中医学:大青竜湯

 麻黄湯の変方です。日本ではあまりなじみがありませんが「雨を呼び寄せるように、大いに発汗させる力を持っている」方剤です。太陽病証中で最も実証に対応します。

 大青竜湯の構成生薬は
・麻黄 6.0g
・桂枝 3.0g
・石膏 10.0g
・杏仁 5.0g
・甘草 2.0g
・生姜 3.0g
・大棗 3.0g

 麻黄湯、麻杏甘石湯と桂枝去芍薬湯の骨格が見つかるでしょうか。この麻黄6.0gは全ての方剤中でもかなり多く、加えて桂枝と石膏の力でかなり強力な発汗剤となります。本来は他の発汗剤を用いても発汗しなかった病態に用います。発汗しないため寒邪を取り払えず、衛陽が鬱滞して熱となり煩燥状態が目標です。

 本証は内外とも邪実で外寒内熱となっています。外邪のみであれば麻黄湯で十分ですが、それでは内の清熱作用がないため石膏を加えています。口渇多飲があれば陽明経証白虎湯証ですが、大青竜湯証はあくまで脈浮緊・発熱悪寒・身体痛に加えて内熱の煩燥が見られるはずです。大青竜湯は体力があり病邪との邪正闘争する正気が十分ある対象以外は用いることが出来ず、脈が弱い太陽中風証などに用いると正気の消耗が起こり厥逆(手足の強い冷え)や津液不足が起こり、ひどいと筋肉が滋養できず痙攣が起きます。体力があるものでも服用で汗がでたら直ちに中止するとの但し書きがあります。

 桂枝湯の観点から見ると、構成生薬の芍薬が抜かれ、桂枝去芍薬湯として組み込まれています。桂枝去芍薬湯では邪が胸部に内陷して胸中の陽気を損傷する胸満症状に対し、邪気を持ち上げる効果を期待し、 芍薬を抜いています。芍薬の陰性で凝集性・収斂性が方意と反対に働くからです。 つまり外邪の勢いが強く、内の陰の消耗よりも外向きの力を優先した方剤です。 脾胃を温める生姜・大棗が組み込まれているのはそれだけ吸収を早めて効果発発現を大きくしたいためです。

 麻黄湯と大青竜湯の鑑別はどちらも無汗・脈浮緊・身体痛があるものの、渇や煩燥があれば大青竜湯、なければ麻黄湯となります。
 小青竜湯は水飲が主で、胃内停水、脈微浮で力があります。
 また、煩燥と渇、心下痞鞕あって汗多い場合は白虎加人参湯を用います。

中医学:葛根湯

 日本で一番有名な漢方薬です。

 出典は傷寒論、太陽病表実証の処方です。首から背中にかけての項背がこる病態で実証なら葛根湯、虚証なら桂枝加葛根湯となります。この2方剤は葛根が主薬になることは同じですが、葛根湯には麻黄が加わり、より実証よりとなっています。

太陽病中風証 桂枝湯 桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草
        ↑↓
       桂枝加葛根湯 桂枝湯に加えて葛根
        ↑↓    (葛根湯証のようで自汗や脈緩なとき)
太陽病表実証 葛根湯 桂枝湯に加えて葛根と麻黄

 葛根湯の使用目標は悪寒・発熱・無汗・頭痛・項部硬直です。

 葛根湯は風邪の初期症状への治療として有名ですが、肩こりにも応用されます。風邪薬の葛根湯がなぜ肩こりに?新人薬剤師としてはなんとなくやりすごしてしまいますが、ここが葛根湯の妙技です。ちなみにこの肩こりは後頭部より項部、肩甲骨部、さらに腰辺りのこわばりです。「借金で首が回らない」というような肩こりは葛根湯の適応よりむしろ柴胡剤を使います。この背部のこわばりは外邪が体内に入り込み、それを衛気が体表に集まることによって起きます。衛気は外邪との闘争で気、熱、津液が表層に集まりますがそれが裏に循環出来ず、体節痛、凝り感、腫脹感が現れます。

 葛根は表層にたまった気を効率よく発散させ邪を払う解表退熱の効果を持ちます。軽度の発汗作用で鬱熱を発散させ、生津により筋を緩めるため、筋肉のこわばりに効果的です。

 葛根湯に組み込まれた桂枝湯は陰陽のバランスを整え正気の流れを作ります。桂枝が腎からの陽気を表層に引き上げ、芍薬で表層から内向きへの流れを作り深部から表層への流れを作ります。また生姜も脾気を補充して外向きへの巡りを助け、甘草と大棗も正気の補充を補強します。これに麻黄もまた脾によって増幅された正気を表層に導き、さらにその正気を肺の領域である体表に広げます。これらの配合から葛根湯の位置づけはこのようになります。
表位における病象に対して、正気を誘導する
正気の誘導を手段として、津液や血を表位に運ぶ
表位に停留する津液や血を裏に回収する

 これらから感冒の初期に用いられるイメージですが、感冒に限らず表層に鬱滞した外邪を体内の正気を導き出すことで追い払う方剤です。そのため、皮膚疾患、関節炎、鼻炎、喘息、気管支炎など様々な適応が考えられます。また、全体に温性に偏る方剤ではありますが、涼性の芍薬とやや涼性の葛根が加わるので麻黄湯に比べ温めすぎず応用範囲が広くなります。「葛根湯医」というなんでも葛根湯を処方する藪医者の話がありますが、あながちでたらめでもなくこのように葛根湯は幅広い適応を物処方です。加えて、寒熱に大きく偏らず、正気の流れを整える効果がある葛根湯は誤治を起こしにくいところも使いやすく、広く知られるようになりました。

中医学:血府逐瘀湯

 血府逐瘀湯は行気活血薬の代表方剤ですが、細かく見ていくとなかなか興味深い方剤です。もとは清代の王清任の「医林改錯」に含まれるものです。王氏は少し独自の「気血理論」を用いて方剤を組み立てました。

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 血府逐瘀湯の構成生薬は桃紅四物湯に含まれてる5種
・桃仁
・紅花
・生地黄
・赤芍
・当帰
・川芎
 四逆散に含まれる4種
・柴胡
・枳穀
・(赤芍)
・甘草
 それに加えて昇降を調整する
・牛膝
・桔梗
 以上の11種類です。

 血府逐瘀湯は「胸中瘀血証」に用いられます。ここで言う胸中とは「心」「肺」に加えて「肝」まで含みます。症状としては、胸痛・脇痛・頭痛(全て部位が固定した刺痛)、性格の変化(せっかちになる・短期になる)、心煩、動悸、不眠、発熱などです。

 寒熱の偏りがなく、気血両方に作用するどんな人にも服用出来るような方剤に思います。しかし、血府逐瘀湯の適応である胸中瘀血証は本来「寒象・熱象ともに顕著でない」「胸部」「気滞血瘀という実証」と限定した適応範囲が定められています。

 基本構造は3つの骨組みからなります。まずは桃紅四物湯による血への働きかけ。さらに四逆散が組み込まれていることから気を巡らせる行気解鬱作用を強めています。そこへ上部への引経薬の桔梗と下部への引経薬の牛膝により昇降を調整します。ただの活血薬ではなく、かなり「行気」を意識した、血と気を通すための行気活血薬であることがわかります。

 桃紅四物湯に含まれる活血効果を持つ生薬は桃仁・紅花・当帰・川芎・赤芍の5つです。この5つの生薬は活血5薬とも呼ばれています。それぞれに持ち味は下のようになります。
・赤芍・・・「活血」+「化瘀」 微寒
・桃仁・・・「活血」+「潤燥」 平
・紅花・・・「活血」+「潤燥」 温
・当帰・・・「活血」+「養血」 温
・川芎・・・「活血」+「行気」 温
例えば塊を取り去る「化瘀」の効能は赤芍が一番強いので、桂枝茯苓丸などの化瘀をとるときは赤芍が用いられます。また、寒性が強いので温める処方身痛逐瘀湯では用いられません。同様に、川芎は温性、燥性が強い生薬ですので、熱をもって乾いた病態を意識している通経逐瘀湯などには用いません。このように活血薬の中でも何を選んで方剤に組み込んでいるか、また何を選ばなかったかを中止するとその方剤の対象となる病態への理解が深まります。

 また、四逆散と桔梗・牛膝の組み合わせで全体の気を通します。柴胡・桔梗が気を上昇させ、牛膝・枳穀が気を下降させ、バランスよく気の流れを整えます。四逆散では枳実を用いますが、血府逐瘀湯では枳実より少し行気効果が弱く、穏やかな枳穀を用います。

 気と血の巡りを重視すると方剤は全体にやや燥性になります。そのため陰虚火旺体質に使用するには中医が必要です。気血の巡りの改善による気血の消耗を防ぐために生地黄・甘草がバランスをとる形となります。

 血府逐瘀湯は「気滞瘀血という実証」の治療薬です。寒熱のバランスがとれ、強すぎない使いかってのよさそうな方剤ですが、やはり漠然と用いず、気滞と血瘀が同時に存在する病態であることを意識することが大切です。例えば肝鬱証のような血瘀の存在しない気滞には四逆散や柴胡疏肝湯を用いますし、肝血虚であれば酸棗仁湯、心血虚であれば帰脾湯などを用いる方が適します。

 

中医学:二陣湯

 日本では方剤として取り扱いはありませんが、「化痰」剤の基本方剤です。

 「痰」とは体内の水分代謝が正常に行われず、水分が停滞した病理産物です。水分代謝による滞りを「痰」「飲」もしくは「痰飲」と表します。一般的により粘性が高いものを「痰」、さらさらと薄い物を「飲」と言いますが、その双方をひっくるめ区別なく「痰飲(広義)」ということもあります。また、胃腸に発生した飲を取り立てて「痰飲(狭義)」と呼ぶこともあります。

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 「痰は、体内の水が火によって濃縮されたもの」との説明がされることもありますが、これは狂証・癇証の説明としては便利ですが、これは痰の一部を表しているだけです。痰は本来は外邪や体質などの影響により「寒」「燥」「熱」など、さまざまな方向に発展していきます。

 痰は「有形の痰」と「無形の痰」があります。有形の痰には目に見える喀痰、聞こえる痰鳴が例です。無形の痰は、目に見えないけれども症状が現れている眩暈や癲狂などが当たります。

 痰湿証によって起きる代表的な症状は以下のようなものです。
吐き気・嘔吐・腹部脹満感・咳・吐痰・胸満・胸悶・めまい

 二陣湯は清代・王宮で多用されたようです。宮中と言えば山海のご馳走を集めた食事の毎日です。このような栄養過多な食事を続けることで、痰を生じて慢性的な消化不良状態が起きます(痰湿困脾)。さらに複雑な人間関係によるストレスも加わり、ストレスによる消化機能の失調(肝脾不和・痰湿中阻)も多く見られました。栄養過多、ストレス過多というのは今の現代人の生活様式と一致しますね。つまり現代人のたまりやすい「痰湿」にも二陣湯は応用範囲が広いと言うことです。

 二陳湯の構成生薬は以下のようになります。
・半夏 9g
・陳皮 9g
・茯苓 6g
・生姜 3g
・炙甘草 3g

 全体に燥性の強い方剤になっているため、陰虚火旺の体質には禁忌となります。

 二陣湯の「陳」は「古い」という意味を持ちます。数ある生薬の中でも古い方が品質がよいと言われる6種類の生薬を「六陳」と呼びます。六陳に含まれる生薬は枳穀・陳皮・半夏・呉茱萸・狼毒(日本では使用なし)・麻黄、全て燥性の強い生薬です。この六陣の中の半夏・陳皮を含むため二陳湯との名前になりました。

 半夏は化痰の重要薬です。温性の性質を持つので寒痰を除去するのに適します。特に脾胃の湿痰をよく除き、かつ止嘔効果を持ちます。半夏はカラスビシャクという植物の根で、「小半夏」と言われる7月上旬頃生えてきます。陽の気が盛んである夏至から陰の秋へとの移行の季節に生える半夏は同様に陽から陰への切り替えの流れを助ける不眠薬として使われます。

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 穏やかな行気薬・陳皮が用いられます。温性で燥性、気を巡らせて脾胃を整える行気健脾の代表生薬です。脾胃が弱まり水液代謝が悪化した病態を治療します。

 茯苓は平性な健脾理湿薬です。キノコの一種である茯苓は湿を好み、大量の水分を吸い取るようにして排除します。

 生姜は脾胃を温めさらに半夏の止嘔の効果を高めます。胃気を促進する物に生姜・甘草・大棗がよく用いられますが。ここでは湿を助長しがちな大棗は排除されています。また、生姜は半夏の刺激性(そのまま食べると激しい舌への痛みを感じる)を緩和するため、半夏を含む方剤には多く配合されます。

 最後に炙甘草を加えます。補気補脾に働き、痰を除去する、というよりは新たな痰が生成されないようにします。補益目的なので清熱解毒の生甘草ではなく炙甘草を用います。

 中国では二陳湯にさらに烏梅を加えることがあります。烏梅の収斂作用により気の消耗を防ぎ、さらに甘草とに酸甘化陰の組み合わせで陰を補強し、半夏と陳皮の過度な燥性を押さえます。

 痰は病因ともなり得ますが、もともとは水液停滞の原因で発生している”標”です。そのため二陣湯はその水液代謝を悪化させる“本”を治療する方剤との併用が一般的で、単独で用いられることは多くはありません。 そのため様々な加減法があり、さらに合方もよく用いられます。

 代表的な加減法には六君子湯があります。これは二陣湯に四君子湯の構成生薬である人参・白朮・大棗を加えた物です。脾胃気虚による水湿の停滞を除去します。補脾剤で胃腸の蠕動運動を促し、祛痰剤で嘔吐、悪心、呑酸を改善します。

 風邪、鼻水の治療薬小青竜湯もまた二陣湯の方意をくんでいます。表寒である悪寒、発熱、無汗などの症状に加え、寒邪によって凝滞が起こり水液が滞った状態です。熱証を伴わない(黄色く粘った痰や鼻水には使えない)大量の透明な鼻水、くしゃみ、鼻閉、喘息症状に用います。また、小児など麻黄が使いにくい患者には苓甘姜味辛夏仁湯などを二陣湯と合方する。

 熱証が強いときは黄笒、竹筎などの清熱薬を加えます。二陣湯の基になったと言われる温胆湯もまた、二陣湯から温性の生姜を除き、清熱の竹筎、破気の枳実、健脾の大棗が加わっています。熱痰症状が強い不眠などには有効です。また、半夏の毒性を和らげる生姜を抜いたこの方剤では半夏は炮製を施した製半夏が用いられます。

 痰濁が上部を侵した痰濁上逆による眩暈には半夏白朮天麻湯が用いられます。二陣湯に白朮・天麻・蔓荊子を加え、また場合により人参などで補気、沢瀉で利水を補強したりして用います。基本的には脾胃を治療することで痰濁を利尿する苓桂朮甘湯や五苓散と同じ原理です。

 胸悶・胃脹の強い気の滞りであれば二陣湯に気薬である厚朴・香附子・枳穀などを加えたり、半夏厚朴湯(半夏・茯苓・生姜・厚朴・紫蘇葉)を用います。

心臓を中心に慢性疾患について考える

呉越同舟:私達の体は私達だけのものではありません

心臓の病気も様々あります。狭心症、不整脈、心筋梗塞、心不全、高血圧・・・こういった慢性疾患にかかった方から、“病気を治すために病院に通院しているのに一向によくならない”と言われることがあります。他にも、慢性疾患と言えば糖尿病、脂質異常症、高尿酸値血症、アルツハイマー型認知症やなど様々ありますが皆様同様に治らないことへの不安やいらだちを感じている様に思います。医師の指示通り薬を飲んで、必要であれば手術など適切な処置を受けているにも関わらず。なぜこのような慢性疾患は治っていかないのでしょうか?

2003年に終了したヒトゲノムプロジェクトをご存じでしょうか?私たち人間の遺伝情報を解読する総額30億ドルと言われる一大プロジェクトです。このヒトゲノムプロジェクトにより私達の遺伝情報が明らかにされれば今まで“遺伝”“体質”と諦めていた慢性疾患、例えば高血圧や糖尿病、アルツハイマーや精神疾患など様々な病気の治療法がめざましい勢いで発展する、と言われていました。

16年前、プロジェクトは終了しました。しかし、そこからそれほどのめざましい医療の進歩はあったでしょうか?

 ゲノムプロジェクトの終盤、科学者たちがこぞってヒトの遺伝子の総数を予想しました。ヒトの遺伝子数なんてピンときませんよね。遺伝子にはヒトの構成成分であるタンパク質の作り方が書かれています。その時点でマウスの遺伝子数は2万3千個、小麦の遺伝子数が2万6千個と明らかになっていました。

 このゲノム総数予想ゲームを制したのはヒトゲノムプロジェクトを率いていたリー・ロウェン研究員。その予想6は小麦遺伝子とほぼ同じ2万5947個。実際のゲノム数その予想よりさらに低い2万1000個でした。つまり誰もが予想しないほど、ヒトの遺伝情報はとても短いのです。この事実は本当に世界を驚かせました。なにせ話す能力も、想像力も知的思考力もないようなミジンコでさえそれを大きく上回る3万1000個の遺伝子を持っていたのですから。

 ミジンコより私達人間の遺伝情報が少ないなんて本当に意外です。実はここに私達の病気が病院でなかなか治らない理由の一端があります。

薬というのはよく“鍵と鍵穴の関係”と説明されます。鍵穴のような形をした“受容体”と呼ばれるタンパク質にホルモンやペプチドなど、信号を与える鍵となる物質が結合することで、血圧が上がる、気管支が広がる、胃酸の分泌が促進されるなど様々な生理活動が起きます。これまで、人間のゲノムを解析すればこの鍵穴の構造が全て解明され、“個人差”“体質”として片付けるしかなかった病気の原因を突き止めることができると期待されていました。

 ヒトゲノムプロジェクトが終了して十数年。革新的な医学の発展がないことに失望の声も上がりましたが、ヒトが驚くほどに情報が少ない遺伝子を持つことはまた異なった視点をもたらしました。

ミジンコよりも単純な遺伝子をもつ私達がここまで複雑な知的活動ができるのはなぜでしょうか。その鍵は私達の体に強制する100兆をも超える共生微生物;細菌・ウィルス・菌類です。私達はこの共生微生物たちを上手に利用し、生命活動で必要な物質、ビタミンやタンパク質の合成を外注しています。外注先があるため、本部である私達自身の遺伝子情報はコンパクトで構わないのです。「あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものである」と言った研究者がいます。実は私達の体のうち、ヒトの細胞はたった10%。残りは私達の体にヒッチハイクしている微生物なのです。

 今の西洋医学はとてもよく研究され、どの化学物質がどのような形で鍵穴に入り、そしてそのあとどのような作用を引き起こすのかを詳細に解明されています。これを私達の体を船に例えれば、これは船本体の修理をするということです。しかし運航をスムーズ進めるためには船体がよければいい、というものではありません。そう、その船を動かし、メンテナンスをする船員、共生微生物をうまく付き合っていくことも大切なのです。私達の体を間借りしている微生物たちも、船である私達の体の健康が損なわれないことが望みで、そのために協力をしてくれます。まさに呉越同舟。私達の体は私達のものであって、そうでないのです。

心臓は筋肉の塊です。

では、今回のテーマである心臓の話に移りましょう。心臓は私達の体のすみずみまで血液にのせて栄養素やホルモンを運ぶ大切な役割を持ちます。心臓はただの一度も休むことなく全身に血を運びつづけます。

心臓は筋肉で出来ています。この筋肉を心筋と呼び、特徴は非常に多くのミトコンドリアを保持していることです。ミトコンドリア、とは聞いたことはあるけれどもよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。ミトコンドリアは細胞の発電所と言われる小器官で、細胞呼吸を通じて食物をエネルギーに変換します。実はこのミトコンドリアは太古の昔私達のご先祖様の細胞が取り込んだ細菌です。今では細菌とは言えないほど私達の細胞と切っても切り離せない存在ですが、ミトコンドリアと提携することにより私達は利用出来るエネルギーが飛躍的に伸び、様々な生命活動を行えるようになり進化の道をたどることになりました。この発電所であるミトコンドリアがたくさん含まれるということは心筋では大量のエネルギーを必要とする、ということがわかります。

西洋薬は心臓の働きにムチをうつ?それより心臓の体力回復を

働き者の心臓のケアに関して、まず何よりストレスなく働ける栄養の提供が大切になります。

現代の日本人は例外なく栄養失調!?

飽食の時代と言われて久しいですが、私達日本人は例外なく栄養失調と言われています。2011年の私達の摂取カロリーは成人で平均1840kcal。これは1946年、餓死者がでていた戦後の1906kcalより低い数値です。摂取カロリーが一番高かったのは1975年の2188kcal。この時を境に、日本人の摂取カロリーは右肩下がりに下がっています。ところが、それに比べてBMIが25異常の肥満者は20年で徐々に増加傾向です。加えて、高血圧症も糖尿病に関しても患者の人口は増加しています。ここにカロリーコントロールによる病気の予防、治療の指導には疑問を感じます。

どういうことでしょうか?これは「質的な栄養失調」です。

日露戦争時、日本陸軍は兵士に白米ばかりを食べさせ、ビタミンB1不足による大量の脚気患者を引き起こしたことは有名です。エネルギー源となる糖質は十分なのにそれを活用する他の栄養素が足りない・・・これが「質的な栄養失調」であり、栄養素をエネルギーとしてしか換算しないカロリー計算の限界です。

まず、三大栄養素とどう付き合うか?

“糖質制限”は少し健康のことを気にしている方ならご存じなのではないでしょうか。三大栄養素とは糖質、脂質、タンパク質で、全てミトコンドリアでエネルギーに変換されます。異なる点として糖質は燃料としての役割しかありませんが、タンパク質と脂質は体の構成成分になる、ということです。心臓も筋肉でできていますから、タンパク質がその材料として重要ですし、脂質は細胞1つ1つの膜の構成成分です。糖質制限は、タンパク質も脂質も燃料として使えるのだから、糖質は不要とした食事療法です。糖質は血液成分の糖化など悪害もあるため控えた方がいいことは同感ですが、やたらと減らすだけではまた栄養不足となってしまいます。糖質を減らすなら注意点はその分きちんとタンパク質と脂質の摂取量を増やすことです。特にタンパク質はいくらとっても不足している、過剰摂取はないと言われているのでたくさんとるようにしましょう。

そして「質的栄養失調」の最も大きい原因がビタミンやミネラルの不足です。食事から取り入れた糖質、脂質、タンパク質はどれもミトコンドリアで代謝されます。この代謝経路で必要なものはビタミンB1・B2・B3・パントテン酸・αリポ酸・鉄・マグネシウムなど様々な栄養素で、それがかけても代謝が進まなくなってしまいます。今の日本でカロリー摂取量が減ったにもかかわらず肥満などの成人病疾患が増えている理由は、取り入れたエネルギーの素である糖質・脂質・タンパク質をきちんと代謝しエネルギーを獲得出来ていないためです。

特に心臓におすすめの栄養素は?

ビタミンE
常に働き続ける心臓は活性酸素(老化物質)のダメージと常に戦っています。活性酸素を除去する作用(抗酸化作用)があるビタミンEは加えて血流をさらさらにする効果もあり、心臓への負担を和らげます。また、細胞膜やミトコンドリア膜を正常化する作用があり、他の水溶性ビタミン、ビタミンB群やCの細胞内への吸収を高めてくれます。

ビタミンEを多く含む食品は? 1日の摂取目安は男性6.5mg・女性6.0mg

  1. あん肝 5.5mg/40g
  2. にじます 5.5mg/100g
  3. あゆ 5.0mg/100g
  4. うなぎ 4.9mg/100g
  5. はまち 4.6mg/100g
  6. ひまわり油 4.6mg/12g
  7. モロヘイヤ 4.6mg/70g
  8. 赤パプリカ 4.1mg/95g
  9. たらこ 3.6mg/50g
  10. 綿実油 3.4mg/12g

ビタミンCと鉄
ビタミンCは鉄の吸収を助けてくれるためこの2つを一緒にとるはおすすめです。ビタミンCと鉄の組み合わせは脂質をミトコンドリアに取り込み、エネルギーとして代謝するために必要な栄養素です。糖質制限中で脂質によった食事をしている方や中性脂肪が高めな方は代謝を進めるため特に必須です。さらにビタミンCはビタミンE同様抗酸化力があり、ストレスの強い方におすすめです。

ビタミンCを多く含む食品 1日の摂取目安は男女とも100mg

  1. アセロラ 510mg/30g
  2. 赤パプリカ 162mg/95g
  3. 貴パプリカ 143mg/95g
  4. トマピー 120mg/60g
  5. 菜の花 91mg/70g
  6. ブロッコリー 90mg/75g
  7. 芽キャベツ 80mg/50g
  8. 柿 70mg/100g
  9. いちご 62mg/100g
  10. カリフラワー 61mg/75g

塩分との付き合い方

心臓や血管の話をすると塩分量は?との質問を受けることがあります。塩分は体内の水分量を調整し、カリウムと協力して筋肉を動かす体になくてはならない存在です。ナトリウムを体外に排泄する腎臓に問題がなければ短期的な取り過ぎによる健康被害はほぼありません。血圧を上げる、との印象が強いですが、実際どうでしょうか?実は血圧の塩分に対する感受性は個人差がとても大きいと言われています。つまり、減塩により降圧効果がある人もいますが、全くない人もいるのだとか。特に体が冷たい陰性体質の人は塩分は温める作用があるため、かえって塩分をとったほうが血圧が下がったというケースもあるようです。塩分はナトリウムというミネラルでできています。ミネラルは単味で摂取すると体内のミネラルバランスを壊してしまいますので、岩塩や海塩など生成されていないマグネシウムなど他のミネラルも混ざっているものを使用しましょう。減塩ではなく適温で。やはり美味しくない、と感じるほどの減塩の必要はないようです。

中医学の知恵から

中医学でも、心は全身に血液を送り、精神の安定を支え、全身の機能を動かす肝心要の臓器と考えられています。心は常に動き続ける働き者であるため、熱を持ちやすく、負担が多ければオーバーヒート状態に。症状として、動悸や息切れが起こりやすくなります。疲れやすさや、のぼせ、ぼーっとするなどの自覚症状がある方は、やや心の疲れがでやすい体質です。汗をたくさんかく激しい運動はさけて、こまめに水分補給を心がけましょう。苦味のある夏野菜などで、熱を冷ますのもおすすめですよ。

がまの油

江戸時代に日本では、傷腫れ物をよく治すと言われ、口上巧みに販売されていた軟膏です。その口上でうたわれる、ガマの油の採取法はとても興味深いものです。鏡の箱に入れられたカエルが、自分の姿に驚きたらたらと、流れ出た油を煮詰めて作っていたそうです。これは日本での話ですが、中国の神農本草経という古典に、同じヒキガエルの原動物が収載されています。当時は体全体を乾燥させて利用していた様ですが、今では日本と同じように、その分泌物(ガマの油)を採取して乾燥し使用するようになっています。

蟾酥(せんそ)
シナヒキガエルなどの耳後腺や皮膚腺などから採取した分泌液(これがガマの油です)を、乾燥させた生薬を蟾酥と呼びます。効能は、皮膚の傷口の炎症・化膿や腫れをとり、痛みを去る効果があります。この時期は心筋の収縮力を手助けし、血液循環を改善する力から、その他滋養強壮薬と組み合わせて、疲労回復・動悸・息切れに使用されます。

律鼓心
蟾酥を含めた、8種類の生薬を含む、動悸・息切れにぴったりのお薬です。外出先などの急や症状に、鞄などに入れておいていただくと安心です。

甘草
全生薬の中で最も使用頻度が高い甘草。天然の甘味料などとしても用いられます。通常は生薬の調和など、方剤の角をとる役割を担いますがこの甘草が主薬となった方剤があります。それが炙甘草湯です。炙甘草湯は不整脈の代表処方で、復脈湯とも呼ばれます。オーバーヒートして疲れた心の気を補い元気をつけ、さらに陰を補うことで余計な熱を冷ます効果があります。炙甘草湯に用いる甘草は蜜であぶり、補気作用を増した炙甘草というものです。

自分だけではなく、見えない同居人とともに健康になる

漢方の効果は保証がなく、そんなものを本当に治療として使えるのか?と言う方は医療人の方もいます。この保証がない、というのはどの鍵穴に入るかが科学的に証明されていない、ということです。確かに西洋医学の薬と比較をすると漢方薬の効果は不明瞭です。しかし、2000年以上も病気を治すための治療薬として使われつづけているものがでたらめとは考えにくいです。漢方薬は私達の体だけに働きかけるのではなく、私達がまだまだ解明できていない同居人との共存を可能にしているのでは以下と思います。

他にもある細菌を共生させる例

例えば牛。牛は一日中草ばかり食べていますが、それだけであんな大きな体をキープ出来るほどの摂取カロリーをとっているのでしょうか?実はその秘密は牛の中にある長い胃腸。牛はその独特の消化器感で腸内細菌を育てています。その腸内細菌により牛は食べる草を発酵させて脂肪に変換し、吸収して利用しています。

もう一つ例を上げましょう。タンパク質を多く含む食品は?というと肉、魚、卵・・・それからお豆腐などの豆製品が思い浮かぶのではないでしょうか。植物は普通光合成によってエネルギーを作り出します。そして、光合成で作る物は糖質なので植物は糖、炭水化物、食物繊維を多く含みます。それに対しマメ科の植物だけはタンパクを多く含む実(豆)をつけます。その理由もまた、マメ科の植物にはタンパク質を合成することができる細菌が寄生しているためだそうです。

中医学:四君子湯

 補気の代表方剤である四君子湯です。四君子湯もまた単剤で用いられることは少ないですが、補気剤の多くがこの四君子湯の加減で作られている基本となる方剤です。

 構成生薬はエキス剤では通常6種類。
人参・・・12g
白朮・・・9g
茯苓・・・9g
炙甘草・・・5g
生姜・・・1.5g
大棗・・・1.5g

 四君子湯という名前でありながら6味?と思われるかもしれません。原点となる《和剤局方》にのる四君子湯は実は名前通りの4味で構成されています。

 実は原点となる四君子湯には裏の陰陽を調整する生姜・大棗は含まれません。また、中国で市販されている四君子湯も生姜・大棗を除いた4味で作られているようです。実は薬膳の教えが根付いている中華料理では生姜や大棗はお茶やお料理など様々なところで日常的に口にしますので、方剤にわざわざ組み込みません。日本の料理では生姜・大棗を常食としないのでエキス剤のような加減ができない方剤では最初から加味した状態で市販されています。四君子湯をベースにした六君子湯もまた2味多い8味で構成されています。

 四君子湯の効能は益気補中・健脾養胃です。四君子湯が適応している病態は脾気虚、消化吸収能力が弱まり、その結果「気」が不足したものです。構成生薬は全て補気作用があります。

 まず、人参の効能は大補元気・益気生津。補気の最重要薬であり、他のどの生薬より補気力は協力で、さらに脾や肺を潤してくれます。人参の類似として党参・太子参・西洋参などが用いられることがあります。補気作用は人参>党参=西洋参>太子参で、生津作用は西洋参>人参=太子参>党参です。特徴的なのは性で、人参が温、党参が微温、太子参が平性で西洋参が寒です。対応する病態が熱を持っているか、冷えを持っているかで使用する人参を変更することもあるようです。

 白朮は補気健脾・燥湿利水です。膩性のある人参と異なり、燥湿健脾の効果がある白朮が入ることにより、気の補充とともに気の生成や供給を担う臓器の機能を高め、気が動かす津液の動きを手助けします。

 茯苓もまた、利水滲湿作用があり、その効果は白朮より強力です。茯苓は人参とは好相性で、人参、茯苓とも安神効果があるので虚が強く精神状態が不安定な病態にはよく組み合わせて用いられます。四君子湯に茯苓を用いるのは六味丸にも通じる補うためにしゃを 少し入れる補瀉併用の考えです。醤油差しの穴を一方だけ閉じてしまうと醤油が出てこないように新しい物が入るときは少し余分な物を捨てる、逆にいらない物を捨てるためには少し補益をした方が効果的、という漢方の原則です。茯苓で水を動かすことで人参の補がより増強されます。例外的に茯苓など利水効果を併用しない人参製剤は人参単味の独参丸という処方です。独参丸は亡陽虚脱の重篤な状態に用いられ、そもそも病体から気血が脱している状態のため、茯苓などでの滲湿は用いず、人参での補益のみを行います。

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 甘草は、補気力は弱いですが、広範囲に使用される潤性の補気薬です。甘草は諸薬の効果をとどめて効果を長持ちさせる、また滞りを通す通陽の作用があるため、補を重点とする方剤には欠かせません。逆に、湿が停滞した湿証・気滞証・嘔吐者には原則は使用を控えます。

 四君子湯は方剤全体では温性に偏り、脾胃を守る代表方剤です。気の機能の中でも特に温める効果が弱く、適応症はおなかがゴロゴロなる下痢、食欲不振、腹脹、嘔吐などおなかの冷えが基本になります。脾気虚から脾陽虚に進行しやすい病体です。これとは別に中気虚という気の昇提作用と固表作用が弱ったタイプの気虚もあります。こちらは気虚から気陷、もしくは気虚から表虚に移行しやすく、このケースには人参ではなく黄耆をベースにした方剤で補気します。補気薬は主にこの脾胃気虚の人参系と、中気虚の黄耆系に分かれます。

 四君子湯から派生した補気薬は多数あります。

異功散
 四君子湯に陳皮を加えた補剤です。補気健脾に理気が加わります。四君子湯同様の脾胃気虚症状に悪心・嘔吐・腹部膨満感・痛みなどの気滞症状があるときに用います。四君子湯で却って胸がつかえて上腹部がはるときに使えます。特に小児に効果があります。

白朮散
 四君子湯に藿香・木香・葛根を加えて健脾に止瀉を強めた方剤です。長期にわたる脾胃虚証に、津液内耗による嘔吐・下痢・煩渇などがあるときに使用します。

人参湯
 四君子湯から茯苓を引き、乾姜を足した方剤です。脾胃虚寒に用いる処方で、散寒作用が強い乾姜と言われています。脾虚が久しくなり陽虚まで達していたらさらに附子を加えると附子理中湯と呼ばれる方剤となります。

六君子湯
 四君子湯に陳皮・半夏を加えた方剤です。健脾補気・和中化痰で脾虚により痰湿が内にたまった症候に用います。咳・嘔吐・食欲不振など幅広く用いられます。

八珍湯
 四君子湯と四物湯を合わせた合剤です。気血両虚に用いられ、腹痛・食欲不振・下痢・悪寒・発熱・生理不順などに用いられます。

中医学:和剤局方

 「日本薬局方」の名前はここから来ています。

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 宗の8代皇帝・徽宗が医官に命じて編集したものが『太平恵民和剤局方』、通称和剤局方です。

それまでの時代、医学は支配階級の人の間でのみ伝承されていましたが、この和剤局方の出版で庶民のための医学となりました。日本においても江戸時代、多くの漢方家がこの和剤局方の影響を大きく受けています。

 徽宗皇帝が残した和剤局方は全五巻からなり、297処方が収載されています。主な処方は冷えによる痙攣性疼痛に使用する「安中散」(大正漢方胃腸薬のベースになっています)、中焦の気滞を改善する「香蘇散」、湿により弱った胃腸を回復させる「平胃散」、婦人薬の基本となる「四物湯」補気剤の代表「四君子湯」などがあります。さらに四君子湯と四物湯を合わせ、手術後によく使われる「十全大補湯」や更年期障害など婦人の不定愁訴に用いる「加味逍遙散」も和剤局方に収載されています。

中医学:当帰芍薬散

 保険調剤で使用される頻度が最も高い方剤の一つかと思います。当芍美人との言葉がありますが、当帰芍薬散が適合する証が色白ほっそりした女性、竹久夢二が描くような美人が多いことに由来する言葉だそうです。薬情を見ると「 血行をよくして体をあたため、貧血症状を改善します。また、痛みをやわらげたり、ホルモンバランスを整える効果も期待できます」というような紹介をされています。補血・活血の作用を持ち、貧血や冷え性を改善する代表方剤のように言われますが、内容を深く見ると意外な姿が見えてきます。

本気のくまにゃんさんによる写真ACからの当帰の写真 

 まず、貧血治療の代表の印象ですが、方剤の中に鉄分は含まれません。当帰芍薬散に限らず、血虚の治療において材料となる鉄は食材から補うことが基本で、補血薬は血の生成を促す作用(例えば胃腸の機能を整えて鉄の吸収を助けるなど)を増強すると考えられます。

 貧血と言えば基本はヘモグロビンの数値を気にするのではないでしょうか。注意して欲しいのはこの血液検査の数値で貧血と指摘を受けたらもうすでに重傷の鉄不足です。鉄はフェリチンというタンパク質により体内に貯蔵されています。生理のある成年女性のフェリチンの基準値は10ng~80ng/mlと言われていますが、このフェリチンの不足による体調不良は60ng/mlから始まると言われています。鉄はヘモグロビンのみが必要としているミネラルではありません。 鉄はコラーゲン生成や脳内の伝達物質の合成にも関与するため、その不足は皮膚や骨の症状や不眠、うつ、集中力の低下など様々な不定愁訴の原因となります。酸素を組織に運搬するヘモグロビンの不足は命の存続に直結するので鉄の利用が最優先で行われますので、そのヘモグロビンが低下し始めたころはもうすでに他の組織では鉄の不足が進行した状態です。

 漢方の世界で言う、血虚はこのフェリチンの不足が始まった時点と考えられます。単に補血薬と患者に説明しても「病因で貧血と言われたことはありません」と突っぱねられるケースは多くあります。服薬の意義をきちんと伝えるため西洋医学の貧血との診断=血虚ではないことは頭に入れてそれをきちんと伝えられるように準備しておく必要があります。

 補血・活血のイメージが強い当帰芍薬散ですが、方剤学で補血・活血薬に分類していることはないと思います。私が手元に置いている本でも一冊は和解剤、もう一冊では化痰利水剤となっています。構成を見ていきましょう。

芍薬・・・18g
当帰・・・9g
川芎・・・9g
茯苓・・・12g
沢瀉・・・9g
白朮・・・12g
効能は養血疏肝・健脾理湿となっています。

 生薬の配合は大きく2つに分かれています。まず、補血調血の四物湯から芍薬・当帰・川芎の3つと、利水剤の四苓散から茯苓・沢瀉・白朮の3つです。

 四物湯は川芎・当帰・芍薬・熟地黄からなる補血薬です。ここで注目して欲しいのは4つの生薬の内、当帰芍薬散に含まれない熟地黄がどんな性質をもつのかです。熟地黄は補血の重要薬であり、四物湯の主薬です。補血力に関しては四薬中熟地黄が最も強力と言えます。その熟地黄が構成から外されているということは、当帰芍薬散の構成において補血効果はそこまで重要とされず、四苓湯が組み合わされていることから、水湿の停滞と脾の弱さがある病態を目標にしていることがうかがえます。それを踏まえると薬性が膩性(水湿の滞りを作りやすい)であり、脾胃の障害を起こしやすいという点も熟地黄が外されるのも納得がいきます。

 配合量が最も多いのは芍薬です。芍薬は補陰血も期待出来ますが、肝陰をよく補い、柔肝作用があります。柔肝は気血の流れを調整する肝の緊張をなだめる作用、自律神経系の調整と言い換えることも出来ると思います。当帰芍薬散は肝陰を消耗することによる気の流れの不調が背景にある病態を意識していると言えます。ここでは養陰作用が大きい白芍が活血の赤芍より適していると考えられます。

 次に配合量が多いものは当帰です。当帰は補血作用と活血調経に働きかけます。調経とは月経の調整、ホルモンバランスの正常化です。保険調剤で使用出来る漢方薬の中で当帰の配合量が最も多いため、生理痛、生理不順、更年期障害など月経が関わる女性のトラブルに広く用いられています。調経作用としての当帰の効果を期待するなら一般薬では圧倒的な当帰の量を配合したコタロー製薬の婦人方やイスクラ製薬の婦宝当帰膠などの選択肢もあり、当帰芍薬散を用いるより切れ味がよいかもしれません。やはり当帰が補う血は肝に入ることから、単なる陰血不足より、肝の疏泄機能の回復を目的として配合されています。

 そして、”血中の気薬”と呼ばれる川芎が、血の流れと気の流れに働きかけています。芍薬により柔肝し整えた肝をバックアップして気血の流れを改善します。

 次いで健脾利水薬の白朮・茯苓・沢瀉について。こちらは四苓散の構成生薬ですが、猪苓が抜かれています。猪苓は利水作用が強く、健脾を持ちません。ここで猪苓が抜かれているのはその強い利水効果が胎児に影響を与えるとの危惧があったからです。そう、今では冷え性や貧血への適応が強い印象ですが、当帰芍薬散は本来は妊娠中の腹痛を意識して作られた方剤です。言われれば、穏やかな活血と利水、脾胃への負担が少ない生薬での補陰血など、つわりなど胃腸の不調と併せてむくみがでる妊婦向きな処方です。

 3薬の中で、比較的強い利水をもつ沢瀉ですが、六味丸にも組み込まれる虚証にも使いやすい安全な利水薬と言われています。茯苓は温和な広範囲に応用可能な利水健脾薬で、安心(気持ちを落ち着ける)作用を持ちます。また、白朮は利水作用は弱いですが、補気健脾に優れ、加えて安胎作用を持ち流産防止に用いられます。

 全体的に当帰・川芎が温性なのに対し、配合量が多い芍薬が微寒、沢瀉が寒であることを考えると方剤全体は平性からやや温性くらいではないでしょうか。特に温める処方ではありません。また、当帰・芍薬は潤性で陰を補う働きがありますが、白朮・沢瀉・茯苓は燥性で使いすぎは乾きを助長します。滞った陰を排除し、そこに動きのいい陰を補い、結果的に乾かすまでの処方ではないと思われますが、積極的な補血効果があるほどではないように思います。

 気血津液の動きが悪いことで冷えや部分的な陰虚・血虚は改善はしますが、基本的には陰血の量の補強よりも巡りの改善への働きかけをする側面が強いと思います。根本的な陰血の虚がある病態には四物湯など熟地黄を含む補陰血をする方剤が適していますし、熱源が弱ければ真武湯や八味地黄丸など陽気を足す方剤との併用を考慮した方が良さそうです。

 当芍美人は色白で冷え性、体力が低下しほっそりした女性のことです。ここにも鍵があり、冷えや体力の低下のような虚が目立ちそうな外感ながら、色白、と言うところから肌質はキメの細かい、決して乾いた肌ではない印象です。巡りの悪さによって部分的な虚と湿の停滞をもつ(乾燥はしていない)病態が当帰芍薬散の目標とする証となります。

中医学:小建中湯

 小建中湯は構成生薬の割合を変化させるだけで適応が変化する、漢方薬の面白さを教えてくれます。

 小建中湯の主治は”脾胃虚寒による疼痛”です。脾陽の不足により中焦(腹部)に寒が生じ、胃や腹部に痛みを生じた時の処方で、体力虚弱なものや小児の腹痛によく使われます。

 小建中湯の構成生薬は以下のようになります。
膠飴・・・18g
白芍薬・・・12g
桂枝・・・6g
炙甘草・・・3g
生姜・・・9g
大棗・・・6g

 構成生薬を見ると、小建中湯は桂枝湯の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯という方剤に膠飴を加えたものです。この少しのアレンジで感冒の解肌を目的とする桂枝湯が、沈痙を目的とする小建中湯となります。

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 生薬の配合量は参考にする文献によって微妙に差があることはよくありますが、桂枝湯においての桂枝・芍薬・生姜・大棗は必ず等量で用いられます。その理由は桂枝湯は陰と陽、表と裏を調和することを目的とするバランスの方剤だからです。表の陰陽を補う桂枝と芍薬、裏の陰陽を補う生姜・大棗、この4つはどれが突出することなく等量で用いることで全てのバランスが整います。

 その完成された桂枝湯からあえて芍薬だけを増量したものが桂枝加芍薬湯です。桂枝加芍薬湯は構成生薬は同じといえ桂枝湯の変方というよりは、芍薬甘草湯の加法と考えた方が捉えやすくなります。芍薬甘草湯は和陰緩急といい、陰血を補うことで緊張をほぐす方剤です。この芍薬と甘草の組み合わせは「酸甘化陰」と言って薬膳では常套ですが、酸味と甘味を合わせると陰を補うことを目的とします。この陰が筋肉の痙攣(過剰な反応)をなだめるため、 足のつりといえば西洋薬より効果が高い芍薬甘草湯として知られるようになりました。 芍薬甘草湯は横紋筋(手足を動かす筋肉)だけではなく平滑筋(内臓の筋肉)の痙攣にも効果があるため、内臓の痙攣(緊張)による疝痛にも広く用いられます。足のつりのイメージが強いですが肩こり、座骨神経痛、生理痛、肩こり、胃けいれんなど応用範囲は広い薬です。

 芍薬甘草湯並び、小建中湯で一般的に用いられる芍薬は花色が白の白芍です。白芍は酸味を持ち、肝の陰血を補うことで気を緩め、気滞を改善して止痛します。肝血虚や肝陰虚に伴う肝気鬱結証の脹満痛、腹痛、生理前の胸の張り感、筋肉痙攣や疼痛に用いられます。花色が赤い赤芍は苦味を持ち、活血力に優れ、かつ止痛をしますが、白芍のように肝陰を補う作用は強くありません。小建中湯や桂枝湯、桂枝加芍薬湯などでは陰を補右目的で白芍を使うことになりますが、四逆散や桂枝茯苓丸などは患者によって赤と白を使い分けて配合することもありえます。

 桂枝に比較し芍薬を増量することで、解表薬だった桂枝湯が和裏剤の桂枝加芍薬湯となり、さらに膠飴で補脾補陽を強化したものが小建中湯です。膠飴は「健脾には必ず甘味を用いる」という治則に基づいています。軽度の体力低下(気血不足)と消化機能低下を基礎に持ち、自律神経の失調による腹痛、動悸、汗の出すぎに用いられます。冷え、疲れ、緊張などで起こる発作性の腹痛、例えば空腹時に痛む小児の臍周囲の疝痛に効果があります。強く発汗させることができない虚弱者や小児には桂枝湯の代わりに小建中湯を使用することも出来ます。

 芍薬と甘草が組み合わさって陰を補充するのに対し、桂枝もまた甘草と組み合わせて陽を補充します。桂枝の辛味と甘草の甘味は「辛甘化陽」で中焦の陽気を補い寒を追い払います。桂枝の通陽化気の効果は芍薬、膠飴で補った陰血を調和し、活発に巡らせ、さらに痰湿を吸収し除いてくれます。

 生姜・大棗は裏の衛営を調和し甘草の力を得て脾気を増強してくれます。

 小建中湯はもちろん安全性の高い方剤ですが、誰彼かまわず使えるというわけではありません。まず、小建中湯はとても穏やかな処方なので、脾胃虚寒が強ければ大建中湯を用いた方が効果が得られます。また、補陰薬は多く含まれていますが方剤は全体に温性に偏るため陰虚火旺の微熱には用いられません。また、甘味が強いので、胃満腹脹の気滞症状には適しません。

 また、小建中湯を基礎とした方剤も多く作られています。

黄耆建中湯
 小建中湯に黄耆を加えた処方です。黄耆は人参に次いで補気の代表生薬です。その効能は補気昇陽・補気固表。黄耆は肉芽形成を促進するので、胃や皮膚の潰瘍に効果があり、そのため托瘡生肌、排膿を促し、創傷や皮膚化膿症の治癒を促進します。小建中湯証に加えて気虚症状が強い病態を目標とした処方ですが、臨床的には小児を中心に脾胃の虚弱があるものを対象にしたアトピーや皮膚潰瘍疾患などに効果的です。

当帰建中
 こちらも小建中湯に当帰を加えた処方です。桂枝湯をベースにした小建中湯の陰陽を調和する構成に加えて、補血活血調経の当帰が加わります。当帰は補血薬の印象が強いですが。適度に血の量を増やしながら、流れも改善します。血虚の症候を呈する産前産後の腹痛や月経困難症に用いることが出来ます。

帰耆建中湯
 小建中湯に当帰と黄耆を加えた処方です。気を補う黄耆と血を補う当帰を加えた気血両虚への処方で、慢性化膿症あるいは潰瘍、炎症はごく軽度でうすい浸出液が見られ長期にわたって治癒傾向がないものが対象と言われています。小建中湯で体力を補い、黄耆で肉芽形成促進・排膿の作用と当帰の栄養・血行促進の作用を加えたものです。この処方は花岡清洲が刀傷を治療するために開発したとの説もあり、皮膚の再生を促す治療薬としてはかなりの実力があると感じます。

中医学:六味丸

 基本方剤の一つ六味丸です。六味丸は腎陰の不足を補う代表方剤です。6つの生薬からなり、主薬が熟地黄であることから六味地黄丸と名付けられています。この六味丸をもとに、八味丸、牛車腎気丸、知柏地黄丸、麦味地黄丸、杞菊地黄丸などさまざまな方剤が派生します。

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六味丸は瀉補のバランスに優れ適応範囲も広く扱いやすい方剤です。腎虚と言われる以下の症状に用いられます。膝腰酸軟(腰や膝がだるく、力が入らない)・目眩・耳鳴り・難聴・盗汗・遺精・微熱・のぼせ・頻尿などです。応用として、糖尿病・高血圧・慢性腎炎・小児の発育不良・痴呆症・不妊症などにも用いることができます。

構成生薬は
熟地黄・・・24g
山薬・・・12g
山茱萸・・・12g
沢瀉・・・9g
茯苓・・・9g
牡丹皮・・・9g
 補腎薬として知られていますが、三補三瀉で半数は補に残り半分は瀉に働きます。また、腎だけではなく腎・脾・肝に働く生薬が2味ずつ入っています。

 補にも瀉にも、寒も熱もバランスのとれた方剤です。添付文書の適応に「尿量減少または多尿で・・・」などという記述が入るものこの絶妙なバランスのためです。尿量が多いときは減らす、少ないときは増やすというバランスの崩れに働きかけるのはこの三補三瀉の構成のためです。

 主薬である熟地黄は微温で補血滋陰の重要薬です。補陰と言われますが、気血津のもとになる腎精を補充しますので、間接的に気血も満たします。熟地黄は胃にもたれると言われるので脾胃虚弱者には注意が必要です。

 山薬は山芋を乾燥させたものです。脾を保護するため、中国では普段の料理にもよく使われます。補気健脾薬が化湿作用を併せ持つものが多いのに対し、山薬は補気健脾に加えて養陰作用を持ちます。脾陰だけではなく肺腎まで補い、栄養不良状態を改善します。

 3つ目の補薬は山茱萸です。山茱萸は補肝腎陰の代表です。微温性で補肝陰の作用に優れますが、補腎精、さらに補腎陽も行います。肝を補う生薬らしく酸味をもち、それが収斂固澁の作用を発揮するので、遺精、遺尿、頻尿などの症状の改善に役に立ちます。

 補薬は全てやや温性、そして潤性です。熟地黄→腎、山薬→脾、山茱萸→肝を補う構造となっています。

次に瀉剤です。沢瀉は強力な利水作用を持ち、特に下焦の湿熱に多用されます。帰経は腎と膀胱で、特に腎陰虚による熱を冷まします。

 茯苓は沢瀉同様利水作用のある生薬ですが、主に脾に作用し、その薬性は温和で広範囲に使用ができます。湿の除去と同時に健脾利湿で脾の機能を高めます。平性で山薬で補った陰液を巡らせます。

 牡丹皮は寒で、清熱涼血作用に優れ、虚熱も制するため、虚証実証共に使用可能です。その帰経は血が集中する肝を中心に心と腎も含まれます。巡りが悪くなり熱化した血を清熱し、巡らせます。補単肥による巡りへの介入がないと腎で陰を補っても運搬ができず逆に負担になってしまいます。

 全体的にやや温性な3補に対し、瀉剤は茯苓以外は寒性です。補剤同様、沢瀉→腎、茯苓→脾、牡丹皮→肝へ働きかけ、ここでも補剤と瀉剤で寒熱の陰陽になっています。

 補うものを入れて、瀉すものを入れて・・・それではプラスマイナスゼロでは?と思えますが、六味丸において瀉剤を加える理由は余分なものを瀉することで新しく清いものを補給する、という考えです。

 左帰丸は補腎陰の代表方剤です。陰を補う薬でありながらその構成生薬に補陽の力が強い鹿角膠を含みます。これは決して陰を補いすぎないように陽を加えて調整しているわけではありません。これは陰陽互根(陰と陽はお互い支え合い、互いが存在しなければもう片方も存在しない)を元に、“陽中求陰(陽の中に陰を求める)”という陰のみを補うより陽も同時に補ったほうが陰がよく育つとの考えを基にして組まれた配合です。

 六味丸の補のために瀉を組み合わせるのはまさに、この陽中に陰を求める、中医学独特の考え方です。効果的に補するために、瀉を組み合わせた配合です。

 この瀉補をバランスよく組み合わせた上、腎、肝、脾の幅広い範囲をカバーするため、六味丸の適応は広く、長期の使用でも副作用が起こることはまずありません。場合により胃に湿がたまりやすい方に、熟地黄による胃もたれが出現することがあります。悪心、嘔吐、舌苔が厚いなどがあれば注意が必要です。

六味丸はそのバランスの良さから他数種類の生薬を加味(よりニッチな適応に合わせるため生薬を追加すること)したアレンジ方剤が多く存在します。

知柏地黄丸
 虚熱を清する知母と黄柏が加味されています。腎陰虚による虚熱の症状、微熱・火照り・頭痛・心煩・盗汗・咽痛などに用います。

杞菊地黄丸
 補肝陰の枸杞子と清肝明目の菊花が加味されています。目を滋養する肝陰と肝陰の大本である腎陰を補うことが出来る処方となっています。年を重ねて現れる虚による目の症状には適していますが、若年層の花粉症の痒みのような実した症状の場合は清肝明目湯なども考慮した方がいいかもしれません。菊の花は花色で効能が違うと言われていて、白い色が清肝明目、黄色は清熱解毒作用が優れているようです。杞菊地黄丸に使われている菊は当然白で、お刺身に薬味としてのっている小菊は黄色なのはこの理由です。

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麦味地黄丸
 八仙丸とも呼ばれます。肺腎陰虚を目標とした処方です。腎陰を補う六味丸に、肺陰を補う麦門冬と五味子が含まれます。肺腎陰虚による皮膚の乾燥、掻痒感などの皮膚疾患、乾いた咳に対応します。

耳鳴丸
 六味丸に加えて柴胡と磁石が加味されています。その名の通り、耳鳴りを鎮める処方です。腎陰を補う六味丸と、気の滞りを発散し、正気を上に持ち上げる柴胡と浮き上がった陽を落ち着かせ、聴力を高める磁石を加えています。肝陽の上亢や腎陰不足に適しています。血虚による耳鳴りは滋腎通耳湯も選択肢になります。