心臓を中心に慢性疾患について考える

呉越同舟:私達の体は私達だけのものではありません

心臓の病気も様々あります。狭心症、不整脈、心筋梗塞、心不全、高血圧・・・こういった慢性疾患にかかった方から、“病気を治すために病院に通院しているのに一向によくならない”と言われることがあります。他にも、慢性疾患と言えば糖尿病、脂質異常症、高尿酸値血症、アルツハイマー型認知症やなど様々ありますが皆様同様に治らないことへの不安やいらだちを感じている様に思います。医師の指示通り薬を飲んで、必要であれば手術など適切な処置を受けているにも関わらず。なぜこのような慢性疾患は治っていかないのでしょうか?

2003年に終了したヒトゲノムプロジェクトをご存じでしょうか?私たち人間の遺伝情報を解読する総額30億ドルと言われる一大プロジェクトです。このヒトゲノムプロジェクトにより私達の遺伝情報が明らかにされれば今まで“遺伝”“体質”と諦めていた慢性疾患、例えば高血圧や糖尿病、アルツハイマーや精神疾患など様々な病気の治療法がめざましい勢いで発展する、と言われていました。

16年前、プロジェクトは終了しました。しかし、そこからそれほどのめざましい医療の進歩はあったでしょうか?

 ゲノムプロジェクトの終盤、科学者たちがこぞってヒトの遺伝子の総数を予想しました。ヒトの遺伝子数なんてピンときませんよね。遺伝子にはヒトの構成成分であるタンパク質の作り方が書かれています。その時点でマウスの遺伝子数は2万3千個、小麦の遺伝子数が2万6千個と明らかになっていました。

 このゲノム総数予想ゲームを制したのはヒトゲノムプロジェクトを率いていたリー・ロウェン研究員。その予想6は小麦遺伝子とほぼ同じ2万5947個。実際のゲノム数その予想よりさらに低い2万1000個でした。つまり誰もが予想しないほど、ヒトの遺伝情報はとても短いのです。この事実は本当に世界を驚かせました。なにせ話す能力も、想像力も知的思考力もないようなミジンコでさえそれを大きく上回る3万1000個の遺伝子を持っていたのですから。

 ミジンコより私達人間の遺伝情報が少ないなんて本当に意外です。実はここに私達の病気が病院でなかなか治らない理由の一端があります。

薬というのはよく“鍵と鍵穴の関係”と説明されます。鍵穴のような形をした“受容体”と呼ばれるタンパク質にホルモンやペプチドなど、信号を与える鍵となる物質が結合することで、血圧が上がる、気管支が広がる、胃酸の分泌が促進されるなど様々な生理活動が起きます。これまで、人間のゲノムを解析すればこの鍵穴の構造が全て解明され、“個人差”“体質”として片付けるしかなかった病気の原因を突き止めることができると期待されていました。

 ヒトゲノムプロジェクトが終了して十数年。革新的な医学の発展がないことに失望の声も上がりましたが、ヒトが驚くほどに情報が少ない遺伝子を持つことはまた異なった視点をもたらしました。

ミジンコよりも単純な遺伝子をもつ私達がここまで複雑な知的活動ができるのはなぜでしょうか。その鍵は私達の体に強制する100兆をも超える共生微生物;細菌・ウィルス・菌類です。私達はこの共生微生物たちを上手に利用し、生命活動で必要な物質、ビタミンやタンパク質の合成を外注しています。外注先があるため、本部である私達自身の遺伝子情報はコンパクトで構わないのです。「あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものである」と言った研究者がいます。実は私達の体のうち、ヒトの細胞はたった10%。残りは私達の体にヒッチハイクしている微生物なのです。

 今の西洋医学はとてもよく研究され、どの化学物質がどのような形で鍵穴に入り、そしてそのあとどのような作用を引き起こすのかを詳細に解明されています。これを私達の体を船に例えれば、これは船本体の修理をするということです。しかし運航をスムーズ進めるためには船体がよければいい、というものではありません。そう、その船を動かし、メンテナンスをする船員、共生微生物をうまく付き合っていくことも大切なのです。私達の体を間借りしている微生物たちも、船である私達の体の健康が損なわれないことが望みで、そのために協力をしてくれます。まさに呉越同舟。私達の体は私達のものであって、そうでないのです。

心臓は筋肉の塊です。

では、今回のテーマである心臓の話に移りましょう。心臓は私達の体のすみずみまで血液にのせて栄養素やホルモンを運ぶ大切な役割を持ちます。心臓はただの一度も休むことなく全身に血を運びつづけます。

心臓は筋肉で出来ています。この筋肉を心筋と呼び、特徴は非常に多くのミトコンドリアを保持していることです。ミトコンドリア、とは聞いたことはあるけれどもよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。ミトコンドリアは細胞の発電所と言われる小器官で、細胞呼吸を通じて食物をエネルギーに変換します。実はこのミトコンドリアは太古の昔私達のご先祖様の細胞が取り込んだ細菌です。今では細菌とは言えないほど私達の細胞と切っても切り離せない存在ですが、ミトコンドリアと提携することにより私達は利用出来るエネルギーが飛躍的に伸び、様々な生命活動を行えるようになり進化の道をたどることになりました。この発電所であるミトコンドリアがたくさん含まれるということは心筋では大量のエネルギーを必要とする、ということがわかります。

西洋薬は心臓の働きにムチをうつ?それより心臓の体力回復を

働き者の心臓のケアに関して、まず何よりストレスなく働ける栄養の提供が大切になります。

現代の日本人は例外なく栄養失調!?

飽食の時代と言われて久しいですが、私達日本人は例外なく栄養失調と言われています。2011年の私達の摂取カロリーは成人で平均1840kcal。これは1946年、餓死者がでていた戦後の1906kcalより低い数値です。摂取カロリーが一番高かったのは1975年の2188kcal。この時を境に、日本人の摂取カロリーは右肩下がりに下がっています。ところが、それに比べてBMIが25異常の肥満者は20年で徐々に増加傾向です。加えて、高血圧症も糖尿病に関しても患者の人口は増加しています。ここにカロリーコントロールによる病気の予防、治療の指導には疑問を感じます。

どういうことでしょうか?これは「質的な栄養失調」です。

日露戦争時、日本陸軍は兵士に白米ばかりを食べさせ、ビタミンB1不足による大量の脚気患者を引き起こしたことは有名です。エネルギー源となる糖質は十分なのにそれを活用する他の栄養素が足りない・・・これが「質的な栄養失調」であり、栄養素をエネルギーとしてしか換算しないカロリー計算の限界です。

まず、三大栄養素とどう付き合うか?

“糖質制限”は少し健康のことを気にしている方ならご存じなのではないでしょうか。三大栄養素とは糖質、脂質、タンパク質で、全てミトコンドリアでエネルギーに変換されます。異なる点として糖質は燃料としての役割しかありませんが、タンパク質と脂質は体の構成成分になる、ということです。心臓も筋肉でできていますから、タンパク質がその材料として重要ですし、脂質は細胞1つ1つの膜の構成成分です。糖質制限は、タンパク質も脂質も燃料として使えるのだから、糖質は不要とした食事療法です。糖質は血液成分の糖化など悪害もあるため控えた方がいいことは同感ですが、やたらと減らすだけではまた栄養不足となってしまいます。糖質を減らすなら注意点はその分きちんとタンパク質と脂質の摂取量を増やすことです。特にタンパク質はいくらとっても不足している、過剰摂取はないと言われているのでたくさんとるようにしましょう。

そして「質的栄養失調」の最も大きい原因がビタミンやミネラルの不足です。食事から取り入れた糖質、脂質、タンパク質はどれもミトコンドリアで代謝されます。この代謝経路で必要なものはビタミンB1・B2・B3・パントテン酸・αリポ酸・鉄・マグネシウムなど様々な栄養素で、それがかけても代謝が進まなくなってしまいます。今の日本でカロリー摂取量が減ったにもかかわらず肥満などの成人病疾患が増えている理由は、取り入れたエネルギーの素である糖質・脂質・タンパク質をきちんと代謝しエネルギーを獲得出来ていないためです。

特に心臓におすすめの栄養素は?

ビタミンE
常に働き続ける心臓は活性酸素(老化物質)のダメージと常に戦っています。活性酸素を除去する作用(抗酸化作用)があるビタミンEは加えて血流をさらさらにする効果もあり、心臓への負担を和らげます。また、細胞膜やミトコンドリア膜を正常化する作用があり、他の水溶性ビタミン、ビタミンB群やCの細胞内への吸収を高めてくれます。

ビタミンEを多く含む食品は? 1日の摂取目安は男性6.5mg・女性6.0mg

  1. あん肝 5.5mg/40g
  2. にじます 5.5mg/100g
  3. あゆ 5.0mg/100g
  4. うなぎ 4.9mg/100g
  5. はまち 4.6mg/100g
  6. ひまわり油 4.6mg/12g
  7. モロヘイヤ 4.6mg/70g
  8. 赤パプリカ 4.1mg/95g
  9. たらこ 3.6mg/50g
  10. 綿実油 3.4mg/12g

ビタミンCと鉄
ビタミンCは鉄の吸収を助けてくれるためこの2つを一緒にとるはおすすめです。ビタミンCと鉄の組み合わせは脂質をミトコンドリアに取り込み、エネルギーとして代謝するために必要な栄養素です。糖質制限中で脂質によった食事をしている方や中性脂肪が高めな方は代謝を進めるため特に必須です。さらにビタミンCはビタミンE同様抗酸化力があり、ストレスの強い方におすすめです。

ビタミンCを多く含む食品 1日の摂取目安は男女とも100mg

  1. アセロラ 510mg/30g
  2. 赤パプリカ 162mg/95g
  3. 貴パプリカ 143mg/95g
  4. トマピー 120mg/60g
  5. 菜の花 91mg/70g
  6. ブロッコリー 90mg/75g
  7. 芽キャベツ 80mg/50g
  8. 柿 70mg/100g
  9. いちご 62mg/100g
  10. カリフラワー 61mg/75g

塩分との付き合い方

心臓や血管の話をすると塩分量は?との質問を受けることがあります。塩分は体内の水分量を調整し、カリウムと協力して筋肉を動かす体になくてはならない存在です。ナトリウムを体外に排泄する腎臓に問題がなければ短期的な取り過ぎによる健康被害はほぼありません。血圧を上げる、との印象が強いですが、実際どうでしょうか?実は血圧の塩分に対する感受性は個人差がとても大きいと言われています。つまり、減塩により降圧効果がある人もいますが、全くない人もいるのだとか。特に体が冷たい陰性体質の人は塩分は温める作用があるため、かえって塩分をとったほうが血圧が下がったというケースもあるようです。塩分はナトリウムというミネラルでできています。ミネラルは単味で摂取すると体内のミネラルバランスを壊してしまいますので、岩塩や海塩など生成されていないマグネシウムなど他のミネラルも混ざっているものを使用しましょう。減塩ではなく適温で。やはり美味しくない、と感じるほどの減塩の必要はないようです。

中医学の知恵から

中医学でも、心は全身に血液を送り、精神の安定を支え、全身の機能を動かす肝心要の臓器と考えられています。心は常に動き続ける働き者であるため、熱を持ちやすく、負担が多ければオーバーヒート状態に。症状として、動悸や息切れが起こりやすくなります。疲れやすさや、のぼせ、ぼーっとするなどの自覚症状がある方は、やや心の疲れがでやすい体質です。汗をたくさんかく激しい運動はさけて、こまめに水分補給を心がけましょう。苦味のある夏野菜などで、熱を冷ますのもおすすめですよ。

がまの油

江戸時代に日本では、傷腫れ物をよく治すと言われ、口上巧みに販売されていた軟膏です。その口上でうたわれる、ガマの油の採取法はとても興味深いものです。鏡の箱に入れられたカエルが、自分の姿に驚きたらたらと、流れ出た油を煮詰めて作っていたそうです。これは日本での話ですが、中国の神農本草経という古典に、同じヒキガエルの原動物が収載されています。当時は体全体を乾燥させて利用していた様ですが、今では日本と同じように、その分泌物(ガマの油)を採取して乾燥し使用するようになっています。

蟾酥(せんそ)
シナヒキガエルなどの耳後腺や皮膚腺などから採取した分泌液(これがガマの油です)を、乾燥させた生薬を蟾酥と呼びます。効能は、皮膚の傷口の炎症・化膿や腫れをとり、痛みを去る効果があります。この時期は心筋の収縮力を手助けし、血液循環を改善する力から、その他滋養強壮薬と組み合わせて、疲労回復・動悸・息切れに使用されます。

律鼓心
蟾酥を含めた、8種類の生薬を含む、動悸・息切れにぴったりのお薬です。外出先などの急や症状に、鞄などに入れておいていただくと安心です。

甘草
全生薬の中で最も使用頻度が高い甘草。天然の甘味料などとしても用いられます。通常は生薬の調和など、方剤の角をとる役割を担いますがこの甘草が主薬となった方剤があります。それが炙甘草湯です。炙甘草湯は不整脈の代表処方で、復脈湯とも呼ばれます。オーバーヒートして疲れた心の気を補い元気をつけ、さらに陰を補うことで余計な熱を冷ます効果があります。炙甘草湯に用いる甘草は蜜であぶり、補気作用を増した炙甘草というものです。

自分だけではなく、見えない同居人とともに健康になる

漢方の効果は保証がなく、そんなものを本当に治療として使えるのか?と言う方は医療人の方もいます。この保証がない、というのはどの鍵穴に入るかが科学的に証明されていない、ということです。確かに西洋医学の薬と比較をすると漢方薬の効果は不明瞭です。しかし、2000年以上も病気を治すための治療薬として使われつづけているものがでたらめとは考えにくいです。漢方薬は私達の体だけに働きかけるのではなく、私達がまだまだ解明できていない同居人との共存を可能にしているのでは以下と思います。

他にもある細菌を共生させる例

例えば牛。牛は一日中草ばかり食べていますが、それだけであんな大きな体をキープ出来るほどの摂取カロリーをとっているのでしょうか?実はその秘密は牛の中にある長い胃腸。牛はその独特の消化器感で腸内細菌を育てています。その腸内細菌により牛は食べる草を発酵させて脂肪に変換し、吸収して利用しています。

もう一つ例を上げましょう。タンパク質を多く含む食品は?というと肉、魚、卵・・・それからお豆腐などの豆製品が思い浮かぶのではないでしょうか。植物は普通光合成によってエネルギーを作り出します。そして、光合成で作る物は糖質なので植物は糖、炭水化物、食物繊維を多く含みます。それに対しマメ科の植物だけはタンパクを多く含む実(豆)をつけます。その理由もまた、マメ科の植物にはタンパク質を合成することができる細菌が寄生しているためだそうです。

中医学:和剤局方

 「日本薬局方」の名前はここから来ています。

acworksさんによる写真ACからの写真 

 宗の8代皇帝・徽宗が医官に命じて編集したものが『太平恵民和剤局方』、通称和剤局方です。

それまでの時代、医学は支配階級の人の間でのみ伝承されていましたが、この和剤局方の出版で庶民のための医学となりました。日本においても江戸時代、多くの漢方家がこの和剤局方の影響を大きく受けています。

 徽宗皇帝が残した和剤局方は全五巻からなり、297処方が収載されています。主な処方は冷えによる痙攣性疼痛に使用する「安中散」(大正漢方胃腸薬のベースになっています)、中焦の気滞を改善する「香蘇散」、湿により弱った胃腸を回復させる「平胃散」、婦人薬の基本となる「四物湯」補気剤の代表「四君子湯」などがあります。さらに四君子湯と四物湯を合わせ、手術後によく使われる「十全大補湯」や更年期障害など婦人の不定愁訴に用いる「加味逍遙散」も和剤局方に収載されています。