栄養学:糖質2

 糖質、といっても様々な糖があります。

 オリゴ糖、というとお腹に優しいという印象ですが、もう少し詳しく知らないと本質は見えてきません。オリゴ糖の定義は糖質が3から9程度繋がった中程度の長さの糖質です。腸内環境を整えると言われるオリゴ糖はまた特殊なオリゴ糖の一部です。その腸によいオリゴ糖の代表は、人間の母乳に含まれるミルクオリゴ糖と呼ばれるものです。

 ミルクオリゴ糖は単純に人間である私たちがエネルギーとするグルコース、フルクトース、ガラクトースが連なった糖の連なりではありません。そこにはフコースやシアル酸、アセチルグルコサミンなど、さまざまなものが含まれています。そのために消化酵素で分解されず、単純に消化吸収されることなく大腸に運ばれ、次の段階である大腸の栄養素、プロバイオティクスとして働くようになります。

 生まれたての赤ちゃんの腸内環境は無菌のまっさらな状態です。そのまっさらな状態から産道を経てまず、お母さんから有益な菌をもらいます。その大切な菌を育てるのが母乳に含まれるオリゴ糖です。人間の赤ちゃんは体よりも脳の発育を優先しているため、母乳の内容もまた脳への栄養を優先しているそうで、他の母乳動物と比較し糖質多めのアミノ酸少なめといわれています。しかし、その貴重な糖質のなかで20%は赤ちゃんがエネルギーとして利用できないオリゴ糖の形で供給されます。つまり、母乳は赤ちゃんへの栄養として80%、腸内細菌への栄養として20%が含まれています。私たち人間は腸内環境を整えることが生き残り戦略としてかなり大きく占めることがわかります。

 母乳に含まれる残りの80%の糖質は乳糖といわれる状態です。乳糖はグルコースとガラクトースが1:1で繋がったものです。赤ちゃんの腸にはこの乳糖を分解する酵素が存在するのでそれらが腸で分解され栄養素として吸収されます。ガラクトースはまず、腸に吸収され一旦全て肝臓に収容され、グルコースに変換されて体内で利用されます。

 この乳糖(ラクトース)を分解するラクターゼという酵素は日本人に関して言えば成長するのに伴い一般的に活性を失います。乳糖が分解できず、大腸内の浸透圧が上がり、さらに乳糖をガスに変える腸内細菌の活動で牛乳を飲むとお腹がゴロゴロ、ガスがでる、というのは日本人の大人では自然な反応です。牛乳を飲み続けることで乳糖を乳酸や酢酸に変化させる菌が増えてこの腸の不快感が少なくなることはありますが、基本吸収できないことに変わりはないようです。ヨーロッパ人においてはラクターゼ活性が残っていることもあるようですが・・・。

 単糖の中で一番注目なのはフルクトース、これは少し特徴的です。ガラクトースは比較的グルコースの代謝経路をなぞるのに対して、フルクトースは独自の代謝経路を持ちます。フルクトースとは一般的に言われる砂糖のような、甘い糖質のことです。砂糖のような甘味成分はショ糖(スクロース)と呼ばれ、構造としてはグルコースとフルクトースが繋がったものです。

 グルコースは小腸上皮細胞でNaとの共輸送でSGLT1というタンパクを介して吸収されます。SGLTといえば・・・最近糖尿病治療薬で聞き覚えがありますよね。近位尿細管に存在して糖の再吸収をするのがSGLT2で、ここを阻害するのが糖尿病治療薬です。以前リンゴなどの樹皮で用いられた”フロリジン”という成分はかなり初期から糖の再吸収を阻害し、血糖のコントロールを改善すると言われていましたが、このフロリジンの作用点はSGLT1および2両方を阻害します。このフロリジンは尿への再吸収に関わるSGLT2の阻害は血糖コントロールに役に立ちますが、副作用としてSGLT1も阻害するため腸の浸透圧を上げて乳糖同様下痢の原因となり、実用には至らなかったそうです。ただ、現在のSGLT2阻害薬への研究の基になりました。

 話は戻して、フルクトースはグルコースを吸収するタンパクSGLT1とは全く別のGLUT5によって吸収されます。こちらは基本濃度に依存して吸収されます。そして吸収された後、フルコースのグルコースとの一番の違いはまず肝臓で全て回収され、そして中性脂肪へと代謝されることです。肝臓で回収されるフルクトースは体循環に入らず、血糖値を上げない糖質として注目を浴びました。そのため、一時果糖は太らない、などと言われました・・・。

 が、実際のところ果糖は血糖は上げないかもしれませんがの肝臓への負担は実際はかなりのもの、決して健康にいいとおすすめできるものではありません。グルコースが肝臓以外の臓器にも分配して代謝されるところを、果糖は全部肝臓が引き受けます。肝臓が処理するブドウ糖の割合を50%とすると、果糖は100%肝臓で代謝されますから、つまり2倍の負担です。実際、アルコールをほぼ一滴も飲まないのに、甘いものが好きだと肝機能が悪化する例は多いです。

 フルクトースを大量に摂取することでの肝臓への負担は大きくなり様々な健康被害が生まれます。肝臓でのエネルギー代謝がうまくいかないことで尿酸値が上がります。フルクトースの代謝産物は脂肪になるので心臓に負担をかけます。そして肝臓のインシュリン抵抗性を引き上げ、その結果糖尿病のリスクも上がります。肝臓にインシュリン抵抗性があると余分なエネルギーを脂肪細胞に送ることになり肥満を加速します。さらに、フルクトースは老化を引き起こす糖化リスクがグルコースの7倍と言われています。つまり、糖尿のリスクも、がん発生のリスクも、認知症のリスクも跳ね上がります。

 そもそも自然界に果糖はそこまで多くはありません。果実がなる秋を中心に、一定期間摂取できても、それが一年中続くことはあまりありません。そして現代社会では近所のお店で売っているフルーツは自然界のものと比較して品種改良で果糖が豊富になっています。果糖の摂取はこの50年で3倍になっています。

 果糖が肝臓で全て代謝され、体循環に回らない理由は、体が果糖を毒として認識しているから、という説があります。自然界に存在するものがそんなに毒性が?と思われるかもしれませんが、果糖は他の糖類と比較しても依存性が強い特性があります。果糖は植物が種をまくために動物をおびき寄せるためのもの、と考えれば動物の体にいいものでは必ずしもないこともあり得るように感じます。果糖はアルコール同様用法用量を守らなくてはいけないものだと感じます。

栄養学:糖質1

 今回は栄養学、ダイエット界隈、何かと話題の糖質について。

 糖質とは何でしょうか。糖質は脂質、タンパク質とともに3代栄養素の一つであり、もっとも速やかにエネルギーとなります。炭素、酸素、水素からなります。糖質と紛らわしい言葉に炭水化物がありますが、厳密には別のものです。炭水化物の定義は食品から脂質・タンパク質・ミネラル・ビタミン・水分をのぞいたものです。一般的にはこの炭水化物に含まれるものは糖質と食物繊維の2種類となります。分解吸収されて人間がエネルギーとして使えるものが糖質、分解できずエネルギーにならないものが食物繊維です。

 

ケミストのたまごさんによるイラストACからのイラスト 

 

 上の図はアミロース、白米やうどん、おいもに含まれるでんぷんと呼ばれる糖質です。自然界に存在する糖質の基本構造はこのように6つの炭素による輪っかが鎖のように繋がっている構造になります。この鎖状のアミロースはこのままでは大きすぎて微細な小腸の網目をくぐり抜けることはできません。そのため、消化管から口腔から唾液アミラーゼ、膵臓から膵アミラーゼなどのアミロースの鎖を切るための酵素が分泌されます。アミロースと食物繊維の違いは人間が持つ消化酵素アミラーゼでこの鎖を切ることができるかできないかです。私たち人間は食物繊維の鎖を切る酵素を持っていないので吸収されずそのためカロリーがないと言われています。

 このアミロースが分解され、最終的に一つだけになったものが”単糖”、その手前、二つ繋がったものが”二糖”、3つから9つ繋がったものが”オリゴ糖”です。アミロースのようなそれ以上に長い鎖は多糖類と呼ばれます。

 まず、最も糖質の基本となる単糖です。単糖は炭素6つが輪っかになったもので糖質の最小単位です。単糖類は3種類;グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースがあります。
 次に、二糖もまた3種類;マルトース、スクロース、ラクトースがあります。マルトースはグルコースが2つつながり、ほとんど甘味はありません。スクロースはフルクトースとグルコースが繋がったもので、別名ショ糖、一般的にいう砂糖のことで、甘味が強いのが特徴です。ラクトースはガラクトースとグルコースでできていて、乳糖と呼ばれます。甘味はショ糖の半分以下で、母乳や牛乳の甘味成分です。

 小腸粘膜には単糖を吸収する輸送体(単糖の運び口)しかありません。そのため、酵素で鎖を少しずつ切っていく必要がありますが、私たちにとって利用しやすいエネルギーとなる単糖は腸内細菌にとっても貴重な栄養源です。特に、腸内環境を悪化させる悪玉菌は単糖をエネルギーとして利用するため私たち人体と取り合いになります。そのためアミラーゼによって二糖類にまで分解された糖質が最終的に単糖にまでなる最後のステップは小腸にあるαグルコシターゼによって行われます。つまり悪玉菌に糖を渡さないようにギリギリまで単糖に変化させない、というわけです。

 糖類は水溶性が強いため脂溶性の細胞膜を単純に通過できません。グルコース、ガラクトースは小腸上皮にあるSGLT1という輸送タンパク(受け渡しの窓口)を介して吸収されます。このとき、糖は必ずナトリウムとともに運ばれます。これがOS1など経口補水液が糖とナトリウムを吸収のため一緒に飲むことを勧める理由です。このSGLT1は下痢などのトラブル時も通常と変わらず働きます。

 フルクトースは例外で、GLUT5という輸送タンパク質を介して小腸に吸収されます。こちらの輸送はナトリウムに依存しません。

 小腸で吸収された単糖は門脈を介してその50%が肝臓にまず回収されます。このときの吸収は輸送体GLUT2を介して行われます(GLUT2の取り込みはインシュリンに依存しない)。肝臓はその重量の8%ものグリコーゲンを貯蔵する一番のクリコーゲン保管庫です(筋肉は1%)。このGLUT2の取り込みは肝臓が脂肪肝や肝硬変、肝炎などの炎症を持つと傷害されるため、そういった肝臓疾患を持つと肝静脈に放出される糖質が増加し、食後の高血糖が顕著になります。肝臓に吸収されたグルコースはインシュリンの作用を得てグリコーゲンとして貯蔵されます。また糖尿病のようなインシュリン作用に障害を持つとグリコーゲン合成促進、糖新生の抑制作用が低下しこちらも食後高血糖になります。

 こうして肝臓に取り込まれなかったグルコースは肝静脈から大循環へ流れ、インスリンの追加分泌によってGLUT4を介して各組織に吸収されます。GLUT4により糖を吸収する組織は骨格筋・心筋・平滑筋・脂肪細胞・白血球・膵島のα細胞などです。GLUT4を解する糖の輸送はインシュリンに依存します。これはインシュリン抵抗性が高いと太りやすくなる理由となります。

 肝静脈に放出されたグルコースを最も多く取り込むのは骨格筋です。その割合は70%ほどと言われています。この割合は適切な運動でさらに増加します。

 筋細胞から取り込まれなかったグルコースが行く先は脂肪細胞です。脂肪細胞は脂肪滴という独特の袋を細胞質に持ち、そこに糖質をトリグリセリドとして貯蔵します。

 血糖のコントロールは一般的に知られている以上に精神的な状態に影響を及ぼします。アメリカで精神疾患の診断に一般に用いられるDSM-5では精神疾患の基準の一つとして糖尿病が挙げられています。ここで何が言いたいか、というと中医学で言われる”肝”の働きと西洋学の”肝臓”の働きの類似点です。中医学の肝は疏泄をつかさどると言われ、消化機能、情志の調整をすると考えられています。

 肝の疏摂機能は必要なものを必要な場所に届けることの調整です。中医学の肝と西洋学の肝臓は認識がことなるところが多いのですが、糖の代謝に関しては一致しています。まず、肝臓が血糖を貯蔵し、その残りを他臓器に分配します。そして、血糖が不足しているときは肝臓がその不足を補うため非常食としての血糖を放出します。まさに疏摂をつかさどる、全体の配分を調整する肝の働きです。血糖に関してはまさに“肝”の働きと”肝臓”の働きは驚くほど一致します。

 そして、血糖コントロールの乱れはまさに情志に影響します。これに関しえてまた次回のお話します。

中医学:六淫・火邪

 いよいよ最後、熱の邪気、火邪です。単純に熱い邪気というと暑邪との違いは?と思うかもしれません。火邪は六淫の中で他と少し格の違う存在です。

 火邪についてお話しする前に、「病」という漢字に注目してみましょう。「病」はやまいだれに丙(ひのえ)が入っています。火の象徴である丙が上からも下からも押さえられています。この火の熱が塞がれて外に発散できない状態を古来の中国では病と捉えていました。実はこの状態がまさに火が毒邪となった火邪の状態です。

 火邪は陽が極まった時に生じます。「火邪」と聞くとこれまで出てきた熱の病証や暑邪との違いは?と思った方も多いのではないでしょうか。もちろん火邪と暑邪ははっきりと異なるものです。これまでご紹介してきた六淫が原因となって熱を生じるものは風熱、暑熱、湿熱、燥熱などがあります。熱を作るこれらは季節性が強く、基本的には外から感受する外淫によるものです。一方に火は内生のものが多く、心火、胆火、肝火などがあります。そして、先に挙げた外淫の風・暑・湿・燥そして寒までも体内に鬱していると火に転化することがあります。この点が火邪が他の邪気と別格と言った点です。この外邪が火邪へと変化したものを「五気化火」と言われます。また、季節性の強い外淫だけではなく喜・怒・思・悲・恐などの情志もまた過剰になると火に転じることがあります。この情志による火邪は「五志化火」と称されます。ただ、火と熱は基本的にはよく似た性質と発病の特徴を持ちますので、治法などは大きな区別なく論じられることが多くあります。

 火熱の性質と発病の特徴

火熱は陽邪、その性は炎上
 火熱は陽邪であり、よく動き上に向かうため、「炎上」の性質があると言われています。そのため頭部に症状が出やすく、高熱、煩渇、面紅、目赤、発汗などが現れます。
 また、火の炎上は神明をかき乱すといわれ、心煩、不眠、狂躁、妄動、神昏、譫語などの精神症状も現れやすくなります。

気と津液を損傷しやすい
 陽邪である火邪は人体の津液を消耗します。そのため唇や喉の乾燥感、口渇喜飲、尿赤短少、大便秘結などの津液損傷の症状が出ます。また、気を消耗すると倦怠感、懶言、精神疲労、脱力感などの気虚症状をきたします。

生風、動血しやすい
 火邪は内生の熱のため肝陰を消耗し、筋脈が濡養できなくなると肝風が生じます。肝風は「熱極生風」といわれます。ちょうど熱によって上昇気流ができて竜巻などが起きるようなイメージでしょうか。この肝風が起きると、筋肉が興奮状態になるため四肢の痙攣、頸頂部の強直、角弓反脹などが症状として表れます。(角弓反脹とは体が痙攣で反り返った状態。熱生痙攣や感染による痙攣などで起きることがあります)
 また、火邪が脈絡を損傷すると血熱、といわれ出血症状が現れることがあります。吐血、咳血、衄血(歯茎や舌、鼻などの外因性ではない出血)、血尿、血便、皮膚出血、あるいは斑疹(感染が原因による皮膚紅斑)および、月経過多や崩漏などが現れます。気虚出血と異なり、火熱による出血は血の色が濃く、勢いがあるのが特徴です。

瘡瘍の形成
 火邪が深く血分に入り込み、一定の箇所にとどまると血肉を腐食する瘡瘍が起こります。瘡瘍は皮膚にできる湿疹ですが、その中でも特に癰腫と呼ばれる急性化膿性疾患が火邪によって起きます。癰腫は赤く腫れ上がり、熱と痛みを伴います。

火邪による病証

 火熱が強くなると出血を起こす、肝風を引き起こします。出血症状は血分に入り込んだ熱を冷ますため、清熱涼血薬を用います。高熱・煩燥・顔面紅潮・目の充血などが強いときは神経の興奮を抑える清熱瀉火薬が用いられます。譫語や四肢の痙攣などの肝風を押さえるためには風を収める熄風薬に加え、熱の度合いで滋陰清熱などの薬を加えます。

 火毒はうっ滞した火邪の熱が血肉を腐食することです。瘡瘍の形成がこれにあたります。基本は清熱解毒薬を用い熱と、それに伴う湿を排除します。痒みなど風の症状が強ければ疏風薬も併用します。

代謝熱のうっ滞と水毒についてしっかり書かれた本です。参考になります。

中医学:六淫・燥邪

 前回の湿邪とはまた正反対の、今回は燥邪についてです。燥邪は乾燥が強くなる秋の主気です。口や鼻から侵入して、肺の衛気を傷害します。温燥と涼燥の2つがあり、夏の終盤、まだ夏熱の余気に乾燥が加わると温燥、秋が深まり寒気と燥があいまると涼燥になります。

燥邪の性質と発病の特徴

乾燥性があり津液を消耗しやすい
 燥邪は湿邪とは全く正反対の特徴を持ちます。陽気を損傷させやすい湿邪と対比的に、燥邪は陰液を消耗させやすい陽邪の性質を持ちます。体表を中心として乾燥症状を起こしやすく、鼻や喉の粘膜の乾き、口が渇き飲み物を欲しがる、皮膚の乾燥などが現れます。特に皮膚や髪への影響は大きく、皮膚のかさつき、痒み、ひどいと亀裂が生じたり、髪がパサついたりします。燥邪による影響は“潤い”を失うので美容に関心のある女性には大きな問題です。また、体液量がただでさえ少ない老人は燥邪の影響を受けやすくなるため注意が必要です。

肺を損傷しやすい
 体表を中心に人体を侵しやすい燥邪は基本は外感病証の原因となることが多く、内傷となることはあまりありません。最も影響を受けやすいところは体表の衛気をコントロールする肺です。肺は矯臓(か弱い臓器)と呼ばれ、潤を喜び、燥を悪むと言われています。肺は呼吸をつかさどり、鼻に開竅していますから、乾いた空気が体内に入るとき、まず肺のコントロールを受けるようになります。乾いた空気が肺に直接届くと粘液で湿っていることが必要となる肺の細胞の正常な働きを妨げるため、鼻の奥で適度な湿気を加えるような仕組みになっています。このバランスが崩れたとき、咳嗽や痰などの病的な状態に進行します。

燥邪による病証

 まだ夏の暑さが残る初秋、熱と燥が結びついておきる病証を温燥といいます。温燥の邪が肺気を侵すと外感表証の発熱や軽い悪風や悪寒、頭痛、咳嗽があり痰は少なくなる、などの症状が現れます。温燥により津液が消耗するため乾燥症状が強く表れ、口が渇き、飲み物を欲しがる、唇や喉の乾燥感、心煩や腸も乾いて便秘がちとなります。こういった温燥証には熱をとり、乾燥を潤して肺の衛気を整える辛涼甘潤を治法として用います。

 秋が深まり、冬季の寒気と燥邪が結びつくと涼燥証となります。こちらは温躁証と比較し強い悪風・悪寒が現れ、発熱や頭痛、汗は少し出ます。涼燥の邪が肺の衛気を傷害するため宣発機能が失調し、津液の消耗は温燥証ほど顕著ではありませんが、空咳や鼻の乾燥感が出ます。涼燥証には宣肺潤燥のように肺の衛気を養い燥を潤します。

中医学:六淫・湿邪

 季節は一般的に春夏秋冬の4つとされますが、陰陽五行説を重んじている中医学ではもう一つ季節を追加しています。それが長夏、といわれる高温多湿、むしむしと暑い時期です。本来中国では夏と秋をつなぐ時期が長夏と言われていますが、日本の気候では湿気が最も盛んな梅雨時期を長夏と捉えています。この長夏に猛威を振るうのが湿によって傷害される湿邪です。湿邪は、気候だけではなく、雨に濡れたり、地下など湿気が強いところいるなどの原因で感受することがあります。梅雨時、夏のむしむし暑い時期は下痢になりやすい、食欲が落ちやすいなど脾胃の症状がよく現れますよね。湿邪は脾の運化機能を失調させ、湿濁内生を引き起こします。

湿邪の性質と発病の特徴

湿は陰邪、気機を阻害しやすく脾胃の陽気を損傷しやすい
 湿は水の性質を持ち、陰邪に属します。そのため陰盛の時は陽気を損傷しやすく、特に脾陽を閉じ込めます。湿邪が臓器経絡に滞ると気機 (気の昇降出入運動) を阻害しやすく、湿阻気機証を引き起こします。代表的な症状は胸脘痞悶・頭身困重・下痢・小便混濁・舌苔粘膩などが現れます。
 特に湿邪によって脾陽を損傷すると、脾陽不振・運化無力となり、脾胃に水質が停滞し下痢・尿少・腹水・水腫などの症状が生じます。

湿の重濁性
 湿には重濁性が強いという性質があります。重濁性の「重」は字のごとく重い、動きが悪い、ということを表しています。湿邪による気機阻滞の特徴は重だるさです。湿邪が肌表より侵入すると気血が滞り、頭や身体が重い、四肢がだるい、肌感覚がなくなる、関節疼痛などの症状が現れます(ちなみに、血瘀による痛みは刺すような痛みですので、湿と大きな違いがあります)。
 重濁の「濁」もまた、字のごとく汚い、という意味があります。湿邪を感受すると排泄物や分泌物が多く、ベタベタしたものが多くなります。例えば目やにが増える、湿疹からねばねばした浸出液が出る、便がべたべたする、小便が濁る、おりものが増える、粘るなどが現れます。

湿の粘滞性
 湿邪は粘膩性が強いため、分泌や排泄がスムーズにいかず、停滞しやすいという性質があります。また、湿邪による病態はしつこく、なかなか治らない、一時改善してもぶり返すことが多くあります。感染による胃腸症状、じゅくじゅくした湿疹などがこれに当たります。

下降しやすく、下部を侵しやすい
 湿は水と同じ特徴を持つため、その影響は下に降りやすく、特に下半身の症状に表れやすくなります。下半身に水がたまる浮腫や、淋症(頻尿・尿急迫・排尿痛・結石)や脚気、下痢などの症状が湿邪によって引き起こされることが多くあります。

湿邪によって引き起こされる病証

 湿熱の邪を感受することによって発症する外感疾患に湿温があります。湿温は発症は緩慢ですが、経過は長引いという湿邪の特徴を持ちます。例えば不適切な飲食(鮮度が落ちた食品など)で脾胃の運化機能が失調し、湿熱を感受して中焦を傷害します。腹部の痞えた感覚、脹満感、食欲不振、下痢などを引き起こします。湿と熱が同時に存在する病態には化湿清熱の治法がとられます。

 また、湿が脾陽を閉じ込めることで脾胃の気機を損傷すると湿盛困脾となり、結果心陽を傷害することがあります。症状としては頭が包まれるようなぼんやりした感覚、眠気がでる、四肢が重だるく、胸部と胃脘部に痞えが生じます。こういった場合は脾を元気にして湿を除く燥湿健脾の治法がとられます。

 また、脾腎陽虚によって湿濁が内蘊(ないうん・内に滞る)すると尿量が少なく、悪化すると尿閉に進行する関格となることがあります。顔色が黒くつやがなく、冷えや精神疲労、足のむくみや食欲不振、悪心嘔吐、泥状便などの症状が現れます。治法は脾腎を暖める温補脾腎に加えて湿を流し出す化湿降濁を行います。

中医学:六淫・暑邪

今まさに猛威を振るっているのが暑邪です。暑邪は季節性が強く、夏至から立秋の夏の盛りに現れます。季節性が強く、外からの襲来であるため外感病邪となりますが、内生の病証の原因となることはありません。

暑邪の性質と発病の特徴

暑邪は陽邪、その性は炎熱
暑は夏の盛りに極まり、火熱の気から生じるものです。暑は陽邪であり、炎熱の特性があります。暑邪によって起こる症状は、高熱・顔が赤い・大汗・煩渇・脈洪大などの熱症状が主になります。

脈洪大とは、大きく押し寄せる波のような脈のことです。「来盛去衰」などと言われますが、来る時は力強く、去る時の力はそれに比べて強さがない脈です。このような脈証は体に陽気が満ち溢れているということですが、あくまで病的な脈の場合では、邪盛正虚の邪気が強く正気が憔悴しているので注意が必要です。

その性は昇散、気・津液を損傷しやすい
暑邪は陽邪ですから上に昇る、外に散らすという特性があります。この特性のため暑邪を感受すると腠理が開き、汗となって気・津液が外に漏れ出ていき、度がすぎると気津両傷となります。身熱・多汗・口渇・水分を飲みたがる・息切れ・脱力感などの症状が現れます。加えて、その昇散性から頭部である神を犯しやすく、ひどいときには熱中症に代表されるような突然倒れたり、意識消失やうわごとを言うような状態になります。暑邪は炎熱の気が強いため汗がなくとも津液が消耗し、口渇、不眠など乾きの症状がでやすくなりますので、常に津液の状態にも気を配る必要があります。

湿邪を伴いやすい
暑邪が猛威を振るう夏季は熱同様湿も高くなります。そのため暑邪は単体ではなく湿邪と 複合して体に侵入します。湿がからむと脾胃への影響が強く現れ、四肢の倦怠感や胸焼け、吐き気や下痢などの湿の停滞の症状も複合して現れます。

暑邪によって引き起こされる病証

一般的に風邪は冬季にはやり、外感病邪である風熱や風寒と捉えることが多いです。しかし夏の風邪は暑邪によるものが多いため通常風邪に用いるような辛温解表や辛涼解表の治法では的外れとなります。
夏の風邪では暑邪と湿邪が絡んだ暑湿証が多く見られます。体が熱く、やや悪風(風寒に比べて程度が低い)体がだるくて重い、胸のつかえに加え、やや発汗、頭が重くて痛むなどの症状が現れます。これは湿邪が体表の衛営を乱し、肺気の宣発粛降が衰え、さらに中焦まで阻害するため、脾胃にも症状が現れます。こう言ったケースでは熱を冷まして湿を除く清暑祛湿薬が適応となります。

また、中焦に暑邪が襲撃するとこちらも湿をあいまって脾胃の気を損傷、胃腸の伝導、運化機能が失調します。激しい下痢、腹痛などが強い場合清熱利湿薬を用いて治療します。

暑邪の病証といえば、中暑、熱中症が代表です。強烈な日差しや高温下での運動などを長時間行うと体が熱く、大量の発汗、口渇、また頭部を犯し煩躁のような症状が出ることがあります。こういったケースでは熱を冷まして津液を補充する清熱生津の治法が当てはまります。また、大量の発汗などで暑邪が気陰を消耗すると、無気力や食欲不振など気虚症状が強くなることがあります。こういったときは気と津液を両方補充するような益気生津の処方が適しています。

中医学:六淫・寒邪

次に紹介する邪気は“寒邪”です。もちろん、気温が低くなる冬季に猛威をふるう邪気です。しかし、他の季節であっても雨に濡れたり、汗をかいたり、現代病としてはクーラーの影響や冷飲食によっても寒邪を受けることがあります。

寒邪を感受すると外寒病証を患ことが多いです、いわゆる風邪です。しかし、この寒邪を散らすことができない場合、徐々に体の内側に入りこみ陽気を傷つけ、内感病証になることもあります。

寒邪の性質と発病の特徴です。

寒は陰邪、陽気を損傷しやすい。
寒邪は風邪と異なり、陰邪です。陽邪である風邪がさまざま形や場所を変えて症状が現れる様子と異なり、陰邪である寒邪は一度罹患したらその場所にじっと留まります。また、寒邪を受けると陽気を損傷しやすく、温煦作用と気化作用が失調すると寒邪を追い出すことができなくなります。また、寒邪が鬱滞すると悪寒や悪風が現れます。
一般に寒邪は外感病証、いわゆる風邪が多いですが、臓腑を直に襲撃することもあります。冷たいものの食べ過ぎで起きる脾胃への直中は誰しも経験があるのではないでしょうか。こいったケースはたとえば脘腹冷痛、嘔吐、腹瀉が起きます。心や腎が寒邪に襲われると陽気を損なうため心腎陽衰、温運無力となり、四肢の冷えや下痢などの症状が現れます。

寒の凝滞性
感覚的にもわかりやすいと思いますが、寒はものをぎゅっと縮こませる性質があります。寒いと体が硬くなる、その感覚のままですね。
具体的には寒邪は気血、津液の流れを凝集し、滞らせて、そのスムーズな流れを失調させます。中医学では「通せざれば痛む」といわれ、滞りがあれば痛みが生じます。お風呂に入ると楽になる痛みは寒邪による凝集性で、気血の流れが阻害された結果といえます。生理痛など、温めれば治る痛みのケースはそのため温経湯などの温め作用が強く、血の凝集をなくすような方剤が使われます。

寒の吸引性
凝集作用に似ていますが、寒は気血を封じ込める作用があります。例えば寒邪を感受すると腠理が収縮して、無汗となります。寒邪が血脈に留まると、気血が凝滞し、頭部や体の痛みとなります。これが葛根湯などによって効果が出る気血の凝集による筋脈の痛みです。

中医学:六淫・風邪

六淫は本来私たちの体に正気を与えるはずの自然の正気が、なんらかの理由で邪気に変化し、病気の原因となるものです。

今回は風について。

風は軽やかで、上にのぼる性質があります。自然界の正気である風もそうですし、それが邪気となった風邪も同じです。

年間通して風が吹くように、正気の風も風邪も一年を通して私たちの体に影響を与えています(ただし、一番影響力が強いのは春です)。そしてその軽やかさから、特に他の邪気と組んで人体に影響を与えます。風邪は主に皮毛から人体に侵入し、体のバリアシステムをダウンさせて、病気を発症させます。

風邪の性質と発病の特徴を見ていきましょう。

  1. 風は陽邪、その性は開泄、上部を侵しやすい
    風は陽邪、つまりよく動く邪気です。一つの箇所にとどまらず、次々と場所を変えて症状を現します。また、特に上焦に影響を与えやすく、頭痛、鼻づまり、咽喉の痛みや痒みなどを起こします。また、体の表面の固摂力を低下させ、皮膚腠理が開くため、汗として津液、熱として気が体外へ流出しやすくなります。
  2. 風はよくめぐり、しばしば変ず
    皮膚病疾患に多いように思います。風邪による病態はよく部位を変え、さらに時間によって出たり現れたりします。さらに蕁麻疹に代表されるような急に現れ、すぐに消えるような変化が早いものも風邪の特徴です。
  3. 風は百病の長
    風邪は六淫の中でもっとも他の邪気と組み合わさって状態を悪くすることが多いです。例えば、寒・湿・燥・熱などと合併し、風寒・風湿・風燥・風熱などです。このため風邪は多くの病の先導者、という意味で百病の長と言われます。
  4. 風は動きやすい
    風は動きやすい、という特徴から風邪に侵された病態は肢体に異常運動や硬直が見られます。例えば、四肢の痙攣・顔面まひなどです。強風でカタカタと何かものが鳴るようなイメージでしょうか。熱性痙攣やリウマチなども風邪の症状と考えられています。

この4つが風邪の性質です。

中医学:六淫

中医学では病気の原因となる病因を、環境由来の”外感”と臓腑の失調から起きる”内傷”の2種類があると考えます。今回はこの環境由来の病因である外感についてお話しします。

病因を特定することはとても大切です。なぜなら、それは治療の精度を上げるために必要なのです。例をあげると、外感の代表に“風邪”、一般的に言うかぜがあります。風邪と一言にいっても中医学ではその原因を細分化します。例えば、外からの寒気が体に入った”外感風寒”と熱が入った”外感風熱”です。例えば麻黄湯は外感風寒の治療の代表的な治療薬です、そのため寒邪を追い払うため方剤全体は暖める構成となっています。暖める方剤である麻黄湯を熱を持つ外感風熱の病態に使うと、もちろん効果的な治療とはなりません。

中医学では患者の体質を細かく把握し、ピンポイントに症状にあった方剤を処方することが大切です。まさに針で糸を通すような気持ちです。

私たちの体は健康であっても病んでいても自然の気の影響を受けて、時にそこからエネルギーをもらっています。この自然の気を気候の変動を合わせ 風・寒・暑・湿・燥・火と分け、それらを総称して ”六気”と呼びます。この六気は自然な状態では万物を育むものですが、異常が起きたときには逆に私たちの体に影響を及ぼす外邪となります。この外邪となった六気のことを”六淫”と言います。

六気の異常とは、本来よりある気が過剰である、もしくは不足である、さらに時季外れに起きる、ということです。例えば異例の猛暑だとか、長すぎる梅雨時期、季節外れの台風などです。本来自然の正気を与えてくれるはずの六気が異常な気となり私たちの体調に外を及ぼす六淫(六邪)となります。この発病の原因となる六淫は、外感病の主な発因となるので”外感六淫”ということもあります。

六淫の発病には、一般的に以下の特徴があります。

  1. 六淫による病気の多くは、季節、時間、場所、環境などの要因で発症率が大きく影響を受けます。例えば春は風がよく吹くので風病が多く、梅雨時は湿が高いので湿病が多く、また夏は暑いため熱病が多く、秋は乾燥するので燥病が多くなります。同じように、湿の多い日本では湿病が多く、乾燥した中国の内地では燥病が多くなります。
  2. 次に、六淫は必ずしも単独で行動するわけではなく、相性のいい特定の邪気と組んで同時に生体を襲うことがあります。さきほど風邪の例であげた、風寒や風熱がその代表です。風寒は風邪と寒邪の両方の特徴を、また風熱は風邪と熱邪の両方の特徴を兼ね備えています。他に、湿邪と熱邪も夏の湿気が多く暑い季節、日本のような気候では同時に人体に害を与えやすい邪気です。
  3. また、六淫は外邪ですので、基本皮毛や口鼻からの侵入となります。臓器の失調により体調を崩すことももちろんあり、これらも一見六淫から与えられる症状とよく似ていることがあります。しかし、臓器の失調によるものはあくまで体の中から作り出した”内生五邪”と呼ばれる臓腑の病であり、六淫とは本質的に違うものです。

次回から、六淫の一つ一つを細かく見ていきます。

中医学:病因・内傷

病気の原因となる”病因”には大きく分けて2つ。外感と内傷です。外感は外から邪気が体内に入る病態で、疾病の性質は実で解表など外を治す治療が主軸となります。今日のような暑さで熱中症を起こす、体が冷えて風邪をひくなどが外感によるものです。

それと引き換え、内傷は臓腑の不調が全身の不調に及んでいくものです。疾病の性質は虚で、補血、補気など補剤による治療が中心になります。今日はこの内傷について少し詳しくお話しします。

誰しも、気持ちが落ち込んだり、疲れがたまることで体調が悪くなる、ということはあるものです。一番身近な内傷による体調不良ではないでしょうか。内傷は主に2つに分けることができます。一つは心の疲れである七情と、もう一つは体の疲れである飲食と老逸です。

まず七情とは、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情です。単にストレス、と言ってしまえば簡単ですがそれぞれどんな感情を強く持つかによって、どこに、どのような影響を与えるかは変わってきます。

以下、七情とつながりのある臓の関係です。

  • 心は喜を主るが、喜びすぎると心を損傷する。
  • 肝は怒を主るが、怒りすぎると肝を損傷する。
  • 脾は思を主るが、思いすぎると脾を損傷する。
  • 肺は悲憂を主るが、悲しみ、憂いすぎると肺を損傷する。
  • 腎は驚怒を主るが、驚き恐れすぎると腎を損傷する。

七情によって各臓器損傷を受けやすいですが、特に影響が大きいのは心・肝・脾の三臓です。

【怒】
怒ると気が上るといわれています。肝の疏泄機能に異常が生じ、肝気が横逆して上衡し、その結果突然倒れたり、意識不明、人事不省に陥ることがあります。

【喜】
喜びすぎると、気が緩むと考えます。良さそうですが、”気が緩んだ”状態は一つのことに集中できないということです。端からみたらやる気がない人、みたいな印象だと思いますが、これは心血虚の状態です。ひどくなると失神、狂乱がおきることがあります。

【悲(憂)】
悲しみすぎると気が消えると言われます。気が消えると肺気が弱まり、意気消沈する、元気や覇気がなくなります。呼吸機能が弱くなり、息切れや喘息、表虚となって自汗がでたり、風邪を患いやすくなります。

【恐】
恐れすぎると気が下る、といいます。気が下ると腎の封蔵機能(ものを閉じ込めておく力)が低下します。極端ですが、その結果二便に影響がでると大便失禁や遺尿、生殖器に影響が出ると流産などが起きやすくなります。

【驚】
気が乱れる、といいます。突然驚きすぎると心神が帰るところがわからなくなり、混乱状態になります。恐と驚は両方腎に属する感情でとても似ています。違いとしてははっきりした対象に対して抱く感情を恐とし、意識せず突然受けるショックが驚と分けられているようです。

【思】
思うと気結(けつ)す、といいます。あまり思いを巡らせすぎると、脾気を損傷し、湿などうっ滞が生じやすくなります。また、考えすぎることで血をすり減らし心血虚となり心悸・不眠・多夢などの症状が増えることがあります。

このように過度の感情の揺れ動きは特定の臓器に影響を与え、またその臓器がもともと虚していると、つながりのある特定の感情も揺れ動きやすくなります。

内傷はまた、いわゆる感情だけではなく体の疲れによっても起きることがあります。大きく分けて、飲食による胃腸の使いすぎ、さらに働き過ぎによる肉体の疲れがあります。

まず一つ目は飲食による胃腸の使いすぎです。この飲食を原因とした体の不調を”飲食失節”といいます。不適切な飲食行動は脾胃を損傷し、さらに脾胃の損傷は他の臓器に影響を与えます(この辺りは脾胃論が詳しい)。この飲食失節には3種類あります。

  • 飢飽失常
    これは飢餓と過食のことです。飢餓はもちろん栄養不足から気血不足や抵抗力の低下を引き起こします。また、過食は脾胃の負担により食積や食滞を引き起こします。
  • 飲食不潔
    これは不潔なものを食べたり、毒物を食べることで消化不良、食中毒などを起こすことです。
  • 偏食
    これは食の好き嫌いや偏りです。甘いものを食べていると消渇(糖尿病)になったり、辛いものを食べ過ぎると胃腸に熱がこもり、お腹がはる、便秘などの症状が現れるなどがこれに当たります。また、冷たいもの、生ものの食べ過ぎも脾胃の損傷を招きやすいので注意が必要です。酸味は肝、苦味は心、甘味は脾、辛味は肺、鹹味は腎というように五味をバランスよく食べることも大切です。これにより臓腑に偏盛・偏衰が現れにくくなります。

次は肉体の疲れです。

  • 労力過度
    これは単純な働き過ぎ、体の使いすぎのことです。
  • 心労過度
    七情の項でご案内したように、心も遣いすぎれば心血を消耗します。
  • 房事過度
    落語で”短命”という演目があるようですが、まさにその話のように、夫婦の情事が多いことによる腎精の使いすぎのことです。落語のように命までは落とさないと思いますが、女性なら早めの閉経や男性なら遺精が起きるようです。
  • 安逸過度
    これは休みすぎ、動かなさすぎ、ということです。動かないことで気血の流れが滞り、病を引き起こすと考えられています。

本当に当たり前ですが、体の疲れに関しては飲食・労働・休息の3つとも適度が大切ということです。何事も頑張りすぎず、適量の飲食、適度な労働と休息が疾病をさける近道です。