中医学:桂枝湯

こちらも臨床ではあまり前にでてこないですが、その構成をよく知っておく必要がある方剤です。

 

風邪の初期治療の問診でまず風寒か風熱か、外邪の種類を見極めなくてはいけません。悪寒悪風があり風寒と判断したら、次に確認すべきが汗の有無。無汗で体力があれば麻黄湯、そして有汗であれば桂枝湯の出番です。

 

内側の正気を強力に引き出す表実証の麻黄湯と比較し、桂枝湯は邪を追い払う十分な衛気不足がある表虚証が適応となります。

 

気の巡り、津液の巡りを知るために汗は重要な手がかりです。麻黄湯では発汗することで邪を散らしていますが、単に発汗が解熱効果があるというわけではありません。桂枝湯が適応となる処方では発汗が逆に邪を体内に入り込む隙を与えていると捉えます。麻黄湯証の内側からの力強い発汗と異なり、桂枝湯証では体表を守る衛気の不足により、腠理(肌表面に存在する汗腺のような穴。気や津液の通り道)を適切に締めることができず、汗が漏れ出るようになります。その腠理の穴から外邪が入り込み、悪寒悪風をするような状態です。

 

構成は

  • 桂枝 9
  • 芍薬 9
  • 生姜 9
  • 大棗 9
  • 炙甘草 6

 

基本的に食べ物に含まれるようなものしか入っていないので飲みにくさはありません。甘くて美味しい方剤です。

 

桂枝湯は扶正去邪のという、正気を補う作用と邪を散じる作用を併せ持ちます。

 

去邪のために主薬として桂枝が用いられています。桂枝は麻黄湯の時も説明しましたが腎の正気を表層まで一気に持ち上げ、発汗させる、辛温解表薬です。麻黄よりも穏やかな発汗力のため発汗しすぎることでの消耗の心配が少なく、表虚証であっても安全に使用できます。

 

そして扶正の役割として白芍薬が配合されています。芍薬は養陰収斂作用により、発汗過多による営陰不足を防いでくれます。

 

桂枝と芍薬のペアで表の陰陽の調和を整えるのに対し、裏の陰陽は生姜と大棗がバランスを保ちます。生姜もまた辛温解表作用を持ち、桂枝湯の解肌発汗作用を増強させませす。また、大棗が裏の陰を補充することで陽気とともについて巡る陰液の動きをスムーズにします。

 

甘草は脾気と陰液を補充して扶正の効果を強め、方剤の角を取ってくれます。

 

麻黄湯が陽気を強烈に動かすのに対して、桂枝湯は気と津液の巡りを緩やかに整えます。発汗作用は弱いため、桂枝湯を服用した後は少量のお粥を食べて、ふとんをかぶり熱を体に持たせ、邪気を汗とともに排毒するようにする、と原文(傷寒論)には加え書きがあるようです。また、脾胃の気を損なうことがないように、生ものなど、消化の悪いものは食べないように、との指導も必要となります。

 

桂枝湯では上へ気と津液を導く桂枝と下へ引き込む芍薬が1:1で配合されることで、上下の力を平衡にしています。この配合のバランスを変え、こ芍薬を桂枝に対して倍量で配合した処方があります。小建中湯、桂枝加芍薬湯などです。これらの方剤は下への引き込みを強くすることで裏の気血を導く構成です。それにより全く効果は変わり、解表効果ではなく、裏を温める和裏剤になります。

 

また、邪が誤って深くに入り込んでしまった時には桂枝湯去芍薬のように、桂枝湯から芍薬を除き上方向の発散の力だけを用いた方剤も使われることがあります。

 

全く同じ構成生薬を用いて、その配合バランスからここまで違う証に対応するようになる、というのは不思議ですし、本当に配合バランスは大切なことと教えてくれます。安易に1+1と足し算で薬を合剤できないことをよく教えてくれます。

 

経験抱負な漢方家によれば娘が嫁に行くなら桂枝湯を持たせろ、と。妊娠中、産後の風邪にも、幼児の腹痛、風邪にも使用が可能な安全で守備範囲が広い方剤です。産後は特に、気血が虚することで風邪ではなくても発熱、多汗の症状がでることがあります。こういう時にも桂枝湯は表裏の陰陽を無理なく整えてくれるので有効です。

 

漢方といえば有名な葛根湯。こちらも桂枝湯をベースに組み立てられています。安易に長期の使用をするのは感心できませんが、葛根湯が広く用いられるのも、この桂枝湯の気と津液への穏やかな働きかけがあってこそと思います。

 

 

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