中医学:随機制宜

やっと梅雨も明けて、夏らしくなりました。ちょうどこの蒸し暑い頃、昨年の夏に長春に研修旅行に行ってきました。

そのとき、ちょっと印象に残ったのですが中国では夏は”冬病夏治”と言って、夏の陽気を利用して冬の病気を治すような治療をするようですね。この暑い時期に、さらにお灸をうったり、生薬で作った蒸し布団(?)のようなもので体を温めたり。今日はそんな季節や場所による治療法の違いの話です。

少し難しい言葉ですが、”随機制宜(ずいきせいぎ)”という用語があります。臨機応変に対応する、という意味です。中医学では私たちの体は自然の一部と捉えられます。そのため、季節や地理環境、社会環境など様々な要因に影響を受けずにはいられません。時を見て、場所を見て、人を見て、治療の方法を細かく変化させていく必要がある、ということです。

まず”因時制宜”。これは時、つまり季節や気候をの変化に注意して治療を行う、ということです。まさに冒頭で話した冬病夏治はこの考え方を元にしています。

一般的には春夏は陽気に満ちあふれ、温暖なため血液はなめらかに流れ、皮膚表面に気血が向かい腠理は緩みます。そのため、汗が出やすく、尿が少なくなります。

また秋冬は逆に陰の気が勝り、寒冷な気候のため血液は滞り、気血は体表を巡らず、皮膚は緻密になります。そのため発汗はなく、その代わりに尿が多くなります。

そのため、治療では春夏は発散させすぎないように、秋冬は陽気を損なわないようにしなくてはなりません。春夏の風邪では葛根湯や麻黄湯のような強い発散系の薬は注意が必要であり、特に陰液の消耗に気をつけなくてはいけません。

次いで、”因地制宜”。その土地に応じて、治療法を考えるということです。風邪の例を再びあげると、北部では辛温発散薬を用いることが多く、南部では辛涼発散薬を用いることが多くなります。また、燥性の強い中国で発展した中医学は湿の多い日本ではそのまま応用できない部分もあり、例えば柴胡剤のような燥性が強い生薬は日本では多用されますが、あまり中国では活躍の場がないようです。

そして、”因人制宜”です。これはその人によって、治療を変えると言うことです。その人の年齢、性別、体質、生活習慣、社会環境、心理状態など様々なことを考慮して治療に当たります。当たり前のことのようですが・・・例えば、小児ならば胃腸が未熟なため正気が強く損なわれるような方剤は注意が必要ですし、妊婦であれば熱を持ちがちなので温めすぎるのはいけません。また、痩せている人は陰が虚して虚火を持ちやすく、太った人は逆に湿をためて、痰湿を生じやすくなります。また、中国の人は胃腸が全体に強く、日本人は弱いなどの傾向があるようです(食の影響もあるかもしれませんが・・・)。

少し話は変わりますが、汗とはなんのために流れるでしょうか?水分過多、というケースもあるかもしれませんが、ほとんどの場合熱を発散するために陽気(病的な)とともに津液が流れることで熱を逃がすためです。この季節になると最近では熱中症対策としてメディアでも水分と塩分の摂取が呼びかけられていますが・・・少し疑問です。

確かに発汗量が多い人が水分を摂取するのは構わないと感じますが、現実的にはオフィスワークでほとんど汗をかかないような人も多いのではないでしょうか?私たちの体は長さ9メートルの消化器官を持ちます。この消化器官は胃液や唾液、膵液などさまざまな水分で常にびしょ濡れです。そこにむやみやたらに水分を加えると、消化液が薄まり消化力が下がり、胃腸の負担が増えることになります。特にこの時期の大量の冷飲食は本当に体にいいのでしょうか。

また、水分だけとって冷房を効かせた部屋で汗をかかないこともまた問題です。先ほど寒さで皮膚表面は緻密になる、と言いましたが、冷房で皮膚表面に気血が行き渡らなくなれば、当然発汗はありません。しかし、体の中には熱がこもったまま、逃げ場がなくなることがあります。室内での熱中症はこのような方が多いように思います。やはり適度にその季節らしい生活をすることも大切です。

当たり前のようで、この時、場所、人を意識することは治療に当たって本当に大切です。結論を急ぎがちな現代人ですが、誰でも当てはまるように聞こえるアドバイスにはいったん足を止めて考えてみた方がいいこともあるかもしれません。

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