中医学:肝の役割

肝は剛臓と呼ばれます。

 

肝は沈黙の臓器などと言われ、ピンチのとき以外に弱音をはきません。頑張り屋の女性のような性格です。そして、ダメ、となったときはもう本当にダメです。そこの余地はなし。これも頑張り屋の女性のような性格です。

 

そのせいか肝のトラブルは女性に多いようです。

 

 肝は自然界に例えると“木”です。土から栄養をすいとり上へ上へと腕を伸ばすその姿は“成長”や“上昇”の象徴です。

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RRiceさんによる写真ACからの写真

 

 

肝の最も大切な役割は“肝は疏泄をつかさどる”と表現されます。

 

“疏泄”とは聞きなれない言葉ですが、上昇、下降、発散、通りをよくする、などの言葉を組み合わせた意味です。通るべき所を通し、流れるべきものがきちんと目的の場所に届くようにする、という役割です。

 

この役割だけを聞くと解剖学的な“肝臓”と全然違います。肝臓は主に解毒の役割ですからね。でも全く関係ないとは言えません。例えば、飲食物は胃で分解され、その後腸で吸収されます。脂質などの限られた栄養素を除いて吸収されたものはまず門脈を通り肝へ向かいます。その後解毒の処理をしたあと、全身に分配されます。この一度肝臓に集められて、検問を通過したものが全身を巡る、という点は肝の疏泄と重なるところがありように思います。

 

この肝がつかさどる疏泄の役割は主に4つに分けられます。

 

1つ目が、気血津液をそれぞれを正しい方向に滞りなく流れをつくる役割です。田んぼの水を想像してみてください。肝は水路の役割です。上流の田んぼから下流の田んぼまで、水がまんべんなく満たされるためには水路の水が漏れることがなく、さらにつまって氾濫することがないようにメンテナンスをすることが必要です。水路の反乱は肝のトラブルによっておこり、それは張りを伴う症状が多いようです。例えば、胸や脇の張り感代表的です。頭痛でもしくしく、というよりずきんずきんという感じ。水路の詰まりによって氾濫する上流の田んぼがあると、一方で水が不足する下流の田んぼがでてしまうことがあります。注意が必要なのは常に過剰の症状(実)として現れるわけではなく、部分的には不足の症状(虚)として現れることもある、という点です。一部の虚した状態をみて状態を判断する前に、全身に視野を広げて流れが全体にどうなっているのか確認する必要があります。肝の不調はまず気の流れの滞りに現れます。そしてこれに伴い血や津液の流れも悪くなります。血の流れが悪くなることで月経の不調、津液の流れの悪さでむくみなどが現れることがあります。

 

肝の役割は解剖学的な解毒、というより内分泌的なものが多く含まれると思います。血液の循環量が多いとレニンという酵素が腎臓より分泌されて血管を収縮されることで血流量を調整する機能がありますよね。このような内分泌による生体のバランスを保つ働きを担当するのが“肝”です。

 

2番目は消化機能への影響です。消化機能といえば脾と胃が兄弟のようなコンビネーションでコントロールしています。脾気の上昇と胃気の下降で栄養素が体内循環にのり、不要物は体外へ排出されます。肝の役割はこの脾気と胃気の力のバックアップ。脾胃を先発とすれば肝は中継ぎです。脾が持ち上げた栄養素を肝が繋いで肺の宣発につなぐ、こんなイメージです。この脾から肝へのバトンの受け渡しがうまくいかないと“肝脾不和”という状態、上に持ち上げられず下痢や軟便の症状が続いたりします。同様に胃と肝のバトンタッチがうまくいかないと“肝胃不和”となってゲップ、嘔吐などの症状があらわれます。

 

3番目は精神活動への影響です。気は臓器などの働きを調整しているだけではなく、人の精神活動も支えています。肝の外に発散する力が弱くなると“肝うつ気滯”といって、気持ちがふさいで、うつうつとして、ため息が多いなどの症状があらわれます。また肝の上に持ち上げる力が強くなりすぎると“肝火上炎”といい、焦燥感や怒りっぽくなったり、不眠になったりします。

 

4番目はホルモンバランスの調整です。前の項目で疏泄は内分泌のバランスと少しお話しましたが、とくに性ホルモンの分泌には大きく影響します。ストレスが多ければ生理周期が乱れたり、経血量が増えたり、生理痛がひどくなる・・・そんな経験は女性ならだれでも思い当たるところはあるのではないでしょうか。これも全て肝の支配する気の流れの乱れ、そこから派生して血の流れの悪さによって起こるものです。

 

肝気は気が枝葉をのばすように、本来外にのびのびと広がっていく性質を持ちます。こののびやかさが失われたとき、肝気の乱れによるトラブルがおきます。

 

疏泄についで肝が持つ大切な役割は“血の貯蔵をうけもつ”ことです。ただ、このときの血の貯蔵、というのはただ単純にタンクとして保管しているだけではありません。陰陽説で、全てのものは陰と陽に分けることができる、というお話をしました。気のコントロールを担当する肝は陽の要素がとても強い臓器です(実際肝は陽臓といわれています)。ところが陽は陰がなくては存在できず、また陰とバランスを保たなくては正常な働きができませんね。この時必要になるのが陰に属する血の存在です。肝血はいきすぎがちな肝気を抑えるために必要な存在なので、肝血の不足は肝気の暴走を引き起こします。この肝血不足による症状として特徴的な点は陽気の暴走が血にも及び、不正出血や月経過多などとして現れることです。

 

肝は目に開竅し、その液は涙です。イライラすると目が赤くなったりしますが、これは肝の陽気の上昇過多です。目が渇く、疲れる、視力が落ちるなどは目を滋養する肝血の不足です。

 

肝の華は爪で、肝は筋をつかさどります。爪もまた目と同様に肝血の栄養を受けているため肝血が不足すると二枚爪など弱々しい爪となります。筋肉もまた、肝の支配です。脾の章で脾は肌肉、といいましたが、脾がつかさどるのは筋肉のボリューム的な面。肝は筋肉の機能的な面、たとえばしびれがないか、つったりしないかなどを管理します。足のつりといえば薬剤師ならだれもが芍薬甘草湯を知っているのではないでしょうか。芍薬は肝陰血を潤す、といわれ足のつり、という神経の過緊張、過興奮をなだめる効果があります。

 

肝の役割をあげていくと多かれ少なかれ“鉄”の存在は見え隠れしていますね。爪が弱くなる、というのは鉄不足の代表的な症状です。また、肝陽が暴走して出血すれば鉄は不足する一方ですし、あまり知られていませんが精神を安定させる脳内ホルモンは鉄によって作られるので、鉄不足は精神状態にも影響を及ぼします。血を増やす、といわれる食材に鉄が含まれるものが多いのも納得がいくように思います。治療としては四物湯を基本骨格にした方剤で血の生成を促しながら材料として鉄とタンパク質をとるようにするのがいいのではないでしょうか。

 

婦人科系のトラブルはまず肝の不調は多かれ少なかれあるようです。先日も古い友人が癇癪持ちの奥様の不満をこぼしていましたが…人間関係はいずれにせよ難しいものなので、体調を整えることで防げる喧嘩は防ぎたいものですね。ちょっとのことではびくびくしない肝を持つことは人生を少しスムーズにしてくれるのではないでしょうか。

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