

臓象学説最後の主役、腎の出番です。

腎は自然界における水、と言われていますが海の方がイメージしやすいと思います。私たち全ての生命は海から始まり、未だ深海は未知の生物も多いと言われています。宇宙探査においても水、もしくは海の存在は生命の存在の可能性を示唆します。

腎は生命の源を生み出す深淵のような存在です。

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臓象学説においても、腎は生命の根本を濃縮したものとして扱われます。水と脂肪とたんぱく質の塊である私たちがただのモノとしてではなく、自分の意思を持ち生命をつなぐ存在である秘密が腎に詰まっています。

腎は「先天の本」とされます。それは腎がご先祖さまから受け継いだエネルギーを貯蔵しているからです。このエネルギーの在庫を「先天の精」と呼びます。体の発育、知能の発達、生殖能力の旺盛さ、最後には寿命などがこの先天の精から大きな影響を受けます。

「先天の本」と対比して「後天の本」と称される臓があります。それは脾です。脾は飲食物から得られたエネルギーを「後天の精」として体に供給します。腎は先天の精に後天の精を補充し、2つを融合して腎精として格納します。これが腎のもっとも重要な役割です。

腎には封臓するという特徴があります。封臓とは奥にしまいこみ漏れでないようにするということ。腎は冬眠中の生物のように、気を閉じて外に精を漏らさないようにする性質です。腎精は体の奥に大切に保管されています。

腎精とは気血津液、何にでも分化できるエネルギーの根本です。受精前の卵子のようにまだ何ものになるのかわからない、可能性を濃縮したものです。

腎精の役割は大まかに以下の5つに分類されます。

  • 生殖と深く関わる
  • 生・長・壮・老のプロセスを支える
  • 髄を生み、骨や脳の元になる
  • 血液の生成と関わる
  • 外邪から体を守り、病気を予防する

この広い意味での腎精は腎陽と腎陰に分けることができます。腎陰は全身の陰のもとであり、腎陽は全身の陽のもとです。そのため、他の臓器において陰、もしくは陽の不足が見られたとき必ず生命力の上流となっている腎の状態に気を配らなくてはいけません。

次に、腎は水分代謝の要としての役割があります。解剖学的な腎臓も水分の排泄、それに伴う体液量の調整をしていますので違和感はありません。 

中医学もまた腎が水分の流れと量を調整すると考えます。水の流れに関係する臓腑は他にもありましたね。主には脾と肺です。もちろん脾と肺の働きも重要ですが、腎は元栓部分とでもいいましょうか、肺や腎よりさらに根本的な部分で水を管理します。

陰に属する水を動かすのは陽気であり、陽気が水の流れの駆動力となります。そして全身の陽気のもととなるものが腎陽です。つまり他のどの臓器より、腎の陽気の虚は全身に大きな影響を与えます。腎陽が弱まると、水の動きが鈍くなり、尿の量がへる、むくみがでるなどの症状が出ることがあります。また、逆に腎が水を制御できなくなるとトイレの回数が増えてしまいます。

 

加えて腎は納気をつかさどるという大切な役割をもちます。納気というのは気を体深くへ収めること。肺が吸った清気を腎が体の内側まで引っ張り込むことで呼吸が浅くならず、深部まで届けることができます。この腎の納気が弱くなると、呼吸が浅くなる、疲れやすくなるなどがあります。

 

ここで、呼吸を腎と肺で制御する、とお話しましたが、腎と肺は意外と接点が多い臓器です。とくに、免疫機能に関して。I型アレルギーを言われるアトピー、蕁麻疹、喘息、花粉症などは肺と深い関係があるようですが、橋本病や、リウマチ、糸球体腎炎などII型、III型の自己免疫疾患が関わるようなアレルギーは腎気の弱まりでおきるようです。外側の敵と戦うのが肺であり、内なる敵、自己と戦うのは腎ということでしょうか。たとえば肺の不調で抗利尿ホルモン・バソプレシンが分泌されたり、水液量を調整するアンジオテンシンの変換酵素も肺に存在したり、肺から腎に働きかける内分泌ホルモンも多いようです。

 

封蔵する、と説明される腎はエネルギーを奥深くに凝集してしまい込みます。その性質の現れのひとつとして、腎は骨を作るといわれています。なぜかというと、骨を養う骨髄(髄)は腎精から作られると考えるからです。腎が成長や発育を支える、と言われるのも骨と関係が深いためです。腎精が不足していると、十分な強度の骨が作られず、骨折しやすかったり、折れた骨の治りが悪かったりします。加えて、歯は骨の余り、といわれていますので、歯のトラブルも腎が大きく関わります。ただ、歯に関しては上の歯は胃経、下の歯は大腸系ともつながりをもちますので、腎の影響だけとはいいきれません。

 

骨と腎、といえば西洋医学的にも関係がありますね。そう、カルシウムの吸収を助けるビタミンDは腎臓で活性する必要があります。腎は利尿なども含めて全身のミネラルに働きかけるようですね。腎を強くする味覚として鹹味がありますが、この鹹味がミネラルを多く含むもの、という点も頷けます。

 

腎の華は髪と言われます。髪は「血の余り」といわれますが、この血は腎精から作られます。髪の毛が薄くなる、白髪が増えるなども腎精の不足によっておこります。

 

腎は耳に開竅する、と言われます。これは腎の気が耳へ通じることで正常な聴力が得られると考えられているためです。老化などで腎気が弱まると耳が聞こえなくなる、耳鳴りがするなど耳の不調が現れます。

 

最後に、腎と関係が深い“二陰”について。二陰とは2つの竅、という意味です。男性と女性では少し異なり、後陰は男女とも肛門のことを指し、前陰は女性では尿道と膣の2つ、男性では尿道と精液の出口となります。単純に前陰といえば外生殖器のことを指します。

 

腎は肛門、尿道の開閉をコントロールします。尿道や膀胱の収縮に腎が影響を与えるため、不調があればトイレ回数が増える、すっきりと尿がでないなどの症状がでることがあります。

 

また、腎の生殖器への影響に関してはその開閉だけではなく、生殖機能のすべてをコントロールしています。生殖機能は新たな命を育むために母体の身体を削る作業です。腎陰、腎陽、腎気、腎精の全てがバランスよく整った余裕のある体でなければその機能はうまくいきません。腎の虚により女性であれば生理不順や不妊症、男性であれば遺精やインポテンツになることがあります。また、極度に乱れた性生活や、多産などにより逆に腎精が消耗することがあります。

 

生命の源となる腎。腎の不調は表面化されにくく、また病層が深いため重症化しやすいようです。近年がん治療に関しても腎の関わりは注目を浴びています。

中医学:肝の役割

肝は剛臓と呼ばれます。

 

肝は沈黙の臓器などと言われ、ピンチのとき以外に弱音をはきません。頑張り屋の女性のような性格です。そして、ダメ、となったときはもう本当にダメです。そこの余地はなし。これも頑張り屋の女性のような性格です。

 

そのせいか肝のトラブルは女性に多いようです。

 

 肝は自然界に例えると“木”です。土から栄養をすいとり上へ上へと腕を伸ばすその姿は“成長”や“上昇”の象徴です。

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肝の最も大切な役割は“肝は疏泄をつかさどる”と表現されます。

 

“疏泄”とは聞きなれない言葉ですが、上昇、下降、発散、通りをよくする、などの言葉を組み合わせた意味です。通るべき所を通し、流れるべきものがきちんと目的の場所に届くようにする、という役割です。

 

この役割だけを聞くと解剖学的な“肝臓”と全然違います。肝臓は主に解毒の役割ですからね。でも全く関係ないとは言えません。例えば、飲食物は胃で分解され、その後腸で吸収されます。脂質などの限られた栄養素を除いて吸収されたものはまず門脈を通り肝へ向かいます。その後解毒の処理をしたあと、全身に分配されます。この一度肝臓に集められて、検問を通過したものが全身を巡る、という点は肝の疏泄と重なるところがありように思います。

 

この肝がつかさどる疏泄の役割は主に4つに分けられます。

 

1つ目が、気血津液をそれぞれを正しい方向に滞りなく流れをつくる役割です。田んぼの水を想像してみてください。肝は水路の役割です。上流の田んぼから下流の田んぼまで、水がまんべんなく満たされるためには水路の水が漏れることがなく、さらにつまって氾濫することがないようにメンテナンスをすることが必要です。水路の反乱は肝のトラブルによっておこり、それは張りを伴う症状が多いようです。例えば、胸や脇の張り感代表的です。頭痛でもしくしく、というよりずきんずきんという感じ。水路の詰まりによって氾濫する上流の田んぼがあると、一方で水が不足する下流の田んぼがでてしまうことがあります。注意が必要なのは常に過剰の症状(実)として現れるわけではなく、部分的には不足の症状(虚)として現れることもある、という点です。一部の虚した状態をみて状態を判断する前に、全身に視野を広げて流れが全体にどうなっているのか確認する必要があります。肝の不調はまず気の流れの滞りに現れます。そしてこれに伴い血や津液の流れも悪くなります。血の流れが悪くなることで月経の不調、津液の流れの悪さでむくみなどが現れることがあります。

 

肝の役割は解剖学的な解毒、というより内分泌的なものが多く含まれると思います。血液の循環量が多いとレニンという酵素が腎臓より分泌されて血管を収縮されることで血流量を調整する機能がありますよね。このような内分泌による生体のバランスを保つ働きを担当するのが“肝”です。

 

2番目は消化機能への影響です。消化機能といえば脾と胃が兄弟のようなコンビネーションでコントロールしています。脾気の上昇と胃気の下降で栄養素が体内循環にのり、不要物は体外へ排出されます。肝の役割はこの脾気と胃気の力のバックアップ。脾胃を先発とすれば肝は中継ぎです。脾が持ち上げた栄養素を肝が繋いで肺の宣発につなぐ、こんなイメージです。この脾から肝へのバトンの受け渡しがうまくいかないと“肝脾不和”という状態、上に持ち上げられず下痢や軟便の症状が続いたりします。同様に胃と肝のバトンタッチがうまくいかないと“肝胃不和”となってゲップ、嘔吐などの症状があらわれます。

 

3番目は精神活動への影響です。気は臓器などの働きを調整しているだけではなく、人の精神活動も支えています。肝の外に発散する力が弱くなると“肝うつ気滯”といって、気持ちがふさいで、うつうつとして、ため息が多いなどの症状があらわれます。また肝の上に持ち上げる力が強くなりすぎると“肝火上炎”といい、焦燥感や怒りっぽくなったり、不眠になったりします。

 

4番目はホルモンバランスの調整です。前の項目で疏泄は内分泌のバランスと少しお話しましたが、とくに性ホルモンの分泌には大きく影響します。ストレスが多ければ生理周期が乱れたり、経血量が増えたり、生理痛がひどくなる・・・そんな経験は女性ならだれでも思い当たるところはあるのではないでしょうか。これも全て肝の支配する気の流れの乱れ、そこから派生して血の流れの悪さによって起こるものです。

 

肝気は気が枝葉をのばすように、本来外にのびのびと広がっていく性質を持ちます。こののびやかさが失われたとき、肝気の乱れによるトラブルがおきます。

 

疏泄についで肝が持つ大切な役割は“血の貯蔵をうけもつ”ことです。ただ、このときの血の貯蔵、というのはただ単純にタンクとして保管しているだけではありません。陰陽説で、全てのものは陰と陽に分けることができる、というお話をしました。気のコントロールを担当する肝は陽の要素がとても強い臓器です(実際肝は陽臓といわれています)。ところが陽は陰がなくては存在できず、また陰とバランスを保たなくては正常な働きができませんね。この時必要になるのが陰に属する血の存在です。肝血はいきすぎがちな肝気を抑えるために必要な存在なので、肝血の不足は肝気の暴走を引き起こします。この肝血不足による症状として特徴的な点は陽気の暴走が血にも及び、不正出血や月経過多などとして現れることです。

 

肝は目に開竅し、その液は涙です。イライラすると目が赤くなったりしますが、これは肝の陽気の上昇過多です。目が渇く、疲れる、視力が落ちるなどは目を滋養する肝血の不足です。

 

肝の華は爪で、肝は筋をつかさどります。爪もまた目と同様に肝血の栄養を受けているため肝血が不足すると二枚爪など弱々しい爪となります。筋肉もまた、肝の支配です。脾の章で脾は肌肉、といいましたが、脾がつかさどるのは筋肉のボリューム的な面。肝は筋肉の機能的な面、たとえばしびれがないか、つったりしないかなどを管理します。足のつりといえば薬剤師ならだれもが芍薬甘草湯を知っているのではないでしょうか。芍薬は肝陰血を潤す、といわれ足のつり、という神経の過緊張、過興奮をなだめる効果があります。

 

肝の役割をあげていくと多かれ少なかれ“鉄”の存在は見え隠れしていますね。爪が弱くなる、というのは鉄不足の代表的な症状です。また、肝陽が暴走して出血すれば鉄は不足する一方ですし、あまり知られていませんが精神を安定させる脳内ホルモンは鉄によって作られるので、鉄不足は精神状態にも影響を及ぼします。血を増やす、といわれる食材に鉄が含まれるものが多いのも納得がいくように思います。治療としては四物湯を基本骨格にした方剤で血の生成を促しながら材料として鉄とタンパク質をとるようにするのがいいのではないでしょうか。

 

婦人科系のトラブルはまず肝の不調は多かれ少なかれあるようです。先日も古い友人が癇癪持ちの奥様の不満をこぼしていましたが…人間関係はいずれにせよ難しいものなので、体調を整えることで防げる喧嘩は防ぎたいものですね。ちょっとのことではびくびくしない肝を持つことは人生を少しスムーズにしてくれるのではないでしょうか。

中医学:脾の役割

今回は脾の役割。

 

脾は土に例えられます。飲食物の分解、消化をつかさどる脾は体内で体が成長するための物理的なエネルギーを与えてくれる、土のような存在。私たちの生命活動の元になるエネルギーの供給源です。

 

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前回までご紹介した心と肺が上焦(体の上部)に属するとすれば、脾は中焦( へその下、横隔膜の上)に位置します。

 

中医学の世界の脾は解剖学的な脾臓とかなりかけ離れています。解剖学的な脾臓は古くなった血液の処分や貯蔵をになったり、免疫を調整したりします。脾は消化、吸収、場合によっては肝臓が受け持つ解毒の作用まで含めて飲食物から栄養を取り出すことを主な役割とします。

 

脾の働きは次のように記述されています。

  • 脾は運化を受け持つ
  • 脾は帰結を生み出す元
  • 脾気は昇をつかさどる
  • 脾は統血をつかさどる
  • 脾は体に在っては肌肉を合す
  • 脾は四肢をつかさどる
  • 脾は口に開竅し、その液は涎 

 

脾の「運化作用」は脾の働きの中でも最も大切なものです。運化は運んで、変化を与えること。これは単に飲食物を消化、吸収する、というだけでなく、そこから得られたエネルギーを体全体に運ぶことまで含めます。食物を胃から腸へ順に送る蠕動運動と、消化液による分解、さらに吸収して、肝臓で解毒をするところまで含まれるようです。

 

飲食物からのエネルギーを抽出してさらに全身に運ぶことを“運化水穀”、水分の吸収とその水分の全身の流れを調整することを“運化水液”といいます。

 

この“全身に運ぶ・全体の流れを調整する”ということに、気血津液の生成は大きく影響します。脾から取り入れられる水穀や水は肺や心で気と交わり生体に活動力を与える気血津液に化生されます。脾の働きが不十分、ということはその気血津液全てが不足することになります。

 

気が不足すると倦怠感、疲れやすさ、食欲不振など、血が不足するとめまい、生理不順、顔色が白いなどの症状として現れます。

 

すべての植物は土が悪ければ育ちません。飲食物から得られるエネルギーを抽出する脾の働きは土と同様すべての臓器のエネルギーの根本になります。この脾の重要性に特化した学説があります。それが李東垣が提唱した脾胃論です。李東垣は「脾胃を内傷すると百病が生じる」と唱えました。五行では5つの臓器が平等に助け合う関係を説きますが、脾胃論ではあえて脾が中央で、他の4つを従えているという構図で生体内構造を解釈します。後に温補・補土(土を守る)派などと呼ばれ、新しい視点を中医学に与えました。

 

 次は「脾気は昇をつかさどる」について。

 

脾の気は清いものを上にあげる、という性質があります。そして作用反作用の法則と同じように、汚いものは下に下ろします。ここでいう清いというのは“役に立つ”、汚いというのは“役に立たない”もののことです。脾は直属の部下として胃を従えています。脾は体の役にたつ水穀の精、飲食物から得られたエネルギーを上に持ち上げ、肺や心の気と交わらせ気や血を体循環に送り込みます。部下である胃は、水穀の精を脾に託して残渣を汚物として下に下ろします。この胃による不要物を下におろす働きを降濁といいます。

 

脾の昇をつかさどる働きがうまくいかないと、上焦にエネルギーが不足してめまいや意識がはっきりしないなど、上部の虚症状が強く現れます。そして胃の降濁がうまくいかないと胃もたれ、ゲップなどの実症状が現れます。

 

脾と胃の関係、というのは陰陽をよく表していると思います。断捨離ということばがありますが、まさにエネルギーを入れるために、捨てる役割が必要になる関係です。

 

“脾気が昇をつかさどる”はもう一つ、大切なことを表しています。それは内蔵をあるべきはずの場所にとどめておくということ。肺の宣発のように内から外へものを運ぶ体内のエネルギーの流れや、重力など下に引っ張る力が拮抗する中、脾の昇をつかさどる力が五臓六腑があるべき正しい場所に位置を留めるため、それらが正常に機能することができます。この脾気が弱くなると脱肛、胃下垂、子宮脱など、臓器が下に下がる症状が現れることがあります。

 

この脾の力は本当に侮れません。友人の奥様ですが、かなり危険な早産のリスクがありました。そこで脾気を高め、特に脾の昇提(持ち上げる)作用を持つ捕中益気湯を服用することで予定日通り出産され、元気な女の子に恵まれました。

 

次のお話。“脾は統血をつかさどる”これは脾の力を持ってして血液が血脈からもれでることがないようにコントロールしている、という記述です。脾気が弱まり、統血できなくなると、皮下出血、血便、血尿、女性の不性器出血または月経過多などが現れます。

 

出血があるからなのかわかりませんが、この記述を読むと裏にあるのは鉄不足ではないかな、と感じます。胃腸が弱いと確かに鉄の吸収が妨げられ、皮下出血も起こりますし、脾が弱いと血の生成に不利であることはよく知られたことです。鉄、というとヘモグロビンと思いがちですが、ここはフェリチンですね。鉄と血、脾の関係は無視できないのでまた回を改めてお話したいです。

 

“脾は体に在って肌肉を合す”といわれています。これは脾の力が肌肉を育てる、ということを示しています。次の記述“脾は四肢をつかさどる”も大きな関係があります。

 

身の回りに食べても太らない、というやせ型タイプの方はいらっしゃいませんか?いくら食べても太らない、ときけば羨ましい気もしますが、実際はそれほど食べることはできなかったり、痩せていても少し元気がなさそうなタイプ。こういう方は脾が弱い方が多く、脾の働きが弱いため食事からの栄養をとることが不十分(食べても身にならないか、食べることができない)になりがちです。脾は筋肉のボリュームの面をつかさどります。脾から栄養がとれないと筋肉は痩せたまま、ということです。

 

また、脾は水の運化をつかさどる、というお話もしましたね。脾は体の中心部に存在します。そのため脾の気血、そして津液の流れが滞れば上肢、下肢への水分の配分、回収が滞ります。つまり体幹部ではなく、四肢のむくみが生じたような時は脾の運化機能が弱くなっている可能性が強いです。

 

”脾は口に開竅し、その液は涎”。脾は口と深い繋がりがあります・・・といってもでは、舌に開竅していた心は?と言いたくなるところ。心は口の中で色やカサカサ感など見た目に影響し、一方で脾は味覚、食欲など感覚的なものに大きく影響します。脾の調子が悪いと口がベタベタする、甘く感じるなど味覚異常が現れやすくなります。

 

舌の見た目は心を表す…と言いましたがそれは舌に心が支配する血脈が多く集まっているから。脾と関係が深いのは色より舌のコケです。胃腸は食道をとおし、直接舌とつながっています。胃腸が疲れていると舌が白くコケに覆われたり、日毎時間ごとに胃腸の詳細な様子を教えてくれます。

 

中医学を学んでいると、本当に先人の観察力には驚かされることばかりです。脾は胃腸、細菌に覆わててバランスをとっていますが、それは地球上の土も同様です。そして、今腸内環境が乱れていると言われている時代に、大量の化学物質により土壌の最近のバランスも乱れ、食品の栄養素に大きな影響を及ぼしています。私たちの胃腸も以前の人類と大きく異なりますが、それと同じく、食べる食品も大きく異なる時代となりました。

 

このような現状を李東垣はなんとおっしゃり、どんな治療をされるのかな、と思うことがあります。

中医学:肺の役割

心に続いて、次は肺の役割です。

 

中医学で話される肝心脾肺腎の五臓は西洋医学で扱われる臓器の働きと関連は深いです。が、イコールではなく、より概念的な存在なので、ここも細部にあまりこだわりすぎないようにしましょう。

 

肺は五臓の中で最も上にあり、“五臓六腑の蓋”や“華蓋”と呼ばれます。肺は人体の中で外界に開かれた唯一の臓器です。肺と関わりが深いのは大腸、鼻、気管支、喉などすべて外界と生体の境目となる部位です。

 

前回心を自然界でいえば太陽、とご紹介しました。五臓の中で最も上層で体の体表を守る、自分と他の境界線を敷くのが肺です。自然界に例えれば大気圏でしょうか。

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肺の役割は以下のような記述で表されています。

  • 肺は気をつかさどり、呼吸をつかさどる
  • 肺は宣発をつかさどり、皮毛を外合する
  • 肺は粛降をつかさどり、水道を通調する
  • 肺は水の上源
  • 肺は百脈を朝する
  • 肺は鼻に開竅し、その液は涕
  • 肺の華は毛

 

肺は気をつかさどります。この意味は主に2つ。外から清気を取り入れる作業と、気の運行をコントロールすることです。いろいろ枝葉はついても肺の働きはこの2つに集約されます。

 

まず大切な役割として肺は気の生成を担います。肺は飲食物から吸収された気や精と、肺で取り込まれた清気を合わせて人体に有用なエネルギーとなる“気”を作り出します。

 

排気が弱まり、気の生成が滞ると呼吸があさくなる、声が小さくなる、体に力がないなど気が不足した“気虚”症状が見られます。

 

また肺は外界から得られた空気である清気を全身に巡らせる役割を担っています。この清気を受け持つ、という言葉に清気を体の各部位にまんべんなく送るということも含まれます。特に、肺より上部である頭部への気の供給をここでは強調しています。この清気を受け持つという肺の働きが弱まると、めまい、鼻づまり、鼻の乾燥、耳鳴りなど視覚、聴覚、嗅覚に影響を与えます。

 

また肺は宣発をつかさどります。宣発とは聞きなれない言葉ですが、気を上に、そして外側に動かす、という意味です。端的にいうと息を「吐く」ことも宣発です。この宣発が具体的に行うことは主に4つ。

  • 濁気を外に排出すること
  • 飲食物から得られた気を体中に配分すること、
  • 気を体表に配置し、生気が漏れ出ることを防ぎ、かつ邪気の侵入を阻むこと
  • 清気を上部にある器官に配分すること

 

この宣発の働きが弱まると、風邪をひきやすくなる、汗がでやすくなる、皮膚がかさかさになるなどの体表のトラブルが起こりやすくなります。

 

また、宣発は濁気の皮膚からの排泄も担っていますので、適度に汗をかくことで皮膚トラブルを改善するなどの治療法をすることもあります。

 

次に、肺は宣発とともに粛降を行います。粛降とは先発とは逆に気を下へ、そしてうちに動かすことです。息を「吸う」ことと通じます。

 

粛降は具体的には以下のような4つの働きを持ちます。

  • 清気を吸い込み、その清気を下へ送る
  • 気の上逆を防ぐ
  • 飲食物で得られたエネルギーを下へ送る
  • 体の上部の水を下へ流す

 

粛降の特徴として、気を下に送るときに水を引き連れます。肺は上部に位置していますので、屋根の上に給水タンクをおいたイメージです。肺が必要に応じてコックをあげて水を下部に流します。これが肺は津液の運行をつかさどる「水道を通調する」の意味です。

 

この粛降がうまく働かないと、しゃっくり、咳など気の上逆がおきる、顔がむくむ、肺や気管支に痰(流れの悪い水)がたまるなどの症状が現れます。

 

この肺による粛降と宣発の働きで気の流れが内側から外側へ、そして体表に到達すると今度は外側から内側へと引きもどるという流れができます。

 

この宣発と粛降の組み合わせは潮の満ち引きのように体内のリズムを作ります。これが「肺は百脈を朝する」の意味をさします。百脈とは全身の経絡。その経絡を流れる気が常に行き交う、動き続けるのは肺気の力によりコントロールされているのです。

 

肺は呼吸をつかさどる器官です。その肺が鼻を支配するのは自然なことのように感じます。肺気が滞ると、鼻が詰まる、鼻水がでる、匂いがわからなくなるなどの症状が現れます。このつながりで、鼻から流れる涕(鼻水)が肺の液といわれます。

 

また、肺の華は「毛」となっていますが、この毛は髪ではなく、皮毛。肌に生えるうぶ毛です。

 

肺は免疫機能、アレルギーと深いつながりを持ちます。一般的にアレルギー、というと喘息、じんましん、アトピー、花粉症ではないでしょうか。アレルギーもいろいろとタイプがありますが、今あげたものはIgEという抗体が関与する即時型アレルギーと呼ばれるものです。

 

喘息は肺そのものと気管支。じんましんやアトピーは肌。花粉症は鼻。IgE抗体が関与するアレルギーは全て肺のコントロールの下にあるパーツばかり。そして、同じく肺と深いつながりがあるパーツとして大腸があります。

 

「免疫力は腸内環境から」と最近だいぶ浸透してきていますが、東洋医学ではもう何前年も前からそのつながりを経験的に解き明かしていたようです。

 

最初に肺は大気圏のように地球を覆っている存在、とお話しました。肺は自分ではない異物に対して最初に接する臓器です。外から吸収する空気も内から吸収する飲食物も肺がまず受け止めて体に取り入れてくれます。肺は「嫩臓(あいぞう)」、弱々しい臓器といわれています。確かに肺は暑さや寒さなど環境の影響を受けやすい弱々しさを持ちます。しかし、”弱々しい”というより、実態を目に見ることができない空気の層のような、当たり前に包み込むやさしい存在なのではないかと思います。