中医学:黄連解毒湯

先日紹介した四物湯に加えて、黄連解毒湯は私にとって初期に覚えた大事な方剤です。もちろん、方剤学から見ても基本の一つに数えられます。

 

黄連解毒湯はこの仕事に入ってから私が始めて服用して、効果が実感できた方剤なんです。中学生から20年以上繰り返しできる手湿疹に抜群の効果でした。

 

正式にはその時服用したのは温清飲。四物湯と黄連解毒湯の合剤です。この温清飲は私が思うに、厳しく諌める父(黄連解毒湯)と優しい母(四物湯)のような方剤。温清飲の中のまさに陰と陽。

 

黄連解毒湯は三焦の実火に対する処方です。効能は瀉火・解毒。主治は三焦熱盛・火毒。

 

まず、火毒とは。熱は盛んになれば火になります。火は甚しければ毒となります。熱→火→毒の順番に重く、体に害を与える存在となります。この熱が高じてできた毒が火毒、黄連解毒湯の適応となります。

 

構成成分は4種類です。切れ味がいい方剤の構成はだいたいシンプル。薬味とそれぞれが清熱する部位を示しました。

 

黄連…中焦(胃・肝・胆)と心
黄ごん…上焦(心・肺・大腸・小腸)
黄ばく…下焦(腎・膀胱)
山梔子(さんしし)…三焦

 

黄連解毒湯の主薬は黄連です。黄連は大寒大苦で、1番清熱作用が強い生薬です。胃熱を清するので中焦の実火を取るといわれ、胃潰瘍、胃出血、胸やけ、嘔吐、口内炎などの治療に使われます。また、神明を主る心の火を清するので、煩躁、不眠、なども解消します。また、血脈を主る心を清することで出血病変を改善し、その凉血作用から肝の熱を解消します。また湿熱を解消するので大腸湿熱にも効果があり、実際殺菌作用も認められています。

 

次に黄ごん。同じく清熱と燥湿が特徴です。上焦の実火を清するのが得意で、歯の痛み、口腔の潰瘍、咽頭痛、扁桃痛、咳嗽など肺領域が専門です。黄ごんが働くのは上、というより肺が主る表面(粘膜)のイメージでしょうか。大腸、小腸にも効果が高く、抗生物質にも匹敵するような殺菌作用があるようです。粘膜に働きかける性質からか、安胎効果があると言われています。清熱効果は止血作用にも通じるので、切迫流産、堕胎後や流産後の出血、月経の出血過多にも応用されます。清熱作用自体はそこまで強くないですが、上昇の熱を下に下げるような下向きの作用もあります。注意が必要なのは漢方薬で報告されるアナフィラキシーのような副作用は黄ごんが原因と見られています。

 

黄ばくは下焦、腎や膀胱の湿熱に効果を持ちます。清する熱は実熱ではなく虚熱。陰虚証によって虚熱が上昇に浮き上がったものを引き下ろす効果もあるので、単に下焦だけに効果があるわけでなく、腎から浮き上がった上焦の熱にも対応します。そのため、通常の陰虚症状、盗汗、遺精、多夢などの症状に関連します。ただ、マイルドな清熱薬として、老人や小児の皮膚症状など、場所を問わない使い方をする場合もあります(梔子はく皮湯)。

 

最後に山梔子、クチナシの実です。山梔子は三焦に通じて、心、小腸、膀胱の経路を介して津液代謝の経路を使って尿から熱を排泄します。

 

全体に強い躁性、寒性があるので胃腸が弱い人には注意が必要です。もちろん明らかな熱症がなければ使うことは危険ですし、陰虚の傾向の人には使えません。また、血熱による出血に効果がありますが、もちろん気虚の出血には使えません(気虚の出血には芎帰艾膠湯が◯)。

 

このような弱点、副作用を軽減するために四物湯などと組み合わせて使うことがあります。こうしてできた合剤が温清飲です。

 

黄連解毒湯が適応する病態として「血熱妄行」という表現があります。血熱妄行とは炎症や自律神経の亢進など生体反応の機能亢進により起こる出血、皮膚疾患などのことです。清熱薬は炎症を鎮め、機能亢進を抑制したりする効果で代謝亢進によって起きる消耗から生体を守る効果があります。そのため、安易な長期の使用は生体の陽気ののびを無理やり抑えこむ副作用があるといえます。必要であれば気血の流れを整えるような陽気不足をフォローする方剤の併用を検討することも大切になります。

 

また、清熱剤による陽気の抑制は抗がん剤の作用と類似していると言われていますので、腎気を抑え込んでいる、といつ作用も考えておく必要があります。

 

黄連解毒湯と構成が似た方剤に三黄瀉心湯があります。黄連、黄ごんを共通として、黄連解毒湯では黄ばくと山梔子で尿から熱を排泄するのに対し、三黄瀉心湯では大黄を採用し、便から熱を排泄する構成。同じく寒性、燥性が強い方剤ですが、大黄を足すことにより便通改善、というより下向きの力を強くした上部の実熱を力強く下へ下ろす構成です。

 

黄連・黄ごん・黄ばくの3種は清熱の代表生薬であり、さまざまな方剤に組み込まれます。どの生薬を選んでいるかをよく観察することは方剤の意図を理解するために役に立ちます。四物湯同様単独での使用は少ないですが、方剤を理解するために基本の処方です。

中医学:四物湯

少しずつ方剤の話も紹介してく。

 

まず女性の血の道症へ応用が広い“四物湯”について。血道症とは女性のホルモンバランスの乱れを原因とした体調不良のこと。四物湯は“血虚”の治療に用いられる補血薬の基本処方だ。

 

四物湯の原典は“和剤局方”。この和剤局方のし四物湯は“金匱要略”の芎帰膠艾湯より止血作用をもつ生薬を除いて作られました、

 

血虚とは“血”の不足のこと。注意がが必要なのは中医学で言う血虚は貧血のことではない。ここで言う血虚は赤血球や血色素のこととまったく関係なく、自律神経や内分泌系の失調を基礎とする。貧血症や術後の出血のような造血を目的とするときは捕気薬を基本に補血薬を補助として用いる(十全大補湯)。

 

基本処方、というわりには薬局で四物湯が動くことは少ないのではないだろうか。実は四物湯が単独で用いられるケースは非常に少ない。ただ、四物湯を基本に発展した方剤は数え切れなく存在する。薬味がった4つというシンプルな四物湯だが、それぞれの生薬の働きを押さえておくと、それらの四物湯を応用した方剤の理解がぐっと増す。実際使うことは少なくても早い段階でその特質を押さえておきたい方剤だ。

 

四物湯の組成は4つの生薬からなる。

  • 熟地黄 (4g)
  • 白芍 (4g)
  • 当帰 (4g)
  • 川芎 (4g)

 

補血薬というと陰血を量的に増加させるのが1番の目的。しかしそこに適度に流れも介入するバランスのとれた方剤だ。

 

まず君薬である熟地黄。全ての陰血の元になる腎陰を増す代表生薬である。

 

次に白芍。肝陰を補充する。四物湯の構成生薬中唯一凉性だ。芍薬で補給する陰はストレスで熱くなりがちな肝を水冷式で冷やす役割がある。

 

当帰は婦人科の治療の代表生薬。当帰は肝血を補うとともに、補った血を肝から心まで巡らせる。つまり陰血の量とともに動きにまで働きかけをする。

 

川芎はセリ科の薬草だ。川芎はほとんど陰の過不足には働きかけず、肝腎で補った血を下方から上方へ動かす役割をもつ。

 

四物湯を服用するとセロリのような香りがします。これはセリ科の当帰と川芎の2種類が元になっています。セロリの香りの好き嫌いはともかく、香りのいい生薬は気血津液の流れに働きかけるものが多い。

 

 

栄養学:コレステロール3部作 完結編

コレステロールについて書き続けてきましたが、ではそのコレステロールとうまく付き合うために薬剤師としてどんなアイテムが使えるかをお話します。

 

まず、コレステロールを作るのも回収するのも肝臓の役目です。肝で代謝を受けるのは悪玉、善玉の両方そして食事由来の中性脂肪です。そのため脂質の代謝をスムーズにするためには肝の炎症(脂肪肝)を改善することは最優先事項です。

 

まず肝の炎症で使用する第一選択は田七製剤です。田七はウコギ科サンシチニンジンの根を加工したもので、一般にいう人参であるウコギ科オタネニンジンとは別種。金不換とも呼ばれますが、金でさえ換えたくないほど値打ちがあると言われました。効能としては化瘀止痛、活血止痛。血液の流れを改善し、なおかつ漏れ出た血液をとめる、痛みをとめる効果があります。

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K.M=KARIBITOさんによる写真ACからの写真

田七人参ではないですが、同じウコギ科コシアブラです。

 

薬剤師をしているとあれ?と思うのではないでしょうか。血液の流れをよくする薬といえば副作用は出血傾向。ところがこの田七は血管内の血液の流れは改善し、漏れ出た血液はとめる、という効果があります。ですので打撲、捻挫などの内出血を治すことは得意中の得意。諸葛孔明も怪我をした兵士に田七を使用したとか。

 

この田七製剤はさまざまな製薬メーカーからでているのですが、脂肪の炎症を鎮める、肝機能改善効果があります。止血効果と比較すると即効性としては弱いですが、継続する服用で肝機能数値はもちろん、それにともないコレステロール値、中性脂肪の数値も大きく変わります。お酒を飲む習慣がある人はぜひ継続して飲んで欲しいアイテムです。

 

もう一つ、肝の炎症を鎮めるためにおすすめしたい栄養素があります。それはEPA、イコサペントです。イコサペントは肝に限らず全身いたるところの炎症を鎮めてくれます。その理由はEPAは炎症を抑制するプロスタグランジン3系の反応を加速させるためです。この抗炎症作用はリーキガット症候群のような腸の炎症でも、花粉症のような鼻粘膜の炎症でも、アトピーのような皮膚の炎症でも効果があります。肝機能トラブルに限らず、炎症体質の人の根本的な体質改善にはかかせない栄養素です。

 

肝臓の炎症を鎮めるとこれだけコレステロールは大切、悪玉コレステロールは悪くない、と言っておきながら総コレステロール値が下がることがあります。どんな検査値でも言えることですが、検査値は高値にする要素を低値にする要素の引っ張り合いです。例えばLDLコレステロールの数値について。肝臓の代謝が悪いとLDLは上がり気味に、それに加えてコレステロールをつくる脂質が不足しているとLDLは下がり気味に。この2つの条件が同時に起きると、LDLの数値は正常範囲内になることがあります。脂肪の炎症をとると、検査値をあげる要素がなくなるためごまかしがきかず、エネルギー不足の低値が明るみにでてきます。このような肝機能のトラブルとエネルギー不足の問題を併せ持っているケースに炎症を改善しながらも脂溶性のエネルギーの補給になるEPAはぴったりです。

 

最近スーパーなどでもω3の油が市販されいて、だいぶ認知もされてきたかと思います。EPAもω3系の油ですが、日本人の場合市販のω3系の油からEPAを合成する酵素はあまり強くないようです。それもそのはず、EPAは魚の油、魚を常食する日本人にとって長いあいだ合成する必要はなかったからです。市販のω3ももちろん良い商品ですが、炎症を鎮める、という目的ではEPAを直接取るほうが圧倒的に効率が良いでしょう。

 

多くのメーカーが販売しているEPA製剤ですが、品質は様々。魚由来の油なのでこだわるならあまり大きな魚は生物濃縮が心配で避けたほうがいいですね。まな板にのるくらいのサイズの魚が適当なようです。サプリが手っ取り早いですが、魚食をかなり中心にできるならそれでもOKです。

 

また、LDLコレステロールの酸化を防ぐために“還元2号方”という処方もおすすめです。この処方は腎臓の血流量を増やすので肝臓疾患より腎臓疾患で進めることが多いですが、末梢血管での抗酸化力が優れているのだとか。血圧降下作用も期待できるため動脈硬化をはじめとして、循環器系のイベントのリスクが高い方にはとても優れた方剤です。

 

逆に数値が低い、というケースにはサメの肝油成分がおすすめです。この肝油成分は短い代謝経路でコレステロールとして変換されるためコレステロール不足の即効性が高くあります。さらにその下流のホルモンを作り出してくれますので、アトピーなどの皮膚症状、不妊骨粗鬆症など改善の効果が期待できます。

 

思いつく限りで私のコレステロール対策はこの4つが柱となります。

栄養学:コレステロール3部作 問題編

動脈硬化のリスクを上げると言われるコレステロール。しかし、体内で重要な役割もたくさん担っています。 悪玉と言われるからといって単純に量を減らしてしまうと細胞に必要な栄養が行き届かず、何らかの不調の原因となります。

 

 実はコレステロールに悪玉、善玉のような種類があるわけではありません。

 

コレステロールは油に近い性質を持つため水に溶けません。そのため血液中を滞りなく流れるためには“乳化”という特別な状態をとるようになります。乳化とは油と水になじみやすい部分をもつ分子によって油成分が水に溶け込めるようになることです。

 

乳化に必要なのは細胞膜の材料になるリン脂質やタンパク質です。リン脂質やタンパク質は油と仲がいい親油基と、水と仲がいい親水基を持っています。この親油基を内側に、親水基を外側にして、複数のリン脂質でコレステロールのような油性ものを包み込みひとつの球体を作ります。そうして球体自体は水に溶けますが、内側に油性の物質を抱え込むことができるようになります。これがコレステロールが血中にとける理由です。同じ仕組みで、中性脂肪脂溶性のビタミンもこの乳化によって血中に溶けて、運ばれていきます。

 

このリン脂質とタンパク質でできた球体にのってコレステロールは運ばれていきます。このコレステロールを乗せた球体のなかで、体の細胞隅々にコレステロールを運び、受け渡しをするものが悪玉コレステロールと呼ばれます。また、同じくコレステロールを乗せた球体の中でも末梢の余っているコレステロールを回収するものが善玉コレステロールと呼ばれます。

 

繰り返しますが、末梢にコレステロールを運ぶからと言って悪玉コレステロールが悪いわけではありません。コレステロールはその抹消の細胞で必要な栄養だからです。問題はその末梢に届けられたコレステロールが何かのきっかけで本来の役割と外れたものに変性をしてしまうことです。

 

コレステロールを本来の役割を失わせ、さらに動脈硬化の原因とまでしてしまうきっかけ。それはコレステロールの“酸化”と“糖化”です。

 

酸化とはカラダのサビ、と説明されます。通常は細菌感染や初期のがん細胞など、私たちの健康を害する原因を除去するために必要なものですが、この酸化が必要以上に強く働いてしまうと正常な細胞にも傷をつけます。この酸化ストレスが引き起こすカラダの不調はわかっているだけでも、シミやシワ、うつ病アルツハイマー認知症、そして心疾患や動脈硬化です。

 

加えて、悪玉コテステロールに関しては“糖化”も気にしなくてはいけません。先ほどコレステロールはリン脂質とタンパク質で作られた乗り物に乗って運ばれる、とお話しました。“糖化”とはこの乗り物の構成成分であるタンパク質と血液中の糖質が結びついて、タンパク質が正常に機能しなくなることです。乗り物が壊れたコレステロールもまた、動脈硬化の原因となる悪玉なのです。

 

このコレステロールの酸化と糖化による悪玉化を防ぐため、私たちにできることを考えていきましょう。

 

まず酸化を避けること。過度の飲酒と喫煙は避けましょう。喫煙は特に控えるべきです。タバコを吸うことにより、顕著な酸化ストレスが発生し、それがコレステロールの酸化につながります。喫煙により血管疾患のリスクが高まるのはこの理由です。

 

酸化ストレスは環境の変化など、心理的なストレスが高まった時にも発生します。なるべくのんびりと、余裕をもてる状態を保つことも大切です。

 

酸化ストレスを打ち消す方法もあります。それはビタミンCやビタミンEなど、抗酸化作用をもつ栄養素をしっかりとること。

 

尿酸値の高値も要注意です。コレステロールが私たちの体に大切な役割を持つように、尿酸もまた役割があります。それは自前の抗酸化物質になるということです。ビタミンCやEなどを作り出すことができない私たちの体は酸化ストレスに対して尿酸で対応します。この尿酸が高い、ということは体内で酸化がおきているひとつの目安となります。尿酸そのものにコレステロールの酸化を促す効果はありませんが、尿酸が高いということは酸化ストレスが強くなっているひとつの指標として参考になります。

 

次に糖化ストレスについて。糖質はタンパク質と結びついてそのタンパク質を本来の役割ができないものにしてしまいます。この糖化は動脈硬化不妊や、認知症骨粗鬆症の原因にもなります。

 

糖化ストレスを防ぐためには、もちろん糖質の食べ過ぎを防ぐことです。コレステロールの高値だけなら大丈夫ですが、血糖値の高さも同時に指摘を受けていたら危険です。甘いものは避け、丼もの麺モノなど糖質の多い食事も避けたほうがいいでしょう。

 

また、肥満も注意が必要になります。肥満とは脂肪細胞が余分な糖質を食べ過ぎて膨らんだ状態になったこと。脂肪細胞は脂肪をため込むもの、と思われがちですが実はこちらも他に役割があります。それは代謝に関係するホルモンを分泌する、ということです。脂肪細胞が脂肪を蓄えて膨らむと、コレステロールの糖化を促すホルモンが多く分泌されるため、より動脈硬化が進行します。そのため、肥満体型、特に内臓脂肪が多い方はやはり少しダイエットの必要があります。

 

ちなみに、コレステロールは悪玉コレステロール(LDL)として140mg/dl以上が脂質異常症と診断を受けます。しかし、実際総コレステロールにして200~220mg/dlの人と180mg/dl未満の人を比較して死亡率、ガンの発生率ともに後者が高いというデータが取れられているようです。

 

以上よりコレステロールは量より質が大切であることが言えます。

 

栄養学:コレステロール3部作 役割編

悪者とされがちなコレステロールですが、最近だいぶ風向きが変わってきたかと思います。今日はコレステロールについてノートをまとめていこうと思います。

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以前は高脂血症と言われましたが、今は脂質異常症、と呼ばれています。血中の脂質が多いことにより、動脈硬化、特に冠疾患の危険因子が高い病態のことを指します。

 

高脂血症脂質異常症と呼び方は変わりましたね、ポイントは以前は悪玉と呼ばれるLDLコレステロール中性脂肪の高さを問題視していたのが、最近では善玉のHDLコレステロールの低さが重要視されてきたためかと思います。“高”脂血症という呼び名が適切ではなくなったからですね。

 

脂質異常症の診断基準はこちらです。

 

以前は脂質代謝異常症の人への栄養指導は脂質、特にコレステロールを多く含む食品を制限するように伝えていました。例えば、卵、ししゃも、レバーや魚卵です。動物性食品の脂を多く含む部分にコレステロールは多く含まれます。

 

ところが最近では血中のコレステロールは外因性より内因性のものが多いと知られてきていますね。つまり、食事由来より、自分自身の肝臓から作り出すものの方が影響が多いのです。そのため、食品に含まれるコレステロールはあまりうるさくいわれなくなってきました…卵は1日に何個食べてもOKです。

 

コレステロールといえば悪者のイメージが強いですよね。そもそもなぜ肝臓はコレステロールを作っているのでしょうか?

 

大切なこととして、基本私たちの体は私たち自身に害があるものは作り出しません。これはコレステロールも例外ではありません(回を分けますが尿酸についてもおはなしします!)。

 

コレステロールは実は生体のエネルギーに加え、多くの内分泌ホルモンのを材料となります。これは他の物質では代わりになりません。コレステロールを材料にして合成されるホルモンは以下の通り。

 

コレステロールは体内のいたるところに存在して内分泌を調整しています。代表はステロイドホルモン。ステロイドホルモンは抗ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール、ミネラルをコントロールするアルドステロン、男性ホルモンのアンドロゲンや女性ホルモンのエストロゲンになります。

 

体内至る所で必要としているからこそ、血中内にコレステロールが必要なのです。

 

不妊治療の分野でコレステロールは大変注目を浴びています。コレステロールは女性ホルモンの材料ですよね。実際コレステロールが低い女性は不妊になりやすいというデータがあります。生殖産業ではコレステロールは高値より低値の方が問題となるのです。

 

また、コエンザイムQ10も聞いたことはあるのではないでしょうか。老化を防ぐ抗酸化物質です。意識高そうなサプリに入っている印象ですが、本来ならこれも自分で代謝して作り出せるものです。

 

単純にコレステロールが高いからと言って、これを下げてしまうと…どうなるか。これら全ての内分泌ホルモンの供給が途絶えてしまいます。

 

実際コレステロールは少し高めの方が余命が長いというデータがあります。

 

なぜここまでコレステロールは悪者となったのでしょうか?それはコレステロール動脈硬化の原因としての主犯格である疑いがかかったからです。

 

血管の動脈硬化に関してコレステロールは無関係ではありません。ただ、コレステロールが悪さをするには、コレステロールだけの責任ではないのです。1人では悪さはしないけれど、仲間がいると素行が悪くなる中学生のように、コレステロールが悪者になる過程にはまた他の条件が必要となるのです。そしてその条件、真犯人の取り締まりの方がコレステロールよりよっぽど重要です。これは次回に続けます。

 

中医学:生命と死

今回は中医学における生命と死について。
 
言うまでもなく人は生まれて死にます。そのプロセスについて中医学はどのうように考えているでしょうか。
 
人は生まれて、そして死んでいきます。まず小さな弱々しい命として産まれた私達は徐々に命のみなぎり、成長を経てピークに達し、その後徐々に衰えていきます。

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“腎の役割”でお話ししたように、腎は先祖代々受け継いだ生命力を格納しています。
 
腎精は全ての生命力の根本です。全ての陰と陽の根源が濃縮されています。腎精は全ての生命活動の上源です。

この腎精は2つの要素から出来ています。まず1つ目は父親から受け継いだ生命力、母親から受け継いだ生命力を融合して授かる「先天の精」です。親から受け継いだ命の遺産です。
 

2つ目は飲食物のエネルギーから抽出して得られる「後天の精」です。先天の精が親から受け継ぐ遺産であれば、後天の精は自分自身で得ることができた収入みたいなものです。腎精はこの先天の精後天の精の2つが融合してできています。

この腎精の盛衰に関して、中医学のバイブルである「黄帝内軽」にとても有名な記述があります。これは健康相談を受ける時とてもさんこうになるのでここでお話しておきますね。

 

人の盛衰は女性なら7年、男性なら8年のインターバルで変化する、ということです。
 

まず女性の一生のプロセスを見てみましょう。女性の体は7年毎に節目を迎えます。

  •  7歳:葉が生え変わる、髪の毛が伸び始める
  • 14歳:初潮を迎える
  • 21歳:親知らずが生える、生命の充実期を迎える
  • 28歳:筋肉や骨が発達する、髪も豊かに生える、生命の最盛期を迎える
  • 35歳:顔から、いきいきとした輝きが消えていく、髪が抜け始める
  • 42歳:顔の輝きがなくなる、髪が薄くなる
  • 49歳:閉経する、体が衰える

 

今の時代の女性は昔に比べて栄養豊富なので、見た目が若い方はいつまでも若いですが…現代でも女性であればこの7の倍数の年齢で何らかの体調の変化を感じることは多いようです。特に35歳から妊娠出産率が下がること、42歳を過ぎるとほぼ妊娠は難しくなること、49前後で 閉経などと言った点は現代の生殖医療の分野での統計と大きく違いはないのではないでしょうか。

 

次に男性の体の変化について。男性の体の変化は女性より長い8年が目安となります。たった一年ですが、なんかズルイ…と感じます。

  •  8歳:髪の毛が伸び始める、葉が生え変わる
  • 16歳:射精できるようになる
  • 24歳;親知らずが生える、生命の充実期を迎える
  • 32歳:筋肉や骨が発達する、生命の最盛期を迎える
  • 40歳:髪が抜け始める、歯に艶がなくなる
  • 48歳:顔の輝きがなくなる、髪が白くなる
  • 56歳:キビキビと動けなくなる、体が目に見えて衰える
  • 64歳:髪も歯も抜け落ちる

 

こちらもさほど現代人と大きな変わりはないのではないでしょうか。

 

治療をする側としては、この年齢による体質の変化に注意を払うことはとても大切です。例えば、節目の年になる一年以上前から体質的な弱点を補強しておくと次のタームはトラブルなく乗り越えることができると言われています。例えば更年期の前。40代後半からしっかり補血をしておくと、肝気の乱れが起きにくくなり、おだやかに過ごせるようになるようです。

 

私たちは一定の期間子供を授かる能力をもちます。この生殖能力をもつことを中医学では「天癸(てんき)が生まれる」と言います。この天癸は腎精から生まれます。その人の腎精の強さによって多少前後しますが、この天癸が生まれている期間というのは女性では14歳から49歳まで、男性では16歳から56歳です。また天癸の生まれている期間であっても生殖能力の強さは個人差があります。これも腎精の強さの違いです。

 

生殖能力の強さは言い換えれば若さでもあります。若さを保つためには腎精が重要です。先ほど腎精は2種類のものからできるとお話ししました。「先天の精」と「後天の精」です。先天の精は補充することができませんので、なるべく無駄に消耗しないことは大切です。そのためにも、胃腸を整えてできるだけ後天の精からの補充を多くすることも大きな対策になります。

 

では、中医学でいう「死」とはどういうことでしょうか。

 

中医学では私たちの命は「精」が束ねられたもの。この束ねられた精がなんらかのきっかけでバラバラにほつれたときが「死」となります。

 

また、陰陽学説でお話ししましたが陰と陽はお互いがなければ機能しない存在です。その陰陽のどちらかが消え失せる、もしくは分かれたときが「死」であると考えます。

 

死の直前の正気が抜けた状態を「亡陽」といいます。陽気が陰から離解した状態です。

 

人の一生は「生(生まれる)→長(成長する)→壮(盛りを迎える)→老(老いる)→已(死ぬ)」という変化を遂げます。これは自然界の「生(芽がでる)→長(成長する)→化(花を咲かせる)→収(実がなる)→蔵(種となる)」という自然の流れと同じです。また、これは春→夏→秋→冬という季節の中にも同じ変化を見つけることができます。これが中医学が大切にしている自然界の縮図として生体をみる生体観です。 

 

「天人合一・天人相応」という言葉があります。人間は自然界の一部、という意味です。これは私たちが自然の中の一つの一員、という意味ではありません。私たち人間が自然と同じ機能を持つ一つの完成されたシステムということです。私たち一人一人が宇宙の一部、ではなく宇宙そのものということです。

 

中医学:腎の役割

 

臓象学説最後の主役、腎の出番です。

腎は自然界における水、と言われていますが海の方がイメージしやすいと思います。私たち全ての生命は海から始まり、未だ深海は未知の生物も多いと言われています。宇宙探査においても水、もしくは海の存在は生命の存在の可能性を示唆します。

腎は生命の源を生み出す深淵のような存在です。

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Mapleさんによる写真ACからの写真

臓象学説においても、腎は生命の根本を濃縮したものとして扱われます。水と脂肪とたんぱく質の塊である私たちがただのモノとしてではなく、自分の意思を持ち生命をつなぐ存在である秘密が腎に詰まっています。

腎は「先天の本」とされます。それは腎がご先祖さまから受け継いだエネルギーを貯蔵しているからです。このエネルギーの在庫を「先天の精」と呼びます。体の発育、知能の発達、生殖能力の旺盛さ、最後には寿命などがこの先天の精から大きな影響を受けます。

「先天の本」と対比して「後天の本」と称される臓があります。それは脾です。脾は飲食物から得られたエネルギーを「後天の精」として体に供給します。腎は先天の精に後天の精を補充し、2つを融合して腎精として格納します。これが腎のもっとも重要な役割です。

腎には封臓するという特徴があります。封臓とは奥にしまいこみ漏れでないようにするということ。腎は冬眠中の生物のように、気を閉じて外に精を漏らさないようにする性質です。腎精は体の奥に大切に保管されています。

腎精とは気血津液、何にでも分化できるエネルギーの根本です。受精前の卵子のようにまだ何ものになるのかわからない、可能性を濃縮したものです。

腎精の役割は大まかに以下の5つに分類されます。

  • 生殖と深く関わる
  • 生・長・壮・老のプロセスを支える
  • 髄を生み、骨や脳の元になる
  • 血液の生成と関わる
  • 外邪から体を守り、病気を予防する

この広い意味での腎精は腎陽と腎陰に分けることができます。腎陰は全身の陰のもとであり、腎陽は全身の陽のもとです。そのため、他の臓器において陰、もしくは陽の不足が見られたとき必ず生命力の上流となっている腎の状態に気を配らなくてはいけません。

次に、腎は水分代謝の要としての役割があります。解剖学的な腎臓も水分の排泄、それに伴う体液量の調整をしていますので違和感はありません。 

中医学もまた腎が水分の流れと量を調整すると考えます。水の流れに関係する臓腑は他にもありましたね。主には脾と肺です。もちろん脾と肺の働きも重要ですが、腎は元栓部分とでもいいましょうか、肺や腎よりさらに根本的な部分で水を管理します。

陰に属する水を動かすのは陽気であり、陽気が水の流れの駆動力となります。そして全身の陽気のもととなるものが腎陽です。つまり他のどの臓器より、腎の陽気の虚は全身に大きな影響を与えます。腎陽が弱まると、水の動きが鈍くなり、尿の量がへる、むくみがでるなどの症状が出ることがあります。また、逆に腎が水を制御できなくなるとトイレの回数が増えてしまいます。

 

加えて腎は納気をつかさどるという大切な役割をもちます。納気というのは気を体深くへ収めること。肺が吸った清気を腎が体の内側まで引っ張り込むことで呼吸が浅くならず、深部まで届けることができます。この腎の納気が弱くなると、呼吸が浅くなる、疲れやすくなるなどがあります。

 

ここで、呼吸を腎と肺で制御する、とお話しましたが、腎と肺は意外と接点が多い臓器です。とくに、免疫機能に関して。I型アレルギーを言われるアトピー、蕁麻疹、喘息、花粉症などは肺と深い関係があるようですが、橋本病や、リウマチ、糸球体腎炎などII型、III型の自己免疫疾患が関わるようなアレルギーは腎気の弱まりでおきるようです。外側の敵と戦うのが肺であり、内なる敵、自己と戦うのは腎ということでしょうか。たとえば肺の不調で抗利尿ホルモン・バソプレシンが分泌されたり、水液量を調整するアンジオテンシンの変換酵素も肺に存在したり、肺から腎に働きかける内分泌ホルモンも多いようです。

 

封蔵する、と説明される腎はエネルギーを奥深くに凝集してしまい込みます。その性質の現れのひとつとして、腎は骨を作るといわれています。なぜかというと、骨を養う骨髄(髄)は腎精から作られると考えるからです。腎が成長や発育を支える、と言われるのも骨と関係が深いためです。腎精が不足していると、十分な強度の骨が作られず、骨折しやすかったり、折れた骨の治りが悪かったりします。加えて、歯は骨の余り、といわれていますので、歯のトラブルも腎が大きく関わります。ただ、歯に関しては上の歯は胃経、下の歯は大腸系ともつながりをもちますので、腎の影響だけとはいいきれません。

 

骨と腎、といえば西洋医学的にも関係がありますね。そう、カルシウムの吸収を助けるビタミンDは腎臓で活性する必要があります。腎は利尿なども含めて全身のミネラルに働きかけるようですね。腎を強くする味覚として鹹味がありますが、この鹹味がミネラルを多く含むもの、という点も頷けます。

 

腎の華は髪と言われます。髪は「血の余り」といわれますが、この血は腎精から作られます。髪の毛が薄くなる、白髪が増えるなども腎精の不足によっておこります。

 

腎は耳に開竅する、と言われます。これは腎の気が耳へ通じることで正常な聴力が得られると考えられているためです。老化などで腎気が弱まると耳が聞こえなくなる、耳鳴りがするなど耳の不調が現れます。

 

最後に、腎と関係が深い“二陰”について。二陰とは2つの竅、という意味です。男性と女性では少し異なり、後陰は男女とも肛門のことを指し、前陰は女性では尿道と膣の2つ、男性では尿道と精液の出口となります。単純に前陰といえば外生殖器のことを指します。

 

腎は肛門、尿道の開閉をコントロールします。尿道や膀胱の収縮に腎が影響を与えるため、不調があればトイレ回数が増える、すっきりと尿がでないなどの症状がでることがあります。

 

また、腎の生殖器への影響に関してはその開閉だけではなく、生殖機能のすべてをコントロールしています。生殖機能は新たな命を育むために母体の身体を削る作業です。腎陰、腎陽、腎気、腎精の全てがバランスよく整った余裕のある体でなければその機能はうまくいきません。腎の虚により女性であれば生理不順や不妊症、男性であれば遺精やインポテンツになることがあります。また、極度に乱れた性生活や、多産などにより逆に腎精が消耗することがあります。

 

生命の源となる腎。腎の不調は表面化されにくく、また病層が深いため重症化しやすいようです。近年がん治療に関しても腎の関わりは注目を浴びています。

中医学:肝の役割

肝は剛臓と呼ばれます。

 

肝は沈黙の臓器などと言われ、ピンチのとき以外に弱音をはきません。頑張り屋の女性のような性格です。そして、ダメ、となったときはもう本当にダメです。そこの余地はなし。これも頑張り屋の女性のような性格です。

 

そのせいか肝のトラブルは女性に多いようです。

 

 肝は自然界に例えると“木”です。土から栄養をすいとり上へ上へと腕を伸ばすその姿は“成長”や“上昇”の象徴です。

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RRiceさんによる写真ACからの写真

 

 

肝の最も大切な役割は“肝は疏泄をつかさどる”と表現されます。

 

“疏泄”とは聞きなれない言葉ですが、上昇、下降、発散、通りをよくする、などの言葉を組み合わせた意味です。通るべき所を通し、流れるべきものがきちんと目的の場所に届くようにする、という役割です。

 

この役割だけを聞くと解剖学的な“肝臓”と全然違います。肝臓は主に解毒の役割ですからね。でも全く関係ないとは言えません。例えば、飲食物は胃で分解され、その後腸で吸収されます。脂質などの限られた栄養素を除いて吸収されたものはまず門脈を通り肝へ向かいます。その後解毒の処理をしたあと、全身に分配されます。この一度肝臓に集められて、検問を通過したものが全身を巡る、という点は肝の疏泄と重なるところがありように思います。

 

この肝がつかさどる疏泄の役割は主に4つに分けられます。

 

1つ目が、気血津液をそれぞれを正しい方向に滞りなく流れをつくる役割です。田んぼの水を想像してみてください。肝は水路の役割です。上流の田んぼから下流の田んぼまで、水がまんべんなく満たされるためには水路の水が漏れることがなく、さらにつまって氾濫することがないようにメンテナンスをすることが必要です。水路の反乱は肝のトラブルによっておこり、それは張りを伴う症状が多いようです。例えば、胸や脇の張り感代表的です。頭痛でもしくしく、というよりずきんずきんという感じ。水路の詰まりによって氾濫する上流の田んぼがあると、一方で水が不足する下流の田んぼがでてしまうことがあります。注意が必要なのは常に過剰の症状(実)として現れるわけではなく、部分的には不足の症状(虚)として現れることもある、という点です。一部の虚した状態をみて状態を判断する前に、全身に視野を広げて流れが全体にどうなっているのか確認する必要があります。肝の不調はまず気の流れの滞りに現れます。そしてこれに伴い血や津液の流れも悪くなります。血の流れが悪くなることで月経の不調、津液の流れの悪さでむくみなどが現れることがあります。

 

肝の役割は解剖学的な解毒、というより内分泌的なものが多く含まれると思います。血液の循環量が多いとレニンという酵素が腎臓より分泌されて血管を収縮されることで血流量を調整する機能がありますよね。このような内分泌による生体のバランスを保つ働きを担当するのが“肝”です。

 

2番目は消化機能への影響です。消化機能といえば脾と胃が兄弟のようなコンビネーションでコントロールしています。脾気の上昇と胃気の下降で栄養素が体内循環にのり、不要物は体外へ排出されます。肝の役割はこの脾気と胃気の力のバックアップ。脾胃を先発とすれば肝は中継ぎです。脾が持ち上げた栄養素を肝が繋いで肺の宣発につなぐ、こんなイメージです。この脾から肝へのバトンの受け渡しがうまくいかないと“肝脾不和”という状態、上に持ち上げられず下痢や軟便の症状が続いたりします。同様に胃と肝のバトンタッチがうまくいかないと“肝胃不和”となってゲップ、嘔吐などの症状があらわれます。

 

3番目は精神活動への影響です。気は臓器などの働きを調整しているだけではなく、人の精神活動も支えています。肝の外に発散する力が弱くなると“肝うつ気滯”といって、気持ちがふさいで、うつうつとして、ため息が多いなどの症状があらわれます。また肝の上に持ち上げる力が強くなりすぎると“肝火上炎”といい、焦燥感や怒りっぽくなったり、不眠になったりします。

 

4番目はホルモンバランスの調整です。前の項目で疏泄は内分泌のバランスと少しお話しましたが、とくに性ホルモンの分泌には大きく影響します。ストレスが多ければ生理周期が乱れたり、経血量が増えたり、生理痛がひどくなる・・・そんな経験は女性ならだれでも思い当たるところはあるのではないでしょうか。これも全て肝の支配する気の流れの乱れ、そこから派生して血の流れの悪さによって起こるものです。

 

肝気は気が枝葉をのばすように、本来外にのびのびと広がっていく性質を持ちます。こののびやかさが失われたとき、肝気の乱れによるトラブルがおきます。

 

疏泄についで肝が持つ大切な役割は“血の貯蔵をうけもつ”ことです。ただ、このときの血の貯蔵、というのはただ単純にタンクとして保管しているだけではありません。陰陽説で、全てのものは陰と陽に分けることができる、というお話をしました。気のコントロールを担当する肝は陽の要素がとても強い臓器です(実際肝は陽臓といわれています)。ところが陽は陰がなくては存在できず、また陰とバランスを保たなくては正常な働きができませんね。この時必要になるのが陰に属する血の存在です。肝血はいきすぎがちな肝気を抑えるために必要な存在なので、肝血の不足は肝気の暴走を引き起こします。この肝血不足による症状として特徴的な点は陽気の暴走が血にも及び、不正出血や月経過多などとして現れることです。

 

肝は目に開竅し、その液は涙です。イライラすると目が赤くなったりしますが、これは肝の陽気の上昇過多です。目が渇く、疲れる、視力が落ちるなどは目を滋養する肝血の不足です。

 

肝の華は爪で、肝は筋をつかさどります。爪もまた目と同様に肝血の栄養を受けているため肝血が不足すると二枚爪など弱々しい爪となります。筋肉もまた、肝の支配です。脾の章で脾は肌肉、といいましたが、脾がつかさどるのは筋肉のボリューム的な面。肝は筋肉の機能的な面、たとえばしびれがないか、つったりしないかなどを管理します。足のつりといえば薬剤師ならだれもが芍薬甘草湯を知っているのではないでしょうか。芍薬は肝陰血を潤す、といわれ足のつり、という神経の過緊張、過興奮をなだめる効果があります。

 

肝の役割をあげていくと多かれ少なかれ“鉄”の存在は見え隠れしていますね。爪が弱くなる、というのは鉄不足の代表的な症状です。また、肝陽が暴走して出血すれば鉄は不足する一方ですし、あまり知られていませんが精神を安定させる脳内ホルモンは鉄によって作られるので、鉄不足は精神状態にも影響を及ぼします。血を増やす、といわれる食材に鉄が含まれるものが多いのも納得がいくように思います。治療としては四物湯を基本骨格にした方剤で血の生成を促しながら材料として鉄とタンパク質をとるようにするのがいいのではないでしょうか。

 

婦人科系のトラブルはまず肝の不調は多かれ少なかれあるようです。先日も古い友人が癇癪持ちの奥様の不満をこぼしていましたが…人間関係はいずれにせよ難しいものなので、体調を整えることで防げる喧嘩は防ぎたいものですね。ちょっとのことではびくびくしない肝を持つことは人生を少しスムーズにしてくれるのではないでしょうか。

中医学:脾の役割

今回は脾の役割。

 

脾は土に例えられます。飲食物の分解、消化をつかさどる脾は体内で体が成長するための物理的なエネルギーを与えてくれる、土のような存在。私たちの生命活動の元になるエネルギーの供給源です。

 

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OFFさんによる写真ACからの写真

 

前回までご紹介した心と肺が上焦(体の上部)に属するとすれば、脾は中焦( へその下、横隔膜の上)に位置します。

 

中医学の世界の脾は解剖学的な脾臓とかなりかけ離れています。解剖学的な脾臓は古くなった血液の処分や貯蔵をになったり、免疫を調整したりします。脾は消化、吸収、場合によっては肝臓が受け持つ解毒の作用まで含めて飲食物から栄養を取り出すことを主な役割とします。

 

脾の働きは次のように記述されています。

  • 脾は運化を受け持つ
  • 脾は帰結を生み出す元
  • 脾気は昇をつかさどる
  • 脾は統血をつかさどる
  • 脾は体に在っては肌肉を合す
  • 脾は四肢をつかさどる
  • 脾は口に開竅し、その液は涎 

 

脾の「運化作用」は脾の働きの中でも最も大切なものです。運化は運んで、変化を与えること。これは単に飲食物を消化、吸収する、というだけでなく、そこから得られたエネルギーを体全体に運ぶことまで含めます。食物を胃から腸へ順に送る蠕動運動と、消化液による分解、さらに吸収して、肝臓で解毒をするところまで含まれるようです。

 

飲食物からのエネルギーを抽出してさらに全身に運ぶことを“運化水穀”、水分の吸収とその水分の全身の流れを調整することを“運化水液”といいます。

 

この“全身に運ぶ・全体の流れを調整する”ということに、気血津液の生成は大きく影響します。脾から取り入れられる水穀や水は肺や心で気と交わり生体に活動力を与える気血津液に化生されます。脾の働きが不十分、ということはその気血津液全てが不足することになります。

 

気が不足すると倦怠感、疲れやすさ、食欲不振など、血が不足するとめまい、生理不順、顔色が白いなどの症状として現れます。

 

すべての植物は土が悪ければ育ちません。飲食物から得られるエネルギーを抽出する脾の働きは土と同様すべての臓器のエネルギーの根本になります。この脾の重要性に特化した学説があります。それが李東垣が提唱した脾胃論です。李東垣は「脾胃を内傷すると百病が生じる」と唱えました。五行では5つの臓器が平等に助け合う関係を説きますが、脾胃論ではあえて脾が中央で、他の4つを従えているという構図で生体内構造を解釈します。後に温補・補土(土を守る)派などと呼ばれ、新しい視点を中医学に与えました。

 

 次は「脾気は昇をつかさどる」について。

 

脾の気は清いものを上にあげる、という性質があります。そして作用反作用の法則と同じように、汚いものは下に下ろします。ここでいう清いというのは“役に立つ”、汚いというのは“役に立たない”もののことです。脾は直属の部下として胃を従えています。脾は体の役にたつ水穀の精、飲食物から得られたエネルギーを上に持ち上げ、肺や心の気と交わらせ気や血を体循環に送り込みます。部下である胃は、水穀の精を脾に託して残渣を汚物として下に下ろします。この胃による不要物を下におろす働きを降濁といいます。

 

脾の昇をつかさどる働きがうまくいかないと、上焦にエネルギーが不足してめまいや意識がはっきりしないなど、上部の虚症状が強く現れます。そして胃の降濁がうまくいかないと胃もたれ、ゲップなどの実症状が現れます。

 

脾と胃の関係、というのは陰陽をよく表していると思います。断捨離ということばがありますが、まさにエネルギーを入れるために、捨てる役割が必要になる関係です。

 

“脾気が昇をつかさどる”はもう一つ、大切なことを表しています。それは内蔵をあるべきはずの場所にとどめておくということ。肺の宣発のように内から外へものを運ぶ体内のエネルギーの流れや、重力など下に引っ張る力が拮抗する中、脾の昇をつかさどる力が五臓六腑があるべき正しい場所に位置を留めるため、それらが正常に機能することができます。この脾気が弱くなると脱肛、胃下垂、子宮脱など、臓器が下に下がる症状が現れることがあります。

 

この脾の力は本当に侮れません。友人の奥様ですが、かなり危険な早産のリスクがありました。そこで脾気を高め、特に脾の昇提(持ち上げる)作用を持つ捕中益気湯を服用することで予定日通り出産され、元気な女の子に恵まれました。

 

次のお話。“脾は統血をつかさどる”これは脾の力を持ってして血液が血脈からもれでることがないようにコントロールしている、という記述です。脾気が弱まり、統血できなくなると、皮下出血、血便、血尿、女性の不性器出血または月経過多などが現れます。

 

出血があるからなのかわかりませんが、この記述を読むと裏にあるのは鉄不足ではないかな、と感じます。胃腸が弱いと確かに鉄の吸収が妨げられ、皮下出血も起こりますし、脾が弱いと血の生成に不利であることはよく知られたことです。鉄、というとヘモグロビンと思いがちですが、ここはフェリチンですね。鉄と血、脾の関係は無視できないのでまた回を改めてお話したいです。

 

“脾は体に在って肌肉を合す”といわれています。これは脾の力が肌肉を育てる、ということを示しています。次の記述“脾は四肢をつかさどる”も大きな関係があります。

 

身の回りに食べても太らない、というやせ型タイプの方はいらっしゃいませんか?いくら食べても太らない、ときけば羨ましい気もしますが、実際はそれほど食べることはできなかったり、痩せていても少し元気がなさそうなタイプ。こういう方は脾が弱い方が多く、脾の働きが弱いため食事からの栄養をとることが不十分(食べても身にならないか、食べることができない)になりがちです。脾は筋肉のボリュームの面をつかさどります。脾から栄養がとれないと筋肉は痩せたまま、ということです。

 

また、脾は水の運化をつかさどる、というお話もしましたね。脾は体の中心部に存在します。そのため脾の気血、そして津液の流れが滞れば上肢、下肢への水分の配分、回収が滞ります。つまり体幹部ではなく、四肢のむくみが生じたような時は脾の運化機能が弱くなっている可能性が強いです。

 

”脾は口に開竅し、その液は涎”。脾は口と深い繋がりがあります・・・といってもでは、舌に開竅していた心は?と言いたくなるところ。心は口の中で色やカサカサ感など見た目に影響し、一方で脾は味覚、食欲など感覚的なものに大きく影響します。脾の調子が悪いと口がベタベタする、甘く感じるなど味覚異常が現れやすくなります。

 

舌の見た目は心を表す…と言いましたがそれは舌に心が支配する血脈が多く集まっているから。脾と関係が深いのは色より舌のコケです。胃腸は食道をとおし、直接舌とつながっています。胃腸が疲れていると舌が白くコケに覆われたり、日毎時間ごとに胃腸の詳細な様子を教えてくれます。

 

中医学を学んでいると、本当に先人の観察力には驚かされることばかりです。脾は胃腸、細菌に覆わててバランスをとっていますが、それは地球上の土も同様です。そして、今腸内環境が乱れていると言われている時代に、大量の化学物質により土壌の最近のバランスも乱れ、食品の栄養素に大きな影響を及ぼしています。私たちの胃腸も以前の人類と大きく異なりますが、それと同じく、食べる食品も大きく異なる時代となりました。

 

このような現状を李東垣はなんとおっしゃり、どんな治療をされるのかな、と思うことがあります。

中医学:肺の役割

心に続いて、次は肺の役割です。

 

中医学で話される肝心脾肺腎の五臓は西洋医学で扱われる臓器の働きと関連は深いです。が、イコールではなく、より概念的な存在なので、ここも細部にあまりこだわりすぎないようにしましょう。

 

肺は五臓の中で最も上にあり、“五臓六腑の蓋”や“華蓋”と呼ばれます。肺は人体の中で外界に開かれた唯一の臓器です。肺と関わりが深いのは大腸、鼻、気管支、喉などすべて外界と生体の境目となる部位です。

 

前回心を自然界でいえば太陽、とご紹介しました。五臓の中で最も上層で体の体表を守る、自分と他の境界線を敷くのが肺です。自然界に例えれば大気圏でしょうか。

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RPGsonchoさんによる写真ACからの写真

肺の役割は以下のような記述で表されています。

  • 肺は気をつかさどり、呼吸をつかさどる
  • 肺は宣発をつかさどり、皮毛を外合する
  • 肺は粛降をつかさどり、水道を通調する
  • 肺は水の上源
  • 肺は百脈を朝する
  • 肺は鼻に開竅し、その液は涕
  • 肺の華は毛

 

肺は気をつかさどります。この意味は主に2つ。外から清気を取り入れる作業と、気の運行をコントロールすることです。いろいろ枝葉はついても肺の働きはこの2つに集約されます。

 

まず大切な役割として肺は気の生成を担います。肺は飲食物から吸収された気や精と、肺で取り込まれた清気を合わせて人体に有用なエネルギーとなる“気”を作り出します。

 

排気が弱まり、気の生成が滞ると呼吸があさくなる、声が小さくなる、体に力がないなど気が不足した“気虚”症状が見られます。

 

また肺は外界から得られた空気である清気を全身に巡らせる役割を担っています。この清気を受け持つ、という言葉に清気を体の各部位にまんべんなく送るということも含まれます。特に、肺より上部である頭部への気の供給をここでは強調しています。この清気を受け持つという肺の働きが弱まると、めまい、鼻づまり、鼻の乾燥、耳鳴りなど視覚、聴覚、嗅覚に影響を与えます。

 

また肺は宣発をつかさどります。宣発とは聞きなれない言葉ですが、気を上に、そして外側に動かす、という意味です。端的にいうと息を「吐く」ことも宣発です。この宣発が具体的に行うことは主に4つ。

  • 濁気を外に排出すること
  • 飲食物から得られた気を体中に配分すること、
  • 気を体表に配置し、生気が漏れ出ることを防ぎ、かつ邪気の侵入を阻むこと
  • 清気を上部にある器官に配分すること

 

この宣発の働きが弱まると、風邪をひきやすくなる、汗がでやすくなる、皮膚がかさかさになるなどの体表のトラブルが起こりやすくなります。

 

また、宣発は濁気の皮膚からの排泄も担っていますので、適度に汗をかくことで皮膚トラブルを改善するなどの治療法をすることもあります。

 

次に、肺は宣発とともに粛降を行います。粛降とは先発とは逆に気を下へ、そしてうちに動かすことです。息を「吸う」ことと通じます。

 

粛降は具体的には以下のような4つの働きを持ちます。

  • 清気を吸い込み、その清気を下へ送る
  • 気の上逆を防ぐ
  • 飲食物で得られたエネルギーを下へ送る
  • 体の上部の水を下へ流す

 

粛降の特徴として、気を下に送るときに水を引き連れます。肺は上部に位置していますので、屋根の上に給水タンクをおいたイメージです。肺が必要に応じてコックをあげて水を下部に流します。これが肺は津液の運行をつかさどる「水道を通調する」の意味です。

 

この粛降がうまく働かないと、しゃっくり、咳など気の上逆がおきる、顔がむくむ、肺や気管支に痰(流れの悪い水)がたまるなどの症状が現れます。

 

この肺による粛降と宣発の働きで気の流れが内側から外側へ、そして体表に到達すると今度は外側から内側へと引きもどるという流れができます。

 

この宣発と粛降の組み合わせは潮の満ち引きのように体内のリズムを作ります。これが「肺は百脈を朝する」の意味をさします。百脈とは全身の経絡。その経絡を流れる気が常に行き交う、動き続けるのは肺気の力によりコントロールされているのです。

 

肺は呼吸をつかさどる器官です。その肺が鼻を支配するのは自然なことのように感じます。肺気が滞ると、鼻が詰まる、鼻水がでる、匂いがわからなくなるなどの症状が現れます。このつながりで、鼻から流れる涕(鼻水)が肺の液といわれます。

 

また、肺の華は「毛」となっていますが、この毛は髪ではなく、皮毛。肌に生えるうぶ毛です。

 

肺は免疫機能、アレルギーと深いつながりを持ちます。一般的にアレルギー、というと喘息、じんましん、アトピー、花粉症ではないでしょうか。アレルギーもいろいろとタイプがありますが、今あげたものはIgEという抗体が関与する即時型アレルギーと呼ばれるものです。

 

喘息は肺そのものと気管支。じんましんやアトピーは肌。花粉症は鼻。IgE抗体が関与するアレルギーは全て肺のコントロールの下にあるパーツばかり。そして、同じく肺と深いつながりがあるパーツとして大腸があります。

 

「免疫力は腸内環境から」と最近だいぶ浸透してきていますが、東洋医学ではもう何前年も前からそのつながりを経験的に解き明かしていたようです。

 

最初に肺は大気圏のように地球を覆っている存在、とお話しました。肺は自分ではない異物に対して最初に接する臓器です。外から吸収する空気も内から吸収する飲食物も肺がまず受け止めて体に取り入れてくれます。肺は「嫩臓(あいぞう)」、弱々しい臓器といわれています。確かに肺は暑さや寒さなど環境の影響を受けやすい弱々しさを持ちます。しかし、”弱々しい”というより、実態を目に見ることができない空気の層のような、当たり前に包み込むやさしい存在なのではないかと思います。