中医学:六淫

中医学では病気の原因となる病因を、環境由来の”外感”と臓腑の失調から起きる”内傷”の2種類があると考えます。今回はこの環境由来の病因である外感についてお話しします。

病因を特定することはとても大切です。なぜなら、それは治療の精度を上げるために必要なのです。例をあげると、外感の代表に“風邪”、一般的に言うかぜがあります。風邪と一言にいっても中医学ではその原因を細分化します。例えば、外からの寒気が体に入った”外感風寒”と熱が入った”外感風熱”です。例えば麻黄湯は外感風寒の治療の代表的な治療薬です、そのため寒邪を追い払うため方剤全体は暖める構成となっています。暖める方剤である麻黄湯を熱を持つ外感風熱の病態に使うと、もちろん効果的な治療とはなりません。

中医学では患者の体質を細かく把握し、ピンポイントに症状にあった方剤を処方することが大切です。まさに針で糸を通すような気持ちです。

私たちの体は健康であっても病んでいても自然の気の影響を受けて、時にそこからエネルギーをもらっています。この自然の気を気候の変動を合わせ 風・寒・暑・湿・燥・火と分け、それらを総称して ”六気”と呼びます。この六気は自然な状態では万物を育むものですが、異常が起きたときには逆に私たちの体に影響を及ぼす外邪となります。この外邪となった六気のことを”六淫”と言います。

六気の異常とは、本来よりある気が過剰である、もしくは不足である、さらに時季外れに起きる、ということです。例えば異例の猛暑だとか、長すぎる梅雨時期、季節外れの台風などです。本来自然の正気を与えてくれるはずの六気が異常な気となり私たちの体調に外を及ぼす六淫(六邪)となります。この発病の原因となる六淫は、外感病の主な発因となるので”外感六淫”ということもあります。

六淫の発病には、一般的に以下の特徴があります。

  1. 六淫による病気の多くは、季節、時間、場所、環境などの要因で発症率が大きく影響を受けます。例えば春は風がよく吹くので風病が多く、梅雨時は湿が高いので湿病が多く、また夏は暑いため熱病が多く、秋は乾燥するので燥病が多くなります。同じように、湿の多い日本では湿病が多く、乾燥した中国の内地では燥病が多くなります。
  2. 次に、六淫は必ずしも単独で行動するわけではなく、相性のいい特定の邪気と組んで同時に生体を襲うことがあります。さきほど風邪の例であげた、風寒や風熱がその代表です。風寒は風邪と寒邪の両方の特徴を、また風熱は風邪と熱邪の両方の特徴を兼ね備えています。他に、湿邪と熱邪も夏の湿気が多く暑い季節、日本のような気候では同時に人体に害を与えやすい邪気です。
  3. また、六淫は外邪ですので、基本皮毛や口鼻からの侵入となります。臓器の失調により体調を崩すことももちろんあり、これらも一見六淫から与えられる症状とよく似ていることがあります。しかし、臓器の失調によるものはあくまで体の中から作り出した”内生五邪”と呼ばれる臓腑の病であり、六淫とは本質的に違うものです。

次回から、六淫の一つ一つを細かく見ていきます。

中医学:病因・内傷

病気の原因となる”病因”には大きく分けて2つ。外感と内傷です。外感は外から邪気が体内に入る病態で、疾病の性質は実で解表など外を治す治療が主軸となります。今日のような暑さで熱中症を起こす、体が冷えて風邪をひくなどが外感によるものです。

それと引き換え、内傷は臓腑の不調が全身の不調に及んでいくものです。疾病の性質は虚で、補血、補気など補剤による治療が中心になります。今日はこの内傷について少し詳しくお話しします。

誰しも、気持ちが落ち込んだり、疲れがたまることで体調が悪くなる、ということはあるものです。一番身近な内傷による体調不良ではないでしょうか。内傷は主に2つに分けることができます。一つは心の疲れである七情と、もう一つは体の疲れである飲食と老逸です。

まず七情とは、喜・怒・憂・思・悲・恐・驚の七情です。単にストレス、と言ってしまえば簡単ですがそれぞれどんな感情を強く持つかによって、どこに、どのような影響を与えるかは変わってきます。

以下、七情とつながりのある臓の関係です。

  • 心は喜を主るが、喜びすぎると心を損傷する。
  • 肝は怒を主るが、怒りすぎると肝を損傷する。
  • 脾は思を主るが、思いすぎると脾を損傷する。
  • 肺は悲憂を主るが、悲しみ、憂いすぎると肺を損傷する。
  • 腎は驚怒を主るが、驚き恐れすぎると腎を損傷する。

七情によって各臓器損傷を受けやすいですが、特に影響が大きいのは心・肝・脾の三臓です。

【怒】
怒ると気が上るといわれています。肝の疏泄機能に異常が生じ、肝気が横逆して上衡し、その結果突然倒れたり、意識不明、人事不省に陥ることがあります。

【喜】
喜びすぎると、気が緩むと考えます。良さそうですが、”気が緩んだ”状態は一つのことに集中できないということです。端からみたらやる気がない人、みたいな印象だと思いますが、これは心血虚の状態です。ひどくなると失神、狂乱がおきることがあります。

【悲(憂)】
悲しみすぎると気が消えると言われます。気が消えると肺気が弱まり、意気消沈する、元気や覇気がなくなります。呼吸機能が弱くなり、息切れや喘息、表虚となって自汗がでたり、風邪を患いやすくなります。

【恐】
恐れすぎると気が下る、といいます。気が下ると腎の封蔵機能(ものを閉じ込めておく力)が低下します。極端ですが、その結果二便に影響がでると大便失禁や遺尿、生殖器に影響が出ると流産などが起きやすくなります。

【驚】
気が乱れる、といいます。突然驚きすぎると心神が帰るところがわからなくなり、混乱状態になります。恐と驚は両方腎に属する感情でとても似ています。違いとしてははっきりした対象に対して抱く感情を恐とし、意識せず突然受けるショックが驚と分けられているようです。

【思】
思うと気結(けつ)す、といいます。あまり思いを巡らせすぎると、脾気を損傷し、湿などうっ滞が生じやすくなります。また、考えすぎることで血をすり減らし心血虚となり心悸・不眠・多夢などの症状が増えることがあります。

このように過度の感情の揺れ動きは特定の臓器に影響を与え、またその臓器がもともと虚していると、つながりのある特定の感情も揺れ動きやすくなります。

内傷はまた、いわゆる感情だけではなく体の疲れによっても起きることがあります。大きく分けて、飲食による胃腸の使いすぎ、さらに働き過ぎによる肉体の疲れがあります。

まず一つ目は飲食による胃腸の使いすぎです。この飲食を原因とした体の不調を”飲食失節”といいます。不適切な飲食行動は脾胃を損傷し、さらに脾胃の損傷は他の臓器に影響を与えます(この辺りは脾胃論が詳しい)。この飲食失節には3種類あります。

  • 飢飽失常
    これは飢餓と過食のことです。飢餓はもちろん栄養不足から気血不足や抵抗力の低下を引き起こします。また、過食は脾胃の負担により食積や食滞を引き起こします。
  • 飲食不潔
    これは不潔なものを食べたり、毒物を食べることで消化不良、食中毒などを起こすことです。
  • 偏食
    これは食の好き嫌いや偏りです。甘いものを食べていると消渇(糖尿病)になったり、辛いものを食べ過ぎると胃腸に熱がこもり、お腹がはる、便秘などの症状が現れるなどがこれに当たります。また、冷たいもの、生ものの食べ過ぎも脾胃の損傷を招きやすいので注意が必要です。酸味は肝、苦味は心、甘味は脾、辛味は肺、鹹味は腎というように五味をバランスよく食べることも大切です。これにより臓腑に偏盛・偏衰が現れにくくなります。

次は肉体の疲れです。

  • 労力過度
    これは単純な働き過ぎ、体の使いすぎのことです。
  • 心労過度
    七情の項でご案内したように、心も遣いすぎれば心血を消耗します。
  • 房事過度
    落語で”短命”という演目があるようですが、まさにその話のように、夫婦の情事が多いことによる腎精の使いすぎのことです。落語のように命までは落とさないと思いますが、女性なら早めの閉経や男性なら遺精が起きるようです。
  • 安逸過度
    これは休みすぎ、動かなさすぎ、ということです。動かないことで気血の流れが滞り、病を引き起こすと考えられています。

本当に当たり前ですが、体の疲れに関しては飲食・労働・休息の3つとも適度が大切ということです。何事も頑張りすぎず、適量の飲食、適度な労働と休息が疾病をさける近道です。

中医学:気血津液の相互関係

気血津液はそれぞれ水穀の精微から作り出され、私たちの生命活動を支える基本的な物質です。この3つはお互いに依存し、制約し、相互扶助しあう関係です。つまり、何か3つのうち何か1つが調子が悪ければそれは他のものに影響し、複雑な病的状態を作り出します。

気と血の関係

【気は血を生じる】
血を作り出す基礎の物質は精であり、精が血へ転化するための原動力は気です。そのため気が不足していれば血への転化は行うことができず、気が虚すと同時に血も虚します。気虚が進行することで血虚を引き起こすと、息切れ、脱力感、顔色が悪い、頭がふらふらする、目がくらむ、心悸のような気血両虚の症状が現れます。このような場合補血だけではなく益気も同時に行う必要があります。例えば、大出血の後など体力が低下している時に使用する方剤として当帰補血湯があります。構成生薬は黄耆30gと当帰6gというシンプルなものです。消耗が激しい出血状態では補血薬は胃腸に重くかえって状態を悪くしてしまうことがあります。このとき補気薬を主として補助的に補血薬を加えることで重篤な気血両虚症状を改善することができます。「気はよく血を生ず」の原則に従ったものです。

【気は血をめぐらせる】
血の運行は、心気の推動作用、肺気の散布作用、肝気の疏泄作用に助けられています。そのため、気の流れは血の流れと密接に関わりを持ち、極度の気虚や気滞は血瘀の状態(血行不良)を招くことになります。例えば狭心症などに用いられる活血薬の代表に還元二号方という方剤があります。構成生薬は赤芍、川芎、紅花、丹参、香附子、木香です。前半4種は活血の生薬ですが、香附子、木香は気を巡らせる理気薬です。川芎などは”血中の気薬”と呼ばれ活血薬の中で行気作用が強い生薬です。このように、活血のみによらず気の巡りにも同時に配慮し気血の流れを改善することができます。

【気は血を摂す】
”気は血を摂す”とは、気の作用により血液が不必要にあるべき場所からもれ出ないようにする、と言う意味です。気が不足すると、出血が多くなります。これを”気不摂血”といいます。例えば、気虚が強いことで不正出血や慢性の月経不順となることがあります。このようなときは帰脾湯のような補気養血薬が効果的です。黄耆、人参、白朮などで補気し統血力を高め、さらに当帰、竜眼肉などで養血を促すような処方となっています。

【血は気の母である】
気は血を生ずる、という言葉と全く反対のようですが、気はまた血がなくてはその存在、機能はありえません。ちょうど私たちの魂が肉体をなくして機能しないことと同じようなことです。大出血をすると気も血にともなって失われてしまいます。

【気は陽に属し、血は陰に属す】
正常な状態では気と血は相互に支え合い、バランスのとれた状態にです。気血不和となりこのバランスが崩れると何らかの病気が現れると考えます。

気と津液の関係

【気旺生津、気随液脱】
”気が盛んなれば津を生じ、気は液に随って脱す”
津液の源は水穀の精微です。この水穀の精微は脾胃の気の力で取り込まれ、生成されるため、気の力なくては津液は存在しません。そして血同様、津液があるべき場所にとどまることも気の固摂作用によります。そのため気の働きが不十分だと遺尿、発汗など津液を余計に失う現象が現れます。
そしてまた気血の関係と同様に気は津液にも宿ります。そのため発汗、遺尿、下痢、嘔吐など水分を大量に失うことで気もまた大量に失われます。この気が津液とともに抜けてしまうことを”気随液脱 ”と言います。こういった時に使用する代表方剤と言えば生脈散です。構成生薬は補気の人参・補陰の麦門冬・収斂の五味子です。発汗による津液の消耗を爆問道で補い、それに伴って起きる気虚を人参で治療する方剤です。さらに五味子により余計な発汗を防ぐ効果もありますので今の夏の時期に活躍する方剤です。

【気能化水・水停気阻】
”気は水を化し、水が停まれば気も阻滞する”
津液の運行は主に肺、脾、腎、三焦などの臓腑の気により行われます。そのため気の流れが滞れば津液の巡りも悪くなり、痰飲(動きの悪い水の塊)が生まれます。また、水液の停留や痰飲の生成が逆に気の流れを妨げる”水停気阻”という状態を生み出すこともあります。痰飲の除去の代表方剤は二陳湯です。二陳湯は半夏、陳皮、茯苓、生姜、甘草で構成されます。主薬は半夏と陳皮;痰飲をとる半夏と理気作用の陳皮です。二陳湯と四君子湯を組み合わせたものが六君子湯で、気虚の強い気滞、痰湿体質を目標にしています。

津液と血の関係
津液と血は両方陰に属し、栄養と滋潤が主な作用です。病理的には繰り返し出血することで津液も損失し、”耗血生津”という状態が現れます。また傷津脱液がひどいと血もまた津枯血燥の状態が現れます。このことから、出血のある患者に麻黄湯などの発汗による治療は不当であり、多汗で津液を消耗している患者にも瀉血(流れの悪い血を針などで出血させて抜く治療)は用いることはありません。

中医学:六腑

五臓六腑にしみわたる・・・のような表現を聞いたことがあるのではないでしょうか?お腹がすいたときに滋養のあるものを食べてしみじみ言う言葉です。

実際しみわたるのは五臓ではなく六腑の方ですね。というのも、六腑はまさに飲食・膵液の通り道です。人間は「複雑な形のちくわ」と言った方がいますが、実際私たちの体はちくわ同様、口から肛門まで続く長い管が体の中央を通っています。このちくわの穴が六腑、消化器官です。六腑の役割は飲食物の腐熟・消化と糟粕(栄養素とならない食べ物のかす)を体外に送り出すこと。直接飲食物とは接しない五臓と反対に六腑は”実すれど満たすことあたわず”と言われ、飲食物で一杯になることはあっても気血が満ちることはありません。

六腑は胆・胃・大腸・小腸・膀胱・三焦のこと。それぞれの役割を述べていきます。

まず、肝の裏と言われる胆。胆は胆汁の貯蔵と排泄・決断を主ると言われます。

胆汁は肝で生成され、それが胆に貯蔵され、必要に応じて小腸に排泄されて脾胃の消化機能を助けます。胆は肝の疏泄の力を借りて胆汁を排泄するので、肝の調子が悪ければ胆汁の排泄も十分に行えず、消化力が落ちてしまいます。脇下にはり感や痛み、食欲減退、口が苦く、黄緑色の消化液を吐く「胆汁上逆」、黄疸が発生する「胆汁外溢」などが起こることがあります。

肝が巡らせた考えを胆が決断を下す、肝胆は精神意識の活動をコントロールします。「肝っ玉が大きい」などの言葉から胆は心の落ち着きにとても影響します。また、びくびくして過ごすと胆の病気を発症しやすくなります。

次に脾の裏である胃です。胃は水穀の受納・腐熟を主り、通降を主る、降をもって和とするというのが特徴です。

胃は水穀の海と称され、飲食物の腐熟・消化をし、さらに下の小腸に伝えます。この消化によって飲食物を下に送ることが胃の役割であり、逆に、ここで得た水穀の精微(飲食物から得られたエネルギ-)は脾気によって上昇に上げられます。

水穀の海である胃はあくまで通過点です。次ぐ小腸、大腸に降濁する地震の通降作用を持つため、「降をもって和とする」と言われます。胃の通降作用が失調すると食欲が落ちたり、口臭がでる、大便がでないなどの症状が出やすくなります。また胃気上逆になると酸っぱい匂いのするゲップが出たり、悪心、嘔吐、しゃっくりなどが現れます。

小腸は心の裏です。その役割は受盛の官、化物が出るところ、そして清濁の泌別を主ります。

小腸は胃から送られてきた水穀の消化をさらに進め(化物)、消化物の清濁を分別します。生体のエネルギーとなる清は脾の働きで全身に運ばれ、糟粕は大腸に、余分な水液は膀胱に至り排泄されます。

大腸は肺の裏です。大腸の主な役割は糟粕の伝下を主ることです。

大腸では小腸から伝えられた糟粕をさらに必要な水分を吸収し、大便を形成し肛門から排泄します。胃の降濁作用も受けていますが、このとき肺の粛降作用も大きく影響します。腎は二便(大便と尿)を主ると言いますが、最後にこの肛門の開閉は便の働きで行われます。

次に腎の裏膀胱です。あまりイメージと違和感なく、膀胱は排尿と貯尿がその生理作用です。

肺、脾、腎、三焦によって全身に散布された水液は各組織で利用され、最後には膀胱に達して尿に変えられ、体外に排泄されます。この膀胱の機能が失調すると小便不利(排尿困難)や癃閉(排尿障害・尿閉)などの症状が現れるようになります。

最後に三焦。これはどの五臓にも属さず、胸腹部を占める大腑です。体内のさまざまな気を取り仕切り、全身の気機と機か作用を統轄します。そして水液運行の通路でもあります。

上焦、中焦、下焦と3部に分かれます。

上焦は横隔膜より上で、気の昇発、宣散を主ります。

中焦は横隔膜から臍の間です。脾胃の運化を助け、気血津液を化生します。昇降の要、気血生化の源と言われています。

下焦は臍よりしたの小腸、大腸、膀胱などの臓器です。主な機能は糟粕と尿液の排泄です。

三焦は気化が行われる場所で、気が昇降する通路であり、水液が昇降する通路でもあります。

六腑は一時的にものが満ち足りても、それがからになることが正常です。そのため五臓と比較し、ものがつまった”実”の状態の病が多いようです。

中医学:随機制宜

やっと梅雨も明けて、夏らしくなりました。ちょうどこの蒸し暑い頃、昨年の夏に長春に研修旅行に行ってきました。

そのとき、ちょっと印象に残ったのですが中国では夏は”冬病夏治”と言って、夏の陽気を利用して冬の病気を治すような治療をするようですね。この暑い時期に、さらにお灸をうったり、生薬で作った蒸し布団(?)のようなもので体を温めたり。今日はそんな季節や場所による治療法の違いの話です。

少し難しい言葉ですが、”随機制宜(ずいきせいぎ)”という用語があります。臨機応変に対応する、という意味です。中医学では私たちの体は自然の一部と捉えられます。そのため、季節や地理環境、社会環境など様々な要因に影響を受けずにはいられません。時を見て、場所を見て、人を見て、治療の方法を細かく変化させていく必要がある、ということです。

まず”因時制宜”。これは時、つまり季節や気候をの変化に注意して治療を行う、ということです。まさに冒頭で話した冬病夏治はこの考え方を元にしています。

一般的には春夏は陽気に満ちあふれ、温暖なため血液はなめらかに流れ、皮膚表面に気血が向かい腠理は緩みます。そのため、汗が出やすく、尿が少なくなります。

また秋冬は逆に陰の気が勝り、寒冷な気候のため血液は滞り、気血は体表を巡らず、皮膚は緻密になります。そのため発汗はなく、その代わりに尿が多くなります。

そのため、治療では春夏は発散させすぎないように、秋冬は陽気を損なわないようにしなくてはなりません。春夏の風邪では葛根湯や麻黄湯のような強い発散系の薬は注意が必要であり、特に陰液の消耗に気をつけなくてはいけません。

次いで、”因地制宜”。その土地に応じて、治療法を考えるということです。風邪の例を再びあげると、北部では辛温発散薬を用いることが多く、南部では辛涼発散薬を用いることが多くなります。また、燥性の強い中国で発展した中医学は湿の多い日本ではそのまま応用できない部分もあり、例えば柴胡剤のような燥性が強い生薬は日本では多用されますが、あまり中国では活躍の場がないようです。

そして、”因人制宜”です。これはその人によって、治療を変えると言うことです。その人の年齢、性別、体質、生活習慣、社会環境、心理状態など様々なことを考慮して治療に当たります。当たり前のことのようですが・・・例えば、小児ならば胃腸が未熟なため正気が強く損なわれるような方剤は注意が必要ですし、妊婦であれば熱を持ちがちなので温めすぎるのはいけません。また、痩せている人は陰が虚して虚火を持ちやすく、太った人は逆に湿をためて、痰湿を生じやすくなります。また、中国の人は胃腸が全体に強く、日本人は弱いなどの傾向があるようです(食の影響もあるかもしれませんが・・・)。

少し話は変わりますが、汗とはなんのために流れるでしょうか?水分過多、というケースもあるかもしれませんが、ほとんどの場合熱を発散するために陽気(病的な)とともに津液が流れることで熱を逃がすためです。この季節になると最近では熱中症対策としてメディアでも水分と塩分の摂取が呼びかけられていますが・・・少し疑問です。

確かに発汗量が多い人が水分を摂取するのは構わないと感じますが、現実的にはオフィスワークでほとんど汗をかかないような人も多いのではないでしょうか?私たちの体は長さ9メートルの消化器官を持ちます。この消化器官は胃液や唾液、膵液などさまざまな水分で常にびしょ濡れです。そこにむやみやたらに水分を加えると、消化液が薄まり消化力が下がり、胃腸の負担が増えることになります。特にこの時期の大量の冷飲食は本当に体にいいのでしょうか。

また、水分だけとって冷房を効かせた部屋で汗をかかないこともまた問題です。先ほど寒さで皮膚表面は緻密になる、と言いましたが、冷房で皮膚表面に気血が行き渡らなくなれば、当然発汗はありません。しかし、体の中には熱がこもったまま、逃げ場がなくなることがあります。室内での熱中症はこのような方が多いように思います。やはり適度にその季節らしい生活をすることも大切です。

当たり前のようで、この時、場所、人を意識することは治療に当たって本当に大切です。結論を急ぎがちな現代人ですが、誰でも当てはまるように聞こえるアドバイスにはいったん足を止めて考えてみた方がいいこともあるかもしれません。

中医学:五味調和

五行学説は中医学の基本です。五行学説とは木火土金水という5つの要素に当てはめ、それぞれが協調し合い、場合によっては牽制し合って自然の仕組みが成り立っていると捉える考え方です。

そして中医学ではこの五行学説を人の体にも当てはめ、5つの要素、木火土金水を肝心脾肺腎と捉えて同様にそれぞれが影響しあいながら成り立つとして様々な病気の治療を展開します。

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中医学では味も同様に5つに分類し、それぞれの味が肝心脾肺腎の臓腑に与える影響をとても大切にしています。これが薬膳のベースの考え方となります。

医食同源”との言葉があります。これは食は治療の基本であり、食を切り離した治療などありえないという考えです。だからこそ本場中国では食べることを大切にし、薬膳の考えは生活に密着しているため、日頃の食事でもたくさんの生薬を用います。

今日はこの薬膳の基本となる考え“五味調和”についてお話しします。

五味調和は五行学説を元に、味を5つに分類し、同じような味を持つ食品は同じような効能をもち、それぞれの味がバランスを保つことで人の健康を作り上げると考えたものです。その5つの味とは酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(塩味)です。

この五味はそれぞれ食することで守る臓器があります。その対応がこのようになります。

  • 酸味→肝
  • 苦味→心
  • 甘味→脾
  • 辛味→肺
  • 鹹味→腎

酸味のあるものを食べると肝が元気になる、苦味のあるものを食べると心が元気になる、ということです。

例えば苦味のある食べ物ゴーヤは夏が旬ですね。このゴーヤのような食べ物は余分な熱をとるため、熱しやすく、また暑さに弱い心を元気にしてくれます。また、秋に旬のさつまいもや栗など、自然の甘みは脾を労わり、消化の力を助けてくれます。まさに食欲の秋ですね。

一つ一つの味を少し詳しく見ていきましょう。

まず肝を保護する“酸味”。酸味の特徴は主に3つ;収斂固渋、生津と安蛔です。

収斂固渋は体から漏れ出るものを押さえる、引き締める効果です。発汗や下痢、出血などの病的な浸出液の流出を止める作用です。そして生津は津液を生み出すこと。津液不足の陰虚証に用いられます。最後に、安蛔は蛔虫の動きを止める作用です。酸味は駆虫薬として用いられることがあります。”能く収め、能く生じる”という酸味の作用は津液などの体に必要なものだけではなく、邪気に対しても働きます(恋邪)。そのため実邪の証には注意が必要です。

次は心を保護する“苦み”について。苦みは燥湿、泄降と開胃です。

燥湿作用は湿をよく乾燥させる作用です。泄降は下に下ろして排泄するという意味。上昇に上った熱を引き下ろす、上逆した気を引き下ろす、停滞した大便を排泄する作用などです。また少量の苦みは胃の働きを高めます。苦みの特性は”能く燥し、能く降ろす”と言われます。燥性が強いので陰虚証など乾いた状態には注意して用いなくてはいけません。

続いて、脾を保護する”甘味”です。甘味は滋補、緩和と潤燥作用を持ちます。

甘味は気を補い、血を滋養します。そのため補気補血薬は大抵甘い飲みやすい味となります。甘味はゆるめる作用があります。安心作用のように気持ちを緩めたり、緩気止痛作用のように痛みを緩めたり。また甘草に代表されるように諸薬の調和を務めます。また、苦みと逆で乾燥を潤す作用があります。甘味は”能く補い、能く緩め、能く潤す”と言われています。この潤す作用は膩性といわれ、湿気を助長し脾胃の機能を損害しやすいため、湿証には注意が必要です。

次いで、肺を保護する”辛味”。辛味は発散作用と行気作用を持ちます。

発散作用は風邪薬によく用いられる肌表にとりついた外邪を発汗などで取り除くことです。行気作用は気を巡らせる、そして間接的に血も巡らせる効果があります。一部の薬剤(麝香など)は芳香性が強く、邪を除き心神を安定させる開竅作があります。辛味は”能く散じ、能く巡らす”と言われますが、行気、活血は気血を消耗しやすいので注意が必要です。

そして最後に、腎を保護する”鹹味”。聞き慣れない言葉ですが鹹味とは塩味。といっても塩辛ければいいわけではなく、ミネラル豊富な天然塩のことです。鹹味の作用は軟堅、導下、補腎です。

軟堅作用は堅くなったものを柔らかくする作用です。例えばしつこい便秘や堅い瘀血を柔らかくして流し出します。導下作用は下に降ろす作用で、大便の瀉下作用や平肝熄風薬(肝陽を下に降ろす)ことができます。補腎作用は腎陽腎精を補う作用です。鹹味は”能く軟らかくし、能く下ろす”と言われます。

またこの五味は引経の役割も果たすことがあります。例えば六味丸のように腎に働かせたい薬を飲むときは塩水で鹹味を聞かせて飲んでいたとか。

この飲み方も現代ではあまり勧められないようです。それもそのはず、塩水で薬を服用などしたら塩分のとりすぎで血圧が心配ですよね。一般に塩、というと精製された塩分、いわゆるNaClのみの物質のことですが、ミネラルとはその吸収、体内での働きに関して他のミネラルとの関わりをとても大切にします。例えば一方のミネラルが多すぎると他のミネラルが吸収されない、もしくは排泄が多くなってしまうとか。中医学で言う鹹味はにがりなど、いろいろなミネラル分が多く含まれた自然塩です。小さなことですが、塩分もおざなりに選ばずやはり天然由来のものが体に優しいようです。

このように、五味にはそれぞれ特徴があり、そしてそれぞれ対応する臓腑を初めとする体の働きに寄与すると中医学では考えています。

では、どこかが悪ければ、その場所を守るある特定の味ばかり食べていればいいか?というともちろんそんなわけではありません。

五行の表を見ていただくとわかるように、とりすぎると悪い影響を与えてしまう味と臓腑もあります。

  • 酸味⇨脾
  • 苦味⇨肺
  • 甘味⇨腎
  • 辛味⇨肝
  • 鹹味⇨心

これは例えば酸味のあるものをとりすぎると脾を痛める、苦味のあるものをとりすぎると肺を痛める、という関係です。具体的には鹹味である塩分をとりすぎると高血圧となり心に負担をかけますし、辛味であるアルコールをとりすぎると、肝の働きを押さえ込んでしまいます。

五行学説の相克の関係と同じですね。

バランスのよい食事、というと野菜や肉の量や、油や糖の量の話だと思いますよね。単一の味で調理する、ということはないにしてもやはり自分の好みの味に偏りがちです。なるべく意識して、5つの味が食卓にのぼるようにしたいもの。特に小さいお子さんは甘味ばかりが好きだったり、男性は酸味と苦みがあまり箸にとらなかったり、偏りはどでがちですよね。一緒に暮らすご家族の体調管理のためにも、食材の味も少し考慮に入れてみてください。

中医学:四逆散

昨日は月経周期と漢方薬のお話をしました。月経周期だけではなく、私たちの体はさまざまなシグナルを送りあって絶妙な連携をとりながら正常に機能します。その連携をスムーズに進めるのが肝の疏泄作用です。

 

四逆散の名前は“四肢厥逆”から 。手足に気血が通わず冷えがある状態です。全身が冷えているわけではなく、体幹部はむしろほてるのに、手足は冷たいという状態が四逆散の典型症状です。よく、外は冷たくても中は暖かい魔法瓶のような人、という表現をすることがあります。この火照りと冷えの偏りを大きくかき回してとるのが四逆散で、方剤としては似た名前ですが陽虚の四逆湯や血虚寒滞の当帰四逆湯とは全く内容が異なりますので注意しましょう。

 

効能は疏肝理脾.清熱通鬱、主治は肝鬱脾滞.熱厥です。

 

構成生薬はシンプルに4味。

  • 柴胡 6g
  • 枳実 6g
  • 芍薬 6g
  • 炙甘草 6g

 

まず四逆散が適応となる肝鬱症状とはどんなものでしょうか。肝気が鬱滞することで気の流れが乱れて、手足に陽気が流れず、冷えが現れます。また、両脇、胃幹部、腹部、時に頭部に痛みが生じます。気滞による痛みは脹痛感(突っ張った、張った感じ)があり、どこが痛むのか具体的にはわからない、さらにイライラするなど、情緒の影響で悪化します。また陽気が体内で滞っているため、イライラしやすく、熱感がこもります。

 

また肝鬱状態は少なからず脾に影響を与えます。脾が吸収した精を昇清し、それを肝の疏泄でさらに全身に巡らせるため、肝脾の連携ができていないと脾胃の運化機能が落ちて食欲不振や下痢、あるいは便秘の症状が現れやすくなります。簡単に言えばストレスが強くて食欲が落ちる、緊張して下痢になるという状態です。

 

熱がこもるので舌は赤、苔は黄色。脈は緊張した状態を示す弦脈となります。これが四逆散が目標となる肝鬱脾滞の適応症状です。

 

 構成する生薬のうち、柴胡が主薬です。柴胡は肝鬱治療の代表生薬で、気を上昇させる、外側に発散させる効能があります。

 

この柴胡によって昇った気を下に降ろすのが枳実の役割です。これにより一昇一降の気の流れができます。

 

枳実はミカン科酸橙の幼果。気をめぐる作用は一般的にいう行気よりも強い気作用があり、柴胡とともに力強く気を巡らせる。

 

一方、方々に散らせる柴胡ともう一つペアになるのが収斂の芍薬です。柴胡は気を巡らせますが、強い風のイメージと同じで乾燥を招きます。その柴胡の燥性を和らげるのが芍薬です。  

 

『柴胡は肝陰を盗む』、と言われているため柴胡を含む方剤は芍薬を合してバランスを保ちます。

 

四逆散は外側は寒く、中は暑い魔法瓶のような熱の偏りを上から下へ、下から上へ、内から外へ、外から中へと熱の偏りをかき回す処方です。

 

四逆散は方剤中に芍薬甘草湯が含まれます。これも大切なポイントで、気血の滞りによる、筋のこわばりにはよく効きます。同様に筋肉がつぱったような痛みには全般的によく効果があり、場合によっては生理痛などにも効果があります。

 

肝鬱傾向であれば四逆散は第一選択であってもおかしくないですが、気血は虚している状態で動かすと逆にひどい消耗になります。臨床では逍遥散や補中益気湯のように、隠陽の不足に配慮しながら気を動かす必要があります。

 

しかし、肝鬱の処方として四逆散は抑えておくと応用の効く方剤の一つです。

 

 

中医学:月経周期と漢方薬

生理の不調といえば生理痛。最近では副作用も少なく、効果の高い痛み止めが出回るようになりました。

 

ただ、残念ながら月経の根本的な苦痛が減ったかというとそんなに単純ではなさそうです。日常的なストレスや、冷たい飲食物、運動不足や低栄養など、様々な原因で女性の体調不良は一昔前より回復が悪いケースが多く、また痛みだけではなく病態も複雑化しているのだとか。

 

月経は子供を授かるための体の準備です。命をつなぐ妊娠出産はまさに母体の命を削る作業。命のゆとりのなさは月経の不調という形で現れます。生理の苦痛、不調ははQOLの低下もそうですが、個人差があるので例え同性であってもその辛さが理解されにくかったりという悩みもあるようです。生理痛はないのが当たり前、という漢方家の先生もいらっしゃいます。我慢できるから…と放置せず、自分の体をチューニングするように、体調の変化に耳を傾けて欲しいと思います。

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子供を将来授かることを考えれば、なるべく自然な形で治療をしたいですよね。そういった思いから漢方の治療を選ぶ方も多いですね。

 

まず、月経周期は大きく分けて4つのステージに分けることができます。低温期、排卵期、高温期、そして月経期です。

 

低温期は生理終了後から1週間から10日の期間で、一般的に女性が体調も精神的にも最も調子がよい時期です。この期間は次の生理に向けて子宮内膜を厚くし、卵子を育てなくてはなりません。

 

中医学では陰陽の概念を大切にしますが、この低温期は陰にあたります。陰に属する時間帯である夜間にゆっくり休息をとることはとても大切です。

 

基礎体温をきちんと測っている場合は、低温期は36℃から36.4℃を目安に安定しているかを確認しましょう。

 

この低温期の体温が高すぎる、低温期の期間が短すぎる場合、陰の不足と捉えます。漢方薬としては腎陰を補う基本処方である六味丸が使いやすいかと思います。より切れ味のよい効果を求めるのなら動物性生薬の亀の甲板、阿膠、紫河車(プラセンタ)などを使用します。

 

冬が深まれば自然と春になるように、陰が極まれば自然と陽に移行します。同様に、低温期の子宮内膜、卵子の成長が不十分だと当然そのあとの排卵、着床のステップはうまくいきません。不妊治療をされる先生の中には低温期に集中して陰を補給するようにします。

 

次の排卵期。低温期でしっかり陰に入れば排卵期はメリハリよく体温が上昇します(厳密には一旦下がって、また上昇します)。この体温上昇は1〜3日、できれば2日ほどで理想的上がるのが理想的です。ここがダラダラと長引く、という場合は陰から陽への切り替えにがうまくいかないケースです。このような場合や、排卵痛がある場合は肝気の乱れが原因として考えられます。逍遥散は比較的穏やかな肝気の乱れを整える薬です。肝気の鬱滞をほぐしとる疏肝の効果に加え、胃腸を整える健脾、肝気の行き過ぎを抑える養血効果を合わせて持つため虚した病態にも使いやすい方剤です。頭痛や、脇腹の張った感じなどが続く方は全周期通して服用していただくのがいいでしょう。

 

乾燥した陰虚症状が強ければ滋陰至宝湯も良いですし、イライラ、のぼせ、めまい、頭痛など心火をもつ場合は女神散も有効です。

 

生理の周期がまばらな生理不順もまた肝気の乱れの結果であることが多いようです。その場合もここで紹介した逍遥散、滋陰至宝湯、女神散などを全周期で服用する方法があります。

 

この排卵期はおりものが増えるのが一般的です。精子が子宮内を泳ぎやすくするためですね。ですから下着に多少の汚れが目立つのは当然です、またそれが少ないようだとこれもまた陰の不足が考えられます。低温期のときにもう少し手厚く補陰する必要がありそうです。

 

排卵期の後、12日から14日が高温期です。排卵後の黄体からの黄体ホルモンにより体温が上昇し、卵子が着床しやすくなります。この時、低温期から+0.4℃が目安ですが、36.6〜36.8℃が理想です。

 

まず、ここで体温が低すぎる場合にはやはり体の陽気の元となる補腎陽が大切になります。八味丸などは腎陰陽両方を補うため使いやすい方剤ですし、切れ味を求めるなら鹿茸製剤が優秀です。

 

妊娠中の赤ちゃんにとって冷えは命の危険に繋がります。赤ちゃんは子宮が冷えていると暖かいお母さんの心臓の側に手をできるだけ伸ばして、体を温めるのだそう。その結果逆子になってしまうケースもあります。高温期もそうですが、全周期で体温が低いケースも補陽、もしくは補血が肝腎になります。

 

高温期はまた、排卵期同様気の流れにも負担がかかります。自由に広がることを特徴とする気が無理やり生理のために子宮に集められので、体の余裕のなさが出やすくなります。その結果とイライラ、頭痛などのPMS症状が出やすくなります。こういった不調が出やすい方は排卵期から高温期、生理はじめまでは疏肝剤を服用することがよいでしょう。

 

高温期が終われば次は生理期。煩わしいですが、不要になった子宮内膜を掃除し、次の周期に備える大切な期間です。短すぎず長すぎず、5〜7日が理想的です。

 

痛みに悩まされている方も多いのではないでしょうか。この期間は普段より無理せず、冷飲食を避けるようにしましょう。痛みが多い方では血液の流れが悪いことが多いようですので、シャワーで済ませず、半身浴などで下肢をよく温めましょう。整理中、オーガニックコットンや布でできたナプキンがおススメです。体が冷えにくい、と言われていますが、その効果は科学的な根拠はないとか。ただ、肌ストレスが減るだけでも快適度は上がります。

 

この時期の不調はやはり1番は生理痛ですね。基本は瘀血が原因になったいることが多く、活血剤を使うことが多いです。桂枝茯苓丸は比較的平性で使いやすいですね。便秘があるようなら活血の力が強い蘇木を使った通導散もいいです。また、活血のみではなく、気鬱痛みのもとになります、はり感のある頭痛、腹痛、脇腹の痛みなどあれば上で上げたような疏肝剤を使うと良いようです。

 

生理終わりがけに頭痛、ふらつき、気分の落ち込みなどの不調が出る方がいます。この場合は血虚の不調です。四物湯が入った血府逐瘀丸や婦人宝、十全大補湯など付随する症状に応じて選択するようになります。

 

全周期を通して女性の体の不調に適応範囲が広い方剤が婦人宝。四物湯と四君子湯を基礎に黄耆と阿膠を加えた方剤です。特徴は四物湯に含まれる当帰の割合が圧倒的に多いという点。当帰は“調経”作用があり、ホルモンバランスの乱れを整える効果があります。当帰は補血薬のとしてのイメージが強いですが、補血よりも、特に肝の領域の気と血の流れを強く効果がある、陰よりどちらかというと陽への働きが強くあります。さらに阿膠を加えていることから陰の補充と、月経過多、貧血の予防を意識していると考えられます。また、血虚傾向の人が抱えがちな脾の弱さに対する配慮が四君子湯です。黄耆も上向き、外向きに気の流れを作るのでこちらも流れに対する配慮ですね。脾虚のような血の生成工場が弱い素体、肝鬱のような気血の流れが滞っている素体に対して、単に地黄、阿膠など腎陰の材料となる素材を入れると、滞りや虚が逆に目立つ結果になります。その点、大きな虚がなければ婦宝のような方剤は守備範囲が広く、使いやすい方剤です。病名で漢方を処方すること自体は反省しないといけないところが多いのですが、選択肢として持っておきたい内容です。

 

女性の体調はその本人がもともと持っている体質的な部分と、周期の中でどんな状態であるかが複雑に絡み合ってきます。また、生理のとききの体調に関する情報で、直接生理と関わりのない病態の治療であっても本人の体調の弱点を知ることができます。月経周期でゆらぐ女性の体のバイオリズムを掴むのに本項が役に立てば幸いです。

 

中医学:桂枝湯

こちらも臨床ではあまり前にでてこないですが、その構成をよく知っておく必要がある方剤です。

 

風邪の初期治療の問診でまず風寒か風熱か、外邪の種類を見極めなくてはいけません。悪寒悪風があり風寒と判断したら、次に確認すべきが汗の有無。無汗で体力があれば麻黄湯、そして有汗であれば桂枝湯の出番です。

 

内側の正気を強力に引き出す表実証の麻黄湯と比較し、桂枝湯は邪を追い払う十分な衛気不足がある表虚証が適応となります。

 

気の巡り、津液の巡りを知るために汗は重要な手がかりです。麻黄湯では発汗することで邪を散らしていますが、単に発汗が解熱効果があるというわけではありません。桂枝湯が適応となる処方では発汗が逆に邪を体内に入り込む隙を与えていると捉えます。麻黄湯証の内側からの力強い発汗と異なり、桂枝湯証では体表を守る衛気の不足により、腠理(肌表面に存在する汗腺のような穴。気や津液の通り道)を適切に締めることができず、汗が漏れ出るようになります。その腠理の穴から外邪が入り込み、悪寒悪風をするような状態です。

 

構成は

  • 桂枝 9
  • 芍薬 9
  • 生姜 9
  • 大棗 9
  • 炙甘草 6

 

基本的に食べ物に含まれるようなものしか入っていないので飲みにくさはありません。甘くて美味しい方剤です。

 

桂枝湯は扶正去邪のという、正気を補う作用と邪を散じる作用を併せ持ちます。

 

去邪のために主薬として桂枝が用いられています。桂枝は麻黄湯の時も説明しましたが腎の正気を表層まで一気に持ち上げ、発汗させる、辛温解表薬です。麻黄よりも穏やかな発汗力のため発汗しすぎることでの消耗の心配が少なく、表虚証であっても安全に使用できます。

 

そして扶正の役割として白芍薬が配合されています。芍薬は養陰収斂作用により、発汗過多による営陰不足を防いでくれます。

 

桂枝と芍薬のペアで表の陰陽の調和を整えるのに対し、裏の陰陽は生姜と大棗がバランスを保ちます。生姜もまた辛温解表作用を持ち、桂枝湯の解肌発汗作用を増強させませす。また、大棗が裏の陰を補充することで陽気とともについて巡る陰液の動きをスムーズにします。

 

甘草は脾気と陰液を補充して扶正の効果を強め、方剤の角を取ってくれます。

 

麻黄湯が陽気を強烈に動かすのに対して、桂枝湯は気と津液の巡りを緩やかに整えます。発汗作用は弱いため、桂枝湯を服用した後は少量のお粥を食べて、ふとんをかぶり熱を体に持たせ、邪気を汗とともに排毒するようにする、と原文(傷寒論)には加え書きがあるようです。また、脾胃の気を損なうことがないように、生ものなど、消化の悪いものは食べないように、との指導も必要となります。

 

桂枝湯では上へ気と津液を導く桂枝と下へ引き込む芍薬が1:1で配合されることで、上下の力を平衡にしています。この配合のバランスを変え、こ芍薬を桂枝に対して倍量で配合した処方があります。小建中湯、桂枝加芍薬湯などです。これらの方剤は下への引き込みを強くすることで裏の気血を導く構成です。それにより全く効果は変わり、解表効果ではなく、裏を温める和裏剤になります。

 

また、邪が誤って深くに入り込んでしまった時には桂枝湯去芍薬のように、桂枝湯から芍薬を除き上方向の発散の力だけを用いた方剤も使われることがあります。

 

全く同じ構成生薬を用いて、その配合バランスからここまで違う証に対応するようになる、というのは不思議ですし、本当に配合バランスは大切なことと教えてくれます。安易に1+1と足し算で薬を合剤できないことをよく教えてくれます。

 

経験抱負な漢方家によれば娘が嫁に行くなら桂枝湯を持たせろ、と。妊娠中、産後の風邪にも、幼児の腹痛、風邪にも使用が可能な安全で守備範囲が広い方剤です。産後は特に、気血が虚することで風邪ではなくても発熱、多汗の症状がでることがあります。こういう時にも桂枝湯は表裏の陰陽を無理なく整えてくれるので有効です。

 

漢方といえば有名な葛根湯。こちらも桂枝湯をベースに組み立てられています。安易に長期の使用をするのは感心できませんが、葛根湯が広く用いられるのも、この桂枝湯の気と津液への穏やかな働きかけがあってこそと思います。

 

 

中医学:麻黄湯

漢方の代表方剤の1つ麻黄湯。インフルエンザの治療で有名になりました。漢方薬は薬味がシンプルなものほど効果が早く出ます。麻黄湯ももちろん、即効性で有名。また、服用のタイミングが難しく漫然と継続しないで欲しい薬です。

 

薬味は4種。

  • 麻黄 (6g)
  • 桂枝 (6g)
  • 杏仁 (6g)
  • 甘草 (3g)

 

麻黄湯はまず方剤学の教科書の1番目に出てくるような代表方剤ですが、もう一歩先に更に麻黄湯の元になっている処方があります。それは日本で手に入る方剤学の教科書ではほとんど見かけることはないのですが、“三拗湯”という処方です。この三拗湯をベースに、麻黄湯、麻杏甘石湯、五虎湯、麻杏ヨク甘湯、神秘湯、続命湯などがさまざまな方剤が作られています。

 

この三拗湯は麻黄、杏仁、甘草の3種類からなります。痲黄は体の内側の生気を体表に引き出します。痲黄のこの引き出しによって、内部から心肺の領域まで陰陽の生気が運び込まれます。ただ、この生気のもとになるのは脾胃の気がベースになりますので、脾胃に元気が足りないと吐き気、食欲不振の症状がみられることがあります。そして、陰陽両方つれだって体表に向えばよいですが、ベースに陰虚があると動きのいい陽についていけず、陰が不足し、陽気が立ち上がりすぎてしまいます。そのため動悸、不眠、煩躁感が表れます。

 

そして、麻黄が引き上げた生気を杏仁が内側に引き戻す。これによって、内部から外部への物資の供給と、余った物資の回収ができるようになります。強力な生気を運ぶベルトコンベアのイメージです。

 

その麻黄と杏仁で作った内から外、そして外から内へ流れるベルトコンベアに乗せて運ぶものをプラスします。三拗湯ならそれは甘草で膨らませた脾気。麻黄湯なら脾気に加えて、桂枝で膨らませた腎気と発散力です。桂枝は体の深部である腎から肺の領域まで生気をまっすぐに引き出す力があります。ウィルスに対抗するには肺気より腎気の封蔵の力が効果を出します。津液の補充は少なく、陽気へのみ働きかけるのが葛根湯や桂枝湯との大きな違いです。

 

この三拗湯の働きを押さえておくと、この系統の薬の理解に薬に足します。麻杏甘石湯は皮膚表面に石膏の清熱効果を届ける、麻杏薏甘湯は肺の領域に薏苡仁の湿を除く力を届ける方剤です。同じ骨格を持っている神秘湯などは三拗湯に厚朴、陳皮、紫蘇、柴胡を加えています。気を動かす力を三拗湯にのせてさらに力強く肺に届ける処方なので、かなり気に揺さぶりがかかり、患者の素体に力がないと危険です。そのため発作時などは禁忌とされます。

 

麻黄湯の解熱の効果は清熱ではなく、発汗により陽気を外に出します。陽気が体表に到達できず、寒気があり汗のない状態が適応です。麻黄はエフェドリンを含み、動悸や不眠を助長するので陰虚症特にに注意し、妊婦、小児には注意して使わなくてはいけません。気血津液どれかが虚している者には使用を控え、大量の発汗が心配な場合には白芍で津液を補充したり、五味子ですこし発汗を止めるような調整をすることもあるようです。

 

心配であればより発散力が少なく、津液の補充がある桂枝湯の方が安全に使えます。ただ、どちらにしても桂枝を含む以上は腎気の肺領域への穿通が期待できますが、“引火帰原”という、逆に邪気が腎に入り込むすきも与えてしまうので注意が必要です。