中医学:四逆散

昨日は月経周期と漢方薬のお話をしました。月経周期だけではなく、私たちの体はさまざまなシグナルを送りあって絶妙な連携をとりながら正常に機能します。その連携をスムーズに進めるのが肝の疏泄作用です。

 

四逆散の名前は“四肢厥逆”から 。手足に気血が通わず冷えがある状態です。全身が冷えているわけではなく、体幹部はむしろほてるのに、手足は冷たいという状態が四逆散の典型症状です。よく、外は冷たくても中は暖かい魔法瓶のような人、という表現をすることがあります。この火照りと冷えの偏りを大きくかき回してとるのが四逆散で、方剤としては似た名前ですが陽虚の四逆湯や血虚寒滞の当帰四逆湯とは全く内容が異なりますので注意しましょう。

 

効能は疏肝理脾.清熱通鬱、主治は肝鬱脾滞.熱厥です。

 

構成生薬はシンプルに4味。

  • 柴胡 6g
  • 枳実 6g
  • 芍薬 6g
  • 炙甘草 6g

 

まず四逆散が適応となる肝鬱症状とはどんなものでしょうか。肝気が鬱滞することで気の流れが乱れて、手足に陽気が流れず、冷えが現れます。また、両脇、胃幹部、腹部、時に頭部に痛みが生じます。気滞による痛みは脹痛感(突っ張った、張った感じ)があり、どこが痛むのか具体的にはわからない、さらにイライラするなど、情緒の影響で悪化します。また陽気が体内で滞っているため、イライラしやすく、熱感がこもります。

 

また肝鬱状態は少なからず脾に影響を与えます。脾が吸収した精を昇清し、それを肝の疏泄でさらに全身に巡らせるため、肝脾の連携ができていないと脾胃の運化機能が落ちて食欲不振や下痢、あるいは便秘の症状が現れやすくなります。簡単に言えばストレスが強くて食欲が落ちる、緊張して下痢になるという状態です。

 

熱がこもるので舌は赤、苔は黄色。脈は緊張した状態を示す弦脈となります。これが四逆散が目標となる肝鬱脾滞の適応症状です。

 

 構成する生薬のうち、柴胡が主薬です。柴胡は肝鬱治療の代表生薬で、気を上昇させる、外側に発散させる効能があります。

 

この柴胡によって昇った気を下に降ろすのが枳実の役割です。これにより一昇一降の気の流れができます。

 

枳実はミカン科酸橙の幼果。気をめぐる作用は一般的にいう行気よりも強い気作用があり、柴胡とともに力強く気を巡らせる。

 

一方、方々に散らせる柴胡ともう一つペアになるのが収斂の芍薬です。柴胡は気を巡らせますが、強い風のイメージと同じで乾燥を招きます。その柴胡の燥性を和らげるのが芍薬です。  

 

『柴胡は肝陰を盗む』、と言われているため柴胡を含む方剤は芍薬を合してバランスを保ちます。

 

四逆散は外側は寒く、中は暑い魔法瓶のような熱の偏りを上から下へ、下から上へ、内から外へ、外から中へと熱の偏りをかき回す処方です。

 

四逆散は方剤中に芍薬甘草湯が含まれます。これも大切なポイントで、気血の滞りによる、筋のこわばりにはよく効きます。同様に筋肉がつぱったような痛みには全般的によく効果があり、場合によっては生理痛などにも効果があります。

 

肝鬱傾向であれば四逆散は第一選択であってもおかしくないですが、気血は虚している状態で動かすと逆にひどい消耗になります。臨床では逍遥散や補中益気湯のように、隠陽の不足に配慮しながら気を動かす必要があります。

 

しかし、肝鬱の処方として四逆散は抑えておくと応用の効く方剤の一つです。

 

 

中医学:桂枝湯

こちらも臨床ではあまり前にでてこないですが、その構成をよく知っておく必要がある方剤です。

 

風邪の初期治療の問診でまず風寒か風熱か、外邪の種類を見極めなくてはいけません。悪寒悪風があり風寒と判断したら、次に確認すべきが汗の有無。無汗で体力があれば麻黄湯、そして有汗であれば桂枝湯の出番です。

 

内側の正気を強力に引き出す表実証の麻黄湯と比較し、桂枝湯は邪を追い払う十分な衛気不足がある表虚証が適応となります。

 

気の巡り、津液の巡りを知るために汗は重要な手がかりです。麻黄湯では発汗することで邪を散らしていますが、単に発汗が解熱効果があるというわけではありません。桂枝湯が適応となる処方では発汗が逆に邪を体内に入り込む隙を与えていると捉えます。麻黄湯証の内側からの力強い発汗と異なり、桂枝湯証では体表を守る衛気の不足により、腠理(肌表面に存在する汗腺のような穴。気や津液の通り道)を適切に締めることができず、汗が漏れ出るようになります。その腠理の穴から外邪が入り込み、悪寒悪風をするような状態です。

 

構成は

  • 桂枝 9
  • 芍薬 9
  • 生姜 9
  • 大棗 9
  • 炙甘草 6

 

基本的に食べ物に含まれるようなものしか入っていないので飲みにくさはありません。甘くて美味しい方剤です。

 

桂枝湯は扶正去邪のという、正気を補う作用と邪を散じる作用を併せ持ちます。

 

去邪のために主薬として桂枝が用いられています。桂枝は麻黄湯の時も説明しましたが腎の正気を表層まで一気に持ち上げ、発汗させる、辛温解表薬です。麻黄よりも穏やかな発汗力のため発汗しすぎることでの消耗の心配が少なく、表虚証であっても安全に使用できます。

 

そして扶正の役割として白芍薬が配合されています。芍薬は養陰収斂作用により、発汗過多による営陰不足を防いでくれます。

 

桂枝と芍薬のペアで表の陰陽の調和を整えるのに対し、裏の陰陽は生姜と大棗がバランスを保ちます。生姜もまた辛温解表作用を持ち、桂枝湯の解肌発汗作用を増強させませす。また、大棗が裏の陰を補充することで陽気とともについて巡る陰液の動きをスムーズにします。

 

甘草は脾気と陰液を補充して扶正の効果を強め、方剤の角を取ってくれます。

 

麻黄湯が陽気を強烈に動かすのに対して、桂枝湯は気と津液の巡りを緩やかに整えます。発汗作用は弱いため、桂枝湯を服用した後は少量のお粥を食べて、ふとんをかぶり熱を体に持たせ、邪気を汗とともに排毒するようにする、と原文(傷寒論)には加え書きがあるようです。また、脾胃の気を損なうことがないように、生ものなど、消化の悪いものは食べないように、との指導も必要となります。

 

桂枝湯では上へ気と津液を導く桂枝と下へ引き込む芍薬が1:1で配合されることで、上下の力を平衡にしています。この配合のバランスを変え、こ芍薬を桂枝に対して倍量で配合した処方があります。小建中湯、桂枝加芍薬湯などです。これらの方剤は下への引き込みを強くすることで裏の気血を導く構成です。それにより全く効果は変わり、解表効果ではなく、裏を温める和裏剤になります。

 

また、邪が誤って深くに入り込んでしまった時には桂枝湯去芍薬のように、桂枝湯から芍薬を除き上方向の発散の力だけを用いた方剤も使われることがあります。

 

全く同じ構成生薬を用いて、その配合バランスからここまで違う証に対応するようになる、というのは不思議ですし、本当に配合バランスは大切なことと教えてくれます。安易に1+1と足し算で薬を合剤できないことをよく教えてくれます。

 

経験抱負な漢方家によれば娘が嫁に行くなら桂枝湯を持たせろ、と。妊娠中、産後の風邪にも、幼児の腹痛、風邪にも使用が可能な安全で守備範囲が広い方剤です。産後は特に、気血が虚することで風邪ではなくても発熱、多汗の症状がでることがあります。こういう時にも桂枝湯は表裏の陰陽を無理なく整えてくれるので有効です。

 

漢方といえば有名な葛根湯。こちらも桂枝湯をベースに組み立てられています。安易に長期の使用をするのは感心できませんが、葛根湯が広く用いられるのも、この桂枝湯の気と津液への穏やかな働きかけがあってこそと思います。

 

 

中医学:麻黄湯

漢方の代表方剤の1つ麻黄湯。インフルエンザの治療で有名になりました。漢方薬は薬味がシンプルなものほど効果が早く出ます。麻黄湯ももちろん、即効性で有名。また、服用のタイミングが難しく漫然と継続しないで欲しい薬です。

 

薬味は4種。

  • 麻黄 (6g)
  • 桂枝 (6g)
  • 杏仁 (6g)
  • 甘草 (3g)

 

麻黄湯はまず方剤学の教科書の1番目に出てくるような代表方剤ですが、もう一歩先に更に麻黄湯の元になっている処方があります。それは日本で手に入る方剤学の教科書ではほとんど見かけることはないのですが、“三拗湯”という処方です。この三拗湯をベースに、麻黄湯、麻杏甘石湯、五虎湯、麻杏ヨク甘湯、神秘湯、続命湯などがさまざまな方剤が作られています。

 

この三拗湯は麻黄、杏仁、甘草の3種類からなります。痲黄は体の内側の生気を体表に引き出します。痲黄のこの引き出しによって、内部から心肺の領域まで陰陽の生気が運び込まれます。ただ、この生気のもとになるのは脾胃の気がベースになりますので、脾胃に元気が足りないと吐き気、食欲不振の症状がみられることがあります。そして、陰陽両方つれだって体表に向えばよいですが、ベースに陰虚があると動きのいい陽についていけず、陰が不足し、陽気が立ち上がりすぎてしまいます。そのため動悸、不眠、煩躁感が表れます。

 

そして、麻黄が引き上げた生気を杏仁が内側に引き戻す。これによって、内部から外部への物資の供給と、余った物資の回収ができるようになります。強力な生気を運ぶベルトコンベアのイメージです。

 

その麻黄と杏仁で作った内から外、そして外から内へ流れるベルトコンベアに乗せて運ぶものをプラスします。三拗湯ならそれは甘草で膨らませた脾気。麻黄湯なら脾気に加えて、桂枝で膨らませた腎気と発散力です。桂枝は体の深部である腎から肺の領域まで生気をまっすぐに引き出す力があります。ウィルスに対抗するには肺気より腎気の封蔵の力が効果を出します。津液の補充は少なく、陽気へのみ働きかけるのが葛根湯や桂枝湯との大きな違いです。

 

この三拗湯の働きを押さえておくと、この系統の薬の理解に薬に足します。麻杏甘石湯は皮膚表面に石膏の清熱効果を届ける、麻杏薏甘湯は肺の領域に薏苡仁の湿を除く力を届ける方剤です。同じ骨格を持っている神秘湯などは三拗湯に厚朴、陳皮、紫蘇、柴胡を加えています。気を動かす力を三拗湯にのせてさらに力強く肺に届ける処方なので、かなり気に揺さぶりがかかり、患者の素体に力がないと危険です。そのため発作時などは禁忌とされます。

 

麻黄湯の解熱の効果は清熱ではなく、発汗により陽気を外に出します。陽気が体表に到達できず、寒気があり汗のない状態が適応です。麻黄はエフェドリンを含み、動悸や不眠を助長するので陰虚症特にに注意し、妊婦、小児には注意して使わなくてはいけません。気血津液どれかが虚している者には使用を控え、大量の発汗が心配な場合には白芍で津液を補充したり、五味子ですこし発汗を止めるような調整をすることもあるようです。

 

心配であればより発散力が少なく、津液の補充がある桂枝湯の方が安全に使えます。ただ、どちらにしても桂枝を含む以上は腎気の肺領域への穿通が期待できますが、“引火帰原”という、逆に邪気が腎に入り込むすきも与えてしまうので注意が必要です。

 

 

中医学:四物湯

少しずつ方剤の話も紹介してく。

 

まず女性の血の道症へ応用が広い“四物湯”について。血道症とは女性のホルモンバランスの乱れを原因とした体調不良のこと。四物湯は“血虚”の治療に用いられる補血薬の基本処方だ。

 

四物湯の原典は“和剤局方”。この和剤局方のし四物湯は“金匱要略”の芎帰膠艾湯より止血作用をもつ生薬を除いて作られました、

 

血虚とは“血”の不足のこと。注意がが必要なのは中医学で言う血虚は貧血のことではない。ここで言う血虚は赤血球や血色素のこととまったく関係なく、自律神経や内分泌系の失調を基礎とする。貧血症や術後の出血のような造血を目的とするときは捕気薬を基本に補血薬を補助として用いる(十全大補湯)。

 

基本処方、というわりには薬局で四物湯が動くことは少ないのではないだろうか。実は四物湯が単独で用いられるケースは非常に少ない。ただ、四物湯を基本に発展した方剤は数え切れなく存在する。薬味がった4つというシンプルな四物湯だが、それぞれの生薬の働きを押さえておくと、それらの四物湯を応用した方剤の理解がぐっと増す。実際使うことは少なくても早い段階でその特質を押さえておきたい方剤だ。

 

四物湯の組成は4つの生薬からなる。

  • 熟地黄 (4g)
  • 白芍 (4g)
  • 当帰 (4g)
  • 川芎 (4g)

 

補血薬というと陰血を量的に増加させるのが1番の目的。しかしそこに適度に流れも介入するバランスのとれた方剤だ。

 

まず君薬である熟地黄。全ての陰血の元になる腎陰を増す代表生薬である。

 

次に白芍。肝陰を補充する。四物湯の構成生薬中唯一凉性だ。芍薬で補給する陰はストレスで熱くなりがちな肝を水冷式で冷やす役割がある。

 

当帰は婦人科の治療の代表生薬。当帰は肝血を補うとともに、補った血を肝から心まで巡らせる。つまり陰血の量とともに動きにまで働きかけをする。

 

川芎はセリ科の薬草だ。川芎はほとんど陰の過不足には働きかけず、肝腎で補った血を下方から上方へ動かす役割をもつ。

 

四物湯を服用するとセロリのような香りがします。これはセリ科の当帰と川芎の2種類が元になっています。セロリの香りの好き嫌いはともかく、香りのいい生薬は気血津液の流れに働きかけるものが多い。