中医学:腎の役割

 

臓象学説最後の主役、腎の出番です。

腎は自然界における水、と言われていますが海の方がイメージしやすいと思います。私たち全ての生命は海から始まり、未だ深海は未知の生物も多いと言われています。宇宙探査においても水、もしくは海の存在は生命の存在の可能性を示唆します。

腎は生命の源を生み出す深淵のような存在です。

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Mapleさんによる写真ACからの写真

臓象学説においても、腎は生命の根本を濃縮したものとして扱われます。水と脂肪とたんぱく質の塊である私たちがただのモノとしてではなく、自分の意思を持ち生命をつなぐ存在である秘密が腎に詰まっています。

腎は「先天の本」とされます。それは腎がご先祖さまから受け継いだエネルギーを貯蔵しているからです。このエネルギーの在庫を「先天の精」と呼びます。体の発育、知能の発達、生殖能力の旺盛さ、最後には寿命などがこの先天の精から大きな影響を受けます。

「先天の本」と対比して「後天の本」と称される臓があります。それは脾です。脾は飲食物から得られたエネルギーを「後天の精」として体に供給します。腎は先天の精に後天の精を補充し、2つを融合して腎精として格納します。これが腎のもっとも重要な役割です。

腎には封臓するという特徴があります。封臓とは奥にしまいこみ漏れでないようにするということ。腎は冬眠中の生物のように、気を閉じて外に精を漏らさないようにする性質です。腎精は体の奥に大切に保管されています。

腎精とは気血津液、何にでも分化できるエネルギーの根本です。受精前の卵子のようにまだ何ものになるのかわからない、可能性を濃縮したものです。

腎精の役割は大まかに以下の5つに分類されます。

  • 生殖と深く関わる
  • 生・長・壮・老のプロセスを支える
  • 髄を生み、骨や脳の元になる
  • 血液の生成と関わる
  • 外邪から体を守り、病気を予防する

この広い意味での腎精は腎陽と腎陰に分けることができます。腎陰は全身の陰のもとであり、腎陽は全身の陽のもとです。そのため、他の臓器において陰、もしくは陽の不足が見られたとき必ず生命力の上流となっている腎の状態に気を配らなくてはいけません。

次に、腎は水分代謝の要としての役割があります。解剖学的な腎臓も水分の排泄、それに伴う体液量の調整をしていますので違和感はありません。 

中医学もまた腎が水分の流れと量を調整すると考えます。水の流れに関係する臓腑は他にもありましたね。主には脾と肺です。もちろん脾と肺の働きも重要ですが、腎は元栓部分とでもいいましょうか、肺や腎よりさらに根本的な部分で水を管理します。

陰に属する水を動かすのは陽気であり、陽気が水の流れの駆動力となります。そして全身の陽気のもととなるものが腎陽です。つまり他のどの臓器より、腎の陽気の虚は全身に大きな影響を与えます。腎陽が弱まると、水の動きが鈍くなり、尿の量がへる、むくみがでるなどの症状が出ることがあります。また、逆に腎が水を制御できなくなるとトイレの回数が増えてしまいます。

 

加えて腎は納気をつかさどるという大切な役割をもちます。納気というのは気を体深くへ収めること。肺が吸った清気を腎が体の内側まで引っ張り込むことで呼吸が浅くならず、深部まで届けることができます。この腎の納気が弱くなると、呼吸が浅くなる、疲れやすくなるなどがあります。

 

ここで、呼吸を腎と肺で制御する、とお話しましたが、腎と肺は意外と接点が多い臓器です。とくに、免疫機能に関して。I型アレルギーを言われるアトピー、蕁麻疹、喘息、花粉症などは肺と深い関係があるようですが、橋本病や、リウマチ、糸球体腎炎などII型、III型の自己免疫疾患が関わるようなアレルギーは腎気の弱まりでおきるようです。外側の敵と戦うのが肺であり、内なる敵、自己と戦うのは腎ということでしょうか。たとえば肺の不調で抗利尿ホルモン・バソプレシンが分泌されたり、水液量を調整するアンジオテンシンの変換酵素も肺に存在したり、肺から腎に働きかける内分泌ホルモンも多いようです。

 

封蔵する、と説明される腎はエネルギーを奥深くに凝集してしまい込みます。その性質の現れのひとつとして、腎は骨を作るといわれています。なぜかというと、骨を養う骨髄(髄)は腎精から作られると考えるからです。腎が成長や発育を支える、と言われるのも骨と関係が深いためです。腎精が不足していると、十分な強度の骨が作られず、骨折しやすかったり、折れた骨の治りが悪かったりします。加えて、歯は骨の余り、といわれていますので、歯のトラブルも腎が大きく関わります。ただ、歯に関しては上の歯は胃経、下の歯は大腸系ともつながりをもちますので、腎の影響だけとはいいきれません。

 

骨と腎、といえば西洋医学的にも関係がありますね。そう、カルシウムの吸収を助けるビタミンDは腎臓で活性する必要があります。腎は利尿なども含めて全身のミネラルに働きかけるようですね。腎を強くする味覚として鹹味がありますが、この鹹味がミネラルを多く含むもの、という点も頷けます。

 

腎の華は髪と言われます。髪は「血の余り」といわれますが、この血は腎精から作られます。髪の毛が薄くなる、白髪が増えるなども腎精の不足によっておこります。

 

腎は耳に開竅する、と言われます。これは腎の気が耳へ通じることで正常な聴力が得られると考えられているためです。老化などで腎気が弱まると耳が聞こえなくなる、耳鳴りがするなど耳の不調が現れます。

 

最後に、腎と関係が深い“二陰”について。二陰とは2つの竅、という意味です。男性と女性では少し異なり、後陰は男女とも肛門のことを指し、前陰は女性では尿道と膣の2つ、男性では尿道と精液の出口となります。単純に前陰といえば外生殖器のことを指します。

 

腎は肛門、尿道の開閉をコントロールします。尿道や膀胱の収縮に腎が影響を与えるため、不調があればトイレ回数が増える、すっきりと尿がでないなどの症状がでることがあります。

 

また、腎の生殖器への影響に関してはその開閉だけではなく、生殖機能のすべてをコントロールしています。生殖機能は新たな命を育むために母体の身体を削る作業です。腎陰、腎陽、腎気、腎精の全てがバランスよく整った余裕のある体でなければその機能はうまくいきません。腎の虚により女性であれば生理不順や不妊症、男性であれば遺精やインポテンツになることがあります。また、極度に乱れた性生活や、多産などにより逆に腎精が消耗することがあります。

 

生命の源となる腎。腎の不調は表面化されにくく、また病層が深いため重症化しやすいようです。近年がん治療に関しても腎の関わりは注目を浴びています。

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