腎病の病機

 天体で言えば腎の存在は深い海のような、未だ底知れない命の根源です。
 中医学において腎は人体の真陰真陽を生み出し、精を貯蔵し、水液代謝をコントロールし、気を納め、骨を作る基となり、脳を滋養し、聴覚と大小便の生理機能を統轄します。腎の陰陽気血が失調すると、腎の臓精機能や水分代謝をつかさどる力に影響が現れます。臓精機能の失調は成長発育に影響を与えたり、生殖機能の低下を招きます。また、水液代謝の不良でむくみや冷え、尿のトラブルなどが現れやすくなります。傷寒論の著者である張仲景は「五臓の陰を滋養するのは、腎陰をおいて他にはない」「五臓の陽を発揚するのは、腎陽をおいて他にはない」と述べています。全身の陰陽の調和にはその基である腎陰腎陽の強調が最も重要であると言われています。腎の病機は、主として腎の清気不足、腎の陰陽失調、いずれも虚として現れます。

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腎の清気不足
 腎の清気不足には、腎精不足と腎気不固があります。

腎精不足
 腎精不足が起きる原因は先天的な精の不足、栄養の吸収不良などによる後天失養、高齢や慢性疾患、房事過多(過度な性生活)による消耗などがあります。
 腎精が不足すると発育不足、性機能への障害、老化が早まるなど年代によって様々な病理的変化が現れます。乳幼児期で骨の発育に影響がでると身長が伸びない、骨が折れやすい、腎精が脳を滋養するため物覚えが悪いなどが起きることがあります。思春期では男性はひげが薄い、声変わりが起きない、女性では初潮が遅れる、乳房の発育不良が現れます。壮年期では性機能に影響し不妊や生理不順、インポテンツなどがおこります。中年期以降では老化が早まり、腰膝の弱軟化、難聴、老眼、歩行不良、物忘れが多くなる、認知症などの症状が現れます。
 腎精は生命の根源になるエネルギーのエッセンスです。この腎精を補うには身近な方剤としては滋陰補腎の六味丸や温補腎陽の八味丸です。それでも不十分なときはより補益の力が強い動物性生薬を含むものがよいでしょう。補陰には亀板膠を含む左帰丸、補陽には鹿角膠の含まれる右帰丸です。日本の製薬会社でもいくつか似た方意の製剤が販売されています。

腎気不固
 腎には体の奥に大切なものを貯蔵する性質があります。この性質を固摂作用と言います。腎気の不足によりこの固摂機能が低下する病理的な状態を腎気不固と呼びます。
 原因は幼年期の清気の充足不足、老年期における清気の衰退、房事の不摂生や慢性病による腎気の消耗です。
 腎気不固は腎の封蔵機能の失調と、二便の固摂の失調として現れます。封蔵機能が低下すると腎中の清気が流失しやすくなり、男性では遺精が、女性では滑胎(流産や続くこと)が起きやすくなります。二便に対する固摂の低下は大便失禁や遺尿などが起きます。
 治療には寒熱の様子を見ながら八味丸もしくは六味丸などの腎気丸を用いながら、調補陰陽・収斂固渋の桂枝加竜骨牡蠣湯を用いることができます。

腎の陰陽失調
 腎陰と腎陽の失調は全て虚証として現れます。

腎陰虚
 腎陰虚になる成因は、房事過多による真陰の損傷、邪熱や五志化火(喜・怒・憂・思・悲)による傷陰、慢性病による腎陰の消耗や、他臓の陰虚の波及、陰虚の体質的素因などです。
 腎陰の不足は腎陽の相対的な亢進を意味し、陰虚内熱や陰虚火旺などの病理的な状態が現れます。腎陰不足により身体の痩せ、腰膝の軟弱化がおこったり、相火の亢盛による五心煩熱(手足の熱感と心煩)、または骨蒸潮熱(一定の時間に内側から突き出るような熱気を感じること)、のぼせ、盗汗(寝汗)などがおこります。
 補腎陰には滋陰補腎の六味丸が基本であり、有効です。腎精不足同様、症状が重篤や治療に急を要するときには動物生薬を用いた左帰丸、もしくは左帰丸に含まれる亀板膠を用いた方剤は効果が早く、強く出ます。

腎陽虚
 腎陽虚の成因は心脾陽虚など他臓の陽虚の波及、房事過多、寒涼な薬剤の長期服用や慢性病による消耗、陽虚の体質素因、老化による腎陽虚衰などです。
 腎陽は全身の陽虚の基であるため、腎陽が不足すると全身の陽気に波及し、寒象が現れます。温煦機能が低下するため、体の冷え、寒がりなどがおきます。命門の火が衰弱すると男性では遺精・陽萎(インポテンツ)、女性では不妊症がおこります。腎陽が衰弱すると水液代謝が悪くなり、小便不利(排尿障害)、遺尿、浮腫がおきます。また腎陽が脾を温煦出来なくなると脾の運化機能が低下して五更泄瀉(夜明け前の下痢)などがおこります。
 腎陽虚の治療も代表方剤として温補腎陽の八味地黄丸があります。症状が重ければ動物性生薬を用いた右帰丸、もしくは右帰丸のベースとなる鹿角膠が組み込まれた方剤がよいでしょう。

肝病の病機

 肝は疏泄つかさどっています。肝の疏泄とは気血水をのびのびと全身に広げる生理機能です。肝の疏泄機能の役割は次の6つに分類出来ます。

  1. 全身の気機を疏泄する
  2. 全身の血液の貯蔵流通を調節する
  3. 筋膜を柔軟にし活性化する
  4. 胆汁を疏泄し、運化を促進する
  5. 精を目に送る
  6. 精神情志をのびのびさせる

 肝気は亢進しやすく、横逆しやすく、うっ滞しやすいという特徴を持ちます。このような肝気の亢進をなだめるために肝陰肝血が肝を滋養しています。また、肝陰肝血はさらに目や筋腱が正常に機能するようにこれらを滋養しています。
 肝の病気には肝気の疏泄機能の失調、肝血の滋養機能の低下、肝の陰陽の制約関係の失調があります。肝陽肝気は余りやすく、肝陰肝血は不足しやすい傾向があります。

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肝気鬱結
 肝気鬱結は肝の疏泄機能が失調し、気機が鬱滞した状態です。中医学のバイブルである「黃帝内経・素問」には「百病はみな気より生ず」との記述があるように、全身を巡る気が塞がって鬱滞すれば気の昇降出入が乱れ、さまざまな病証が現れます。
 肝気鬱結が起きる原因としては、怒りなどの精神刺激、情志抑鬱、多臓器の気機失調の波及などがあります。
 気の鬱滞による痛みには“張り”という特徴があります。気滞が生じた部位には膨満感と疼痛(トゲを刺したような、ではなく張り感のある)が生じやすくなります。肝気鬱結の痛みは右脇部に起こりやすいという特徴があります(リンパの流れの右と左の境界線がここにあるから、という説があります)。停滞した肝気と痰飲が咽頭部に停滞すると、梅核気 (喉に梅の実がつまったような閉塞感)や癭瘤(甲状腺の腫れなどの異常)が生じます。気気鬱滞が肝経に集中すると乳房や小腹部脹痛、睾丸部への脹痛、月経痛や閉経がおこります(肝経寒滞)。また鬱結した肝気にあおられて胃に影響すると、胃痛、胃気が上逆するとゲップや嘔吐がおこります。肝気鬱結が脾をあおると脾の運化が失調して腹痛や泄瀉(水様便)が起こります。
 気滞による脹痛には疏肝解鬱・理気止痛の柴胡疏肝散が使えます。咽頭部の不快感は理気降逆・化痰散結の半夏厚朴湯が代表です。肝経寒滞には日本では扱いがありませんが天台烏薬散や暖肝煎など、烏薬、木香、沈香、川楝子や理気行気薬を多く含む方剤を使います。肝気による胃の不調には柴胡疏肝散や四逆散をよく用います。どちらも筋の緊張による痛みを取ってくれる芍薬甘草湯を含むので突っ張った感覚の胃痛には有効です。肝気が脾に影響を及ぼしたときは肝脾不和といいますが、代表方剤は痛瀉要方ですが、こちらも日本では手に入りにくいため四逆散や柴胡疏肝散で代用することが多いようです。

肝火上炎
 肝火上炎は肝陽が旺盛になり化火した状態で、火の性質を持つため顔面頭部に症状を現します。
 原因は肝気鬱結による化火、激怒による肝気暴張、五志化火、心火亢盛など他臓器の飛び火です。
 肝火上炎により頭部に陽気が集中すると、頭痛・頭張・顔面紅潮・目の充血・突発性難聴・耳鳴り・怒りっぽい(自律の興奮)などの症状が現れます。肝火が肺や胃を損傷すると、喀血、吐血、衄血 (鼻血)などを起こし、また肝火により陰血を消耗すると肝陰虚となります。
 肝火上炎には疏肝清熱・健脾養血の加味逍遙散が基本です。心火がある場合は心の清熱が入る女神散も考えられます。肝火犯胃による吐血、肝火上炎による鼻衄には竜胆瀉肝湯が用いられ、喀血には瀉白散などを用います。

肝血虚
 肝の陰血の失調の一つである肝血虚。特徴は血による栄養機能の低下という点です。
 原因は失血過多、慢性疾患による血の消耗、脾胃虚弱による血の生成不足です。
 肝血不足では、血による各部位の滋養が悪くなります。筋脈の栄養状態が悪いと四肢のしびれ、知覚低下や関節の屈伸不利がおこります。肝の開竅する目への滋養が不十分となると目が乾いたり、かすんだりします。また、血虚の乾燥状態が皮膚に及ぶと皮膚の掻痒感が起こり、虚風がおこると、痙攣が起きます。
 四肢のしびれには平肝・解痙止痛の芍薬甘草湯が即効性もありよいですが、長期的には補血の代表である四物湯のような血を補う方剤を服用することが大切です。目の症状にも四物湯は用いることが出来ます。皮膚の乾燥には補血潤燥・止痒の当帰飲子などは補血効果に加えて血虚により風となって生じた痒みにも対応します。虚風による痙攣はよく認知症で使われる柔肝解痙・調和肝脾の抑肝散が使われます。補血薬での治療がベースにはなりますが、肝血虚の原因として脾胃虚弱があるように、脾胃の状態には気を配る必要があります。脾が弱った状態での補血薬の投与はさらに脾虚を悪化させることがあるため、場合によっては四物湯より帰脾湯、婦人方、十全大補湯など補脾を考慮した方剤を優先させることも考えましょう。

肝陰虚
 肝陰虚は肝の陰血不足で、乾燥症状や肝火上炎のような亢進状態が見られます。
 原因は肝火による肝陰の損傷、湿熱、熱邪による肝陰の損傷、腎陰不足の波及などです。
 肝陰虚の主立った症状は2つに分かれます。肝陰不足により肝陽上亢、もしくは肝風内動です。
 肝陽上亢は肝火上炎と似ていますが、肝陰不足による相対的な熱の亢進です。肝陰のもとは腎陰であるため、腎陰の不足によりおこりやすくなります。肝火上炎同様頭顔面の症状が目立ち、めまい、耳鳴り、顔面紅潮、目の充血、情緒不安定などです。加えて腎陰の不足が関与していれば下半身がだるい、痛むなど「下虚」症状が現れます。日本にはない方剤ですが、天麻鈎籐飲のような平肝潜陽・清熱熄風・滋陰をしてくれる方剤もあります。日本では肝腎陰を補う六味丸をベースに、目の症状が強ければ杞菊地黄丸、虚熱を引き下ろしたければ知柏地黄丸を使うことが出来ます。
 肝陰不足で筋脈を滋養出来ず、さらに陰が不足して陽を抑えることが出来ず異常な興奮状態となってめまい、筋肉のぴくつき、手足の震え、痙攣がおきることを肝風内動と言います。熱盛痙攣や重症の熱中症などです。羚羊鈎藤湯があればよいですが、釣藤散や七物降火湯、抑肝散などで対応するようになります。

脾病の病機

 脾は「運化をつかさどる」「昇清をつかさどる」「統血をつかさどる」などの生理機能があります。脾陽脾気は水穀の運化、飲食物の消化吸収と水液の運化、水液の吸収・輸送を調整します。また、吸収した栄養素を上部へ上らせ、全身循環にのせる昇清作用や血液が脈外にあふれないようにする統血作用は脾陽によって調整されます。脾は体の中心部に存在するため、脾の滞りは末端である四肢や肌肉に影響し、脾陽の不足は冷えなどの原因になります。また、脾陰は、脾臓を滋養しており、脾の陽気の生理機能を助けています。
 脾病には脾気陽気の失調と脾陰の失調があります。その影響は、栄養素の消化吸収、津液の運化・輸送、血液の生成・固摂など多岐に及びます。脾の血虚は一般的に述べられません。

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脾陽、脾気の失調
 脾の陽気失調は脾陽脾気の衰弱が主な原因となります。衰弱の程度と、その影響で3つに分かれます:脾気虚損、脾陽虚損と水湿中阻です。

脾気虚損
 脾気虚損は中気不足とも言われます。運化機能の低下と気血の生成力の低下が主な影響です。
 原因は、不適切な飲食による内傷、先天的な虚弱体質、慢性疾患による損傷、思慮過度や労倦(働き過ぎ、怠けすぎ)などです。
 脾気虚弱により運化機能が低下すると、消化不良や口淡無味、食欲不振となります。脾気は栄養分の昇清とともに不要物を降濁する胃の作用も支えています。そのため、清気が昇らないとめまいなど、頭部に影響があり、降濁が悪くなると腹脹が起きます。清気が昇らず、逆に下ると下痢になります。また、脾気虚損で消化不良が起こると気血の生成が低下し、全身の気血不足を引き起こします。加えて、脾気虚弱のために統血機能が低下すると脾不統血となり出血が起こります。脾気虚損は中気下陷(気の持ち上げる力が足りず下に垂れる)の原因となり、脱肛、久泄、内臓下垂がおこります。
 脾気を強くするには益気健脾、惨湿止瀉の参苓白朮散を使い、胃の降濁を改善するためには益気健脾・理気和胃の香紗六君子湯、統血機能を整えるには益気健脾・養心補血の帰脾湯、中気下陷には補中益気・昇陽の補中益気湯を用います。

脾陽虚損
 脾陽虚損は脾気虚損と重なるところも多いですが、さらに陽虚が進行し温煦機能の低下により寒が強いという特徴があります。腹部の冷痛や、四肢の冷え、下痢などの症状として表れます。原因は脾気虚損による陽気不足、内寒旺盛です。異なる成因としては生命の源である腎の命門の火が弱まり、脾陽の補充が行えないケースです。脾陽虚は津液の運化を低下させるため、痰飲(水液代謝の衰えによってできる流れの悪い水もしくは水の塊)を形成し、浮腫を起こします。
 脾陽虚には温中健脾の附子理中湯、寒による痛みが強ければ安中散などを用います。

水湿中阻
 脾の陽気が不足すると水質の運化が悪くなり、水質が停滞します。この状態を水湿中阻と言います。脾虚湿滞にならると痰飲の形成やむくみなどが生じます。この脾虚湿滞には2つの経過があり、湿が停滞することで寒化する場合と熱化する場合があります。一般的に陰虚陰盛であると留まった湿が寒化して寒湿困脾となり、陽盛であると熱化して脾胃湿熱となります。
 脾胃に水湿がたまれば燥湿運脾・行気和胃の平胃散や、水腫には温中散寒・健脾除湿の苓姜朮甘湯も良さそうです。湿が寒化した場合は日本では取り扱いがありませんが健脾・温陽・利水の実脾飲、熱化した場合は滋陰和胃・清熱化湿の甘露飲などを使うことが出来ます。

脾陰の失調
 脾気の失調と比較し多くはありませんが、脾陰が虚する病態もあります。
 原因は主に熱病・食傷・五志化火などによる陰液の損傷や長期の下痢による陰液の損傷です。ほとんどの場合脾気虚損によって水湿が適切に運ばれず脾陰が不足するという気陰両傷として現れることが多くあります。脾の陰津不足で口渇がおき、運化が正常に行われないと食欲不振、腹部の膨満感、泥状便、消化不良がおきます。脾陰虚のために陽が相対的に強くなり、虚熱が生じます。
 脾陰虚には養陰和胃の益胃湯という日本では扱いがない方剤もありますが、麦門冬湯などで優しく胃陰を補いながら補気剤を加えることもできます。熱が強ければ竹葉石膏湯などもありますが、虚している病態には胃に重いので注意が必要です。

肺病の病機

 肺は様々な生体活動を担っています。
・気をつかさどり、呼吸をつかさどる
・宣発と粛降をつかさどる
・通調水道をつかさどる
・百脈を朝(あつ)め、心脈のめぐりを助ける
 肺気は体表に衛気を宣発して肌膚を温め、外邪が体内に侵入することを防いでいます。そのため肺の病変は外邪によるものが多くあります。これは肺が関与する器官、肺を初めとして鼻、喉、肌、大腸などが生体と外界を隔てる役割をもつためです。そうは言っても肺の病変全てが外邪によるものではなく他の臓器の病変に影響を受ける内生の要因から起きるケースも頭に入れなくてはいけません。
  肺は天体に例えると大気圏です。外と内の境界線を引き、外からの不要なものが内に入り込まないようにする第一の壁です。 肺はかよわい臓器と言われますが外邪をまず直に引き受け生体を守る存在ですから、病変が多いのは当然です。弱い、と表現するのは不憫な気がします。

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 肺の陰陽気血の失調は、主として肺の宣発粛降の失調です。肺の宣発粛降が衰えることで気機の昇降出入が影響を受け、呼吸機能の異常・水液代謝や衛外機能の障害・血行障害を引き起こします。肺は気をつかさどる臓器であるため、肺陽は肺気と概括して語られます。また、百脈を朝めるという働きから、肺に血は集中し、肺血虚が起きることはまれです。そのため、肺の機能失調は主に肺気もしくは肺陰の失調に集中します。

肺気の失調
 肺気の失調には、肺失宣降と肺気虚損とがあります。

肺失宣降
 肺失宣降とは肺の宣発粛降機能が正常に働かないことです。原因としては外邪の侵襲、痰湿や悪血の停滞、肝気の昇発過度などです。
 肺気の宣発が弱くなった状態を肺気不宣といいます。宣発は体に正気、それに伴い津液も広く発散し、行き渡らせる機能です。この機能が働かなくなると、咳嗽、胸悶、くしゃみ、鼻閉などの症状が現れます。また、衛気を体表に配備する力も宣発によって行われますので、外邪の侵入をゆるし風邪をひきやすくなったり、または濁気が排泄出来ず無汗になったりします。これは外邪により腠理を詰まらせ、無汗となった麻黄湯が代表の証です。麻黄の宣肺(肺気の上昇)と杏仁の降肺(肺気の下降)で上と下へ気の巡りを確保して、喘息や咳を治療します。
 また、肺気の粛降機能が衰えた状態を肺失粛降といいます。粛降は取り込んだ清気を体内の内側に深く取り込む、または津液を下方に運ぶ働きがあります。そのため粛降がうまくいかなくなると、呼吸が浅くなったり、上逆すると喘息や咳き込み、ひどくなると喀痰、喀血などがおこることもあります。肺気上逆には麦門冬湯など、降逆下気の効能をもつ方剤を用います。
 肺気不宣も肺失粛降も、ともに肺気の上逆を起こし、咳嗽や喘息を引き起こします。また、水分代謝が悪くなり尿量の減少や浮腫がおきることがあります。肺気上逆が水分代謝にも影響を与えて、上焦は実していても下焦は虚しているようなケースでは化痰降気の蘇子降気湯などが用いられます。

肺気虚損
 肺気の虚損とは肺の生体機能の衰えで、衛表不固や津液の輸送機能の失調が起きます。
 その原因は長期にわたる肺失宣降による肺気の損傷、心労などによる生化の源(脾胃)の損傷、病の慢性化による気の消耗などです。
 肺気虚損がおきると宗気と津液の輸送機能が影響を受けます。宗気が弱くなると、呼吸が浅くなる、喘息や息切れなど呼吸機能全体の活動が弱くなります。また、外邪から生体を守る衛気が弱くなると風邪を引きやすくなり、さらにじわじわとした汗 (自汗)でるようになります。肺の親である脾の弱さに原因があれば麦門冬湯や補中益気湯のような脾胃への配慮がある方剤を用い、特に衛気虚が弱いときは玉屏風散などが用いられます。さらに肺気虚損で津液代謝が悪くなると痰飲や浮腫が起きることがあります。この場合は肺気を補う方剤に加えて痰やむくみをさばく防已黄耆湯などが考えられます。
 肺気が失調している病態には、気を激しく動かす方剤を使用すると却って気を消耗するため注意が必要です。傷寒論にもある”先補後瀉”の原則で、虚実が夾雑しているようなときは先に虚の補ってから、後で実を瀉す、と言われます。まず、気虚を治療してから巡りを改善しましょう。

肺陰の失調
 肺陰の失調には、肺の陰津虚損もしくは陰虚火旺があります。肺陰の失調は、肺自身と鼻腔や肌の潤い不足、さらに虚熱が発生する病的な状態です。
 原因は燥熱の邪の侵入、外邪や痰の化火、五志化火(喜・怒・憂・思・恐などの感情)、久咳による肺陰の損傷、腎陰虚など多臓器の陰虚の波及などがあります。
 肺陰の失調は肺が関わる、肺、鼻、喉、肌、大腸などの乾燥症状が目立ちます。空咳、鼻や喉の乾燥、肌の乾燥、便秘などです。陰虚により内熱が発生すると潮熱(毎日一定の時間で熱感が出る)・盗汗(寝汗)・五心煩熱(手足のひらと心のほてり)が起きます。程度がひどくなると痰に血が混じったり、喀血がおこったりします。乾燥が目立てば沙参麦門冬湯、熱が目立てば清燥救肺湯などが用いられます。

中医学:六淫・燥邪

 前回の湿邪とはまた正反対の、今回は燥邪についてです。燥邪は乾燥が強くなる秋の主気です。口や鼻から侵入して、肺の衛気を傷害します。温燥と涼燥の2つがあり、夏の終盤、まだ夏熱の余気に乾燥が加わると温燥、秋が深まり寒気と燥があいまると涼燥になります。

燥邪の性質と発病の特徴

乾燥性があり津液を消耗しやすい
 燥邪は湿邪とは全く正反対の特徴を持ちます。陽気を損傷させやすい湿邪と対比的に、燥邪は陰液を消耗させやすい陽邪の性質を持ちます。体表を中心として乾燥症状を起こしやすく、鼻や喉の粘膜の乾き、口が渇き飲み物を欲しがる、皮膚の乾燥などが現れます。特に皮膚や髪への影響は大きく、皮膚のかさつき、痒み、ひどいと亀裂が生じたり、髪がパサついたりします。燥邪による影響は“潤い”を失うので美容に関心のある女性には大きな問題です。また、体液量がただでさえ少ない老人は燥邪の影響を受けやすくなるため注意が必要です。

肺を損傷しやすい
 体表を中心に人体を侵しやすい燥邪は基本は外感病証の原因となることが多く、内傷となることはあまりありません。最も影響を受けやすいところは体表の衛気をコントロールする肺です。肺は矯臓(か弱い臓器)と呼ばれ、潤を喜び、燥を悪むと言われています。肺は呼吸をつかさどり、鼻に開竅していますから、乾いた空気が体内に入るとき、まず肺のコントロールを受けるようになります。乾いた空気が肺に直接届くと粘液で湿っていることが必要となる肺の細胞の正常な働きを妨げるため、鼻の奥で適度な湿気を加えるような仕組みになっています。このバランスが崩れたとき、咳嗽や痰などの病的な状態に進行します。

燥邪による病証

 まだ夏の暑さが残る初秋、熱と燥が結びついておきる病証を温燥といいます。温燥の邪が肺気を侵すと外感表証の発熱や軽い悪風や悪寒、頭痛、咳嗽があり痰は少なくなる、などの症状が現れます。温燥により津液が消耗するため乾燥症状が強く表れ、口が渇き、飲み物を欲しがる、唇や喉の乾燥感、心煩や腸も乾いて便秘がちとなります。こういった温燥証には熱をとり、乾燥を潤して肺の衛気を整える辛涼甘潤を治法として用います。

 秋が深まり、冬季の寒気と燥邪が結びつくと涼燥証となります。こちらは温躁証と比較し強い悪風・悪寒が現れ、発熱や頭痛、汗は少し出ます。涼燥の邪が肺の衛気を傷害するため宣発機能が失調し、津液の消耗は温燥証ほど顕著ではありませんが、空咳や鼻の乾燥感が出ます。涼燥証には宣肺潤燥のように肺の衛気を養い燥を潤します。

中医学:六淫・湿邪

 季節は一般的に春夏秋冬の4つとされますが、陰陽五行説を重んじている中医学ではもう一つ季節を追加しています。それが長夏、といわれる高温多湿、むしむしと暑い時期です。本来中国では夏と秋をつなぐ時期が長夏と言われていますが、日本の気候では湿気が最も盛んな梅雨時期を長夏と捉えています。この長夏に猛威を振るうのが湿によって傷害される湿邪です。湿邪は、気候だけではなく、雨に濡れたり、地下など湿気が強いところいるなどの原因で感受することがあります。梅雨時、夏のむしむし暑い時期は下痢になりやすい、食欲が落ちやすいなど脾胃の症状がよく現れますよね。湿邪は脾の運化機能を失調させ、湿濁内生を引き起こします。

湿邪の性質と発病の特徴

湿は陰邪、気機を阻害しやすく脾胃の陽気を損傷しやすい
 湿は水の性質を持ち、陰邪に属します。そのため陰盛の時は陽気を損傷しやすく、特に脾陽を閉じ込めます。湿邪が臓器経絡に滞ると気機 (気の昇降出入運動) を阻害しやすく、湿阻気機証を引き起こします。代表的な症状は胸脘痞悶・頭身困重・下痢・小便混濁・舌苔粘膩などが現れます。
 特に湿邪によって脾陽を損傷すると、脾陽不振・運化無力となり、脾胃に水質が停滞し下痢・尿少・腹水・水腫などの症状が生じます。

湿の重濁性
 湿には重濁性が強いという性質があります。重濁性の「重」は字のごとく重い、動きが悪い、ということを表しています。湿邪による気機阻滞の特徴は重だるさです。湿邪が肌表より侵入すると気血が滞り、頭や身体が重い、四肢がだるい、肌感覚がなくなる、関節疼痛などの症状が現れます(ちなみに、血瘀による痛みは刺すような痛みですので、湿と大きな違いがあります)。
 重濁の「濁」もまた、字のごとく汚い、という意味があります。湿邪を感受すると排泄物や分泌物が多く、ベタベタしたものが多くなります。例えば目やにが増える、湿疹からねばねばした浸出液が出る、便がべたべたする、小便が濁る、おりものが増える、粘るなどが現れます。

湿の粘滞性
 湿邪は粘膩性が強いため、分泌や排泄がスムーズにいかず、停滞しやすいという性質があります。また、湿邪による病態はしつこく、なかなか治らない、一時改善してもぶり返すことが多くあります。感染による胃腸症状、じゅくじゅくした湿疹などがこれに当たります。

下降しやすく、下部を侵しやすい
 湿は水と同じ特徴を持つため、その影響は下に降りやすく、特に下半身の症状に表れやすくなります。下半身に水がたまる浮腫や、淋症(頻尿・尿急迫・排尿痛・結石)や脚気、下痢などの症状が湿邪によって引き起こされることが多くあります。

湿邪によって引き起こされる病証

 湿熱の邪を感受することによって発症する外感疾患に湿温があります。湿温は発症は緩慢ですが、経過は長引いという湿邪の特徴を持ちます。例えば不適切な飲食(鮮度が落ちた食品など)で脾胃の運化機能が失調し、湿熱を感受して中焦を傷害します。腹部の痞えた感覚、脹満感、食欲不振、下痢などを引き起こします。湿と熱が同時に存在する病態には化湿清熱の治法がとられます。

 また、湿が脾陽を閉じ込めることで脾胃の気機を損傷すると湿盛困脾となり、結果心陽を傷害することがあります。症状としては頭が包まれるようなぼんやりした感覚、眠気がでる、四肢が重だるく、胸部と胃脘部に痞えが生じます。こういった場合は脾を元気にして湿を除く燥湿健脾の治法がとられます。

 また、脾腎陽虚によって湿濁が内蘊(ないうん・内に滞る)すると尿量が少なく、悪化すると尿閉に進行する関格となることがあります。顔色が黒くつやがなく、冷えや精神疲労、足のむくみや食欲不振、悪心嘔吐、泥状便などの症状が現れます。治法は脾腎を暖める温補脾腎に加えて湿を流し出す化湿降濁を行います。

中医学:六淫・暑邪

今まさに猛威を振るっているのが暑邪です。暑邪は季節性が強く、夏至から立秋の夏の盛りに現れます。季節性が強く、外からの襲来であるため外感病邪となりますが、内生の病証の原因となることはありません。

暑邪の性質と発病の特徴

暑邪は陽邪、その性は炎熱
暑は夏の盛りに極まり、火熱の気から生じるものです。暑は陽邪であり、炎熱の特性があります。暑邪によって起こる症状は、高熱・顔が赤い・大汗・煩渇・脈洪大などの熱症状が主になります。

脈洪大とは、大きく押し寄せる波のような脈のことです。「来盛去衰」などと言われますが、来る時は力強く、去る時の力はそれに比べて強さがない脈です。このような脈証は体に陽気が満ち溢れているということですが、あくまで病的な脈の場合では、邪盛正虚の邪気が強く正気が憔悴しているので注意が必要です。

その性は昇散、気・津液を損傷しやすい
暑邪は陽邪ですから上に昇る、外に散らすという特性があります。この特性のため暑邪を感受すると腠理が開き、汗となって気・津液が外に漏れ出ていき、度がすぎると気津両傷となります。身熱・多汗・口渇・水分を飲みたがる・息切れ・脱力感などの症状が現れます。加えて、その昇散性から頭部である神を犯しやすく、ひどいときには熱中症に代表されるような突然倒れたり、意識消失やうわごとを言うような状態になります。暑邪は炎熱の気が強いため汗がなくとも津液が消耗し、口渇、不眠など乾きの症状がでやすくなりますので、常に津液の状態にも気を配る必要があります。

湿邪を伴いやすい
暑邪が猛威を振るう夏季は熱同様湿も高くなります。そのため暑邪は単体ではなく湿邪と 複合して体に侵入します。湿がからむと脾胃への影響が強く現れ、四肢の倦怠感や胸焼け、吐き気や下痢などの湿の停滞の症状も複合して現れます。

暑邪によって引き起こされる病証

一般的に風邪は冬季にはやり、外感病邪である風熱や風寒と捉えることが多いです。しかし夏の風邪は暑邪によるものが多いため通常風邪に用いるような辛温解表や辛涼解表の治法では的外れとなります。
夏の風邪では暑邪と湿邪が絡んだ暑湿証が多く見られます。体が熱く、やや悪風(風寒に比べて程度が低い)体がだるくて重い、胸のつかえに加え、やや発汗、頭が重くて痛むなどの症状が現れます。これは湿邪が体表の衛営を乱し、肺気の宣発粛降が衰え、さらに中焦まで阻害するため、脾胃にも症状が現れます。こう言ったケースでは熱を冷まして湿を除く清暑祛湿薬が適応となります。

また、中焦に暑邪が襲撃するとこちらも湿をあいまって脾胃の気を損傷、胃腸の伝導、運化機能が失調します。激しい下痢、腹痛などが強い場合清熱利湿薬を用いて治療します。

暑邪の病証といえば、中暑、熱中症が代表です。強烈な日差しや高温下での運動などを長時間行うと体が熱く、大量の発汗、口渇、また頭部を犯し煩躁のような症状が出ることがあります。こういったケースでは熱を冷まして津液を補充する清熱生津の治法が当てはまります。また、大量の発汗などで暑邪が気陰を消耗すると、無気力や食欲不振など気虚症状が強くなることがあります。こういったときは気と津液を両方補充するような益気生津の処方が適しています。

中医学:病因・内傷

病気の原因となる”病因”には大きく分けて2つ。外感と内傷です。外感は外から邪気が体内に入る病態で、疾病の性質は実で解表など外を治す治療が主軸となります。今日のような暑さで熱中症を起こす、体が冷えて風邪をひくなどが外感によるものです。

それと引き換え、内傷は臓腑の不調が全身の不調に及んでいくものです。疾病の性質は虚で、補血、補気など補剤による治療が中心になります。今日はこの内傷について少し詳しくお話しします。

誰しも、気持ちが落ち込んだり、疲れがたまることで体調が悪くなる、ということはあるものです。一番身近な内傷による体調不良ではないでしょうか。内傷は主に2つに分けることができます。一つは心の疲れである七情と、もう一つは体の疲れである飲食と老逸です。

まず七情とは、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情です。単にストレス、と言ってしまえば簡単ですがそれぞれどんな感情を強く持つかによって、どこに、どのような影響を与えるかは変わってきます。

以下、七情とつながりのある臓の関係です。

  • 心は喜を主るが、喜びすぎると心を損傷する。
  • 肝は怒を主るが、怒りすぎると肝を損傷する。
  • 脾は思を主るが、思いすぎると脾を損傷する。
  • 肺は悲憂を主るが、悲しみ、憂いすぎると肺を損傷する。
  • 腎は驚怒を主るが、驚き恐れすぎると腎を損傷する。

七情によって各臓器損傷を受けやすいですが、特に影響が大きいのは心・肝・脾の三臓です。

【怒】
怒ると気が上るといわれています。肝の疏泄機能に異常が生じ、肝気が横逆して上衡し、その結果突然倒れたり、意識不明、人事不省に陥ることがあります。

【喜】
喜びすぎると、気が緩むと考えます。良さそうですが、”気が緩んだ”状態は一つのことに集中できないということです。端からみたらやる気がない人、みたいな印象だと思いますが、これは心血虚の状態です。ひどくなると失神、狂乱がおきることがあります。

【悲(憂)】
悲しみすぎると気が消えると言われます。気が消えると肺気が弱まり、意気消沈する、元気や覇気がなくなります。呼吸機能が弱くなり、息切れや喘息、表虚となって自汗がでたり、風邪を患いやすくなります。

【恐】
恐れすぎると気が下る、といいます。気が下ると腎の封蔵機能(ものを閉じ込めておく力)が低下します。極端ですが、その結果二便に影響がでると大便失禁や遺尿、生殖器に影響が出ると流産などが起きやすくなります。

【驚】
気が乱れる、といいます。突然驚きすぎると心神が帰るところがわからなくなり、混乱状態になります。恐と驚は両方腎に属する感情でとても似ています。違いとしてははっきりした対象に対して抱く感情を恐とし、意識せず突然受けるショックが驚と分けられているようです。

【思】
思うと気結(けつ)す、といいます。あまり思いを巡らせすぎると、脾気を損傷し、湿などうっ滞が生じやすくなります。また、考えすぎることで血をすり減らし心血虚となり心悸・不眠・多夢などの症状が増えることがあります。

このように過度の感情の揺れ動きは特定の臓器に影響を与え、またその臓器がもともと虚していると、つながりのある特定の感情も揺れ動きやすくなります。

内傷はまた、いわゆる感情だけではなく体の疲れによっても起きることがあります。大きく分けて、飲食による胃腸の使いすぎ、さらに働き過ぎによる肉体の疲れがあります。

まず一つ目は飲食による胃腸の使いすぎです。この飲食を原因とした体の不調を”飲食失節”といいます。不適切な飲食行動は脾胃を損傷し、さらに脾胃の損傷は他の臓器に影響を与えます(この辺りは脾胃論が詳しい)。この飲食失節には3種類あります。

  • 飢飽失常
    これは飢餓と過食のことです。飢餓はもちろん栄養不足から気血不足や抵抗力の低下を引き起こします。また、過食は脾胃の負担により食積や食滞を引き起こします。
  • 飲食不潔
    これは不潔なものを食べたり、毒物を食べることで消化不良、食中毒などを起こすことです。
  • 偏食
    これは食の好き嫌いや偏りです。甘いものを食べていると消渇(糖尿病)になったり、辛いものを食べ過ぎると胃腸に熱がこもり、お腹がはる、便秘などの症状が現れるなどがこれに当たります。また、冷たいもの、生ものの食べ過ぎも脾胃の損傷を招きやすいので注意が必要です。酸味は肝、苦味は心、甘味は脾、辛味は肺、鹹味は腎というように五味をバランスよく食べることも大切です。これにより臓腑に偏盛・偏衰が現れにくくなります。

次は肉体の疲れです。

  • 労力過度
    これは単純な働き過ぎ、体の使いすぎのことです。
  • 心労過度
    七情の項でご案内したように、心も遣いすぎれば心血を消耗します。
  • 房事過度
    落語で”短命”という演目があるようですが、まさにその話のように、夫婦の情事が多いことによる腎精の使いすぎのことです。落語のように命までは落とさないと思いますが、女性なら早めの閉経や男性なら遺精が起きるようです。
  • 安逸過度
    これは休みすぎ、動かなさすぎ、ということです。動かないことで気血の流れが滞り、病を引き起こすと考えられています。

本当に当たり前ですが、体の疲れに関しては飲食・労働・休息の3つとも適度が大切ということです。何事も頑張りすぎず、適量の飲食、適度な労働と休息が疾病をさける近道です。

中医学:気血津液の相互関係

気血津液はそれぞれ水穀の精微から作り出され、私たちの生命活動を支える基本的な物質です。この3つはお互いに依存し、制約し、相互扶助しあう関係です。つまり、何か3つのうち何か1つが調子が悪ければそれは他のものに影響し、複雑な病的状態を作り出します。

気と血の関係

【気は血を生じる】
血を作り出す基礎の物質は精であり、精が血へ転化するための原動力は気です。そのため気が不足していれば血への転化は行うことができず、気が虚すと同時に血も虚します。気虚が進行することで血虚を引き起こすと、息切れ、脱力感、顔色が悪い、頭がふらふらする、目がくらむ、心悸のような気血両虚の症状が現れます。このような場合補血だけではなく益気も同時に行う必要があります。例えば、大出血の後など体力が低下している時に使用する方剤として当帰補血湯があります。構成生薬は黄耆30gと当帰6gというシンプルなものです。消耗が激しい出血状態では補血薬は胃腸に重くかえって状態を悪くしてしまうことがあります。このとき補気薬を主として補助的に補血薬を加えることで重篤な気血両虚症状を改善することができます。「気はよく血を生ず」の原則に従ったものです。

【気は血をめぐらせる】
血の運行は、心気の推動作用、肺気の散布作用、肝気の疏泄作用に助けられています。そのため、気の流れは血の流れと密接に関わりを持ち、極度の気虚や気滞は血瘀の状態(血行不良)を招くことになります。例えば狭心症などに用いられる活血薬の代表に還元二号方という方剤があります。構成生薬は赤芍、川芎、紅花、丹参、香附子、木香です。前半4種は活血の生薬ですが、香附子、木香は気を巡らせる理気薬です。川芎などは”血中の気薬”と呼ばれ活血薬の中で行気作用が強い生薬です。このように、活血のみによらず気の巡りにも同時に配慮し気血の流れを改善することができます。

【気は血を摂す】
”気は血を摂す”とは、気の作用により血液が不必要にあるべき場所からもれ出ないようにする、と言う意味です。気が不足すると、出血が多くなります。これを”気不摂血”といいます。例えば、気虚が強いことで不正出血や慢性の月経不順となることがあります。このようなときは帰脾湯のような補気養血薬が効果的です。黄耆、人参、白朮などで補気し統血力を高め、さらに当帰、竜眼肉などで養血を促すような処方となっています。

【血は気の母である】
気は血を生ずる、という言葉と全く反対のようですが、気はまた血がなくてはその存在、機能はありえません。ちょうど私たちの魂が肉体をなくして機能しないことと同じようなことです。大出血をすると気も血にともなって失われてしまいます。

【気は陽に属し、血は陰に属す】
正常な状態では気と血は相互に支え合い、バランスのとれた状態にです。気血不和となりこのバランスが崩れると何らかの病気が現れると考えます。

気と津液の関係

【気旺生津、気随液脱】
”気が盛んなれば津を生じ、気は液に随って脱す”
津液の源は水穀の精微です。この水穀の精微は脾胃の気の力で取り込まれ、生成されるため、気の力なくては津液は存在しません。そして血同様、津液があるべき場所にとどまることも気の固摂作用によります。そのため気の働きが不十分だと遺尿、発汗など津液を余計に失う現象が現れます。
そしてまた気血の関係と同様に気は津液にも宿ります。そのため発汗、遺尿、下痢、嘔吐など水分を大量に失うことで気もまた大量に失われます。この気が津液とともに抜けてしまうことを”気随液脱 ”と言います。こういった時に使用する代表方剤と言えば生脈散です。構成生薬は補気の人参・補陰の麦門冬・収斂の五味子です。発汗による津液の消耗を爆問道で補い、それに伴って起きる気虚を人参で治療する方剤です。さらに五味子により余計な発汗を防ぐ効果もありますので今の夏の時期に活躍する方剤です。

【気能化水・水停気阻】
”気は水を化し、水が停まれば気も阻滞する”
津液の運行は主に肺、脾、腎、三焦などの臓腑の気により行われます。そのため気の流れが滞れば津液の巡りも悪くなり、痰飲(動きの悪い水の塊)が生まれます。また、水液の停留や痰飲の生成が逆に気の流れを妨げる”水停気阻”という状態を生み出すこともあります。痰飲の除去の代表方剤は二陳湯です。二陳湯は半夏、陳皮、茯苓、生姜、甘草で構成されます。主薬は半夏と陳皮;痰飲をとる半夏と理気作用の陳皮です。二陳湯と四君子湯を組み合わせたものが六君子湯で、気虚の強い気滞、痰湿体質を目標にしています。

津液と血の関係
津液と血は両方陰に属し、栄養と滋潤が主な作用です。病理的には繰り返し出血することで津液も損失し、”耗血生津”という状態が現れます。また傷津脱液がひどいと血もまた津枯血燥の状態が現れます。このことから、出血のある患者に麻黄湯などの発汗による治療は不当であり、多汗で津液を消耗している患者にも瀉血(流れの悪い血を針などで出血させて抜く治療)は用いることはありません。

中医学:六腑

五臓六腑にしみわたる・・・のような表現を聞いたことがあるのではないでしょうか?お腹がすいたときに滋養のあるものを食べてしみじみ言う言葉です。

実際しみわたるのは五臓ではなく六腑の方ですね。というのも、六腑はまさに飲食・膵液の通り道です。人間は「複雑な形のちくわ」と言った方がいますが、実際私たちの体はちくわ同様、口から肛門まで続く長い管が体の中央を通っています。このちくわの穴が六腑、消化器官です。六腑の役割は飲食物の腐熟・消化と糟粕(栄養素とならない食べ物のかす)を体外に送り出すこと。直接飲食物とは接しない五臓と反対に六腑は”実すれど満たすことあたわず”と言われ、飲食物で一杯になることはあっても気血が満ちることはありません。

六腑は胆・胃・大腸・小腸・膀胱・三焦のこと。それぞれの役割を述べていきます。

まず、肝の裏と言われる胆。胆は胆汁の貯蔵と排泄・決断を主ると言われます。

胆汁は肝で生成され、それが胆に貯蔵され、必要に応じて小腸に排泄されて脾胃の消化機能を助けます。胆は肝の疏泄の力を借りて胆汁を排泄するので、肝の調子が悪ければ胆汁の排泄も十分に行えず、消化力が落ちてしまいます。脇下にはり感や痛み、食欲減退、口が苦く、黄緑色の消化液を吐く「胆汁上逆」、黄疸が発生する「胆汁外溢」などが起こることがあります。

肝が巡らせた考えを胆が決断を下す、肝胆は精神意識の活動をコントロールします。「肝っ玉が大きい」などの言葉から胆は心の落ち着きにとても影響します。また、びくびくして過ごすと胆の病気を発症しやすくなります。

次に脾の裏である胃です。胃は水穀の受納・腐熟を主り、通降を主る、降をもって和とするというのが特徴です。

胃は水穀の海と称され、飲食物の腐熟・消化をし、さらに下の小腸に伝えます。この消化によって飲食物を下に送ることが胃の役割であり、逆に、ここで得た水穀の精微(飲食物から得られたエネルギ-)は脾気によって上昇に上げられます。

水穀の海である胃はあくまで通過点です。次ぐ小腸、大腸に降濁する地震の通降作用を持つため、「降をもって和とする」と言われます。胃の通降作用が失調すると食欲が落ちたり、口臭がでる、大便がでないなどの症状が出やすくなります。また胃気上逆になると酸っぱい匂いのするゲップが出たり、悪心、嘔吐、しゃっくりなどが現れます。

小腸は心の裏です。その役割は受盛の官、化物が出るところ、そして清濁の泌別を主ります。

小腸は胃から送られてきた水穀の消化をさらに進め(化物)、消化物の清濁を分別します。生体のエネルギーとなる清は脾の働きで全身に運ばれ、糟粕は大腸に、余分な水液は膀胱に至り排泄されます。

大腸は肺の裏です。大腸の主な役割は糟粕の伝下を主ることです。

大腸では小腸から伝えられた糟粕をさらに必要な水分を吸収し、大便を形成し肛門から排泄します。胃の降濁作用も受けていますが、このとき肺の粛降作用も大きく影響します。腎は二便(大便と尿)を主ると言いますが、最後にこの肛門の開閉は便の働きで行われます。

次に腎の裏膀胱です。あまりイメージと違和感なく、膀胱は排尿と貯尿がその生理作用です。

肺、脾、腎、三焦によって全身に散布された水液は各組織で利用され、最後には膀胱に達して尿に変えられ、体外に排泄されます。この膀胱の機能が失調すると小便不利(排尿困難)や癃閉(排尿障害・尿閉)などの症状が現れるようになります。

最後に三焦。これはどの五臓にも属さず、胸腹部を占める大腑です。体内のさまざまな気を取り仕切り、全身の気機と機か作用を統轄します。そして水液運行の通路でもあります。

上焦、中焦、下焦と3部に分かれます。

上焦は横隔膜より上で、気の昇発、宣散を主ります。

中焦は横隔膜から臍の間です。脾胃の運化を助け、気血津液を化生します。昇降の要、気血生化の源と言われています。

下焦は臍よりしたの小腸、大腸、膀胱などの臓器です。主な機能は糟粕と尿液の排泄です。

三焦は気化が行われる場所で、気が昇降する通路であり、水液が昇降する通路でもあります。

六腑は一時的にものが満ち足りても、それがからになることが正常です。そのため五臓と比較し、ものがつまった”実”の状態の病が多いようです。